043 タヌキネイリ
狐と狸のどうでもいい争いから漸く解放された俺達は、食事できる場所を求めて通りを歩いている。
狸の店、狐の店、そしてよくわからない料理対決、と食事もできずにずっと拘束され続けた為、俺の空腹もそろそろ限界だ。
そんな俺の横ではウォルフさんがアシュランガイドとにらめっこをしている。
「うーん…。よし、次はこのお店にしよう」
今度こそ、まともな店だといいのだが…。
「地図によると…、まずはそこの狸の置物が置いてある路地に入るのが近道かな?」
ウォルフさんはそう言うと近くの交差点の角に置いてある狸の置物に視線を向けた。
……ダクス藩からは脱出したはずなのだが、こんなところにも狸の置物が…。
そんなことを考えながらも、俺はウォルフさんの後を付いて路地へと入った。
そして、暫く進んだところでガイドブックとにらめっこしていたウォルフさんが口を開く。
「えっと…、ここの十字路を右かな?」
しかし、そうして右に曲がったところで急に足を止めた。
「あれ? ここじゃないな…? あ、どうやら一本前の道を曲がらないといけなかったみたいだ」
すると、ハルが元来た道を指さしながらウォルフさんに尋ねる。
「一本前というと、あそこの狸の置物が置いてある道ですか?」
「ああ、そうだね」
多いな、狸の置物…。
確かにダクス藩内では至る所でダクス藩の藩主である健正の像だというこの置物を見かけた。だが、ここはダクス藩領内ではない。
何か妙な引っ掛かりを覚えつつも、俺達は一つ前の交差点まで戻ると狸の置物を横目にその道を曲がる。
そして、暫く歩みを進めたところでウォルフさんがまた足を止めた。
「おっといけない。今の丁字路のところで曲がらないと…」
そう言いながら踵を返す。そしてその道を覗き込んで奥が行き止まりになっていることに気付くと首を捻り始めた。
「あれ? ここじゃない…? もう一本前かな?」
「あの…、もしかして迷ってます?」
「そんなことはないよ。ちゃんと地図を見ているからね」
なんとなく不安になってウォルフさんが持っているガイドブックを覗き込んでみる。すると、そこにはいろんな仏像の写真が所狭しと掲載されていた。
「地図は!?」
この人、何を見てここまで歩いて来たの? というか、そもそもグルメ情報すら載ってないよ!?
「急にどうしたんだい、ヒイロ君?」
「いや、ちょっと待ってください。今まで何を根拠に俺達を案内してたんですか!?」
「え、何って…。アシュランガイド電子版だけど?」
「電子版!?」
「実はこれ、AR眼鏡なんだ」
眼鏡を指さしながらそんなことを言うウォルフさん。
いつもと違う眼鏡だなとは思っていたが、イメチェンではなかったらしい。
「昨日の夜にこれを使って調べものをしていたんだけど、そのまま間違えて掛けてきてしまってね」
「それ、AR使ってやること!?」
「でも、間違えてしまったものは仕方が無いからね、有効に活用する為にアシュランガイド電子版をダウンロードしてみたんだ」
「スマホでええやん」
正直、ARとしては一切有効活用されていない。
「だとしたら、そっちのこれ見よがしに持ってた本は何だったんですか?」
「これかい? これは仏像写真集だよ」
「紛らわしい!」
すると、ウォルフさんが少し心配するような表情で俺を見つめてきた。
「ヒイロ君、さっきから妙にイライラしているね。そんなにお腹が空いているのかい?」
「それだけじゃないですけどね」
「仕方がないね…。目的のお店まではまだ少しあるから、これでも食べながらもう少しだけ待ってくれるかな?」
そう言って差し出してきたのは何やら平べったい小魚の干物が大量に入った袋。
「ヨウコさんに貰ったオキヒイラギの丸干しだけど、丸ごと食べられるからカルシウムも摂れるよ」
「せめて焼いてもらえませんかね?」
カルシウムとイライラにそれほどの因果関係があるわけではない。俺のイライラの原因がこの人がボケ倒してくる事にあるというのは疑いようがない事実だろう。
俺が渡された魚の干物が入った袋をどうしようか考えていると、ウォルフさんは再びガイドブック…もとい、写真集を見つめた。
「うーん…。地図によると、やっぱりもう一本前の道だね…」
「その写真集、紛らわしいから仕舞ってくれませんかね?」
すると、ウォルフさんが視線を上げて元来た道を見つめる。この人、俺の言うことなんて聞いてくれない…。
「ああ、丁度あそこの狸の置物が置いてある交差点だ」
……さすがに何かがおかしい。
何か奇妙な感覚に陥りつつもその交差点のところまで戻り、そこを曲がる。
……さっき通ってきた時にここに狸の置物なんて有っただろうか?
そんなことを考えながらも置物を横目に交差点を通過する。
しかし、どうにも気になって仕方がないので、俺はそっと後ろを振り返ってみた。
すると、さっきまで交差点の中央を向いて置いてあったはずの狸の置物がこちらを向いている。
……。
ウォルフさん達が先へと進んでいくので、とりあえず気のせいだったと思うことにして前を向いて歩きだす。
そして、少しだけ進んだところで再び足を止めて振り返ると、狸の置物は交差点から数m程こちらに動いていた。
うん、アウト。
すると、ハルが足を止めている俺に気付いて声を掛けてきた。
「ヒイロ様、どうかされましたか?」
「ねぇ、ハル…。あの狸の置物、俺達の後を付いて来てない?」
「…言われてみれば、先ほどから視界の端にちらちらと現れている気がしますね」
真相を確かめるべく俺達は狸の置物へと近付いてみることにした。
近くで見て気付いたのだが、この狸、陶器製ではなくフサフサの毛で覆われている。
俺が狸の頬の辺りを撫でながらじっと睨んでいると、ミーアも狸のことを訝し気に睨んでいた。
……いや、さりげなく狸をモフっている俺に対する抗議の視線かもしれない。
それはともかく、元居た世界では見慣れた狸の置物だが、この世界ではダクス藩の藩主である狸の健正の象であるらしい。要するに、今目の前に居るこの狸は、やっぱりそういうことなんだよな?
しかし、この世界に来てからリアル動物が二足歩行したり喋っているのはさんざん見てきたが、何でこいつはデフォルメ狸なんだろうか。
そんなことを考えつつ狸をじっと見つめていると、何やら冷や汗をかきはじめる。そして、視線に耐えかねた狸が俺の腕を振り払った。
「クッ、隙を見て襲うつもりだったのに、バレてしまったんなら仕方がない。覚悟しろ!」
そんなことを叫びながら、狸が急に襲い掛かってくる。そして、両手で俺をポカポカと叩き始めた。
あ、痛くない。
必死に叩き続ける狸だったが、俺達が生暖かい瞳で見ていることに気付くと目に涙を浮かべる。
「うわあぁぁぁん! そんな憐れむような瞳でオイラを見るなぁぁ!」
泣き叫びながら俺を叩き続ける狸に困惑していると、突然どこからともなく叫び声が響き渡る。
「ヒイロ、危ない!!」
「は?」
声がした方へ視線を向けると、そこに居たのはお馴染みのポンコツ勇者。
そのポンコツ勇者が剣を振り被りながら猛烈な勢いでこちらに突っ込んできた。
「え? ちょっ…、カイ!?」
まるで親の仇でも見つけたような形相で迫ってくるカイに俺と狸が戦慄を覚えていると、カイはあっという間に距離を詰めてきて剣を振り下ろした。
すると次の瞬間、俺の前にいた狸がコテンと倒れ、振り下ろされた剣が俺の鼻先を掠める。
「ふう、危ないところだったな、ヒイロ」
「お前の行動がな!」
剣が掠めた恐怖と若干の怒りを感じつつ、腰が抜けそうになるのをなんとか踏み止まる。それと同時に、達成感に溢れたカイの表情に殺意を覚える。
そんな俺に向かってカイが感心したように声を掛けてきた。
「それにしても仕事が早いな。もう討伐対象の狸を見つけていたのか」
こいつ、まだ狸を討伐する気でいたのか…?
そんなことを考えている俺の足元では、狸が薄目を開けて様子を窺っていた。
「さて、それじゃあ、まずは火炙りからでよかったよな? 丁度七輪を手に入れたところだったんだ」
「いや、何で!?」
カイが背負っていた七輪を下ろして火をおこし始めると、様子を窺っていた狸の顔に焦りの色が見え始めた。そして、そーっと逃亡を試みるものの、それはカイによって阻止される。
カイに足を掴み上げられた狸がじたばたと暴れながら泣き叫ぶ。
「やめろー! 放せー!」
「ちょっ…、やめるんだ、カイ」
俺が止めに入ると狸が少しほっとしたような表情を見せる。
そこへ黙って様子を見ていたハルが口を挟んだ。
「そうですよカイ様。七輪で狸を炙るのは、さすがに効率が悪いです」
「そうか、確かに火力が足りないな…」
「いや、そうじゃない!」
「どうしたんだ? さっきから何でそんなに反対ばかり…」
カイは不思議そうにそう言いながら俺を一瞥すると、何かに気付いたように呟き始めた。
「そうか、そういうことか…。そういえば、まだ火炙りに続く拷問の準備ができてないんだったな…」
そして、少し言い難そうにしながら続ける。
「拷問することに至上の喜びを覚えるお前のことだ、万全の準備を整えてから狸を拷問したいってことだよな? お前のその気持ちは尊重する…。けど…、ほどほどにしておけよ…?」
「お前は俺のことを何だと思ってんの?」
そんな俺のことを狸が怯えながら見つめている。
やめろ。まるで俺が悪者みたいじゃないか。
「でも、そうなるとこれはどうするんだ…? さすがにここまで準備を済ませておいて何も炙らないわけにはいかないだろ?」
「この干物でも炙ってろ!」
七輪を見ながらよくわからない理論を呟くカイに対して、袋に入った小魚の干物を渡す。
「なるほど…、次はお前がこうなるんだぞっていうのを見せつけようってことだな?」
「違う! 黙って炙ってろ!」
不満そうにしながらも狸を放して干物を炙り始めるカイ。狸の方はこの世の終わりみたいな表情で俺を見つめていた。
最近、このポンコツ勇者の所為で各所で俺への風評被害が発生している気がする。
まあ、それは一旦置いておこう。今はとりあえず、目の前の狸をどうするかが先決だろう。
この狸がダクス藩の藩主の健正であることは、まず間違いないと思う。問題は何故ここに居るのかだ。
ダクス藩による将軍暗殺計画を知ってしまった俺達を始末しに来たのだろうか。
だが、藩主自らが、しかも単身でそんなことをするものだろうか? そもそも、それ以前の問題として、この狸からは俺ですら脅威を感じない。
まずは話を聞いてみて、平和的に解決できるものならそうしたい。
「それで…、あなたはダクス藩の藩主の健正…さんで間違いないですよね? 何故こんなところに…?」
言葉を選びながら尋ねると、狸が怯えた様子ながらも口を開く。
「…オイラはずっとお前を探していたんだ、平太郎」
「いや、誰だよ!?」
「オイラにかけた術を解いてくれよ、平太郎。このままじゃオイラ、藩に戻ることもできないんだよ、平太郎」
「だから、平太郎って誰だよ!」
すると、泣きべそをかいていた狸がポカンと口を開けながら俺を見つめた。
「え? お前は…、平太郎じゃ…ない…のか…?」
「だから、誰!?」
「いや、そんな筈は無い。だってあんなに平太郎っぽい匂いがしていたのに…」
「どんな匂いだよ!?」
「ほら、今も確かに平太郎の匂いが…」
狸は鼻を嗅ぎながらそこまで言いかけると、何かに気付いたように七輪で干物を焼いているカイの方へと顔を向けた。
「あれは、オキヒイラギ…?」
「おいこら、ローカル過ぎて伝わらないネタはやめろ」
すると狸は愕然とした表情で再び俺の方を見る。
「あれでオイラの鼻を騙したのか…? まさか、全てオイラをおびき出す為の…罠…?」
俺には、この狸をおびき出すような動機はない。それ以前に現在の状況すら満足に理解できていない。
その時、どこからともなく女の人の声が聞こえてきた。
「その通りです。全てはあなたを見つけ出す為に仕組んだこと…。平太郎を探しているあなたなら、釣られてくれると思っていましたよ」
「誰だ!?」
急に聞こえてきた声の主を確かめようと周囲を見回してみる。
しかし、俺達以外の人影は見当たらない。
「ふふっ。ここですよ、ここ」
再び声が聞こえたと同時に、近くに生えていた木がくるっと回転する。
すると、その木の途中には丸い穴が開いており、そこから一人の女性が顔を出していた。
「またお会いしましたね、皆さん」
木が黒い靄となって消え去ると、その中から現れたのは藍色の忍び装束姿の女性。
「あなたは、玉も…」
「ヨウコです」
俺の発言を瞬時に遮りつつ、有無を言わせない微笑みを向けてくる玉も…じゃなかった、ヨウコさん。
「……ヨウコさん…、これは…いったいどういうことですか?」
俺が困惑しながら尋ねると、ヨウコさんが答える。
「大変申し訳ありませんが、あなたを囮として使わせてもらいました。平太郎と同じ黒髪黒目のヒイロさんから平太郎の匂いがすれば、健正は必ず尻尾を出す筈だと思いましたので」
どうしよう、何言ってるのか全くわからない…。
「そして予想通り、こうして健正を見つけることができました」
「くっ、なんて巧妙な罠なんだ」
悔しそうに顔を歪める狸を放置し、俺はカイと一緒に干物を炙ることにした。
いいかげん、お腹空いたしね。
そんな風にツッコミを放棄した俺が炙った干物をかじっていると、ハルがヨウコさんに向かって問い掛ける。
「それで、この状況について説明して頂けるのでしょうか?」
「そうですね…、私がある御方の命でダクス藩の調査をしていたという話は前にしたと思いますが、その調査の過程で、藩主の健正が行方不明になっていることに気付いたんです」
「行方不明…ですか…?」
「はい。それで健正の行方を探していたんです」
そうしてヨウコさんが狸に視線を向けると、狸がビクッと体を震わせる。
「オイラをどうする気なんだ…」
「悪いようにはしませんよ。私は、あなたが藩に戻る為のお手伝いをしに来たのですから」
「えっ? オイラを助けてくれるの…?」
「はい」
その返事を聞いて狸が顔を綻ばせる。
「本当に? …でも、どうして会ったことも無いオイラを助けてくれるんだい?」
「いや、その人、あんたのところの将ぐ…モガッ」
思わずツッコミを入れた俺の口が、どこからともなく飛んできたいなり寿司で塞がれた。
いなり寿司を俺の口に放り込んだ本人は、そんな俺を一瞥すると狸へと向き直る。
「私はヨウコ。とある御方の命を受けた忍です。あなたを助けるというよりも、こちらにはこちらの思惑があるだけです。今ダクス藩の内情が不安定になられては困るものですから」
「…どんな思惑があるにしても、協力してくれるならありがたい。オイラ、今は完全に孤立無援の状態だから…」
安心したように呟いた狸だったが、直ぐに暗い表情を浮かべた。
「でも、平太郎は身を隠すのが上手で簡単には見つけられないと思う。オイラもずっと探しているのに全然見つからないんだ…」
「それは当然ですよ。平太郎は、今は平太郎と名乗っているそうです。なので、平太郎の匂いを辿っても見つかりません」
「え!? そんな…」
何言ってんのか全くわからねぇ。
いなり寿司を美味しく咀嚼しながらそんなことを考えていると、狸が目を輝かせた。
「そんなことまで調査済みだなんて…。凄い情報網を持っているんだね?」
「まあ、この国の将ぐ…モガッ」
いなり寿司を飲み込み、何の気なく呟こうとした俺の口に再びいなり寿司が飛び込んでくる。
カイが『美味そうだな…』とか言いながら羨ましそうに見ているが、そういう状況でもない。
そんな俺達のことは放置して狸が期待に溢れる瞳をヨウコさんに向けた。
「もしかして、既に平太郎…言い難いから平太郎でいいや…。その居場所も…?」
「ええ、調べがついています」
「本当?」
「平太郎に関する情報は全てレポートにまとめて、ここに入っています」
そう言いながらヨウコさんが自分のこめかみの辺りを指でトントンと叩いた。
全て頭の中に記憶済みということなのだろう。
「ちゃんとこの頭巾の中に仕舞ってあります」
紛らわしい。
……?
「………ところでヨウコさん。その頭巾はどこに…?」
いなり寿司を飲み込んだ俺が疑問をぶつけると、ヨウコさんが停止した。
そう、さっき出てきた時から彼女は頭巾なんて被っていない。
彼女は自分の頭をぺたぺたと両手で触り始めるが、俺に視認できない頭巾がその場にあるはずもない。
「あれ…?」
気まずい空気がその場を支配する。
すると、ヨウコさんが目を閉じてゆっくりとその場へと倒れ込んだ。
「……スヤ~」
「Fox sleep!」
いや、自分でスヤ~とか言わないでください。
そんなヨウコさんにミーアが訝し気に鼻を近付ける。
「ちょっと、起きてくださいよヨウコさん」
寝たふりで誤魔化そうと試みるヨウコさんに声を掛けると、彼女はふと立ち上がり、そしてキリッとした顔で言った。
「平太郎は身を隠すのが得意なようで、まだ居場所を掴めていないんです」
「いや、今更誤魔化せませんよ?」
「これから、協力して探していきましょう」
「うん。よろしくお願いするよ」
ヨウコさんと狸は俺を無視して手を取り合った。
そんな二人のところへ干物をかじっていたカイが近付くと、とてもいい笑顔で話し掛ける。
「何だかよくわからねーけど、海苔のかかった船だ。俺達も協力するぜ!」
「海苔の収穫船かな!?」
こいつはどこへ行く気なのだろうか?
すると、カイの発言を聞いたウォルフさんが難しい顔を浮かべた。
「カイ君、そういうわけにもいかないよ。自分達はサンギネアに向かわないといけない。将軍との謁見の予定に遅れるわけにはいかないからね」
そういえば、そんな予定も入ってたな…。でも…。
「…それなら問題ないんじゃないですかね?」
「どういうことだい、ヒイロ君?」
「え…? いや…。どうせ、今サンギネアに行っても将軍居ませんし…」
ヨウコさんを見ながらそんなことを呟くと、カイが不思議そうに尋ねてくる。
「どうしてヒイロがそんなこと知ってるんだ?」
「え?」
だって目の前に居るし…と、言ってやりたいが、にっこりと微笑みながらいなり寿司を持っているヨウコさんがなんか怖い。
さすがにそろそろお腹いっぱいだよ。
「なあ、何でだ?」
「えっと…。まあ、そこは気にしないでよ」
「いや、気になる!」
どうしてこういう時だけ頑ななんだよ。
「なあ、何でだ? なあ、なあ」
執拗に尋ねてくるカイと、いなり寿司片手に微笑みながらこちらを見ているヨウコさん。
…………。
「スヤ~」
「ヒイロ!?」
俺は、狸寝入りでその場を乗り切ることにした。