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050 バケノカワ

「バルザックの仇ー!!」

「「よくも張子のバルザック(儂の作品)を燃やしおったな!」」

「タイガちゃんの恨み、思い知れ!」

「儂の船を返せ!」


 カイ、オーギュストさん×2、トラッコさん、未知衛門さんが一斉に平太郎へと襲い掛かる。思い思いに何かを叫んでいるが、もちろん、すべて冤罪だ。


「え? ちょっ、なんだ!?」


 鬼の形相で迫ってくる連中を前にして平太郎が慌てて逃げ出す。


「逃がさねーぞ、平太郎!」


 しかし、カイに回り込まれてしまった。

 慌てて別方向に走りだそうとした平太郎に向かってオーギュストさん(幽霊)が光球を投げつける。


「ぎゃー」


 吹き飛ばされた平太郎が宙を舞い地面に叩きつけられると、すかさず未知衛門さんが声を上げる。


「助さん、格さん、懲らしめてやりなさい」

「「ハッ」」


 未知衛門さんの指示に応えて格さんが平太郎に向けて雷撃を放つ。そして、助さんがカッと目を見開いて笑い声を上げると、見開いた目から怪光線、口から衝撃波が放たれた。何かがおかしいが気にしてはいけない。

 さらに、コンちゃんがその場にお座りして右前脚を上げる。すると、そこに狐火が発生し、それを平太郎に向かって投げつけた。

 とりあえず、コンちゃんの一挙手一投足がいちいち可愛らしい。


「に゛ゃ?」


 ……背後から化け猫の如き気配を感じるが、振り向いてはいけない気がする。


「うわー」


 俺がミーアの抗議の視線を避けている間にも、助さん達の攻撃が平太郎を襲う。そして、平太郎が再び宙を舞い地面へと叩きつけられた。

 平太郎がなんとか起き上がろうとして腕に力を入れると、視界に虎の足を捉える。平太郎が顔を上げると、そこには振り上げた腕を今にも振り下ろそうとしているトラッコさんの姿。


「ヒィッ」


 怯えて後退った平太郎の背中が何かにぶつかる。

 そっと振り返って見上げると、そこには鷹の爪を指の間に挟んだウォルフさんの姿。

 ……いつの間に参戦してんだ、この人。止めてくれよ。

 俺の願いも虚しく鷹の爪を構えて冷たい表情で平太郎を見下ろすウォルフさん。平太郎の正面からはトラッコさんが迫っていく。

 まさに、前門の虎、後門の狼、状態だ。

 すると平太郎が慌てた様子で口を開く。


「待て、お前達。俺にこんなことをしてただで済むと思っているのか。俺のバックにはあの山ン本(さんもと)五郎左衛門ごろうざえもんがついているんだぞ」

「何!? あの山ン本五郎左衛門だって!?」


 驚いて声を上げたカイを見て平太郎が口元に笑みを浮かべる。


「そうだ、俺に何かあったら五郎左衛門が黙ってないぞ」

「何てことだ! ………ところで、五郎左衛門って誰だ?」


 知らんのかい。

 このポンコツ勇者、ノリだけで会話するのはやめてもらいたい。


「聞いて驚け、五郎左衛門は多くの妖怪を従える魔王だ」

「魔王だって!?」


 ポンコツ勇者に餌を与えないでください。

 あからさまに嬉しそうな笑顔を浮かべるカイを見ながらそんなことを考える。


「俺がどうやって五郎左衛門と知り合ったのか…。それを語る為には、俺が狸汁の材料を求めて山へと赴いた話をしないといけない」

「いや、唐突!」


 そんな俺を無視して、平太郎は語り始める。


「山へと赴いた俺だったが、その日は目的の狸を見つけることができなかった。しかし、狸汁を諦めきれなかった俺は、それから毎日狸を求めて山へと通ったんだ。すると、急に俺の身の回りで怪異が起こり始めた。その怪異は毎日続き、三十日経ったある日、俺の前に現れたのが五郎左衛門だった」


 ……どっかで聞いた話だな?


「そして、五郎左衛門は三十日にも及ぶ怪異に耐え続けた俺の実力を認めて取引を持ち掛けてきた。五郎左衛門は俺に言ったんだ、『隠神刑部の毛皮が欲しい』と。狸の毛皮が欲しい五郎左衛門と狸の肉が欲しい俺とで利害が一致し、俺が捕まえた狸の毛皮を譲ればダクス藩の要職に取り立ててくれるという約束も交わした」

「お互いの『狸』に対する認識に大きな齟齬がありそうだけど?」


 というか、これに似た話って最近どっかの狸から聞いたよ? 五郎左衛門って、あの人のことだよね?


「そして、狸を捕まえる為の手助けになるようにと、神杖と一緒にこの木槌を貰ったんだ」


 平太郎はそう言いながら懐から木槌を取り出すと、それを近くの岩に叩きつけて打ち鳴らしながら大きな声を上げた。


「助けて、五郎左衛門(ごろうざえも~ん)


 次の瞬間、周囲に旋風が巻き起こると、そこへ三つ目の烏天狗が舞い降りた。

 それに驚いてカイをはじめとした平太郎を取り囲んでいた人達が距離を取る。


それがしを呼んだのは其方そのほうか、平太郎」


 五郎左衛門が平太郎に向かって声を掛けるが、平太郎の方は不思議そうな顔で五郎左衛門を見つめていた。


「……五郎左衛門、イメチェンした? 前に会った時は裃を着たおっさんだった気が…? まあいいや。それよりも五郎左衛門、あいつらが俺を虐めるんだ。あいつらを懲らしめてよ」


 どうしよう。なんか出てきた。

 しかし、五郎左衛門は黙って平太郎を見下ろしている。


「……? どうしたんだ、五郎左衛門?」

「それよりも平太郎。其方そのほう、某に言わねばならぬことがあるのではないか?」

「え?」


 ………。

 暫くの沈黙の後、平太郎の顔が次第に青褪めていくのがわかった。


「あ…。そういえば俺、狸の捕獲に失敗して逃げてるところだった…」

「まさか其方そのほうから居場所を知らせてくるとは思わなかったぞ。探す手間は省けたがな」


 馬鹿なのか、こいつ?


「いや、違うんだ、五郎左衛門。ここへ来たのは狸を捕まえる方法を模索する為であって、決して契約を履行できそうにないから逃げ出したわけじゃないんだ」


 さっき逃げてるところって言ったばかりだが?

 そんな言い訳を並べ立てる平太郎へ冷たい視線を向ける五郎左衛門。


「言い訳は結構だ」

「待ってくれ。狸は必ず捕まえる。だから、もう一度チャンスをくれないか?」

「その必要はない。隠神刑部の毛皮は既に手に入れたのでな」

「そんな…。だったら俺の狸鍋はどうなるんだ…」


 知ったことか。

 絶望の表情で言葉を詰まらせる平太郎に向かって五郎左衛門が続ける。


「さて、平太郎よ。某との約束を守らずに逃げ出した罪は重いぞ。それなりの報いを受けてもらおう」

「俺にいったいどうしろっていうんだ…」

「そうだな…。其方そのほうに対する処分についてだが、次の三つの選択肢から選ばせてやろう」

「三つの選択肢…?」

「そうだ。まず一つ目の選択肢。『安心してください、穿いてますよ』の一発芸を某が飽きるまで披露し続けてもらおう」

「くっ、なんてことだ。俺は褌派なのに…」


 どうしよう、意味が解らない。


「続いて二つ目の選択肢。其方そのほうが老後に備えて蓄えているBINGOカードを全て某に譲渡してもらおう」

「そんな…、あれを渡してしまったら、俺は老後に何を楽しみにして生きればいいんだ」


 どうしよう、いみがわからない。


「最後に三つ目の選択肢だが…、そうだな、某も鬼ではない。海のような広い心で、其方そのほうを島流しにしよう」

「こんなの、事実上三つ目の一択じゃないか!」


 ドウシヨウ、イミガワカラナイ。

 ねぇ、三つ目の選択肢が一番重いよ?

 俺の後ろで八之進さんが『ヒィッ、島流し…』とか言いながら絶望の表情を浮かべているのだが、彼は島流しに何か嫌な思い出でもあるのだろうか?


「そうか、島流しを選ぶか…。では望み通り其方そのほう喜びの島(マグ・メル)へと送ってやろう」


 その島、死者の世界やん…。


「おっと、その前に…。平太郎、其方そのほうに貸した神杖を返してもらおうか」


 五郎左衛門がそんなことを言いながら平太郎が持っていた杖を奪い取った。

 と、そこへヨウコさんが問い掛ける。


「あなたは隠神刑部の毛皮と神杖を揃えて何をする気ですか?」

「知れたこと。古代科学文明の遺産、Rods ()from ()God()を再起動するのさ」

「やはり…。ですが、あなたはどうやってRods ()from ()God()のことを知ったんですか? Rods ()from ()God()のことを知っているのは私と狐狗狸さんだけのはずなのに…」

「その狐狗狸さんが、Rods ()from ()God()の存在から再起動の方法まで丁寧に教えてくれたぞ?」

「………え?」


 ヨウコさんが間の抜けた声を上げつつ狐狗狸さんへと視線を向けると、狐狗狸さんは何かを思い出したように手を叩いた。


「…ああ、そういえば教えたな」

「何やってんの!?」

「いや、オレは軍事コンサルタントもやってるんだ。それで、この間呼び出された時に軍事力強化の為に戦略兵器を導入したいっていう相談をうけてな。それならこういう物があるよ、と教えてやったんだ」

「いや、本当に何やってんの!?」

「あ、そうそう。他にも恋愛相談や法律相談もやってるから、機会があれば利用してくれ。これ、料金表」


 そんなことを言いながら狐狗狸さんが一枚の紙を渡してきた。


―――――――――――――――――――――

 料金表(営業地域内、営業時間内、56秒あたり)


 会話          一圓

 身の上相談       五圓  

 探し人         十圓

 法律相談        五十圓

 軍事コンサルタント   百圓

 恋愛相談        五百圓

 戦闘(世界の終焉?)  時価


 ※営業地域外、営業時間外での呼び出しには別途追加料金が発生します。

  詳細はお問い合わせください。

―――――――――――――――――――――


「狐狗狸さんとは…?」


 恋愛相談、地味に高ぇ…。


「オレは呼び出された以上は要望に応えないと気が済まない性分なんでな」

「知ったことか!」


 迷惑な性分だな。

 そんな風に狐狗狸さんに冷たい視線を向けていると、五郎左衛門が神杖と平太郎を掴んで翼を大きく広げる。


「さて、神杖も回収したことだし、某はこれにて失礼仕る」

「逃げられると思っているのかい?」


 そう言いながらウォルフさんが鷹の爪を挟んだ両手を構えた。

 …うん、逃げられそうだ。


「ふははは。ここまで追ってこられるかな?」


 五郎左衛門が空高く舞い上がると、ウォルフさんは苦渋の表情を浮かべて指に挟んでいた鷹の爪を腰のバッグへと仕舞う。そして、代わりに丸い何かを取り出した。

 ウォルフさんはテニスボール大のそれを握ると、頭上の五郎左衛門へと見せつけるようにして構える。


「これならどうですか」


 よく見ると、その球体には目のような模様が描かれている。

 カラス除け…?


「そんなもの、効きはせぬよ」


 ですよね。そもそも大分小さいし…。

 すると、余裕の表情で見下ろす五郎左衛門に向かって、ウォルフさんがその球体を投げつけた。


「そんなもの、当たりはせぬよ」


 上空の烏天狗がその球体をいとも簡単に避けると、その球体は放物線を描いて地面でビクンビクンと震えていたバルザックの頭部に直撃した。すると、それが割れて中から液体が飛び散る。


「ぎゃああぁぁぁぁ!!」


 突如、大きな叫び声を上げて天高く飛び上がるバルザック。


「ちょっと、ウォルフさん! いったい何を投げたんですか!?」


 バルザックの尋常でない叫び声に驚きながら尋ねると、ウォルフさんは腰のバッグからさっき投げたのと同じ球体を取り出した。


「鷹の爪を煮だして作った催涙スプレーの原液を詰めたものだよ」


 そして、得意気な表情を浮かべつつ続ける。


「その名もホークアイ!」

「何だよそれ!」

「中に詰まった液体をその目に浴びた者は、激痛のあまり天高く飛び上がる。そして、鷹の視点を得ることができるんだ」

「この人、何言ってんの!?」


 敵と味方、どっちに使うことを想定してるんですか?


「というか、そもそも涙の所為で逆に何も見えませんよね!?」

「え…? なるほど、それは盲点だったね…。今後の改良の参考にさせてもらうよ」


 感心したように呟くウォルフさんだが、そういうことじゃないから…。

 俺達がそんな話をしている間にも、飛び上がったバルザックは五郎左衛門と同じ高度に達していた。物凄い跳躍力だ。

 そして、バルザックは五郎左衛門にしがみつくと、その顔を五郎左衛門の服にこすりつけ始めた。


「何をする。やめぬか!」


 振り払おうとする五郎左衛門だが、バルザックは激しく抵抗して頭を振り回す。すると、バルザックの頭から飛び散った飛沫が、五郎左衛門と平太郎の目に入った。


「「「目が! 目がぁぁぁ!!」」」


 バルザックと五郎左衛門、そして平太郎が叫びながら落ちてくる。親方、空からむさ苦しい男達が…。

 そして、地面で転げ回る三人組を見つめながらウォルフさんが呟く。


「け…、計算通りです」


 嘘を吐くな。

 目を合わせようとしないウォルフさんに疑惑の眼差しを向けていると、そこへカイが近付いてきた。


「今からこいつら三人の皮を剥ぐんだろ? 仕方が無いから手伝うぜ、ヒイロ」

「剥がねぇよ!」


 さりげなくバルザックまで数に入れるんじゃない。


「くっ、生きたまま皮を剥ごうというのか、この人でなしめが…」


 転がっていた五郎左衛門だったが、俺達の会話を聞くなり目に涙を浮かべながらふらふらと立ち上がる。

 こうやって俺への風評被害は際限なく広がっていく…。

 すると、慌てた様子で辺りを確認した五郎左衛門が急に飛び上がると、『大地ジオ…。どうして…』とか呟きながら打ちひしがれているシロッコさんの背後へと舞い降りる。そして、シロッコさんを右腕で拘束した。


「シロッコ!」

「おっと、近付くでない! こいつがどうなってもいいのか?」


 慌てて近付こうとしたトラッコさんを五郎左衛門が牽制する。


「それ以上近付けば、このマタタビの粉が入った瓶をこの場で割るぞ?」

「な、何て卑劣な…。そんなことをされたら、大の大人がゴロゴロ言いながらじゃれつく恥ずかしい姿を晒してしまうじゃないか!」

「兄者ぁ…」


 うん。もう、晒してもらえば良いんじゃないかな?

 俺が冷めた瞳で見守っていると、トラッコさんがキッと五郎左衛門を睨み付ける。


「お前、こんな真似をしてただで済むと思っているのか。俺達は玉藻将軍とも懇意にしているんだ。俺達に何かあれば玉藻将軍が黙っていないぞ!」


 ………狐の威を借る虎?


「心配するな。あの女狐もいずれは某がめっしてくれるわ」


 その女狐さんは、虎兄弟のことなど興味無さ気に神杖を拾い上げてホッと一息吐いている。可哀想だから虎兄弟にも興味持ってあげて?

 と、その時、叫びを上げながら転げ回っていたバルザックが俺の足元へ突っ込んできた。それに足を掬われるようにして俺は五郎左衛門の方へと倒れ込む。

 なんとか体勢を整えようと咄嗟に手を伸ばして近くの五郎左衛門の服を掴む。しかし、結局勢いのままシロッコさんと五郎左衛門を巻き込んで倒れ込んだ。

 二人を下敷きにして倒れ込んだので特に痛みはない。俺が体を起こそうとすると白い虎が甘えた表情でじゃれついてきた。


「このぬくもりこそ、君が求めていたものだ」


 そんなことを言う白い虎に優しく包み込まれる。

 あ、モフモフ(はぁと)。


「に゛ゃ?」


 ……背後から化け猫の如き気配を感じるが、振り向いてはいけない気がする。

 後ろ髪を引かれつつも白い虎を引き剥がすと、自分が手に何かを持っていることに気付く。視線を向けると、それが五郎左衛門が着ていた服だということに気付いた。しかし、そこからは黒い羽毛が垣間見える…。徐に拡げてみるとペラペラのそれは烏天狗の姿をしていた。

 ……?


「ヒイロ…。お前、この一瞬で五郎左衛門の皮を剥ぎ取ったのか…? さすが、『皮剥カワハギのヒイロ』の名は伊達じゃないな」


 カイが感心したような、それでいて若干引き気味に呟いているが、俺は何もしていない。


「……え? いや…。え???」


 少し混乱していると、慌てた様子のオーギュストさん×2が声を掛けてくる。


「ヒイロよ、どうやらそんなことをしておる場合ではないようじゃぞ」

「奴の化けの皮が剥がれたようじゃ」


 そんなことを言われて、俺は五郎左衛門の方へと視線を向ける。

 すると、俺のすぐ傍で黒い毛に覆われた触手の塊が蠢いていた。

 驚いた俺が咄嗟に距離を取ると、カイが警戒しながらそれに向かって剣を構える。


「なんだこいつは!?」


 すると、突然触手の塊から毛むくじゃらの二本の腕が突き出てきた。その二本の腕が触手を掻き分けると中から一つ目で毛むくじゃらの大男が現れる。

 その大男が地面で転げ回っている平太郎を見据えると、そこへ腕を振り下ろして叩き潰した。

 死んだんじゃね…、あれ…。

 そんなことを考えていると、大男が白目を剥いた平太郎を掴み上げて触手の塊に押し込み始める。


「させるか!」


 そう叫びながらカイが大男を斬りつけた。すると、大男は叫びを上げ、平太郎を掴んでいる右腕をカイめがけて振り下ろす。

 カイがそれを躱すと、その右腕が地面を打ち砕いた。再び斬りかかろうとしたカイに向かって、大男が腕を振り上げ再び勢いよく振り下ろす。

 器用に避け続けるカイに向かって何度も何度も腕を振り下ろす大男。その度に平太郎が酷いことになっていくんだが、大丈夫なんだろうか…?

 平太郎の様子に気を取られていると、ヨウコさんの背後から触手が忍び寄っていた。そして、一気に触手が伸びると神杖を奪い取る。


「え!? 返しなさい!」


 ヨウコさんが手を伸ばすが、神杖は触手の塊へと取り込まれていく。それを阻止しようとヨウコさんが九本の尻尾を伸ばす。すると、触手の塊から延びた数本の触手がそれに応戦し始めた。

 金色こんじきのモフモフと漆黒のもじゃもじゃによる激しい応酬が繰り広げられる。

 触手と尻尾が猛スピードで入り乱れ、とてもじゃないが俺の目では追いきれない。どちらが優勢に事を進めているのかも俺には全くわからない。

 そう、だから俺が言えることは一つだけだ。

 あの黒いもじゃもじゃは、あまり手触りがよさそうじゃない。ごわごわしてそう。

 俺が何を考えているのかを察したのだろうか? 隣のミーアが生暖かい目で俺を見上げている気がする。まるで『ヒイロの判断基準は常にそこニャの…?』という幻聴が聞こえてくるかのようだ。

 と、その時、突然くぐもった声が触手の塊から発せられた。


「この女狐めが。某の邪魔をするでないわ」


 それと同時に、ヨウコさんと応酬を繰り広げていた数本の触手が本体から切り離され、周囲に黒い靄を伴いながら変化を始める。

 そうして現れたのは、八本脚で蟹のような飛び出した目を持った岩の化け物、逆さになって髪で器用に動き回る女の生首、串刺しになった小坊主の生首の大群、首から下に直接腕が生えた女の生首、巨大な老婆の顔面、そして尺八を吹く虚無僧の集団。

 ……生首比率高いな。


其方そのほう等は某の眷属と遊んでおるが良い。それでは、某はこれにて失礼仕る」


 すると、触手の一本が大量の蝶へと変化し触手の塊を覆い尽くす。

 そして、その蝶達が飛び去ると、触手の塊は忽然と姿を消していた。


白狐 「やったねヒイロ。新しい二つ名だよ」

ヒイロ 「どこの魚かな!?」


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