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005 ホーンラビツト

挿絵(By みてみん)

どうも、白狐です。


異世界ものには良く出てきますよね、ホーンラビット。

今回は、そんなホーンラビットの御話。

挿絵(By みてみん)

 俺達は今ローリエの街を目指している。

 ローリエの街は王都ヘレニウムから西へ数日行ったところにある為、途中いくつかの街を中継することになるらしい。

 移動は軍が用意した輸送車だ。ウルフファング隊員のスリップさんが運転してくれている。

 なんだろう、名前が不吉で仕方がない…。安全運転でお願いしますよ?

 なにはともあれ、車に揺られながら隣で欠伸をしているミーアを愛でていたら、ウォルフさんが声を掛けてきた。


「ヒイロ君、銃の腕は上達したかい?」


 王都でのメンバー紹介の後、俺の射撃訓練にウォルフさんも何度か付き合ってくれた。

 そして、お手本として彼の射撃を見せてもらったのだが、見事なまでに百発百中。静止した的だったとはいえ、何発撃っても的の穴が中央の一つだけという名人芸を見させてもらった。

 そんな彼だが、今日はズボンのチャックが全開だ。

 指摘してあげるべきだろうか。後で誰もいないところでの方が良いだろうか。

 そんなことを考えながら躊躇していると、横から淡々とした口調でハルが口を開いた。


「ウォルフさん。ズボンのチャックが空いています」

「え、ああ、失礼。自分は昔から少し迂闊なところがあるからなぁ、気を付けないと」


 なるほど、サクッと指摘してあげたほうが良かったか。

 チャックを上げるウォルフさんを見ながらそんなことを考えつつ、俺は先ほどの問いに答える。


「銃の腕はあまり…。的には当たるんですけど、銃の性能に頼っているだけのような…」

「そうかい。まあ、まずは基本を大事にしないといけないね。素人に二丁拳銃は無謀だと思うよ」

「…え? 見てたの!?」


 この世界の銃は、特殊な超化学(?)魔法化学(?)的な何かを使用して弾丸を発射しているらしい。反動が少ない上に素人でも割と的に当てられる。

 だからつい出来心で、訓練中に周りの目を盗んでやってしまったんだ、二丁拳銃…。

 だって、そんな前提条件をつけられたうえで、そこに銃が二丁あったらやってみたくならないか?

 まさか見られていたとは…。恥ずかしい。


「まあ、見た目が派手で恰好良いからね。軍の中にも憧れてやろうとする者が結構いるんだ。目の前にそれを体現する人物もいるしね」

「私は恰好良さを理由にやっているつもりはないのですが」


 ウォルフさんがハルに視線を向けると、ハルがそれに応じた。

 つまり、ハルは二丁拳銃をやっているということらしい。


「へぇ、ハルは銃を使って闘うんだ。あ、そうだ。魔法は? ハルはどんな魔法が使えるの?」


 やっぱり、異世界に来たのならそれは気になっちゃうよね。稀人の俺は使えないけど、それでもやっぱり魔法を見てみたい。


「実は私は魔法はあまり得意ではありません」

「そうなの?」

「はい。私には、このように物の形状を少しだけ変える程度のことしかできません」


 そんなことを言いながら、ハルは車内にあった手のひらサイズの白い卵状の物体を右手に取る。そして、それに左手を翳すとその物体からヒョコッと小さな耳が生えた。

 彼女の手の上の物体は少々不格好な猫の置物に変わっていた。

挿絵(By みてみん)

 ハルがその白い猫の置物をその場に置くと、ミーアが近付いてきて訝し気に見つめつつ前足でちょいちょいし始める。

 そんなミーアを少し微笑まし気に見つめつつ、ハルは続ける。


「なので、戦闘は基本的に手持ちの銃やナイフで行います。それでも対応できないような場合は、これの出番です」


 ハルはそう言いながら、出発の時に背負っていた黒い箱の上に手を置いた。


「これ何? ずっと気になってたんだけど」

「これは、古代科学文明の遺産で『鋼鉄(アイゼルネ)の乙女(ユングフラウ)』といいます」


 …拷問道具?


「内部にはナノマシンが内蔵されており、それを使って各種武器を形成、使用することができます」

「へぇ…。武器庫みたいなもの?」

「そのようなものですね」


 とりあえず、拷問道具ではないらしい。

 ウォルフさんはどうだろう。あんな名人芸を見せてくれたくらいだし銃だとは思うんだが、その割に他のウルフファング隊員と違って普段は拳銃すら携帯していない。


「ウォルフさんは、やっぱり銃メインですか?」

「実を言うと、自分はあまり実戦で銃は使わないんだ。どちらかというと魔法で物を強化して使うことが多いかな。強化した物をそのまま武器にしたり投擲したり、そういった戦い方が得意なんだ」

「ウォルフさんの強化は凄いですよ。豆腐の角で人を殺せるほどです」

「自分達は、いついかなる時でも戦えなければならないからね…。武器にできる物が豆腐しかない状況も想定しておかないとね」


 何言ってるんだ、この人?

 まず、武器にできる物が豆腐しかない状況というのが想像できないんだが? それを強化して武器にするくらいなら、手刀を強化でもした方がまだましだと思う。

 まあ、とりあえず皆強いらしい…。


「そういえば、ハルって紹介の時に王国で五指に入るとか言われてたけど、そんなに強いの?」

「自分は、王国最強と言っても過言ではないと思うね」


 ふと、紹介の時のことを思い出してハルに尋ねてみたら、すかさずウォルフさんが答えた。


「いえ、私などではとても…。私ではセバスさんに勝てるとは思いませんし、いまだに怒られてばかりいますので」


 セバスさん(あの執事)、そんなに強いの?

 ハルが冷静に否定するのを眺めながら、そんなことを考える。

 しかし、五指に入るうちの二人が執事とメイドってどうなんだろう…?


「そうかい? この間セバスさんと話をしていた時に、君のことを優秀だと褒めていたけど」

「セバスさんがそんなことを…?」


 あまり感情を表に出さないハルだが、今は何だか嬉しそうだ。


「俺も、みんなの足を引っ張らないように頑張らないとなぁ…」


 膝の上に乗ってきたミーアの頭を撫でながら、溜息交じりにそんなことを呟く。すると、車が停止した。

 ローリエの街へ行くまでの中継地点。今日はこの街に泊まるようだ。


「そうだヒイロ君。明日は出発するまでに少し時間があります。近くの森に入って狩りをしてみませんか? 動く的にも慣れておく必要があるでしょう」


 車を降りようとしていると、ウォルフさんからそんな提案をされる。

 今更な気もするが確かに必要だろうと思い、俺はその提案を受けることにした。



***



 翌朝、街の外れにある森の入り口。そこに俺とウォルフさんは立っていた。

 彼はいつもの眼鏡ではなくサングラスをして、『今日は薄暗いですね』なんて言っている。

 実はわざとやっているんじゃないかと思えてきた。

 少し冷めた視線をウォルフさんへと向けつつも、俺達は森の中へと入っていく。

 そして、暫く歩いていると、角の生えた兎が二羽いるのが目に入った。そいつらは、こちらに気付いた様子もなく地面の草を食べている。

 その兎に気付いたウォルフさんが口を開く。


「あれは、相手が敵だと判断すると、兎に角(とにかく)、突っ込むことで有名な角兎ホーンラビットです」


 …これは、ツッコむべきところなのか?

 とりあえず言っておくと、『兎に角』はただの当て字だ。『とにかく』は『とかく』『とにかくに』『とにもかくにも』とか言い回しはいろいろあるが『何はともあれ』とかそんな意味だ。それに対して『兎角亀毛(亀毛兎角ともいう)』から漢字を取って当てただけらしい。

 ちなみに『兎角亀毛』は、『現実にはあり得ないもの、実際にないものをあるということ』という意味で、意味的なつながりは全くない。

 夏目漱石が、この当て字を多用したことから広まったとか。

 まあ、今はどうでもいい話だ。


 そんなことよりも、今はホーンラビットだ。

 あまり強そうにも見えないし、戦闘の訓練には丁度良さそうだ。二羽まとめて倒してやる。

 そんな決意を胸に、腰に付けたホルスターから銃を取り出すとグリップを両手で握り銃口をホーンラビットへと向ける。

 そして、照準を合わせて引き金を引こうとしたその瞬間、ウォルフさんが落ちていた小枝を踏んで音を立てた。その音にホーンラビットの耳がピクッと反応し、こちらに顔を向ける。

 おい、サングラスなんかしてるからだ!

 俺が内心でツッコミを入れていると、こちらを見たホーンラビットと目が合う。

 すると、そのホーンラビットが吠えた。


「ナンデヤネン」

「ツッコむってそっち!?」


 いや、そもそも何に対してツッコんでるんだ?


「あれは、ホーンラビットの鳴き声だよ」

「何でやねん!」


 ウォルフさんの追加説明に思わずツッコむ。

 次の瞬間、一羽のホーンラビットが俺に向かって突進してきた。

 一瞬慌てるものの、それを紙一重で躱して距離を取る。すると、ホーンラビットはそのまま後ろの太い木に突っ込んだ。その木の幹に兎の角が深く突き刺さる。

 何という威力だ。当たったら俺なんてあっという間に串刺しにされてしまうだろう。

 だが、意外と直線的な突進だ。目を逸らさなければなんとかなりそうか…。

 心を落ち着かつつそんなことを考えていると、もう一羽の兎もこちらに向かって突進してきた。

 俺はその突進を冷静に見極めながらそれを躱す。すると、そいつも木の幹に角が深く突き刺さった。

 ………。


「……なんだ、これ…?」


 二羽の兎が木の幹に突き刺さった…。

 じたばたともがいているが、角は抜けない。

 その様子を見ながらウォルフさんが口を開く。


「よく見かける光景だね。ホーンラビットは、よくこの恰好で死んでいるんだよ。ホーンラビットの死因の約八割が、これに起因すると言われているほどなんだ」


 なんだろう、この残念な生き物…。

 二羽の兎が必死にもがきながら『ナンデヤネン』と鳴いているが、それはこちらの台詞セリフだ。

 そうこうしているうちに出発の時間が来たので俺達は街まで戻ることにした。


 二兎を追ったら、難なく二兎とも手に入れてしまった。

 正直、何の訓練にもなっていない。

 残念な生き物の最期を看取っただけ。


 その日の昼、食卓を彩ったホーンラビットの丸焼きは、実に美味しかった。


肉の熟成期間? そんなもんは知らん!

きっと、この世界の兎はすぐに食べられる仕様になっているんだ。


===

ウォルフ 「あれは、相手がボケたと判断すると、兎に角、ツッコむことで有名なヒイロ君です」

ヒイロ 「ナンデヤネン」


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