074 レンキンジユツ
突然だが、俺は今、和装悪女コスで王宮周辺の通りを歩いている。
………。
そう、妖艶な雰囲気を漂わせる和服に簪を挿した黒髪の鬘、それに扇子を携えた和装悪女コスチュームだ。
………。
「何故に!?」
「どうされました、ヒイロ様?」
急に叫んだ俺に対してハルが心配そうに声を掛けてきた。
「どうして、俺がまたこんな目に…」
「本番までに108着もの衣装合わせを行わなければなりませんからね。少しの時間も無駄にすることはできませんよ、ヒイロ様」
嬉しそうだな、おい。
その衣装合わせと称した着せ替え人形化を回避する為に劇場見学に賛同したはずだったのに、結局俺は、その運命から逃れられなかった…。
「舞台のPRにもなりますし、一石二鳥です」
だが、そんなことを言っているハルは、衣装ではなくいつものメイド服姿である。
すると、後ろから声を掛けられる。
「文句を言うなよヒイロ。俺だって舞台衣装を着てPRに貢献してるんだ」
そんな声を掛けてきたのは、何故かはち切れんばかりに膨らんだ牛のマスクとそれを突き破る形で生えている鹿角という変わった姿の男。
………。
おい、バルザック。その牛のマスクの下、もしかしてまたポニータイガーシンドロームとRUNポルチーニが再発しているのか?
奇妙な合成獣に気を取られていると、ハルが足を止めた。
「到着しましたよ。ここが今回の舞台を上演する国立劇場です」
案内されたのは王宮近くにある立派な石造りの劇場。俺の場違い感が半端ない。
すると、その立派な劇場を前にして、カイが感動したように声を上げる。
「おぉ~、ここが俺の初舞台になる劇場か」
ちなみに、こいつが本番の舞台に立つことはない。
そんなポンコツ勇者はゴシック様式のその劇場を見上げながら呟く。
「立派なゴシップ建築じゃねーか」
「この建物にはどんな噂があるのかな?」
そこへ、ハルが口を挟む。
「この劇場には、実は秘密の入り口と観客席があり、国の要人達やアイドル達が毎日のようにお忍び不倫デートを繰り返しているという噂があります」
「あるのかよ!」
そう言われてみれば、張り込みの記者っぽい人達がちらほらと…。
その時、劇場を見上げていたカイがこちらを振り返ってドヤ顔を浮かべた。
「そういえば、知ってるか、ヒイロ。あの建物の外側に飛び出してる梁のことをフライングマットレスって言うんだぜ」
「それは空飛ぶ絨毯の親戚か何かかな?」
飛び梁だよ。
外側から壁を支える構造体で、これによって高い天井や大きな窓、ステンドグラス等を採用できるようになったんだとか。
と、そんなツッコミもどこ吹く風。カイはすぐさまハルに視線を向ける。
「それで、中にも入れるんだよな?」
「はい。本日は他の団体が使用中ですが、特殊諜報局権限で見学をねじ込みました」
サラッと言っているが、とんでもない職権乱用である。
そうして建物の中に入ってホワイエを抜けると、豪奢な装飾に彩られたホールへと進む。客席から正面を見るとそこには立派な舞台。その舞台上ではフラスコを持ったローブ姿の女が一人、熱弁を振るっている。そして、客席の前方にはそれを見ている人々の姿。
すると、ホール内を見回していたカイが感嘆の声を上げる。
「おぉ~、中も立派なもんじゃないか。これなら、勇者である俺の演技も映えるってもんだ」
何度でも言わせてもらうが、こいつが本番の舞台に立つことはない。
そこへバルザックが続く。
「そうだな。俺のアクションも映えるってもんだ」
何度でも言わせてもらうが、こいつの役はただ突っ立っているだけである。むしろ、銅像役なので微動だにしてはいけない。
そして再びカイが呟く。
「フッ、今からでもあの舞台の上で客からの大歓声を浴びている俺の姿が目に浮かぶようだぜ」
しつこいようだが、 こいつが本番の舞台に立つことはない。
その場の雰囲気に浸るようなうっとりとした表情で呟いたポンコツ勇者に対して、ミーアと共に呆れた視線を向けていると、今度はハルが舞台の方を見ながら不意に笑みをこぼす。
「ハル、どうしたの?」
「え? …あ、いえ…。あの舞台の上から、ヒイロ様の輝かしい魔女っ娘♂人生が始まるのかと思うと、感慨深いものがありまして」
「始まらないよ?」
すると、ハルが何かを思い出したかのように台本を取り出した。
「あ、そういえば。王宮を出る直前、ヒイロ様がPR用の衣装に着替えている間に陛下と熊六様がいらっしゃって、これをヒイロ様に渡してほしいと…」
「何?」
「悪役令嬢Hが魔女っ娘♂ヒイロンに変身するという設定を盛り込んだ台本です。実際に演じるヒイロ様から特に異論がなければ、このまま採用されるとのことです」
「総没にしてやんよ」
そんな俺の呟きには反応を示さず、ハルは淡々と話を続ける。
「先ほど私も中を確認しましたが、ヒイロ様が演じる『町娘Vに初代国王の婚約者の座を奪われて復讐心に燃える悪役令嬢H』は主役を食う勢いで大幅に出番が増えていましたよ」
いや、主役を食うなよ。熊か? 熊の差し金なのか?
そして、最初から思っていたけど、この説明的な上にやたらと長い役名(?)、なんとかならんのか?
「特に、初代国王と悪役令嬢Hとの関係性が大幅に見直されました」
今更だけど。どうして舞台稽古まで始まってんのに、そんな大幅に台本見直してんの?
いや、まともに稽古した記憶は全くないけど…。
「彼女は初代国王がペンギンの着ぐるみを鳥外す決意をするにあたり重要な役目を果たすことになります」
「あれ? それはハルが演じるメイドの役割じゃないの?」
「私が演じる『初代国王からペンギンの着ぐるみを鳥外すお手伝いをした町娘Vの友人でもあるメイド』は、役名をそのままに大幅に出番を削られ、初代国王のペンギンの着ぐるみの背中のファスナーを開けるだけに変更されました」
「むしろ、羨ましい!」
俺の出番も大幅に削ってくれ。
そんな魂の叫びは見事にスルーされ、ハルは話を続ける。
「それはともかく、悪役令嬢Hは、旧帝国の帝室に生を受けたにもかかわらず親兄弟と姿が異なるという悩みを抱えてペンギンの着ぐるみを装着することで誤魔化していた初代国王に対して、血の繋がりよりも大事なものがある事を説くのです」
「あれ? いきなり王家の血統が全否定されたんだけど?」
何の為に、こんな訳の分からない台本に変更されたんだったっけ?
「悪役令嬢Hの言葉に心を動かされた初代国王は、ありのままの自分で自由に生きることを決意します。そして、ペンギンの着ぐるみを鳥外すと同時に、その場で悪役令嬢Hに対して婚約破棄を言い渡すのです」
「どうしてそうなった!?」
前後の繋がり、おかしくない!?
どうしよう。台本が別の意味で気になってきた…。
「そして…」
台本の続きが気にはなるものの、いつまでも聞いていても仕方がない。実際に演じる俺の意見を聞きたい、ということならば、はっきりと言わせてもらおう。
「まあ、何にしても、そんな訳の分からない役、演じられないよ。総没で!」
「……。確かに訳は分かりませんが、私としてはヒイロ様の出番が増えて衣装を着ていただく機会が増えるのであれば何の問題もありません。ですから、台本を受け取った時点でヒイロ様の代わりに問題ないと返事をしておきました」
「俺の意見、求める気ないじゃん!」
やっぱり、この件に関してはハルも俺の敵だ。
するとその時、バルザックが自らが被っている牛のマスクに手をかけながら声を掛けてきた。
「おい、そんなことより、劇場の中に入ったし、もうPRは十分だろ? このマスク、取ってもいいよな?」
そうしてマスクを脱ぎ始めると、牛のマスクを突き破る形で飛び出していた鹿角がマスクに引っ掛かりポロリとその場に落ちた。
すると、一瞬バルザックの体がビクッと反応して停止した。それと同時に、はち切れんばかりに膨らんでいた牛のマスクが縮んでいくのがわかった。
再び動き出したバルザックが牛のマスクを完全に脱ぎ去ると、そこにはいつも通りのバルザックの顔。
……。
あの鹿角取ると元に戻るのか…? ポニータイガーシンドロームとRUNポルチーニの相互作用によって、あの牛さんは既に得体の知れない合成獣にでもなってしまっているのではないだろうか…。
呆然としてバルザックを見つめながらも、この機会を逃すとこのままになりそうなので気を取り直して便乗してみる。
「それじゃあ、俺ももう着替えていいよね?」
「え…?」
ハル? 残念そうな顔するのやめて?
そうして漸く舞台衣装から解放された俺がホールに戻ってくると、舞台上では丁度、さっきまで熱弁を振るっていたフラスコを持ったローブ姿の女が舞台袖へと戻っていくところだった。すると、入れ替わりで今度は学者風の男が舞台上に現れる。
「そういえば、今日は他の団体が使用してるって話だったけど、あの人達は何をやっているの?」
なんとなく気になって尋ねてみると、ハルが手元の資料に視線を向けた。
「彼等は『錬金術師友の会』のメンバーで、今日は技術発表会をやっているそうですよ」
「錬金術師友の会…?」
「はい」
「えっと…。錬金術ってあれだよね。あの、人体錬成をすると体の一部を持っていかれたり、指パッチンで炎を出したりする…」
「なにやら認識に著しい偏りがある気がしますが、そこはこの際置いておくとしましょう」
なんか置いとかれた。
そして、ハルは淡々と説明を始める。
「ヒイロ様もご存じの通り、この世界の魔法は魔素を制御することによって行使します。この世界の住人であれば誰もが感覚的に魔素を扱える為、各々が割と好きなように魔法を使いますが、それでもやはり、魔法を研究している者達はいますし、幾つかの確立された魔法体系というものも存在します」
「へぇ」
「そのうちの一つ、科学的なアプローチから魔法を探求し、大公国で発展を遂げてきたものが錬金術です」
「ほぉ」
「物の分子構造を把握し、魔素を介してそれらに働きかけることで物の形状を変化させるというようなことにはじまり、分子構造を組み換えて新たな化合物の生成、医学との連携による医療への応用から人工生命体の作成など、幅広い研究が行われているそうです。古の時代には、この技術の延長線上に、原子どころか素粒子レベルでの組み換えが行えるような技術もあったそうです。それを使えば、文字通り他の物質から金を錬成することも可能だったとか」
「そうなんだ」
そんな話をしている間にも、舞台上では学者風の男が舞台袖に戻り、入れ替わりでスーツを着た男が現れた。そして、それと同時に正面のスクリーンに何かが映し出される。
そこに表示されたのは『現代の錬金術! ~お金を生み出す賢い投資術~』というタイトル画面。
「あれ? なんか別の錬金術始まったよ?」
唐突な展開に困惑していると、そんなことは気にも留めないカイとバルザックが舞台に向かって駆けていく。
「よし、次は本番同様、舞台の上に立ってみるぞ、バルザック」
「おうよ。いっそ、本番同様に殺陣でもやってみるか」
「おお、それはいいな」
しつこいようだが、カイは本番の舞台に立たないし、バルザックは舞台上で突っ立っているだけである。
……というか、迷惑だからやめなさい。
ポンコツ達に対してミーアと共に呆れた視線を送っていると、俺達の後ろの扉が開いてホールに人が入ってきた。
「おや? ヒイロさん…、それに、ハル…?」
入ってきた人からそんな風に名前を呼ばれたので振り返ると、そこに立っていたのは背が高く体格の良い男の人。
「ライルさん?」
そう、アルジーヌさんが運営する孤児院で働いていたライルさんだ。
「その節はどうも、ヒイロさん」
「あ、いえいえ。こちらこそ」
そんな挨拶を交わしていると、ライルさんが急に期待に溢れるような瞳を俺に向けてきた。
「それで、ヒイロさんがここにいらっしゃるということは、つまりはそういうことですか?」
「え? そういうことってどういうことですか?」
正直、そんな期待の眼差しで見つめられても、何を期待されているのか全くわからない。
「またまた。聞きましたよ。ヒイロさんはタワシゴーレムの錬成に成功したらしいじゃないですか。今日はその成果を発表しにここへ来たのでしょう?」
「違います」
俺はあんなものを錬成した覚えはない。
「え? 違う?」
すると、ライルさんは明らかに落胆した表情を浮かべる。
「…そうですか、それは残念です…。タワシゴーレムとはいったい何なのか…、興味深いお話が聞けると思ったんですが…」
むしろ、俺の方があれが何なのか聞きたいくらいだよ。
「しかし、そうなるとヒイロさんはどうしてこちらに…? もしかして、タワシマスターとして何か他の成果が…?」
タワシマスター扱いはやめてもらいたい。
だが、真向否定しても全く意味がないことはいいかげん学んできた。というわけで、話を逸らしてみることにする。
「俺のことよりも、ライルさんこそ、ここで何をしているんですか?」
「え、僕ですか? 僕は、実は人を探していましてね」
「人を?」
「ええ。そいつは錬金術に傾倒していたものですから、僕自身もこういった集まりに顔を出して情報収集をしているわけです。もっとも、僕自身も大公国の出身で錬金術も嗜んでいたので、純粋に興味があるという部分もあるんですけどね」
「そうなんですか…。それで、その探し人は見つかりそうなんですか?」
「いえ…。まだ、これといった情報はないんです。ただ、今日この後予定されている鏨の鈑金術師による自動車鈑金修理の実演というのが怪しいのではないかと睨んでいます」
「錬金術どこ行った?」
そんな俺の疑問は当然の如くスルーである。
「予定表ではそろそろ発表が始まる時間のはずなんですが…」
そうして舞台の方に視線を向けたライルさんに続いて俺も視線を向けると、舞台の上では禍々しく変貌を遂げた邪剣を構えるカイと、馬面で鹿角を生やした化物が殺陣を繰り広げていた。
「何ですか…、あの飛び入り参加者は…?」
「あ…、えっと……。ごめんなさい。直ぐに退去させます…」
つい慌てて謝ってしまったものの、ライルさんの興味は別のところにあるらしい。愕然とした表情で呟く。
「合成獣…?」
よくよく聞いてみると、客席からも『意志ある武器だと!?』『まさか、合成獣を生み出したというのか!?』などという感嘆の声が上がっていた。
なんか受け入れられてやがる。
ミーアと共に冷めた視線で舞台を見つめていると、ライルさんが客席に座っている人達や舞台脇の人々を確認しながら呟く。
「まさか、ここに居るのか…?」
「どうしたんですか?」
「あれほど完成度の高い合成獣…。もしかしたら僕が探している男がここに…」
「え!? あっ…いや…。多分それはない…かなぁ…」
「何故ですか…?」
「いや…。だって、あれは、その…バルザックですから…」
申し訳なさそうに言うと、ライルさんが困惑したように口を開く。
「……バルザックさんというと、勇者パーティの…?」
「…はい。そのバルザックです…」
「…………どうして、バルザックさんが合成獣に…?」
はい、当然の疑問ですね。でも、そんなことは俺が知りたい。
その時、カイが振り抜いた邪剣がバルザックの鹿角(茸)を薙ぎ払った。すると、バルザックの馬面だった頭部が元に戻る。
それを見たライルさんの混乱が一層増していくのが見て取れる。
次の瞬間、ライルさんが何かに気付いた。
「…まさか…、あれが今回ヒイロさんがタワシマスターとして持ち込んだ研究成果…?」
「違います」
すると、またライルさんが何かに気付く。
「まさか…、ヒイロさんはバルザックさんを人体実験の材料に…?」
「違います」
あいつは俺の与り知らないところで勝手に合成獣化したのであって、俺は一切関与していない。
「しかし、バルザックさんは禍牛族の戦士であったはず。そのバルザックさんが合成獣になっているということは、それはつまり後天的に他生物の因子を融合させて生み出したということ…。現代錬金術において、合成獣の作成は遺伝子操作した胚からの培養が主流…。後天的に異なる生物種同士を融合させるなんて芸当は、あの錬金術の大家パラケルススですら完全な成功にまでは至っていないはずです。ヒイロさんはいったいどこでそんな技術を…?」
「俺が生み出した前提で話を進めるの、やめてくれません?」
そんな俺の言葉など聞こえていないのか、ライルさんは困惑したような表情のまま続ける。
「それにしても、共に旅をした仲間でさえ人体実験の材料としてしか見ていないだなんて…」
「ねぇ、俺の話、聞いて?」
「そのぶっ飛んだ倫理観…。まさかヒイロさんはあの男に師事してバルザックさんの改造を…?」
「いや、違いますよ!?」
「え? ではご自身でこの技術に辿り着いたと?」
「あれ? 俺が否定したいのはバルザックを改造したっていう部分なんですけど!?」
そんな俺の切実な想いは全く届かない。するとその時、観客席が少し騒がしくなった。
「あ、どうやら勝負が決まったようですね」
ライルさんのその発言を受けて舞台へと視線を向けると、邪剣に甘噛みされた状態のバルザックを引き摺りながらカイが舞台から降りていくところだった。
「倫理観はともかくとして、技術としては素晴らしいと思いますよ、ヒイロさん」
「どうしても俺がバルザックを改造したっていう体で話を進めるんですね?」
「さすがは若くしてタワシマスターの称号を得ただけのことはあります」
「タワシマスターって呼ぶのはやめてもらえませんかね?」
「え? これだけの成果を上げても、まだタワシマスターと呼ばれるには値しないと仰るんですか? さすがです。世界の深淵に至るには目先の名声などに惑わされないその謙虚な姿勢こそが大事なんでしょうね」
「どうして俺の話を聞いてくれないんですかね?」
「ところでヒイロさん。この後お時間ありますか?」
「嗚呼…、こうやって、いつも訂正することすら許されずに話が逸らされる…」
そんな嘆きの声が聞こえているんだかいないんだか、横からハルが口を挟む。
「申し訳ありません、ライルさん。ヒイロ様は、これから大事な衣装合わ…」
「ありません! この後の予定、ありません!」
何を言おうとしたのかを察したので、ちょっと食い気味にライルさんへの返事をしてみる。
ハルが少し不満気に見えるが、この件に関してはハルも俺の敵である。
「でしたら、これから孤児院に遊びにいらっしゃいませんか? 子供達もヒイロさんに会いたがっていましたよ」
「え、皆が? そうなんだ。それじゃあ、お邪魔しようかな」
孤児院の子供達が俺に会いたがっていると聞いて少しだけ嬉しく思っていると、それを打ち消すかのようにライルさんは続ける。
「ヒイロさんがタワシマスターの称号を得たというニュースを聞いてから、子供達もまるで自分達のことのように喜んでいましてね」
「………え?」
「今、あの子達の間ではタワシマスターゴッコが流行っているんですよ。本物のタワシマスターが来てくれたらきっと喜びます」
「………え?」
行くの…、やめようかな……。
ヒイロ (そういえば、ハルがプロデュースする女装において胸パッドを入れることを提案されたことは一度もない。そのため、俺の女装姿は常に絶壁である)
ハル 「………」
ミーア 「に゛ゃ?」
===
後日、ヒイロは台本を読んでみた。
ざっと要約するとこんな感じ…。
■舞台『レニウム王国建国史 第三章 妃への軌跡』
〇第一幕 町娘選手権
轢死体で発見された町娘Aが町娘Vへの復讐の為に行動を始める。そこへ町娘Vに殺された町娘B、Cが合流。さらには同じく町娘Vに殺されたネクロマンサーでもある町娘Dと出会い町娘連合を結成する。
一方、町娘Vは暗躍を続け、次々とバトルロイヤルに参加している町娘達を屠っていく。そして、ついには町娘Vの学生時代の最大のライバルでもあった町娘Mが町娘Vの前に立ち塞がる。しかし、大型トラックを運転中だった町娘Vはブレーキが間に合わず町娘Mを瞬殺してしまうのだった。
〇第二幕 出会い、そして決別
少し時間はさかのぼり、バトルロイヤル開催に至るまでの話。
たまたま近所の水族館を訪れた初代国王。そこで、ペンギンの飼育員として働いている町娘Vと運命の出会いを果たす。
町娘Vに水族館で飼育しているペンギンだと勘違いされた初代国王は、町娘Vからの今まで受けたことのない扱いに対して『面白れぇ女』と言ったかどうかは定かではないが、惚れてしまう。
そうして始まる、水族館に通い詰める初代国王と町娘Vとの心温まるハートフルストーリー。
恋に、そして自らの出自に悩み苦しむ初代国王。そんな初代国王に悪役令嬢Hが道を指し示す。
そして自由に生きることを決意した初代国王は、ペンギンの着ぐるみを鳥外し悪役令嬢Hに婚約破棄を言い渡した。
婚約者を奪われて復讐に燃える悪役令嬢Hは、どうやったら町娘Vを正式に妃に迎えることができるか悩んでいた初代国王を唆してバトルロイヤルを開催させる。さらに、水族館の餌代高騰に悩んでいた町娘Vをペンギンの餌一年分を餌にして参加へと誘導する事に成功。
そして、子飼いの暗殺部隊をバトルロイヤル参加者に紛れ込ませたのだった。
〇第三幕 爆誕!魔女っ娘♂ヒイロン
次々と強敵を打ち破ってみせる町娘Vの姿に、悪役令嬢Hは次第にその実力を認めていく。そして、彼女になら初代国王とこの国の未来、そして水族館の未来を任せられると身を引くことを決意。子飼いの暗殺部隊へ撤退を命じる。
しかし、時すでに遅し。暗殺部隊はネクロマンサーでもある町娘Dの軍門に下っていた。
それに責任を感じた悪役令嬢Hは町娘Vの手助けをすることを決意する。そんな彼女の前に一頭のツキノワグマが現れる。そして、そのツキノワグマと契約を交わした悪役令嬢Hは魔女っ娘♂ヒイロンとして生まれ変わるのであった。
〇第四幕 最終決戦
町娘連合と町娘Vによる最終決戦。
町娘Vと魔女っ娘♂ヒイロンは共闘するが、町娘Dの力は強大で追い詰められる町娘V達。そこへ、イワトビペンギン型巨大ロボットNAZNAに搭乗した初代国王が塔上から颯爽と登場。
次々と町娘連合のアンデット達を倒していくNAZNAに心ときめかせる町娘V。そんな中、町娘Vがペンギンに本気の恋をしている事に気付いた町娘Mは町娘V側へと寝返ることを決意。
これによって形勢が一気に逆転。とうとう町娘Dは打ち倒されたのであった。
見事に町娘Dの野望を打ち破った町娘Vと魔女っ娘♂ヒイロンこと悪役令嬢Hは、それぞれ『勇者』と『タワシマスター』の称号を授与される。そして、同時にバトルロイヤルの優勝者である町娘Vと初代国王の婚約が発表されるが、町娘Vはこれを固辞。
しかし、町娘Vのペンギンへの愛を見抜いた悪役令嬢Hは、水族館への資金援助とNAZNAへの搭乗権を餌にして町娘Vへ婚約を承諾させることに成功。
こうして、町娘Vと初代国王は幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。
ちなみに、悪役令嬢Hは108着もの衣装を着ないといけない為、不自然なタイミングで舞台袖に引っ込んでは衣装チェンジして再登場するという…。
ヒイロ 「めでたい……のか……? とりあえず、これって建国までの話じゃなくて、建国後の話なんですね…?」
ライアー三世 「建国までの話は第一章~第二章までだ」
ヒイロ 「それと、後から追加されたはずの魔女っ娘♂ヒイロンの扱いがデカいのは何故?」
ライアー三世 「スポンサーの意向には逆らえず…」
ヒイロ 「ウィルはいつの間にスポンサーにまでなったの?」
ライアー三世 「ちなみに、第四章は町娘D視点で描かれる『鬼籍からの奇跡』だ」
ヒイロ 「………もう、勝手にして…」
参考までに…
第一章『奇跡 ~建国への軌跡~』
第二章『奇石 ~神力石を求めて~』




