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058 トツプ ヲ ネラエ

挿絵(By みてみん)

どうも、白狐です。


セントバーナードではないんです…。


 俺の目の前には透明な結晶の中に閉じ込められた九尾の狐の姿。その頭の上には鷹の爪が刺さった林檎が乗っかっている。

 それを見ながら、安堵した様子でレオさんが呟く。


「ふぅ…、何とか玉藻を拘束することができたな…」

「それで、ここからどうするんですか?」

「そうだな…。今から、あの九尾の狐の中で眠りについている玉藻の心を呼び戻す」


 レオさんは俺の問いに答えつつ大剣の切先を九尾の狐へと向ける。


「有言実行! 浄玻璃鏡じょうはりのかがみ!」


 すると、九尾の狐の前に黒い靄が集まりそれが一体の浄瑠璃人形を形成した。

 そして、『王』と記載された帽子を被ったその人形がパンパンと手を叩くと、周囲にさらに黒い靄が集まって大きな鏡が現れる。


「これは対象者の過去を映し出すことができる鏡だ」

「うん、あの浄瑠璃人形の必要性については議論の余地が有りそうですけど、とりあえず、これで玉藻将軍に過去の思い出を振り返らせて心を取り戻させるってことですね?」

「そうだ。これで玉藻の黒歴史を炙りだし、玉藻の心を叩き起こす!」

「あれぇ? もしかして心を折りにいってる!?」


 そんな俺の叫びに呼応するように、九尾の狐が閉じ込められた結晶がガタガタと震え始めた。心なしか怯えた表情を浮かべる中の狐が最後のあがきとばかりにもがいていると、その結晶に罅が入り始める。


「往生際の悪い奴だな。逃げられると思うなよ」


 レオさんはそう呟くや否や大剣を構える。


「有言実行! 盤石之固ばんじゃくのかため!」


 すると、九尾の狐を覆っていた透明な結晶の罅が修復され、見る見るうちに再結晶化していった。

 より強固に固められた結晶の中から縋るような瞳をこちらへ向けてくる九尾の狐。

 少しだけ不憫に思っていると、浄玻璃鏡が急に眩い光を放った。


「どうやら、浄玻璃鏡が無事に発動したようだな」


 爽やかな笑顔を浮かべるレオさんの後ろでは、結晶の中で九尾の狐が悶え苦しんでいる。

 いとも容易たやすく行われるエゲツナイ行為…。

 遠い目で九尾の狐を眺めていると、レオさんが続ける。


「あとは浄玻璃鏡が自動でやってくれる。あの鏡は対象者の心の状態を映す鏡にもなっていて、心を取り戻せば砕け散ることで教えてくれるんだ」

「心、砕け散ってません?」


 俺の率直な意見は無言の笑顔でスルーされる。

 はたして、玉藻将軍は無事に心を取り戻すことができるだろうか。

 次第に憔悴していく九尾の狐を前に一抹の不安を覚えるものの、俺にできることは何もない。今の俺にできるのは、ただ玉藻将軍が無事に心を取り戻す様に祈りつつミーアをモフることだけだ。

 そんなわけで現実逃避気味にミーアをモフり始めると、ハルがレオさんに向かって問い掛けた。


「それで、玉藻様が正気を取り戻されるまでにどのくらいの時間が必要なのでしょうか?」

「そうだな…。ああ見えて、実際にやっていることは圧縮した情報の脳への直接投影だ。だから、大抵は十分と経たずに砕け散る」

「あんた鬼や…」

「まあ、万が一にも心を取り戻すことに失敗すると、この責め苦が延々と続く無間地獄に落ちることになるんだがな」

「地獄への直行便…」


 怯えながらそんなことを呟いていると、さっきから何かを気にした様子でいたウォルフさんが警戒気味に口を開いた。


「ところで…、さっきはそれどころじゃなかったから訊けなかったけれど、君はどうしてここへ来たんだい?」


 そんなウォルフさんの視線の先には迷彩柄忍者の姿。

 そういえば、こいつのことをすっかりと忘れていた。


「さっきも言った通り、今の俺はダクス藩の忍としてここに来ている」

「そうだね、それは草鞋わらじを見ればわかるよ」

「いや、わからないよ?」


 勝手に納得するウォルフさんにツッコんでみるものの、そんな俺の発言は完全にスルーされる。


「もっとも、素破寿司への立ち入り調査を盾にとられた喇叭の里(俺達)は、未知衛門さんこと、ミッチーの傘下に入ることになったんだがな…」

「ミッチー!?」


 何そのフレンドリーな呼び方。


「そして、今回の手柄によってミッチーはダクス藩の筆頭家老に取り立てられた為、いまや喇叭の里の忍も全員まるっとダクス藩の忍さ…」

「どうしてそうなった!?」


 事件解決から、まだ三日しか経ってないんだけど?

 何なんだよ、その異例のスピード出世。

 …いや、よく考えたら、そもそもミッチーの素性がわからないから出世なのかどうかすらもよくわからないな。


「そんなわけで、漸く二足の草鞋わらじ生活ともおさらばできそうだ…」

「どうでもいいわ!」


 感慨深げに呟くトロンボーンにツッコんでみるものの、やはり誰も反応してくれない。


「まあ、それはいい…。本題に入ろう。今回俺がここに来たのは、ダクス藩の騒動の黒幕だったヤマモトこと、山ン本五郎左衛門について玉藻将軍への報告があったからだ」

「報告…?」


 ウォルフさんが呟くように確認するとトロンボーンが続ける。


「ああ。実はプルナス・ムメの街でお前達に負けた後、俺達はミッチーの脅迫…じゃなかった、めいを受けてフント藩まで健正様を迎えに行っていたんだ。そこで俺は、フント藩を治める犬神家の人々の指導の下でアーティスティックスイミングの練習に励む健正様に再会した」

「あの狸、まだやってたの!?」

「俺達は健正様にヤマモトが黒幕だったこと、そして、副将軍一行が解決の為にインカルナタに向かったことを説明した。俺達の話を聞いた健正様はとても衝撃を受けたようだった…。当然だ…、ずっと世界水泳へ参加することを目標に練習してきたのに、家庭の事情でその夢を諦めざるを得なくなったんだからな…」

「いつからそんな話になった!?」


 そんな叫びを上げる俺のことは完全無視で話し続けるトロンボーン。俺以外の面々は、そんな彼の話を黙って聞いている。


「悲嘆にくれる健正様を見かねた半蔵様は、健正様の想いを受け継ぐことにした…。半蔵様は健正様に代わって自分が世界水泳に参加し、その頂点トップを狙う決意を固めたんだ!」

「いや、だから何の話をしてんだよ!」


 俺がそんな声を上げている横で、真剣な表情で耳を傾けていたカイが目に涙を浮かべながら呟く。


「二人の間の固い友情…。良い話じゃないか…」

「どの辺が!?」


 何故か感動の渦に包まれているその場の雰囲気に、俺だけが付いていけていない。

 あれ? 何なのこれ? ねぇ、俺がおかしいの?


「ひょっこりと顔を出すことに関しては右に出る者がいない半蔵様と、酒の力を借りれば酔遁(水遁)の術が使えるホルン…。そして、芸術的なまでの肉体美を備えたチューバ。この三人がいれば、世界の頂点トップは約束されたようなものだ」

「お前は?」


 俺の率直な問いに、トロンボーンが一瞬真顔で黙る。

 しかし、何か反応を返してくれるでもなく再び話し始めた。


「こうして、半蔵様に夢を託した健正様は、泳げない為にチームに参加できなかった俺と共にダクス藩への帰途に就いた…」

「お前、泳げないのかよ」

「そんな健正様がインカルナタに到着したのは、丁度副将軍一行が事件を解決して旅立った後だった」

「無視かよ」

「連絡役として残っていたミッチーから話を聞いた健正様は、狸の毛皮を被り直すと重要な仕事に取りかかったんだ」

「あ、やっと本題?」

「そう…、勇者一行へ感謝の気持ちを示す為にダクス藩四天王を説得するという重要な仕事にな」

「余計な仕事だよ!?」


 正直言って、あの赤い前掛けの白い狐(デフォルメ狐)の像なんて欲しくもなかった。


「一昼夜かけてダクス藩四天王を説得することに成功した健正様は、ここで漸く筆頭家老の件について手を付けることにした」

「今度こそ本題…?」


 ツッコミ疲れしてきたものの、漸く本題ということで少し安心する。


「健正様は事件の解決に多大な貢献を果たしたミッチーを筆頭家老に取り立てることを決めたんだ」

「いいかげん、本題に入って!?」


 俺のそんな叫びが響き渡る中、オーギュストさん(幽霊)が俺に憐憫の視線を向けながら溜息を吐くと、トロンボーンへ声を掛ける。


「トロンボーンよ。ヒイロは五郎左衛門のことが気になって仕方が無いようじゃ。その後、五郎左衛門がどうなったのか聞かせてやってはくれぬか?」


 そこにカイが続く。


「そうかヒイロ…。お前、奴を殺し損ねたのがよっぽど心残りだったんだな…」

「違うよ?」

「いや、皆まで言うな、ヒイロ。一度は奴の皮を剥ぐことに成功したんだ。それなのに、奴がまだ生きているのが許せないんだろ?」


 理解者面して勝手なことをぬかしているポンコツ勇者に怒りを覚えていると、トロンボーンが深刻な表情を浮かべる。


「そうだな、五郎左衛門について少し話そうか…」


 そこまで言って一呼吸置くと、深刻な表情のまま重い口を開く。


「奴は……死んだよ…」


 その発言に、その場の全員に衝撃が走った。

 突然のことに言葉を失った俺達を前に、トロンボーンは事のあらましを語り始める。


「…全ての重要案件を片付けた健正様は、一息つこうと風呂に入ることにしたんだ…」


 どうしよう。既にツッコみたい。

 そんな衝動を、俺の足元で呑気に欠伸していたミーアを抱き上げてモフることで紛らわせる。


「そして、脱衣所で着ぐるみを防水モードに切り替えた健正様は」

「いや、着ぐるみ脱げよ」

「浴室に移動する途中で偶然にも五郎左衛門を投獄している牢の前を通りかかった」

「ちょっと待て。間取りどうなってんの?」


 堪らずにツッコんだ俺の頭の中では、理解さんが描きかけの間取り図を前にして頭を悩ませている。


「そこで健正様はとんでもない物を目撃したんだ」

「ねぇ、間取り…」


 そんな俺の呟きには誰も反応することなく、カイが固唾を飲みながら尋ねる。


「いったい何が…?」

「その牢の中には変わり果てた五郎左衛門の姿…。奴は、着ていた裃と生皮だけを残して死んでいたんだ…」


 トロンボーンがそう告げるや否や、カイが何かに気付いたようにハッとした表情を浮かべる。そして、まるで気付いてはいけないことに気付いてしまったとでもいわんばかりに、恐る恐る俺に視線を向けた。


「そんな…、まさか…」

「俺は何もしてないからな?」


 疑惑の眼差しを向けてくるカイに苛立ちながらも否定すると、カイは何か納得したように呟き始める。


「…そうか、よく考えてみれば確かにそうだな…。ヒイロがったんだったら、むしろ生皮を剥がれた中身の方が残っているはず…。でも残っていたのは生皮の方…。つまり、少なくとも今回の件に限ってはヒイロは犯人じゃない…?」

「常に犯人じゃねぇよ」

「だが、ヒイロじゃないんだったら、いったい誰が…?」


 首を捻っているカイに対して不満を抱いていると、俺の頭の中で理解さんが二つのフリップを持ち出してきた。

 そして、まず一枚目のフリップを掲げる。

 そこには、『Before』の文字と三つ目の烏天狗の写真。

 続いて、二枚目のフリップを掲げる。

 そこには、『After』の文字と黒いもじゃもじゃに覆われた触手の塊の写真。

 …そういえば、やけにおとなしく捕まったものだから完全に忘れてたけど、あいつの正体って得体の知れない触手の塊じゃん。

 ………。

 あれ? 五郎左衛門、脱獄してない?

 俺が一つの結論に至ったその時、背後から何かに罅が入るような音が聞こえてきた。

 何事かと音のした方を振り返ってみると、その瞬間、九尾の狐を覆っていた結晶と浄玻璃鏡が砕け散った。それと同時に九尾の狐の姿が輪郭を失うと、黒い靄となって霧散していく。

 すると、その靄の中からサイズの合わないぶかぶかの着物に身を包み、九本の尻尾が生えた金髪狐耳の幼女が現れた。


「どうしてそうなった!?」


 ついそんな叫びを上げていると、レオさんが呆然としている幼女に視線を向ける。


「まさか…、あまりのストレスに幼児退行してしまったのか…?」

「まさかの身体的フィジカル!?」


 それ、普通は精神的メンタルな話ではないだろうか。


「いや、ちょっと待ってくださいよ。何がどうして幼女!?」

「玉藻は、あの狐狗狸さんの実の娘だ。普段は男達を魅了する妖艶な大人の女性の姿をとってはいるが、彼女の本質は妖や精霊といったものに近いからな」

「え? まさかの妖女?」

「まあ、そうはいっても幼児退行してしまった以上は仕方がない…。玉藻は俺が引き取とるから安心してくれ」

「あれ? いきなりの養女?」

「玉藻は、俺が責任をもって俺好みのいい女に育て上げる」

「光源氏かな?」


 そんな彼の手には『源氏物語』と記された巻物が握られている。


「そして、ゆくゆくは俺がこの国の…」


 するとその時、呆然としていた玉藻さんが我に返った。


「何を勝手なことを言うておるのじゃ、レオ」


 どうやら、精神面メンタルに影響はないようだ。


「玉藻…? ………そうか…、どうやら無事に心を取り戻したようだな…」

「何故少し残念そうなのじゃ?」

「いや…。無事に心を取り戻せたのなら……何よりだ………」


 レオさんは残念そうに呟くと、持っていた巻物をそっと仕舞った。

 玉藻さんは、なにやら黄昏ているレオさんから視線を外すと、焦土と化した辺りを見渡す。


「それにしても、其方そなた等には迷惑をかけたようじゃな…。一国の主として情けない限りじゃ…」

「気にすんな。勇者たるもの、困っている人は見過ごせないからな!」


 カイがドヤ顔で応じていると、その隣でハルが難しい顔で問い掛ける。


「それより、玉藻様の御身体は大丈夫なのですか? 見たところ、随分と力を失われていらっしゃるようですが…」

「妾のことは心配せずとも良い。当面の間、力は戻らぬじゃろうが、妾は優秀な臣下に恵まれておるのでな」


 微笑みながらそう告げる彼女の周囲をサザンクロスさんをはじめとした狐達が取り囲む。

 モフモフパラダイス!

 あ、ミーアの視線が痛い…。

 すると、玉藻さんの表情が険しくなる。


「それよりも、其方そなた等は自らの心配をした方が良いのではないか? 今回の一件でアカシックゲートの儀式に恣意的な力が働いておることがはっきりした。そして、次回の儀式…、その担当国がどこなのか、忘れたわけではあるまい?」


 その発言に周囲に緊張が走る。そして、その重苦しい空気の中、ウォルフさんが静かに呟いた。


「ビスマス帝国…」


 そこにオーギュストさん(幽霊)も続く。


「確かに、帝国がなんらかの力を手に入れるようなことが有れば、ちと厄介じゃな」

「そうですね…。大公国の件もまだ解決していないし…。それに、王国内にも不穏な動きがあるというし…」


 ウォルフさんが呟くように漏らすと、ハルがウォルフさんに視線を向ける。


「不穏な動き…ですか?」

「そう、自分は詳しくは知らないんだけど、アレックスがそんなことを言っていたのを思い出してね」

「アレックスさんが…?」

「まあ、こういった話はSPINA(君達)の方が詳しいかな?」

「……そう…ですね」


 ハルはウォルフさんに対してそう答えると、少し何かを考えこむように視線を落とす。


「そうですか…、アレックスさんが…」



***



 ビスマス帝国の帝都ロマネスコ。

 その中央にそびえる宮殿内にある宰相の執務室で書類に筆を走らせる一人の若い男。金の装飾に縁取られた立派な白い衣に身を包み、赤い大きな一枚布を肩から掛けている。

 この男こそビスマス帝国の宰相、ネロその人である。

 彼の足元に寝そべっているのは明るい褐色の巻き毛に覆われた大きな犬。その犬が何かに気付いて頭を上げると、何者かがその部屋の扉を叩いた。


「入れ」

「失礼致します。お茶をお持ちしました」


 ネロが筆を止めることなく入室を許可すると、紅茶セットが載った台車を押しながらメイドが入ってきた。

 メイドはそのままネロの近くまで行くと、ティーポットを手に取りティーカップへと紅茶を注ぎ始める。

 すると、ネロが筆を止めてメイドに鋭い視線を向けた。


「…何をしている?」

「せっかく用意しましたのよ、優雅にティータイムと参りませんこと?」

「余計なことはいい。早く要件を言え、ハート」

「…心の余裕は大事ですわよ?」


 メイドは短く息を吐きながらティーポットを置くと、ネロの方へと向き直る。

 すると、メイドの輪郭が歪み始め、その姿が薄い水の幕に覆われたような見た目に変わっていく。そして、その薄い水の幕が消え去ると、そこに丈の長い赤いコートを身に纏い、頭にフードを被った女が姿を現した。

 彼女は顔の上半分を覆う白い仮面を身に着けており、その仮面の右目の目尻のところにはハートをモチーフにしたと思われる赤い紋様が描かれている。


「大公国への根回しの方は順調に進んでおりますわ。帝国が行動を起こせば、それに同調して行動を起こす手筈となっておりますの」

「そうか…。そうなると、後は王国だな…」

「そちらも心配には及びませんわ。王国の方は、ワタクシ達、幻影道化師ファントムクラウンのトップ自らが動いておりますもの」


 ハートはそう言いながら口元に笑みを浮かべた。


「ジョーカーか…」

「ええ。ジョーカーの表の顔は閣下もご存じのはず。王国内での根回しは滞りなく進んでおりますわ」

「そうか。お前達にはこれまでに多大なる支援をしてきた。それに見合った働きを期待しているぞ」

「閣下のご期待に添えるよう最善を尽くしますわ」


 ハートはそう答えると、何かを思い出したかのように口元に浮かべていた笑みを消した。


「そうそう、こちらからも一つお聞きしてもよろしくて?」

「何だ?」

「ジョーカーがそちらの動向を気にしておりますの。聞くところによると皇帝陛下は今回の件に対して消極的なご様子だとか」

「それならば問題ない。陛下は多少気が小さいところもあらせられるが、今回が好機だということは重々承知しておられる。お前達への支援を打ち切るつもりはない」

「それを聞いて安心致しましたわ」


 ハートは再び口元に微かな笑みを浮かべながらそう答えると、紅茶が載った台車へ手を掛ける。


「それでは、あまり長居する訳にも参りませんし、ワタクシはそろそろお暇させて頂きますわ」

「そうか。我が盟友、ジョーカーへくれぐれも宜しく伝えてもらいたい」

「ええ、伝えておきますわ」


 すると、再びメイドに姿を変えたハートは、紅茶の載った台車を押して部屋を後にした。

 彼女を見送った後、ネロは徐に立ち上がると窓から外を眺める。


「フッ…。帝国が嘗ての栄華を取り戻す日も近い…」


この男こそビスマス帝国の宰相、ネロその人である。

白狐 「そんな彼は、芸術に造詣が深いらしい」

ヒイロ 「……むしろ、こいつが皇帝なんじゃね?」

白狐 「何言ってるんだい? 彼は足元の大きな犬とセットでいてこそ真価を発揮するんだ」

ヒイロ 「……おい、この犬ってまさか…」


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