??? キヨウ ノ ニヤンコ
早朝、王宮の一画にあるヒイロの部屋のベッドの上。そこでミーアは目を覚ました。
小さな欠伸、そして伸びをすると、毛繕いを始める。そして、一通り毛繕いを終えたところで、まだ夢の中にいるこの部屋の主に視線を向けた。
ヒイロの顔の近くまで移動したミーアは、その気持ちよさそうな寝顔を見るとなにやら悪戯っぽい笑みを浮かべる。すると、自らのモフモフの尻尾でヒイロの頬の辺りをくすぐり始めた。
「あ…、モフモフ…」
幸せそうにそんな寝言を呟くヒイロを見ながらミーアも楽しそうだ。しかし、次に発せられたのは衝撃的な一言だった。
「何このモッフモフなワンコ…」
「に゛ゃ?」
※今のミーアの顔は、とてもじゃないがお見せできません。
そんなミーアの殺気にヒイロは気付かない。そのとばっちりを受けたのは、同じくベッドの上で寝ていたワルツだった。偶然目を覚まして目撃者となってしまったワルツは、そっと顔を伏せて寝たふりを続ける。しかし、その体は小刻みに震えていた。
と、その時、ヒイロの顔の横に転がっていたタワシの塊が寝ぼけ(?)ながらその顔にしがみついた。すると、ヒイロがうなされ始める。
「モフモ…あれ…? 化け猫…? いや、チクチク…? あっ…、痛い…。ハリネズミ…?」
そんなヒイロを助けようと、ミーアがタワシの塊に前足を伸ばす。
しかし、さっきのワンコ発言を思い出すと頬を膨らませて前足を引っ込めた。そして、プイッとそっぽを向くとさっさとベッドから降りていく。
うなされるヒイロのことは放置してミーアは部屋の中のパトロールを始めることにする。
暫く部屋の中をうろつくと、窓枠の狭い隙間へと飛び乗って外を眺める。そこから見える庭園には色とりどりの花々。窓の近くに生えている木の枝には小鳥がとまって囀っている。
それに興味を惹かれたのか、ミーアは前足を上げる。しかし、その行為は窓ガラスに幾つかの足跡を残すだけに終わった。
不満気に小鳥を見つめていると、建屋の直下にある道に何者かがやって来た。
それは、ジャージ姿の透き通った老人。そんな彼の後ろからは同じくジャージ姿で自転車に跨った老人が続いている。そして、彼等は『筋肉』『万能』とリズミカルに声を掛け合いながら走り去っていった。
………。
遠い目をしてその様子を見ていたミーアだったが、ふと我に返ると助けを求めるようにヒイロに視線を向ける。しかし、当のヒイロはまだ悪夢の中だ。
仕方がないのでツッコミは諦めてパトロールへと戻る。
器用に棚の上に昇って部屋全体を見渡してみたり、テーブルやベッドの下へと潜り込んでみる。
そして、入り口近くに差し掛かった時、そこのポールハンガーに目が留まった。そこにかけられているのはヒイロがいつも着ている黒いコート。
興味を惹かれたミーアは身をかがめると尻尾をゆっくりと揺らしながら狙いを定める。そして、一気にそれに跳び付いた。しかし次の瞬間、風もないのにコートが靡くと、ミーアの前足が空を切る。
「ニャ?」
着地したミーアの前足の中には、当然ながらコートの姿はない。振り返ってコートを見上げてみると、それは狙いを定めていた時と同様にポールハンガーにかかっている。
首を傾げるミーアだったが、気を取り直して狙いを定め直すと再びコートへと跳び掛かる。
すると、やはり風もないのにコートが靡いて、ミーアの前足はまたしても空を切った。
「ニャ!?」
明らかにおかしな状況にコートへ疑惑の眼差しを向けるミーア。ジーッと見つめていると、ゆっくりではあるが確実に、コートがミーアに対して背中側を向けていく。
「ニャッ!? ニャ? ニャァ???」
困惑するミーアだが、意を決してもう一度コートへ跳び掛かる。しかし、コートはひらりひらりとミーアを躱し続ける。そうやって何度も跳び掛かっているうちに熱を帯びてきたのか、部屋中を駆け回り始めるミーア。そして、少し離れたところから助走をつけてコートに向かって大ジャンプ。
しかし、それもコートに躱されてミーアの体はポールハンガーの支柱へ。足を使って上手くガードしたミーアだが、激突の衝撃でバランスを崩したポールハンガーがその場へ倒れる。
大きな音に一瞬驚くミーアだったが、床に落ちたコートを視界の端に捉えると狙いを定める。そして、改めて跳び掛かろうとした時、急に脇の下に何者かが手を差し込んできた。
「ニャ!?」
「駄目じゃないかミーア。そんなに暴れたら危ないよ」
ミーアの後ろには、なにやら顔面がヒリヒリと痛そうなヒイロの姿。未だ興奮冷めやらぬミーアはジタバタと抵抗を試みるが、ヒイロにヒョイッと持ち上げられて不満気な表情を浮かべる。
その一方で、予想以上に伸びるミーアの体にヒイロはご満悦だ。
「アッ…、伸びる…」
こうして、ミーアの朝のパトロールは終わりを告げたのであった。
ミーアをもっと可愛く描けるようになりたい…。画力の限界が…。