4-4-3
「随分と増えちまって。」
俺と大山は墓の前で腕を組んで言葉を漏らす。
惨劇を経た俺達にあったのは悲嘆と虚無だった。今回の首謀者である多々良圭介と加藤亮真、多々良の右腕であり俺達とも良く話していた高倉勇磨、4期のリーダーだった高橋灯里、そして1期…俺達の元気印でありここまで俺達を支えてくれた丹羽祐司。失ったものはどんなに願っても二度と戻って来る事はなく、彼等を失った悲嘆はムードメーカーの丹羽を欠いている事もあり、これまで以上に深く沈んだ。
俺達の代わりに動いてくれたのは2期の中本とナシーフ、そして3期の山本だった。彼等は島田の時に倣って墓を掘った。多々良と加藤の墓も、多々良の同期である山本が責任を持って手を抜く事はせずに作ってくれた。見ればわかる。多々良達とて、死してまで辱められるような奴ではなかった事は、俺達だって理解している。
墓を作り始めた際に、俺も手伝おうとしたが心と体がバラバラになってしまって動く事は出来なかった。手伝おうとする気持ちはあるのだが体が付いて来ないのだ。聞くところによると大山も林も同じ状態だったそうだ。今は休む時にだとナシーフに諭され、フェンス外にも行かずに、俺は3日を使った。墓参りに行こうと誘ってくれたのは大山だ。そして俺達は久し振りに2人で外に出て、墓の前に立つ。
「多々良が来た時、丁度寝れなくて起きてたんだ。それで夜襲にも気付く事が出来た。丹羽達を起こして机で距離を保って…加藤が見当たらなくて、その時には高倉と坂本もどうなっているのかわからなくて、瑠奈達の事が心配だった。丹羽もそれは同じ気持ちで、隙を作って丹羽に行って貰ったんだ。」
「丹羽も言ってた通り、決断としては正しかった。俺でもあの中であれば丹羽に頼む。加藤が高橋を刺し殺して錯乱し、外に出ていたのは不運だった。」
俺は大山の独り言に相槌を打つ。
「多々良は言ったよ。お前のせいで俺達が悪者になるって。俺達はこんなところに連れて来られて一刻も早く元の生活に戻りたいのに、何でそんな平然とここで生活出来るんだって。」
「言い掛かりだ。」
「そうだけど…でも、もっとしてあげられた事はあったのかもなって。エスカレーターかもしれないけどそれにしたって試験勉強を頑張って中学校を卒業して高校に入って、多々良達が来たのって7月末でしょ?漸く1学期終わって夏季休暇に入って、高校1年生の夏なんてまだ大学受験とか就職活動って感じではないんだし部活に遊びに恋にって色々予定もあったと思うし、文化祭とか行事もまだこれからで…。」
「そんな事考え始めれば切りがねぇよ。結局、あいつが自分に負けただけだ。…でもまぁ自分で自分の心臓を刺せるのであれば、もっと出来た事もあったろうに。」
「そこまで追い込まれてたんだ。少なくともそれに気付いてあげられなかった、もしくは気付いてはいたけれど、多々良達が俺達と距離を取ってこちらに寄り添ってくれない事もあったにはあって介入しなかった。それは事実だよ。」
俺と大山は多々良の墓を見て息を吐く。
「坂本はどうする?」
俺は大山に尋ねる。坂本は高倉の言う通り、「5」の家にいた。坂本は武器を作っていた事は知っていて高倉に言う事を口留めされていた事は認めたが護身用だと聞いていたようだ。実際夜襲の前には多々良を止めたようで、頬には多々良に殴られて腫れた痕が内出血になって今も痛々しく残っている。坂本曰く、その後は高倉にじっとしているように言われて「5」の家に留まっていたのだそうだ。
「これまで多々良と共に過ごして俺達のルールに反する事もしたし、実際に武器製造を秘匿もしていた。十分制裁には値する。でも、坂本自身色々と苦しんでいるのも事実だし、多少制約を付けた上で瑠奈達の中に混ざって貰うのが無難ではあるけど…。」
「もし良ければ俺が引き取って面倒見るぞ?」
俺の声に大山は眉間を顰める。
「勿論、森に出すつもりはねぇよ。死ぬのは目に見えてるし、古代ローマの猛獣刑じゃねぇんだ。坂本には「6」の家の留守番を任せておく。ついでに掃除も。日中は人目に付くし、夜も俺の管理下にあるとなればお前達もある程度は安心だろ?今更、人間関係の出来上がっている女子部屋に送るのもそれはそれで残酷だ。」
「高倉にでも頼まれたのか?」
「…あぁ。奴の最後の依頼だ。聞いてあげなければ男も廃る。それに丁度、家の掃除兼留守番をしてくれる奴を探していたのも事実だ。」
「高倉も残念な事になった。」
「良い奴だった。最期まで。」
俺は大山の問いに素直に答えて高倉を偲ぶ。高倉は俺達が「6」の家に戻った頃にはそのまま玄関で息絶えていた。早く行ってくれと言われて離れた、離れれば二度と会えないのはお互いにわかっていて最後に言葉を交わした、それでも最期1人で死んで行くような奴ではなかったはずだ。残酷な事をしてしまったと今も俺は思っている。
「丹羽…伊藤に会えたかな。」
大山は丹羽の墓の前に腰を下ろす。俺もそれに倣った。
「会えるまで探すだろ。そんで今頃は煩ぇ新入りが入って来たって話題になって…伊藤も良い迷惑だ。呆れて笑ってるだろうよ。」
俺は表情を崩して笑いに変える。
「本当に呆れた奴だよ。最期に特大の十字架背負わせて来て。」
「何話してるの?」
聞こえて来たのは林の声、少し窶れたようにも見えるが俺達の知っている林に見えた。
「丹羽の話。瑠奈も来いよ。」
丹羽が呼んだのだ、そう思ったが口に出すのは恥ずかしくなり、俺は無言のままで林を俺と大山の間に挟むようにして座らせる。
「体調は?」
「いつまでもメソメソしてはいられないし、伊藤くんが亡くなった時に丹羽くんがしてくれた事を、今度は私がしてあげないと…っては思ってはいたんだけど。」
「俺もそうだ。お墓も結局中本達に任せちまった。」
「そんなに簡単に割り切れるものでもねぇよ。丹羽はそれだけの奴だった。」
「でも、大分体調も大丈夫になった。心配してくれてありがとう。」
林は丹羽の墓を見る。
「墓石、一番大きくしてもらって喜んでそうだよね。場所も伊藤くんの隣にして貰って。」
「単純な奴だ。きっと喜んでるよ。」
「中村くんに運ばれて来た時も、私の気が動転しちゃって慰めてくれたんだ。自分が一番辛い時も自分が辛いのはあんまり表に出さないで他人を気遣う人だったよね。」
「見た目はチャラそうなのにな。」
「本当に最高の男だったよ。あいつは。」
俺達は林の吐く言葉に相槌を打つ。口に出し共有する事で天に溶ける事の出来る言葉だ。
「第1回『瑠奈を笑わせた奴が勝ち選手権』を言い出したのもあいつだったし。俺と市来が揉めるとすぐに心配してくれた。後輩の面倒見も良くて皆に慕われてた。」
「私の事も凄く気にしてくれて…優しかったよね。」
「…あんまり褒めると調子に乗りそうだけどな。」
「そうだよね。調子に乗って天国で失敗しそうだ。」
俺の声に林が笑う。
「3人だけになっちゃったね。」
それでもその笑顔はすぐに消える。俺達も軽く息を吐いて頷く。
5人でここに連れて来られ、元の生活に戻るための生活基盤を作り始めてもうすぐ5ヵ月、元の生活に戻る悲願達成は叶わないまま、俺達は2回目の同朋との別れを経験した。それは1期だけに留まらず、2期は島田を早々に亡くして4人に、3期は今回甚大な被害を出して残るは山本と坂本と小林の3人に、4期も加藤と高橋を失った事で中村、本田、松本の3人になってしまっている。目の前にある墓は7個、俺達は先も見えないまま多くの死を経験してしまった。
「丹羽くんに最後に言われた言葉、私なりに考えてみたんだ。伊藤くんを亡くして丹羽くんも亡くして、初期メンバーである私達は3人になった。凄く悲しくて凄く辛い。でも、まだ元の生活に戻れそうな気配はないし、この先もここでの生活は続いて行く。私達はまだ前に進んで行く必要がある。今、私達を信じて付いて来てくれてる後輩達のためにも、ここに眠ってる人達のためにも。そして私達3人が私達であり続けるためにも。悲嘆を昇華するのはあっちの世界で再開してからでも遅くはない。私は丹羽くんに背中を押して貰うつもりで今を一生懸命生きようって思うんだ。」
「…林の言う通りだ。」
「……そうだよな。」
林の声に俺達は頷く。その後、俺達は暫く無言で墓を眺めた後で計ったように合わせてこれまで逝った同朋の墓に手を合わせた。
「数日経てばまた人が来る。それまでに態勢を立て直す。協力してくれ。」
「勿論。」
「私も手伝うよ。」
大山は切り替えるように頬を叩いて俺達に告げる。俺と林は前を向いてそれに頷いた。




