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053 サケ ハ ノンデモ ノマレルナ

挿絵(By みてみん)

どうも、白狐です。


お酒はほどほどに…。


「覚悟しろ、蚊屋ブンヤのラッチ! 素破すっぱ寿司の秘密を知ってしまったお前を生かしておくわけにはいかない!」

「あたい達を散々追い回してくれた罪、その身をもって償いな!」


 叫び声を上げながらラッチさんを追い回すトロンボーンとホルン。


「ハッ、知る権利の前に、プライベートなど存在しない!」


 追ってくる二人にカメラを向け、器用に後ろ向きで走りながらシャッターを切り続けるラッチさん。 


「これで明日の朝刊の一面は頂きだ。見出しは、そうだな…。『本紙記者が目撃 素破寿司に巣食う魔物(河童)!』。これで決まりだ!」

「よりにもよってそこ!?」


 もっと他に重大なニュースがあったと思うが?

 そんな俺のツッコミはスルーされ、高らかに笑いながら宣言したラッチさんを前に、トロンボーンとホルンが慌て始める。


「待て! そんなことをされたら、素破寿司のアイデンティティが崩壊してしまう」

「そんなこと、あたい達が許すと思ってんのかい!」


 というか、さっきから目的変わってない?

 完全に忘れられた平太郎は、相変わらず広場の真ん中でうわ言のように何かを呟いている。


「さて、そろそろ戻って今回のことを記事にしなければ」

「そうはさせるか!」

「逃がすもんかい!」


 その場を離れようとしたラッチさんに、トロンボーンとホルンが迫る。


「ハッ、追いつけるもんなら、追いついてみろ!」


 そう言うとカメラのファインダーを覗くのをやめて踵を返し、本気で逃走を試みるラッチさん。しかし、何故かさっきファインダーを覗きながら後ろ向きに走っていた時よりも明らかに遅い。

 すると、もたもたと走っていたラッチさんをトロンボーンが拘束し、ホルンがカメラを取り上げた。


「……あれ?」

「漸く捕まえたぞ」

「おとなしくなさい」


 あっさり捕まったラッチさんが困惑していると、ホルンが苦無を構える。そして、ラッチさんのカメラに向かって苦無を振り下ろした。


「あんたの命もここまでよ」

「やめろぉぉぉぉ!」


 ラッチさんの悲痛な叫びが響き渡る。しかし次の瞬間、その苦無はカメラを貫くことなく宙を舞っていた。

 ホルンが、突如として現れて自らの腕を払い除けた白い虎に視線を向ける。


「いつの間に…?」


 驚いているホルンに向かってシロッコさんが体当たりをして吹っ飛ばす。続けて、トロンボーンにその鋭い爪を向けた。

 トロンボーンは咄嗟にラッチさんを掴んでいた腕を放すと、後ろへと飛び退きその爪を回避する。

 すると、シロッコさんは鋭い爪を露にしながら、ラッチさんを庇うように立ち塞がった。


「一般人に手を出すのは、この俺が許さない!」


 そんな風に白い虎さんが恰好良くポーズを決めていると、広場の隅が急に騒がしくなる。


「キャ~!」

「素敵~!」


 そこには、何故かドライヤー片手にキャーキャー騒いでいる集団。

 状況の理解に苦しんでいると、半蔵の分身の一体と闘っていたトラッコさんが騒いでいる集団に視線を向けた。


「あ、あれは! シロッコファンクラブの皆さん!」

「シロッコファンクラブ!?」


 あの白い虎さん。そんなに人気あるの?


「風よ、風を巻き起こすのよ!」

「今こそ、シロッコファンと心を一つにする時だ!」


 ドライヤーで風を起こしながらそんなことを真剣に叫ぶシロッコファンクラブの皆さん。

 すると、その声援を背にシロッコさんがホルンとトロンボーンへと襲い掛かった。

 二対一にもかかわらず、うまく立ち回るシロッコさん。ホルンとトロンボーンの顔に焦りの色が浮かぶ。


「今、俺には追い風が吹いている!」


 シロッコさんが調子よさげにそんな叫びを上げる中、シロッコファンクラブの皆さんはシロッコさんの似顔絵が描かれたピンポン玉をドライヤーで浮かせ始めた。


「もっと、もっと高く舞い上がるのよ!」

「シロッコファンの底力を見せつけるんだ!」


 ドライヤーの出力を上げながら、ピンポン玉をどんどん高く舞い上げていく。

 すると、シロッコさんが気分を高揚させ、調子に乗ってどんどんと舞い上がっていく。


「今の俺に敵は存在しない!」


 その時だ、俺の頭の中でもがき苦しんでいた理解さんが何かに気付いた。

 理解さんに囁かれて、俺はシロッコファンクラブの皆さんが持っているドライヤーに視線を向ける。

 そのドライヤーは吸い込み口が本体の後方ではなく側面についているタイプだ。形状からして、おそらく内部にはシロッコファンが採用されていると思われる……。

 ……。

 シロッコ ファンクラブ、シロッコファン クラブ。

 ねぇ、どっち?

 するとその時、高く舞い上がったピンポン玉がドライヤーの風から外れ、地面へと落下した。


「そんな…。ここまでなの?」

「シロッコファンの力及ばず、か…」


 時を同じくして、さっきまで調子に乗って舞い上がっていたシロッコさんが急に地面へと崩れ落ちた。


「そんな…、俺に吹いていた追い風が…止んだ…」


 何言ってんだ、こいつら…?

 ぼんやりとそんなことを考えながら、愕然とした表情で呟くシロッコさんを見つめていると、シロッコさんにホルンとトロンボーンが迫る。そして、トロンボーンが両手で印を結んだ。


「忍法、竜巻の術!」


 すると、シロッコさんの周囲に風が巻き起こり、その体を持ち上げる。


「吹き飛べ!」

「ぐあぁあぁぁぁぁ!」


 そうしてシロッコさんが空高く舞い上がる。


「シローッコ!」


 向こうで半蔵の対応に追われているトラッコさんが叫びを上げていると、風が止んで俺の傍にシロッコさんが落ちてきた。

 慌てて駆け寄ると、シロッコさんが縋るようにして手を伸ばしてくる。


「一人では逝かん…」

「シロッコさん…?」

「貴様の心も一緒に連れていく…」

「え?」


 唐突にそんなことを呟きながら、白い虎さんが俺を引き寄せると上に覆い被さってくる。

 満身創痍とはいえ、さすが虎さん。その強い力に俺は為す術無く抑え込まれた。

 …あっ、モフモフ(はぁと)。

 ……。

 シロッコさんは、とんでもないものを盗んでいきました。それは、俺の心です。

 あっ…、ミーアの視線が痛い…。

 無言の抗議が恐ろしいので、俺は気を失ったシロッコさんの下から這い出ると、ミーアのご機嫌を取る為に顎の下を撫でてやる。

 『そんなご機嫌取りには屈しニャいもん』といった風にそっぽを向くミーアだが、直ぐにゴロゴロと喉を鳴らしながら甘えてきた。

 フフフ、チョロ可愛いニャンコめ。

 ミーアの機嫌が直ったところで改めて広場へ視線を向けると、状況は相変わらずの混戦模様だった。

 助さん、格さん、コンちゃんは未知衛門さんと八之進さんを囲んで庇うようにしながら半蔵達の猛攻を退ける。その近くではヨウコさんが九本の尻尾で半蔵達を払い除けている。

 狐狗狸さんが広場の隅に腰掛けて観戦しているのだが、平太郎探しも終わったし、もうお帰り頂いてもいいのではないだろうか?

 ハルは『鋼鉄の乙女』から出てきた多数の棘を操りながら半蔵達と対峙している。

 オーギュストさん(幽霊)は生み出した光球で半蔵達を迎え撃ち、本体の方は少し離れたところからそんな幽霊に対して声援を送っていた。

 バルザックは相変わらず地に伏せたまま動かないし、平太郎はうわ言のように呟き続けるのみだ。

 ウォルフさんは『ジャック、せめて安らかに…』とか呟きながら、人形の破片の中から二本のジャックナイフを回収している。

 その近くではポンコツ勇者が瞳を輝かせながら『忍術大戦だ』とか燥いでいた。

 と、その時、半蔵の分身体を退けたトラッコさんがホルンとトロンボーンへ向かって走り出した。


「うおおおぉぉぉ! シロッコの仇!」


 一応言っておくが、シロッコさんは死んでいない。

 怒り心頭の虎さんの猛攻の前に防戦一方のホルンとトロンボーン。そのまま虎さんが押しきるかと思ったその時、素破寿司の店の扉が開いて、中から喇叭柄迷彩忍び装束の男女が姿を現した。


「ホルン先輩、これを」


 そんなことを言いながら、女の方が徳利とっくりを放り投げる。


「俺達はシフトに入ってるんで参加できないけど、せめてもの気持ちです」

「それを飲んで頑張ってくださいね、ホルン先輩」

「トランペット、コルネット…。ありがとう。あんた達の想い、無駄にはしないよ」


 徳利を受け取ったホルンが応じると、男女は店の中へと戻っていった。

 いや、営業継続してる場合か?

 すると、ホルンが徳利の栓を外しながらトラッコさんへと向き直る。


「こっからがあたいの本気さ。あんたは、このあたいに酔拳まで使わせたことを誇っていいよ」

「酔拳だと!?」


 驚いているトラッコさんの前で、ホルンが徳利を口へと運ぶ。


「忍法、喇叭ラッパ飲み!」

「忍法ちゃうやん!?」


 思わず上げた俺の叫びが虚しく響き渡る中、ホルンは顔を上に向け徳利の中の酒を一気に飲み始める。

 とりあえず、危険なので絶対に真似してはいけない。


「ぷはぁ。…ヒック。あたいの美技に酔い痴れな!」


 ふらふらとよろめきながらホルンが構えを見せると、そこへトラッコさんが襲い掛かる。


「酔っ払いに何ができる!」


 鋭い爪が振り下ろされるが、ホルンはそれをふらりと躱すとすかさずカウンターの一撃を繰り出した。

 それをまともにくらったトラッコさんが、よろめきながらも踏み止まり振り返りざまに腕を振るう。しかし、それも躱されて、さらなるカウンターがトラッコさんを襲う。

 トラッコさんが何度も襲い掛かるが、悉く躱されてその度にカウンターの一撃が繰り出される。


「クッ…。のらりくらりと躱しやがって…」


 虎さんの表情に焦りの色が浮かび始める中、ホルンが徳利を口元へと運ぶ。しかし、既に中身は空だったようで、不満気な表情を浮かべるホルン。


「ん~? ちょっと、空じゃらいの~。酒持ってきらひゃ~い!」


 するとそこへ、慌てた様子で半蔵が近付いてきた。


「ホルン、さすがに飲み過ぎだ」

あによ~、いいじゃらいの~」

「トロンボーン、何をしている。ホルンを止めるのだ」

「はい、半蔵様」


 しかし、そんな二人を無視してホルンが叫びを上げる。


注文(オ~ダ~)! 酒あるらけ持ってこ~い!」


 すると、素破寿司の扉が開いてトランペットとコルネットが顔を出す。


「「合点承知!!」」


 二人は返事をすると、広場に大量の酒樽を転がし始めた。

 ホルンはそのうちの一つを受け止めると蓋を叩き割り、柄杓を使って中の酒を飲み始める。


「ぷはぁ! ちょっと~、つまみが足りないらよ? つまみ持ってきらさ~い!」

「「合点承知!」」


 再び素破寿司の店内から現れた二人組が、高く積み上げた蒸篭せいろを運んでくる。


「そ~そ~、これよ~。このがん蒸篭せいろ蒸しが好きらのよ~。ほら~、皆も食べらさいよ~」


 相変わらず酒を飲み続けるホルンに半蔵とトロンボーンが止めに入る。


「いいかげんにせんか、ホルン」

「そうだぞ、半蔵様の言うことが聞けないのか」

あによ~、あんた達も飲みらさいよ~」


 そんなことを言いつつホルンが手に持った柄杓でトロンボーンの頬をぺちぺちと叩く。


「やめろホルン!」


 トロンボーンが柄杓を払い除けると、ムッとした表情を浮かべるホルン。


「ちょっと~、あたいの酒が飲めらいっていうの~?」


 なんだかとても面倒臭い絡み方をしてくる人だ。

 すると、ホルンが両手で印を結んだ。


「ほら~、飲みらさいよ~。忍法、絡み酒~!」


 ホルンがそう唱えると酒樽の中から酒で形作られた蛇が現れた。そして、その蛇が半蔵とトロンボーンに絡みつく。

 ……。


「今日は無礼講だ!」

「酒だ、酒持ってこい!」


 そうして酔っ払いが二人ほど追加された中、他の酒樽からも次々と酒の蛇が現れる。


「皆、酒に溺れてしまいらさ~い!」


 現れた蛇達が手当たり次第に周囲の人々に絡みつき始める。そして、まずトラッコさんとオーギュストさん(本体)、ウォルフさんにラッチさんがその餌食となった。

 さらに、いつの間にか意識が戻っていたシロッコさんと、そんなシロッコさんを取り囲んでドライヤーで風を送りながら素敵な毛並みがフサフサと揺れるのを眺めていたシロッコファンクラブの皆さんが犠牲になる。

 続いて、広場の中央でブツブツと呟いていた平太郎も蛇に絡まれるが、ふらふらと千鳥足になりつつもやっぱりブツブツと呟き続けていた。なんだか、完全に壊れていらっしゃる…。

 そんな中で、瀕死のバルザックにも蛇が忍び寄ると、その体が丸呑みされた。あいつだけ物理的に酒で溺れかけている気がするが、今の俺では救助に向かうことはできないので許してほしい。

 何故なら、俺自身も蛇に狙われているからだ。だが、優秀なコートのおかげで俺とその近くに居るミーアとリンちゃんは事なきを得ている。

 蛇に絡まれて酒に溺れた面々が、ホルンの周りに集まって酒盛りを始める。そこへ、『お酒♪ お酒♪』とか口遊みながら浮かれ気味に合流するヨウコさん。さらには狐狗狸さんとオーギュストさん(幽霊)、そして未知衛門さん一行までもが合流した。

 お酒には興味が無いのだろうか、コンちゃんだけは俺のところにやってきたのでとりあえずモフっておく。

 そんな風にちょっと現実逃避気味にミーアとコンちゃんをモフッていたら、さっきまで目を輝かせていたはずのカイが不満気な表情を浮かべていた。


「おい、忍術大戦はどうしたんだ? 俺は、こんな宴会芸を見に来たんじゃねーんだぞ!」


 酒の蛇を操るなんて真似は明らかに宴会芸の域を超えていると思うのだが。

 そもそも、まともな忍術らしきものって分身の術くらいしかなかった気もするし、そう考えるとこの酒の蛇は比較的忍術寄りだと言っても良いのではないだろうか…?

 気持ちよさそうに身を寄せてくるミーアとコンちゃんをモフりながら呆然とそんなことを考えていると、ホルンがカイに声を掛けた。


「ん~? あんた、さっきから全然飲んでないらないの~。ほら、あんたも飲みらさいよ~」

「何言ってやがる。お酒は二十歳はたちになってからだ!」


 カイが急にまともなことを言いだした。


「こんな宴会はもうお開きにしてやる。くらえ! 酒ヲ飲干ス者(ウワバミ)!」


 そう叫びながら禍々しい姿へと変貌した剣を振るうカイ。すると、近くの酒の蛇が邪剣に呑み込まれた。


「まだまだ! くらえ! 酒ヲ飲干ス者(ウワバミ)!」


 邪剣を振るいながら、次々と酒の蛇を呑み込んでいく。そして、バルザックが混入した蛇までがその餌食となった。だが、異物感でもあったのだろうか、バルザックだけが直ぐにペッと吐き出されると近くの木の枝に引っ掛かる。

 すると、その様子を見ていたホルンが嬉しそうに顔を綻ばせた。


「ちょっと~。あんた、いける口らないの~。ほら、もっと飲みらさいよ~。忍法、八岐大蛇~!」


 ホルンの叫びと共に酒の蛇達が集まって、八つの首と八つの尾を持った巨大な蛇へと変貌する。

 襲いくる八岐大蛇に邪剣で応戦するカイ。カイが邪剣で斬り付ける度に八岐大蛇が小さくなるが、近くの酒樽から酒を補充してまた大きくなる。

 カイと大蛇がそんなことを繰り返している中で、お酒を飲んでいたヨウコさんが周囲を見回しながら嬉しそうに微笑んだ。


「周囲に広がる酒の池…」


 今、広場の一部は飛び散った酒の所為でまるで池のようになっている。


「木に吊り下げられたお肉…」


 あの牛さんは食用じゃありません。


「そして、裸で追いかけっこする男女…」


 その瞬間、さっき連行されていったはずのチューバが俺の視界の端を横切った。その後を『待ちなさーい』とか言いながらパンダ達が追いかけていく。

 とりあえず、パンダ達は上着だけは着てるよ、一応。


「まさに、酒池肉林!」


 金色の九本の尻尾をゆらゆらと揺らし、きつね色の髪の上の大きな耳をピクピクと動かす美女。

 おい、そこの九尾の狐。本性出てるぞ。

 そんな風にヨウコさんが嬉しそうに狐狗狸さんと酒を酌み交わしていると、その横でカイと八岐大蛇との戦闘を観戦していた酔っ払い達が騒ぎ始める。


「ホルンよ、負けるでないぞ!」

「「なんの。そこじゃカイ、やってしまうのじゃ!」」


 敵味方の爺共がそんな声を上げると、それに続いて他の面々も二人を煽り始めた。

 なんだろう、この駄目な大人達…。


「いっそのこと、全員まとめて吹き飛ばしましょうか?」


 突如背後からそんな声が聞こえてきたので驚いて振り返ると、そこには眼鏡を掛けて黒い箱を従えるハルの姿。


「ハル、いつの間に?」

「ヒイロ様、あちらは片付きました。残りはあの辺りの有象無象だけです。まとめて始末しましょう」


 どうやら、駄目な大人達が酒にかまけている間に一人で半蔵の分身達を片付けたらしい。

 というか、本体があんな醜態をさらしていても自らの役目を忘れなかった分身達には、敵ではあるが敬意を表したいところだ。

 と、まあそれは置いといて、国際問題にも発展しかねないのでハルの提案を採用するわけにはいかない。


「まとめて吹き飛ばすのは…さすがにまずいかな…」

「そうですか…?」


 少し不満そうなハルとそんな会話をしていると、ホルンが動きを見せる。


「なかなかやるらないの~。れも、酒の力はこんなもんらないろよ~」


 すると、八岐大蛇が池のようになっていた周囲の酒に頭を付け、それらを吸収し始めた。

 見る見るうちに肥大化していく八岐大蛇。


「こっちだって負けねーぞ! これでもくらえ! 酒ヲ飲干ス者(ウワバミ)!」


 そう叫びながら邪剣を振り下ろしたカイだったが、少し削っただけで大蛇はどんどん大きくなっていく。

 それでも諦めずに剣を振るっていると、急に邪剣の刀身が力なくフニャッと垂れ下がった。その刀身は紅潮し目を回している。

 え? あの邪剣、酔うの…?


「うふふ~。この飲み比べは、あたいの勝ちのようらね~」


 はて、いつからこれは飲み比べになっていたのだろうか?

 勝ち誇るホルンだったが、次の瞬間、巨大になり過ぎた大蛇がふらふらとよろめき始めた。それをホルンが不思議そうに見上げる。


「あえ~?」


 まあ、八岐大蛇って酒で身を滅ぼした典型みたいなもんだしね。

 酒でできた巨体が広場へと倒れていく。

 その時、真面目な表情をしたカイがフッと笑みをこぼした。そして、邪剣を構え直すと叫びを上げる。


吐出リバース!」


 邪剣から吐き出される大量の酒と、巨体を維持できなくなった酒の蛇から溢れる大量の酒…。

 こうして、広場で酒盛りをしていた駄目な大人達は、酒の濁流に飲み込まれたのだった…。


ヨウコさんと狐狗狸さんは、ちゃっかりと酒の濁流を躱して酒盛りを続けたという。


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