表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/122

067 ソノトキ レキシ ガ ウゴイタ

挿絵(By みてみん)

どうも、白狐です。


なるほど、歴史ってこうやって動かすのか…。


「ちょっと待ってくれ。俺が主演だっていうから、てっきり勇者()の今までの活躍を舞台化するんだと思ってたのに…。違うのか!?」


 近く行われる予定のカイが主演を務める舞台、その打ち合わせの冒頭、台本が配られて舞台の内容を知ったカイが声を荒らげた。


「今回の舞台は、我がレニウム王国の建国史を題材にした歴史スペクタクルを上演する予定だ」


 右手に丸めた台本を持って左手にポンポンと叩きつけながら、国王が答えた。

 それに対して納得のいかないカイがアレックスさんに噛みつく。


「どういうことだ、アレックス。聞いていた話と違うじゃないか! 勇者の栄光を讃える為の舞台のはずだろ? だったら、勇者の今までの実績を舞台化するのが筋ってもんじゃないのか!?」


 その手のお芝居って、勇者本人が出演するものだろうか…?

 カイの発言を受けて、アレックスさんが視線を泳がせる。


「えっと、その…」


 そんな歯切れの悪いアレックスさんに代わって国王が口を開く。


「アレックスを責めるでない。急遽予定を変更させたのは、この儂だ」

「何? どういうことなんだ、王様!」

「実はな、最近ある噂を耳に挟んだのだ…」

「噂?」

「そうだ。最近、王家の血統について疑義を唱えている輩がおるらしいのだ」


 ………。

 いや、明らかに俺のことを睨んでるじゃないですか。

 少し視線を逸らしつつ素知らぬふりをしていると、俺に鋭い視線を向けたまま国王が続ける。


「そのような不埒な輩に対して、王家が旧帝国の皇族の血を引いた由緒ある家柄であるということを知らしめねばならん。その為に、今回の舞台の台本を急遽作り直させたのだ」

「そんな…。でも、俺も王国あっての勇者だ…。さすがに、そんな深い事情があるんだったら文句は言えない…」


 はたして深いだろうか?

 苦渋の表情を浮かべるカイを見ながらそんなことを考える。


「だが、それでも俺にも勇者としての見せ場は用意してもらえるんだよな…?」


 最後の望みを託すようにしてカイが何とか食らいつこうとすると、国王は難しい顔を浮かべた。


「それは難しいのだ…。なにしろ、今回の台本の内容を建国史にフィードバックすることが既に決まっておる。そこに当時存在しなかった勇者が登場しては、建国史の信憑性が疑われかねないのでな」

「おい、何を堂々と歴史捏造宣言してんだよ!」


 もっとも、歴史なんてものは時の権力者によって捏造や歪曲されるのは当たり前ではあるのだが。

 つい条件反射的にツッコんでしまった俺に対して国王が鋭い視線を向けた。


「ヒイロよ、今、捏造ねつぞうと言ったか?」

「…え?」

捏造ねつぞうと、確かにそう言ったな?」

「あ、いや、えっと…」


 やばい、気に障ったか?

 鋭い眼光を向けてくる国王に少し怯んでいると、国王がニヤリと微笑んだ。


「どうやら知らぬようだな? ならば教えてやろう。『捏造』(この漢字)だが、これの本来の読みは『ねつぞう』ではない。本来の読みは『でつぞう』というのだ。そう、『ねつぞう』という読み方は捏造でつぞうされたものなのだ!」


 また唐突に何を言い出すんだこの国王は。毎回毎回嘘ばっかり…。

 ………あれ? 嘘じゃないな。

 そう、『捏造』の本来の読みが『でつぞう』だというのは本当の話だ。そうはいっても、現代においては『ねつぞう』も慣用読みとして辞書にも載っているし、むしろ『でつぞう』という読みの方が淘汰されかかっているといっても過言ではないだろう。

 まあ、言語なんてのは時代に合わせて変遷していくものだ。正直、今正しいとされている意味や読みが将来的にも正しいとされている保証はない。

 それはともかくとして、これだけははっきりと言っておこう。『ねつぞう』という読みは決して何者かによって捏造されたわけではない。あくまでも、長い時を経て定着していったものだ。

 偶に本当のことを混ぜてくることもあるようだが、基本的にあの国王の言葉を信じてはいけない。


「でも、勇者を称える舞台じゃなくなったんだったら、俺が主演である必要はあるのか?」

「そうですね。ですが、勇者様を舞台俳優としてプロデュースするというのも、今回の目的の一つですから」


 国王の発言を完全にスルーしてカイが問い掛けるとアレックスさんがそれに答えた。

 相変わらず、この国は勇者をどうしたいんだろう…?

 一方、完全に無視された国王の方はというと『無視しないで…』とか呟きながら部屋の隅に移動して体育座りでいじけ始めた。チラチラとこちらの様子を窺っているが、正直言って俺もあの人の相手をする気はない。よし、放っておこう。


「ところでアレックス。自分達にも出番があるようだけど?」

「そうなんだ、ウォルフ。実は勇者様だけでなく、勇者パーティごとまとめてプロデュースしようという方針が決まってね」


 さて、話している内容の方も気になるが、ウォルフさんが登場してしまったので今日の間違い探しといこう。今日はイージーモードだ。一目見ただけで誰でもわかる。

 そう、今日のウォルフさんは顔がいつもと違う。なんというか、ダンディな御髭のおじさんだ。


「つまり儂等にも出番があるということじゃな? なになに、儂の役は……『町娘Vの夢枕に立つ祖父A』とな?」

「儂は『町娘Vと一緒に暮らしておる祖父B』じゃな。ふむ、本番までになんとしてでも腰を治さねばならぬのぅ」


 ……。


「アレックスさん。この『初代国王からペンギンの着ぐるみ(外部装甲)鳥外す(取り外す)お手伝いをした町娘Vの友人でもあるメイド』という役ですが、本当に私がやらないといけないのでしょうか?」

「その役は是非ともハルにお願いしたいんです。リアリティを追及する為に本職のメイドを起用するべきというのが陛下の意向なものですから」

「私はメイドが本職という訳ではなのですが…」


 ……?


「おい、俺の『初代国王と町娘Vが出会った水族館に置かれているミノタウロスの銅像』っていうのはどんな役なんだ? 重要な役なのか?」

「ええ、とても重要な役よ。そうよね、アレックス」

「はい、カミーユの言う通りです。ミノタウロスと言えばヒトとウシの間に生まれた奇跡の存在。つまり、ここでミノタウロスを登場させることで、ヒトとペンギンの越えられない壁を埋める可能性を示唆しているんです」


 ……ん~?


「自分は『初代国王の親友でもある眼鏡(をかけた悪役令嬢Hの兄)』役か…。台本によると『町娘Vに初代国王の婚約者の座を奪われて復讐心に燃える悪役令嬢H』を演じるヒイロ君とは絡む場面が多そうだね。よろしく頼むよ、ヒイロ君」


 さっきから何かがずっと引っ掛かっている俺に向かって、ダンディな御髭のおじさんが声を掛けてきた。

 そう、ウルフファング隊の隊服に身を包み眼鏡を掛けたダンディな御髭のおじさんだ。

 ………。


「いや、さすがにおかしいだろ!」

「ヒイロ君、急にどうしたんだい?」

「さも当然のように居るけど、あんた誰だよ!?」


 すると、カイが不思議そうに声を掛けてくる。


「何言ってるんだヒイロ。お前は共に旅をした仲間のことを忘れちまったのか?」

「俺はこんな御髭のおじさんと共に旅をした覚えはない!」


 そう、旅に同行しているウルフファング隊隊員(モブ隊員)にも、こんなダンディな御髭のおじさんはいなかった。

 そこへアレックスさんが口を挟む。


「ヒイロさん。ウォルフにだって髭くらい生えますよ」

「そういうことじゃない! …というか、アレックスさんはさすがに気付いてあげてくださいよ。ウォルフさんとは友人なんですよね?」

「ええ、そうですよ。ウォルフは気の抜けない私の友人です」

「それ、本当に友人だと思ってますか?」


 いや、確かに隙あらばボケ倒してくるから一瞬たりとも気を抜けないけどさ。


「何を言うんですかヒイロさん。ウォルフとはアカデミー時代から、それこそ二十年来の強敵ともですよ」

「ねぇ、なんかニュアンスおかしくない?」


 そんなツッコミを入れていると、アレックスさんは何かを懐かしむように微笑んだ。


「いいえ、おかしくありませんよ。ウォルフとはアカデミーでお互いに主席の座を争った仲ですからね…」

「争ったって言っても、結局、主席の座はアレックスさんがずっと守り続けたんですよね? 前にウォルフさんが一度も勝てなかったって言ってましたよ」

「ウォルフがそんなことを…?」


 すると、アレックスさんが遠くを見つめた。


「ええ、そうですね…。確かに入試の成績に始まって卒業に至るまでの全ての成績において、私は一度も主席の座を譲ったことはありませんでした。ですが、卒業式の生徒代表に選ばれた時に私は真実を知ってしまったんです…」

「真実…?」

「ウォルフはテストの度に何かをやらかしていたんですよ…。名前を書き忘れたり、一教科丸ごと解答欄がずれていたり…。それでも総合点で次席であり続けたという意味が分かりますか? ちなみに、それらが無ければウォルフは常に全教科満点の成績だったそうです…。もちろん、あのアカデミーのテストにおいて全教科満点を取るなんていうのは前代未聞の快挙です」

「でもそれ、追試受けてますよね?」


 それは本当に次席と呼んでもいいのだろうか? そして、一教科丸っと抜けても総合点で二番になれるようなテストって、難易度設定間違ってない?

 やさぐれた表情で呟くように漏らしたアレックスさんに対して、ついそんなツッコミを入れてみるが、彼はそんな俺のツッコミには反応もせずに遠くを見つめ続ける。


「あー…、えっと…。でも、まあ、それも含めての実力ですし…」

「ええ、わかっていますよ。わかっていても、なんだか納得がいかないんですよ。もちろん、ウォルフが狙ってやっているわけではないこともわかっています。でも、やっぱりこう、もやもやしたものが…」


 …あの人、割と狙ってやってるんじゃないかと思うこともあるけどね…。

 うん。で、それはともかくとして、その当の本人はどこ行ったの?

 再び訝し気にダンディなおじさんに視線を向けていると、会議室の扉が開いた。


「遅れてすまない。実は眼鏡が見つからなくてね…」


 そんなことを言いながら入ってきたのは、眼鏡を掛けていないウォルフさん。

 その姿を見てカイとオーギュストさん×2が驚愕の表情を浮かべる。


「ウォルフが二人!?」

「「これはどういうことじゃ!?」」

「あんたらは、いったいどんな基準でウォルフさんを見分けてるんだ?」


 そんな率直な疑問に対して、正気を疑うような表情を浮かべるカイとオーギュストさん×2。


「何言ってるんだヒイロ。顔か眼鏡を見ればウォルフだってのは一目瞭然だろ!」

「「そうじゃそうじゃ」」

「どうして顔と眼鏡のそれぞれをウォルフさんとして認識してるんだよ。両方セットでウォルフさんだろ!」


 思わず言い返した瞬間、膝の上でまったりしていたミーアが『眼鏡をセットにする必要はニャいよ!?』とでも言いたげに俺を見上げた。

 ……。うん、ミーアさんの仰る通りです。最近、俺もこいつらに毒されてきてるな…。

 不本意なコントに巻き込まれていると、ウォルフさんがダンディなおじさんに視線を向ける。


「あっ、眼鏡。こんなところに…」


 すると、ダンディなおじさんが眼鏡を外してウォルフさんに手渡した。

 その瞬間、カイに衝撃が走る。


「こいつ、誰だ…?」


 面倒臭いな、このポンコツ勇者…。

 そんなカイの発言に対してウォルフさんが答える。


「彼はウルフファング隊(ウチ)の隊員だよ。どうやら、自分が失くした眼鏡を届けてくれたようだね」

「だったら、どうして何食わぬ顔でウォルフさんのふりをしていた?」


 率直な疑問を口にしていると、眼鏡を外したダンディなおじさんが辺りをキョロキョロと見回し始めた。


「隊長…? 俺はどうしてこんなところに…?」

「おや? 自分に眼鏡を届けに来てくれたんじゃないのかい?」

「眼鏡…?」


 ウォルフさんの発言に対してダンディなおじさんが困惑したような表情を浮かべる。


「そうだ、思い出した…。確か、手を洗おうとした時にこの眼鏡が洗面台のところに置き忘れてあるのを見つけたんだ。それで、手に取ってみたところ、何処からともなく脳に直接訴えかけてくる声が…」

「ああ、そうか。顔を洗った時に眼鏡を外したんだった。それでそのまま置き忘れてしまったようだね」

「ちょっと待って? 今、もっと他に気になるところがありましたよね?」


 なにやら納得したように呟くウォルフさんに対して本音を漏らしていると、ダンディなおじさんが続ける。


「そこからの記憶は定かではないんですが、微かに覚えているのはこの眼鏡を絶対に持ち主の元へと届けなければならないという使命感に駆られたということだけです」

「なるほど。つまり君は眼鏡の帰巣本能に導かれてここまで来たんだね」


 眼鏡の帰巣本能って何…?

 俺の頭の中では、理解さんが『断固拒否』と書かれた横断幕の前で両腕をクロスさせて大きなバツ印を作りながら首を横に振り始めた。

 どうしよう。俺の頭が理解することを拒否している。


「まあ、何にしても助かったよ。ありがとう」

「あ…、はい。どういたしまして」


 そうしてダンディなおじさんが会議室を出ていくと、その空いた席にウォルフさんが腰掛ける。


「ウォルフ、改めての説明は必要かな?」

「いや、大丈夫だよ、アレックス。ここまでの内容は後で眼鏡に確認しておくよ」


 ………。

 理解さんが断固拒否の姿勢を崩さない為、俺はこの件について考えることを放棄した…。


「そうですか、それでは話を元に戻しましょう。先ほど陛下からも話があった通り、今回の舞台は勇者様演じる主役の町娘Vが町娘A~Uまでを時には欺き、時には陥れ、血で血を洗う凄惨なバトルロイヤルの末に初代国王の妃の座を射止めるまでを描いたシンデレラストーリーです」

「歴史スペクタクルどこ行った!?」


 というか、この舞台って町娘Vが主役なの?


「物語は町娘Aが轢死体となって発見されるところから始まります」

「いきなり物騒だな!」

「現場検証中に突然動き出した町娘Aの轢死体は、自らを謀殺した町娘Vへの復讐の為に町娘Vが住む街を目指します。そして、その途中で町娘Vによって斬殺された町娘B、圧殺された町娘Cと出会い、共に手を取り合って町娘Vへの復讐を誓いあうのです。しかし、そんな彼女達の前に町娘Vに毒殺された町娘Dが現れることで物語は大きく動きだします。そう、町娘Dの正体はネクロマンサーで、彼女の力によってより強力なアンデットとして生まれ変わった町娘A~Cは……」


 妙な方向性で話し続けるアレックスさんに対して少し苛立っていると、カイが声を掛けてきた。


「ヒイロ、俺が演じる町娘Vとお前が演じる悪役令嬢Hが和解して共闘するっていう熱い展開もあるみたいだぜ!」

「知ったことか!」

「あ、そうだ、アレックスさん。ヒイロ様の衣装は是非私に選ばせてくださいませんか。ヒイロ様の可憐さを引き立てる最高の御令嬢を演出してみせますので」

「ねぇ、ハルは俺をどうしたいの?」


 そんなカオスな状況の中、いじけていた国王が急に顔を上げた。


「そうそう、衣装といえば一つ問題があるのを思い出した」

「え? 問題ですか?」


 アレックスさんが応じると国王が立ち上がって席に戻ってくる。


「そうなのだ。実はバトルロイヤルの傍らで進行するサイドストーリーで、初代国王がペンギンの着ぐるみ(外部装甲)鳥外し(取り外し)人鳥ペンギンからヒトへと変貌を遂げるという物語の核心となる場面があるのだが、そこで使用するペンギンの着ぐるみがまだ準備できておらんのだ」

「何だって!? それは一大事じゃないか!」


 物語の核心なのか、サイドストーリーなのかはっきりしてほしい。

 驚くカイを見ながらそんなことを考えていると、会議室に着信音が鳴り響いた。微妙な空気が流れる中、皆一様に音の発生源を探るようにキョロキョロと辺りを見回す。すると、そんな空気をものともせずカイがスマホを取り出した。

 おい、今は重要な……いや、さほど重要でもないけど…、とりあえず会議中なんだよ。マナーモードに設定するなり電源を切るなりしておけよ。

 そんな風にポンコツ勇者に冷めた視線を向けていると、カイはスマホを耳元に当てた。


「もしもし?」


 しかも出るんかい。

 周りの冷たい視線などお構いなしにカイは通話を続ける。


「……ウィル、久しぶりじゃないか」


 どうやら、電話の相手はウィルらしい。


「……え? 舞台衣装が用意できなくて困ってたりしないかって?」


 ………。

 ねぇ、ウィリアムさん? どうして、そんなピンポイントで営業電話を掛けてくることができるのか教えて頂けないでしょうか?


「……え? 胡桃クルミから着ぐるみまで何でも揃えてくれるって?」


 ねぇ、ウィリアムさん? その間にはいったい何があるのか教えて頂けないでしょうか?


「……ああ。……そうか。……なるほど、わかった。じゃあな」


 通話を終えると、カイは国王へと視線を向けた。


「王様、着ぐるみの件なんだけど、なんとかなるかもしれないぜ?」

「それは真実まことか?」

「ああ、今の電話は威内斯ヴェニス商会にいる俺の知り合いからだったんだけどな。丁度良いからそいつに相談してみたところ、ペンギンの着ぐるみなら用意できそうだってさ」


 ちなみに、さっきの通話において、カイの方からは一度もペンギンの着ぐるみなんて単語を発していない。

 ………深く考えるのはやめておこう。

 そうやって膝の上のミーアと膝に前足を掛けてじゃれてくるワルツをモフりながら現実逃避していると、国王が安堵の息を吐いた。


「ふう、これで舞台衣装の問題については解決したわけだな」

「いや、王様。俺はまだ商会を紹介してやるなんて一言も言ってないぜ?」

「何? どういうことだ?」


 国王が驚きながら聞き返すとカイはニヤリと笑みを浮かべた。

 そして、なにやら白々しい態度で口を開く。


「あ~、そういえば、今度やる舞台に勇者が登場しないって聞いたんだけど、俺の聞き間違いだったかな~?」

「なっ!? お主、まさか…」

「勇者の出番がない舞台の話なんて、勇者として恥ずかしくてウィルとまともに話ができる自信が無いな~」


 そもそもこいつの紹介なんて必要なのだろうか?

 そんな正論が喉まで出かけるが、巻き込まれたくないのでとりあえず放置する。


「ぐぬぅ…」

「勇者の出番さえあれば、自信を持ってウィルと話ができるのにな~」


 苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべる国王へチラチラと視線を送りながら、わざとらしく話し続けるカイ。


「儂とて一国の主…。そのような脅しには、決して屈したりは…」

「おいおい王様、脅しだなんて人聞きの悪い事を言ってもらっちゃ困るな。俺はただ、舞台に勇者の見せ場を作ってほしいって強請ねだってるだけだぜ? 可愛いもんだろ?」


 強請ゆすってるの間違いではないだろうか? 可愛さの欠片もねぇよ。

 ポンコツ勇者へと冷たい視線を向けてみるが、当の本人は一向に気にした様子もなく続ける。


「それで、どうするんだ? 今回の舞台のキーアイテムなんだろ?」

「くっ…。背に腹は代えられん…。バトルロイヤルに勝ち抜いた町娘Vに『勇者』の、そして、彼女を陰ながら支えた悪役令嬢Hに『タワシマスター』の称号を授与する場面を追加する。この条件で手を打ってはもらえんだろうか? 正直、これ以上の譲歩は難しい…」

「仕方ないな、それで手を打ってやるよ」


 こうして、舞台の台本と共にレニウム王国の建国史にも新たな一頁が刻まれたのであった。

 ………。

 それはさておき、どうして俺まで巻き込まれたんだろうか…?


スクープ! これが町娘Vによる他の町娘達の殺害方法だ!

町娘A 轢殺

町娘B 斬殺

町娘C 圧殺

町娘D 毒殺

町娘E 爆殺

町娘F 刺殺

町娘G 絞殺

町娘H 忙殺

町娘I 殴殺

町娘J 射殺

町娘K 惨殺

町娘L 他殺

町娘M 瞬殺

町娘N 脳殺

町娘O 虐殺

町娘P 必殺

町娘Q 暗殺

町娘R 屠殺

町娘S 相殺

町娘T 黙殺

町娘U 抹殺


ヒイロ 「ねぇ、殺害方法としてはおかしい単語がちらほら交じってるよ?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ