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076 ヤブ ヲ ツツイテ ヘビ ヲ ダス

挿絵(By みてみん)

どうも、白狐です。


ヒイロにはスルーりょくが足りない…?


 アルジーヌさんに屋敷に残ってもらうように説得した俺達は、子供達を探しに行こうと部屋の出入口へと向かう。

 丁度その時、玄関の方からヘクトルさんの声が聞こえてきた。


「あ、オジェ兄さん。今丁度連絡をしようとしてたところだったんだ」

「ヘクトル、仕事中の俺のことはリーゼントと呼んでくれ」

「オジェ兄さん、今はそんなこと言ってる場合じゃないんだ。実は、子供達が行方不明になって…」

「何だと!? 一足遅かったか…」

「え? どういう意味だ、オジェ兄さん」

「……それは、アルジーヌさんも交えて話そう」


 そうしてヘクトルさんと共に部屋に入ってきたのは、リーゼントを筆頭とした色物警官三人衆。


「あら、オジェ。丁度良いところへ来てくれたわね、実は…」

「はい、今そこで聞きました。子供達が行方不明になったそうですね…」

「ええ、そうなの…」

「俺達は、その件に関連してここへ来たんです」

「どういうことかしら?」


 アルジーヌさんが困惑気味に尋ねると、リーゼントが続ける。


「アルジーヌさん。以前、ここを売るように迫っていた商人とその仲間の汚職警官達が居たのを覚えていますか?」

「ええ、覚えているわ」

「俺達はそいつらを取り調べて、黒幕の大物政治家コモーノの逮捕にまでこぎつけました。そして、コモーノの余罪を追及していく過程で、奴等が立てていた恐ろしい計画を知ってしまったんです」

「計画…?」

「はい。奴等は、ここを売るように迫る為に子供達を人質に取ろうと企んでいたんです」


 それは、以前に商人(ちょび髭)が自白していた気もするが?


「でも、コモーノは既に失脚しているわよね? どうして今更…?」

「実は、奴等はその計画の実行の為にアルフヘイム株式会社に依頼を出していたらしいんです」

「アルフヘイム株式会社…?」

「はい。アルフヘイム株式会社 は七年前に登記された人材派遣企業です。しかし、それは表の顔。実際にはエルフ達が人間保管計画を進める為の隠れ蓑になっているそうです」


 隠れ蓑になってたっけ? 割と堂々とエルフが出入りしていたような…?


「アルジーヌさんは、この国でも有数の資産家ですからね。依頼とかは関係なしに、アルジーヌさんから保管料(身代金)を巻き上げようとしているのかもしれません」

「そう…。とりあえず、動機については後でいいわ。それよりも今は子供達の安全の確保よ」

「そうですね。直ちに緊急配備をします」

「ええ、そうしてちょうだい」

「はい。……あ、それと…」


 リーゼントはそこまで言い掛けると、カメンとモヒカンの方を少しだけ気にしながらアルジーヌさんに近付いて耳打ちする。


「この件ではボスも動いています」

「シャルルが?」


 おや? なにやら不穏な会話が…?


「はい。この件は元々、組織に警察の内情についての定期報告をしていた時に、ボスからコモーノとアルフヘイム(株)が接触していたらしいという情報を聞いてコモーノを追及した事で発覚したんです。アルフヘイム(株)については、ボスの方でも調べが進んでいるはず。今回の件を連絡して、この近くに子供達を隠せそうな関連施設がないか聞いてみます」

「ええ、お願いするわ」


 ………。

 そういう話は俺に聞こえないところでやってくれないかな。

 ちなみに、何故だか俺よりもリーゼントの近くに居るはずのカメンとモヒカンは何も聞こえていないかのようにスルーである。

 何なんだ、その都合の良いタイミングだけ突発性難聴を発症できるスキル。俺だって、こんな裏事情知りたくもなかったよ。

 すると、リーゼントがアルジーヌさんから距離を取る。


「それでは、我々は子供達の捜索へ向かいます」

「ヒャッハー!」

「子供達は、必ず無事に見つけてみせるわぁ」

「それでは、私達も行くとしよう、ハル」

「はい、セバスさん」

「あ、俺も行きます」


 そうして、部屋を出ていく色物警官三人衆の後ろに俺達も続く。

 その時、ふとリーゼントの背中が目に入った。そこには『Ⅳ Ⅵ Ⅳ Ⅸ』の文字。

 まさかのローマ数字!?


 孤児院を後にした俺達は手分けして周囲の捜索を開始する。しかし、子供達は見つからない。

 それでも何か手掛かりになるようなものを探しながら歩き続けていると、後ろからしわがれた声が聞こえてきた。


「おや? そこに居るのは軟弱坊やじゃないかい?」


 突然聞こえてきた声に何事かと思って振り返ると、そこに立っていたのは細マッチョなタンクトップ姿の老婆。

 ……?


「その後、バルザックとかいう坊やの調子はどうだい?」


 ………??


「どうしたんだい、変な顔をして?」


 …………???


「おや? もしかしてあたしが誰かわからないのかい? あたしだよ、あたし。ほら、ここの薬局で薬師くすしをしている薬師丸やくしまるさ」


 そう言いながら、店の前の路上看板の上に掛けられていたローブと帽子を身に着けてみせる。

 あっ、この人、バルザックのポニータイガーシンドロームを治療(?)した魔女か。

 俺はいつの間にかマギ薬局(魔女の店)の前まで来ていたらしい。


「坊や、キョロキョロとしているようだったけど、何か探しているのかい?」


 その問い掛けにふと我に返る。


「あ、そうなんです。実は孤児院の子供達が誘拐されて、何か手掛かりがないか探しているんです」

「アルちゃんのところのかい!? それだったら、さっき、この前の道を歩いていったよ」

「本当ですか!?」

「ああ。あたしゃ、ここで日課の筋トレをしていたんだけどね」


 とりあえず、店先で筋トレしてんなよ。


「そうしたら、この前の通りを石みたいな質感の不思議な男が笛を吹きながらあっちの方へ歩いていってね、子供達と一匹の白猫がその後ろを楽しそうに追いかけていったのさ」


 ミーアも一緒か。


「まさか、拐かされていたなんて…。あたしゃ、てっきりみんな仲良く紙芝居屋を追っかけているもんだと思って、微笑ましく見守っていたってのに…」


 いつの時代だよ。

 まあ、今それはどうでもいいな。今は子供達を探すことが最優先だ。


「とにかく、あっちの方向へ行ったんですね」

「どうする気だい、坊や」

「そんなに目立つ行動をしているんだったら、目撃情報を辿っていけば見つかるかもしれません。このまま、聞き込みをしながら追ってみます」

「その必要はないよ、坊や」

「え?」

「子供達なら、そこの広場で紙芝居を見ているからね」


 魔女が指し示す先には小さな広場。そこには笛吹き男の石像と子供達、そして白猫の姿。子供達は笛吹き男が読み上げる紙芝居を楽しそうに見ていた。


「それを先に言えぇ!!」


 そんな叫びを上げつつも、俺はスマホを取り出してハルに連絡を試みる。するとその時、トントンと肩を叩かれた。背後には一瞬のうちに移動してきた笛吹き男の石像…。

 ……あれ?


 ……………。


 はい。そんなわけで、俺は今、王都ヘレニウム近郊の荒野にポツンと建つ倉庫の中に居ます。俺の周りには怯える子供達と横たわる魔女。そして、俺達を威圧するように立っている笛吹き男の石像。

 必死の抵抗(※なお、全く効果はなかった模様)も虚しく、子供達を人質に取られた(※そんな事実はない)俺はおとなしくこいつに従うしかなかった。

 怯える子供達を励ましながらも笛吹き男の石像ににらみを利かせていると、奥の暗がりから何者かが現れる。


「フッフッフッ…。よくやった、笛吹き男Mk2」

「支部長」


 現れたのは尖った長い耳に金髪、そして緑を基調とした服に身を包んで弓と矢筒を背負ったカエルのお面を被った男。

 何だそのお面。

 その男が俺達の前へとやってくる。


「俺は、アルフヘイム株式会社ヘレニウム支部の支部長、その名もゲッコー仮面!」

「ちょっと待て。Geckoはカエルじゃなくてヤモリだろ」


 思わずそんなツッコミを入れた瞬間、カエルのお面の男に衝撃が走る。

 そして、しばしの沈黙…。


「………ゲコゲコ」

「誤魔化せねぇからな?」

「………俺は下戸だ」

「知ったことか!」


 そして、再びの沈黙…。


「……貴様、正論を振りかざして人を追いつめて…。そんなことをして楽しいのか?」

「あれ? 俺が悪いの?」

「もう怒った」


 男はそう言うと、後ろを向いてお面を外す。そして、お面に筆を使って何かを描き足すと、再びお面を被ってこちらを向いた。


「激昂だ! 今日から俺は、激昂仮面だ!」

「沸点が低い!」


 カエルのお面には怒りのマークが描き足されていた。


「フッフッフッ…。おとなしくしていれば痛い目を見なかったものを…。俺を怒らせてしまったお前には、少しお灸を据えてやらなければならないようだ…。やれ、笛吹き男Mk2」

「ハイ、支部長」


 その時、横たわっていた魔女が最後の力を振り絞るようにしながら地面を這い始めた。


「やめな、この子達に手を出すんじゃないよ…」


 息も絶え絶えにそんなことを言う魔女を見下ろしながら、カエルのお面の男は言い放つ。


「ハッ、そんな目に遭わされてもまだ逆らうのか? どうやら、まだお灸が据え足りないようだな。笛吹き男Mk2、まずはこの婆からだ」

「ハイ、支部長。オ任セクダサイ」


 すると、笛吹き男の石像は地面を這う魔女のローブを脱がせて、その腰に円錐状にもぐさを盛り付けた。


「………何をしている、笛吹き男Mk2…?」

「オ灸ヲ据エテイマス」


 そんな返答をしつつ、笛吹き男の石像はもぐさに火を点ける。


「……え?」

「支部長ハ、オ優シイ。ギックリ腰デ倒レタ老婆ニ、救イノ手ヲ差シ伸ベルトハ」

「……え?」


 その通り。この魔女は、一瞬で距離を詰めてきた笛吹き男の石像に驚いて腰をやってしまっただけだ。

 その時、魔女が急に立ち上がり力強く大地を踏みしめた。


「ヒーッヒッヒッヒッ。力が溢れてくるねぇ。生まれ変わったような清々しい気分だよ」


 ローブに代わって強者の風格を身に纏った老婆がそんなことを言った…。

 いや、ぎっくり腰ってそんな直ぐに治らないから…。


「それにしても、あんた達。こんな小さな子供まで攫うだなんて…、随分と姑息な真似をするもんだねぇ」


 それに対してカエルのお面の男が反論する。


「それは違う。俺はこの時の為に綿密な計画を立て、入念な準備を行ってきた。断じて姑息な真似などではない!」


 うん、男の言うことは間違ってはいない。本来、『姑息』というのは『その場しのぎ』という意味だ。『卑怯』とか『卑劣』とかいう意味合いは含まれていないのである。

 とはいえ、七割もの人が誤用しているという調査結果もあるらしいので、最近は一部の辞書にも追認の動きがみられる。なので、魔女の方の使い方も現在においては間違いとまでは言い切れなくなってきている。

 言葉は生き物である。こうしてどんどんと意味が変化していくのだ。

 ……。

 おや? そういえば、こうやって現実逃避している時にいつも俺を正気に戻してくれるミーアがいない。

 周囲を見回してみるがミーアの姿はどこにもない。ここに来てから一度も見ていないが、攫われることなく上手く逃げられたのだろうか?

 そんなことを考えていると、魔女に声を掛けられた。


「坊や、ここはあたしが何とかするよ。坊やは子供達を連れて早く逃げな」

「え? あ、はい。……皆、行くよ」


 魔女に促され、怯える子供達を励ましながらその場から離れようと試みる。

 すると、カエルのお面の男が動きを見せた。


「逃げられると思うのか?」


 カエルのお面の男はそう言うと紙と筆を取り出す。そして、何か書き終えるとその紙を上空へと放り投げた。


「出でよ、超獣GIGA!」


 次の瞬間、放り投げられた紙の周囲に黒い靄が集まり、角の生えた巨大な兎の姿を形作った。


「ナーンデーヤネーン!」

「兎ぃぃぃ…ぃ…ぃ…? …いや、何この墨絵風巨大ホーンラビット!」


 それは、兎に対する拒否反応を俺のツッコミ魂が上回った瞬間だった。

 現れた墨絵風巨大ホーンラビットこと超獣GIGAがズシーンという超重量級の着地音を響かせながら俺達の前に立ち塞がる。


「坊や達!」


 そんな窮地に魔女が駆け付けようとするが、笛吹き男の石像の邪魔が入る。


「そこをどきな」

「ソレハデキマセン」

「そうかい、だったら、まずはあんたからこのあたしの魔女の一撃をお見舞いしてあげるよ」


 すると、両者共に腕を前に突き出して組み合った。力と力のぶつかり合い。周囲をとてつもない衝撃波が襲う。


「なかなかやるじゃないかい」

「ソチラコソ」


 そんな一進一退の攻防が続く中、超獣GIGAがズシンズシンと足音を響かせながら迫ってくる。そして、俺達はとうとう壁際へと追い込まれてしまった。

 すると、デビッド君が何かを後悔するように呟く。


「ゴメン、タワシマスターの兄ちゃん…。俺、ランス兄ちゃんから受け取ったタワシ、孤児院に置いてきちゃったんだ…」


 今にも泣き出しそうなデビッド君をランス君がギュッと抱きしめる。


「違う。デビッドは何も悪くない。僕が予備のタワシを持っていればよかったんだ」


 ……ねぇ、何なの、そのタワシに対する絶大なる信頼感…?

 当然の事だが、仮にここにタワシがあったとしても俺には何もできない。

 遠い目をしながらそんなことを考えていると、魔女と石像の攻防に動きがあった。


「ぐぅっ…」


 苦し気なうめき声をあげて押され始める魔女。


「まさか、あたしの筋肉が、こんな石ころなんかに…」

「アナタデハ私ニハ勝テマセン。オトナシクシテクダサイ」

「その通りだ。その笛吹き男Mk2は、見た目こそ石像だが中身は我々アルフヘイム(株)が誇る最新テクノロジーで作り上げた小型人員輸送用ロボ。生身の人間が相手になるはずがない」


 そして、カエルのお面の男は巨大兎に睨みを利かされて身動きの取れない俺達に視線を向ける。


「もうすぐ、お前達を引き取りに本部の方々がお見えになる。お前達も無駄な期待など抱かないことだ」


 そう言い放つと、ニヤニヤとしながら独り言を呟き始める。


「フフフ。この国有数の資産家を金蔓(顧客)として開拓したという実績さえあれば、成績不振続きで人員を減らされ続けて、とうとう俺だけになってしまったこのヘレニウム支部閉鎖の話もなくなるはず」


 なにやら唐突に悲し気な裏事情が…。

 そんな中、パラスちゃんが真剣な表情で周囲を見回すと、俺の袖を引っ張りながらヒソヒソと話し掛けてきた。


「ねぇ、タワシにい


 タワシにい…?


「タワシさえあれば、この苦境を脱することができる?」

「え? いや…」


 俺が戸惑いを見せているとアレク君が問い掛ける。


「パラス、何か考えがあるの?」


 すると、パラスちゃんは超獣GIGAの後ろにそっと視線を向ける。


「あそこに給湯室がある。もしかしたら、あそこにタワシが置いてあるかもしれない」

「え、あの、ちょっと待って?」


 口を挟もうとするものの、そんな言葉なんて聞こえていないかのようにアレク君が疑問を呈す。


「でも、どうやってあんなところまで…」

「アレクにいは、ユキねえに魔法を習ってたはず」

「あの~、聞いて?」

「え? でも、僕の魔法なんて大した威力は出ないよ?」

「一瞬、怯ませるだけでいいの。その隙に、私がタワシを取りに行く…」

「無視しないで?」

「駄目だ、パラス」


 俺の発言には全く反応しないパラスちゃんとアレク君だったが、ランス君の発言には反応を示す。


「ランスにい…?」

「危険すぎる」

「でも…」

「パラスにそんなことはさせられない。……僕が行く」

「いや、あのさ…」


 相も変わらず俺を無視して話が進んでいたが、ランス君は急に俺の方へと向き直った。


「ヒイロさん、タワシは僕が必ず持ってきます」

「あ、いや、だからね?」


 そして、覚悟を決めたような表情で続ける。


「だから、その間、皆をお願いします」

「いや、そうじゃなくてね?」

「アレク、タイミングは僕が決める。合図をしたらあの兎に全力で魔法を撃って」

「うん。わかった、ランス兄さん」

「もしもーし」


 その時、うめき声と共に魔女が地面に片膝をついた。それに巨大兎が一瞬気を取られる。その一瞬の隙をランス君は見逃さなかった。


「今だ、アレク!」

雷撃サンダー!」


 刹那、アレク君が突き出した腕から雷撃が放たれる。その雷撃が巨大兎に直撃。大したダメージとはならなかったものの、兎は嫌そうにフルフルと体を震わせる。

 その隙を突いてランス君が駆け出した。

 それに気付いたカエルのお面の男が声を上げる。


「おとなしくしていろと言ったはずなのにな。聞き分けの無い子供にはお灸を……お仕置きが必要なようだな! 超獣GIGA、少し可愛がっ……痛い目に遭わせてやれ!」


 この男、何かを学んだらしい…。

 その命令を受けて巨大兎が高く飛び跳ねると、ランス君へと襲い掛かる。


「GIGA~!」



***



 ヒイロ達が孤児院を発った後、そこを胴付長靴を身に着けた一人の男が訪れていた。


「アルジーヌさん、オジェから話は聞きました」

「シャルル」

「これ、アルフヘイム株式会社について組織が把握している情報をまとめた資料です。それと、オジェには既にこの周辺で潜伏できそうな拠点について伝えておきました」


 そう言ってシャルルは封筒を差し出す。


「すまないわね、私はもう引退した身だというのに」

「いえ、儂は今でもアルジーヌさんが組織のトップだと思っていますので。儂はただアルジーヌさんの留守を預かっているだけです」

「そう…」


 そう呟きながら、アルジーヌは受け取った資料に目を通す。


「……彼等は随分と勝手なことをやっているようね…」

「そのようです」

「裏の社会にも秩序は必要よ」

「はい」

「彼等は侵してはならない領分を侵したわ」

「そうですね…」


 そして、アルジーヌはシャルルに向かってにこりと微笑む。


「……だったら、わかるわね?」

「はい、わかりました!」


 そう応えながら、シャルルは思う。

 余計な手出しさえしてこなければ、この人に目を付けられることもなかったものを…。

 その時、そこに狼がやってきた。


「アルジーヌ」

「どうしたの、お兄様?」

「つい今しがた、郵便が届いたんだが、その中にこれが…」


 狼が咥えている封筒には、差出人として『アルフヘイム株式会社』の文字。

 アルジーヌはそれを受け取って開封すると、無言のまま中に入っていた紙に目を通す。そこには『人間保管契約のお申し込みについて』の文字。そして、『月額保管料』や『契約期間』などの詳細な契約条件。

 さらに、一緒に入っていた子供達の人数分の紙には『人間保管契約申込書』の文字。

 その瞬間、その場の空気が張り詰めた。


「ア…アルジーヌさん…?」


 シャルルが恐る恐る呼び掛けると、アルジーヌが静かに口を開く。


「シャルル…」

「は、はい!」


 その張り詰めた雰囲気に、思わず背筋が伸びる。


「この子をお願いしてもいいかしら?」

「え?」


 すると、子供が入った籠を抱えた蛇の尻尾がシャルルの前へと伸びてきた。

 シャルルはその籠を受け取りながら問い掛ける。


「アルジーヌさん、いったいどうされるつもりですか?」


 それに対して、アルジーヌはただ静かに微笑んだ。


 その日、王都ヘレニウムを巨大地震が襲った。


挿絵(By みてみん)

白狐 「コスプレミーア、色物警官三人衆。左からリーゼント、モヒカン、カメン」

ヒイロ 「これが警察官…?」

白狐 「何か問題でも?」

ヒイロ 「問題しかないだろ」

白狐 「ちなみに、カメンのイメージは一昔前の戦隊ヒーローものの悪の女幹部…。なんか骨っぽい意匠の衣装を身に纏った痴女…?」

ヒイロ 「警察官なのに!?」

白狐 「……ひ、人を見かけで判断してはいけない…」 (視線を逸らしつつ…)

ヒイロ 「TPOを弁えろって話なんだが?」

白狐 「……」

ヒイロ 「ところで、リーゼントのインナーに何か書いてあるけど、あれなんて書いてあるの?」

白狐 「ああ、あれは『密弩我瑠怒』と書いてあります」

ヒイロ 「どゆこと?」

白狐 「シャルルがアルジーヌから引き継いだ組織が『ミッドガルド』という名前らしい」

ヒイロ 「わー! わー! 聞きたくなーい!」 (耳を塞ぎつつ)

白狐 「何さ、君が訊いてきたんじゃないか」

ヒイロ 「そんな返答がくると思ってなかったんだよ」


===

挿絵(By みてみん)

白狐 「コスプレミーア、シャルル。ミーアは、この為にわざわざ尻尾まで入れられる特注の胴付長靴を作りました」

ヒイロ 「ミーアは何処に向かってるの? …で、それは置いといて…、この魚は…」

白狐 「もちろん、飛空鯵(アジフライ)です」

ヒイロ 「紫陽花の花の陰からこちらを覗いてやがる…。妙な生物育てやがって…」

白狐 「? 何か勘違いしているみたいだけれど、飛空鯵(アジフライ)と鯵菜園は突如発生したのであって彼が作ったわけでも管理しているわけでもないよ」

ヒイロ 「どうしてあんなもんが突如発生するんだよ」

白狐 「まあ、それには深い理由があったりとかなかったりとか…」 ごにょごにょ…

ヒイロ 「どっちだよ!」


===

イメージ図(ゲッコー仮面と激昂仮面)

挿絵(By みてみん)


===

挿絵(By みてみん)

白狐 「超獣GIGA。左下は対比用のヒイロ…」

ヒイロ 「妙に絵が小さいな…」

白狐 「何言ってるんだ。大きくしたら粗が目立つじゃないか」

ヒイロ 「そんな理由!?」


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