表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/122

038 ヒヨウヘン

 睨み合う二つの陣営。一触即発のピリピリした空気が漂う。

 その時、そんな空気を打ち破るように一人の男が口を開いた。


「フッ、俺の出番のようだな…」


 車椅子に座っていた男が立派な二本の脚で大地を踏みしめ悠然と立ち上がる。

 天を衝かんとする二本の角に鋼のような巨躯を持ったその男の鋭い眼光が敵を見据える。

 すると、その男の姿を目にしたオーギュストさん×2が驚愕して声を上げた。


「「お主、覚醒したのか!」」


 ……。

 いや、なんか恰好良さ気な雰囲気を出すのはやめてもらいたい。所詮バルザックだ。


「俺が自己との対話の為に瞑想をしていた間、お前達には苦労を掛けたようだな…。だが、もう心配はいらない」


 気絶してただけだろ、お前。


「じゃが、お主は今武器が…」


 オーギュストさん(武器を破壊した)(幽霊)(張本人)が気遣うように声を掛けると、それにバルザックが答える。


「心配するな、こんなこともあろうかと既に準備はできている」

「どういうことじゃ?」

「フッ、既に予備の斧を大量に製作し、どこへでも即時配送できる体制を構築済みだ。金は掛かったがな…」

「ねぇ、金掛けるところ間違ってない?」


 そんな俺のツッコミに対する反応は当然の如く返ってこない。すると、どこからともなく羽搏きの音が聞こえ、一羽の鷺がこちらへと飛んで来るのが見えた。その鷺の足には斧が握られている。

 なんだか、どこかで見覚えのある鷺だが気にしたら負けだと思う。

 鷺は俺達の上空までやってくると、握っていた斧を投下する。それを待っていたと言わんばかりに、バルザックがその真下で上空に手を翳した。

 ……普通だったら、恰好良くキャッチするんだろうな。()()()()()()

 ゴスッ!

 ……。

 俺の目の前には、『4』と刻印の入った斧に押し潰されて地面に倒れているバルザックの姿。

 うん、もう放っておいても良いよね?


「ヒイロ様、お下がりください」


 バルザックの寸劇には目もくれなかったハルに促されて、俺は珍獣達から目を離さないように後退る。わざわざ謎の対立構図を作ってくれたおかげで俺の退避スペースも確保されたのだ。

 すると、チーターが怪しく微笑んだ。


「フフッ。逃げられるとお思いですか?」


 その瞬間、正面にいたチーターの姿が揺らいだ。かと思えば、いつの間にか俺の背後に立っている。


「え!?」


 さすがCheetah(チーター)。速い。


「ヒイロ様!」

「おっと、行かせると思うか?」


 こちらに駆け寄ろうとしたハルに向かってゴリラが殴り掛かる。

 ハルがそれを躱しつつ両手に構えた銃で応戦するが、ゴリラも軽いフットワークで銃弾を躱す。

 それを合図に両陣営が激突、混戦に突入した。

 そんな中、救援を絶たれた俺はチーターと向き合う。

 俺の足元でミーアが激しく威嚇しているが、チーターは目もくれずにゆっくりと迫って来る。


「さあ、神力石インフィニティストーンを渡して頂きましょうか?」

「そんなの、持ってないって言ってるだろ!」

「まだとぼけるつもりですか…。ですが、これを見ても同じことが言えますか?」


 すると、チーターが倒れているバルザックへと手を翳した。


「先ほどわたくしが一瞬で移動したのを見たでしょう? あれは、大地を縮めることで千里の距離すらも目の前にあるように瞬間的に移動できる縮地という術です」

「神仙伝?」


 Cheetah(チーター)あんまり関係なかった。


「この術を応用すれば、こんなことも可能となります」


 そう言いながらチーターが翳した手をゆっくりと握り始めると、バルザックが倒れている辺りの地面がメキメキと音を立て始めた。


「大地を縮めて、握り潰すことすら可能となるのです」

「ちょっと待て。その応用法はなんか狡くないか?」

わたくしCheater(チーター)ですから」

「そっちかよ!」


 なんだよ、そのチート能力。

 そうこうしている間にもバルザックが押し潰されていく。


「さあ、早く渡さないと貴方の大事なお仲間が潰れてしまいますよ?」


 そんなことを言われても、俺は本当に神力石インフィニティストーンなんてものは持ってない。

 その時、腰に本体をぶら下げたオーギュストさん(幽霊)が空高く舞い上がり、混戦から抜け出した。そして、バルザックに声を掛ける。


「バルザック、早くそこから離れるのじゃ!」


 しかし、バルザックは微動だにしない。


「駄目じゃ、彼奴あやつ、完全に意識を失っておる…」

「仕方がない、ならば念力で!」


 本体と会話をしながら幽霊がバルザックに向かって手を翳すと、急に白目を剥いてバルザックが立ち上がる。そして、斧を握りしめると人とは思えないような動作で跳躍した。

 その直後、バルザックのいた辺りが完全に押し潰される。

 間一髪で難を逃れたバルザックが跳躍の勢いのまま一足飛びにチーターのところまで迫る。そして、チーターに向かって斧を振り下ろした。

 しかし、その斧はチーターの体を捉えること無く空を切り、そのまま地面を打ち砕く。

 縮地によって斧を躱したチーターがバルザックの背後に姿を現すと、勝利を確信したような笑みを浮かべながらバルザックに向けて手を翳した。

 だが次の瞬間、その表情が凍り付いた。

 バルザックが人間離れした動きで振り返ったのだ。遠心力の乗った斧の一撃がチーターへと襲い掛かる。

 チーターも咄嗟にガードをするも斧の側面ではたかれ、弾き飛ばされた。

 こいつ、気絶してオーギュストさんに操られてる方が戦力になるんじゃないだろうか?

 そんなことを考えていたら、バルザックの立っている周辺の足場が音を立てて崩落し始める。


「あ……、やり過ぎた…。テヘッ」


 上空で幽霊が舌を出しながら反省している中、バルザックは谷底へと消えていった…。


「さて、チーターはどこへ行ったのかのぅ…」


 バルザックの方を心配してあげて?

 チーターはアスレチック広場の方まで弾き飛ばされたらしく、そこにあった池から上がってくるのが見えた。

 何やら体をワナワナと震わせブツブツと呟きながら、こちらへと戻ってくる。

 そのチーターの顔を見てみると、そこからはチーター特有の目頭から口元にかけての黒い線が消えていた。

 …なんだろう。どこかで見覚えがあるような気がするんだが。

 ……あ! こいつチーターじゃない。ヒョウだ。

 道理で初めに見た時に違和感を覚えたはずだよ。

 ヒョウだとわかってから改めて見てみれば、確かにチーターに比べて顔の斑点が多い気がする。そして、タキシードの下から垣間見える首筋や尻尾の斑点は輪状に並んでいる。これが正しい豹柄模様だ。

 そういえば、こいつが俺に手を向けてきた時も、こいつの指からは爪が出ていなかった。チーターは猫科でほぼ唯一、爪を仕舞うことができないはずなんだ。

 そんなことを考えていたら、こちらまで戻ってきたチーターが急に叫び声を上げた。


「クソッ、化粧が落ちただろうがぁ! 俺様にこんな真似をするとはいい度胸だ、ぶっ殺してやる!」


 チーターの態度が豹変した。


「おい、ボクサー猿人! まず、あのじじいから片付けるぞ!」

「うん。わかったよ、チーター。僕、頑張るよ」

「おい、ゴリラも口調変わってる!」

「僕等は夫婦だからね。こうやってお互いにバランスをとってるんだ」

「バランスのとり方おかしいだろ!?」


 そんなやり取りもそこそこに、ゴリラが自分の胸の前で勢いよく両の拳を合わせる。


撲Circle円陣(ボクサーエンジン)!」


 すると、上空に浮かぶオーギュストさんを中心に円形の魔法陣が構築された。そして、その周囲に黒い靄が集まると、それがゴリラの姿を形成していく。


「ぬぅ!?」


 少し慌てた様子を見せるオーギュストさんの周りをぐるっとゴリラが取り囲む。すると、ゴリラが一斉にその拳を繰り出した。


「なんじゃと! …じゃが、甘いわ!」


 周囲のゴリラによる拳の応酬に一瞬驚くものの、オーギュストさんは直ぐに平静を取り戻す。

 次の瞬間、一斉に放たれたゴリラの拳がオーギュストさんをすり抜けた。


「フッフッフ、密度を調整してやれば儂への物理攻撃など意味を成さんのじゃ」


 得意気に語るオーギュストさんだが、掴む場所を失った本体が地面へと落下していく…。

 地面に叩きつけられて悲惨なことになっている本体と、それに縋りつく幽霊。もう意味が解らない。

 その時、俺の頭の中で理解さんがあることに気付いて囁いた。

 ……え? そんな…、まさか…。


「夫婦!?」


 スルーしそうになったけど、あのゴリラ、さっき夫婦って言ったよね?

 地味に今日一番の驚きだよ。


「僕さー、社内恋愛は自由で良いと思うんだよね」


 それは今どうでもいい。

 いつの間にか、ゴリラはグローブを外してチーター…という名のヒョウ(ややこしいな)の化粧を直してあげている。

 そして、顔に再び二本の線が引かれたところで、チーターは恭しい態度で言った。


「御見苦しいところをお見せしましたね…。さて、仕切り直しといきましょうか」

「全員、地獄送りにしてやるぜぇ」


 忙しい奴等だな。

 と、そこへ少し離れたところでレオさん達と混戦状態にあったライオンが少しだけ距離を取った。


「なかなかやるな…。このままではお互いに決め手を欠くか…」


 いや、むしろこちらのメンバーがオーギュストさんの手によって着実に削られている気がするが?

 その時、急にスマホの着信音が鳴り響いた。すると、徐にライオンがスマホを取り出し、その画面を見てニヤリとほくそ笑む。


「喜べ、シタッパー。今、人事部長から連絡がきた。お前達の昇進が決まったぞ」

「「Shitappa-!」」


 それを合図に、シタッパー達が黒い布を一斉に脱ぎ捨てた。

 その布の下から現れたのは、全身真っ黒に塗装された人型の物体。全体的に丸みを帯びたフォルムにプラスチックのような光沢を放つ外部装甲。その隙間からは球体のような関節が垣間見える。

 そして顔の部分にはモニターが付いており、そこには『\(^▽^\)』と『(/^▽^)/』が交互に表示されていた。


「ロボットじゃん! ……って、あれ? さっき魂刈り取ってませんでした!?」


 ツッコんだ直後、ふと疑問に思ったことをレオさんに向かって投げかけると、彼は少し残念そうな顔をしながら答えた。


「まるで彼らに心がないような言い方をするんだな、ヒイロ。物にだって魂は宿るんだ…」


 付喪神?


「君がそんなに心の狭い人間だったとは…、残念だ」

「あっさりと刈り取ったくせに」


 ふと見るとシタッパー達のモニターには『(;д;)』が表示されていた。

 傷心していらっしゃる。

 そこへライオンが声を掛ける。


「シタッパー。今からお前達は二階級特進で上級戦闘員だ」


 暗に死ねと言ってませんか、このライオン?

 シタッパー達のモニターには『∑(゜д゜;)!!』の表示。

 そんなシタッパー達をライオンが威圧する。


「どうした、シタッパー。俺の部下に小心者は要らんぞ? お前達は正真正銘の戦士だろう?」


 モニターに『((( ;゜д゜))』を表示してオロオロとしているシタッパー達。

 焦心していらっしゃる。

 そこへライオンが畳みかける。


「上級戦闘員にのみ許される能力解放の申請も既に通っている。さあ、行け!」

「「Shi……Shitappa-!!」」


 『ヽ(`Д´)ノ』を表示しながら半ばやけくそ気味に突撃してくるシタッパー達。そして、彼らが両腕を前に突き出すと、そこから何やら筒のようなものが出てきた。


「何だ!?」


 近くにいたカイが驚いていると、シタッパー達が一斉に火炎放射を繰り出した。その激しい炎がカイ達を襲う。

 

Eiserne(アイゼルネ) Jungfrau(ユングフラウ). Nr.sechs(ヌマーゼクス)

「Yes Master. Code-06(マルロク) release」


 ハルの指示に応じて『鋼鉄の乙女』が黒い球体を放出すると、それらが光の壁を形成して炎を防ぐ。


「「Shitappa-!」」


 シタッパー達が負けじと炎の出力を上げる。

 その時、シタッパー達の外部装甲が融け始めた。


「おい、そんな装備付けておいて何で耐火仕様じゃないんだよ!」


 いつぞやの木製ゴーレム(?)ですら、炎吹いても燃えなかったぞ?

 『ヽ(´Д`;)』と『(;´Д`)ノ』を交互に表示しながら慌てふためくシタッパー達。

 すると、融けた装甲に引火して激しく炎上し始めた。

 焼身していらっしゃる!?

 どうやら、耐火素材どころか不燃素材ですらなかったようだ。

 それを見てレオさんが大剣を構える。


「有言実行! 以水滅火いすいめっか!」


 叫びと共にシタッパー達の上空の空間が歪み、そこから雨のように水滴が降り注いだ。

 雨に打たれてシタッパー達の体の炎が次第に小さくなり、そしてついには鎮火した。

 状況を飲み込めずポカン『( ゜Д゜)』としているシタッパー達に向かってレオさんが優しく微笑む。

 すると…、『ヽ(*´∀`)ノ』シタッパー達が心を開いた。

 歓喜に沸くシタッパー達。しかし、その表情は直ぐに凍り付くこととなる。


「有言実行! 滴水成氷てきすいせいひょう!」


 レオさんの叫びと共に水滴が無数の氷片へと変化する。

 そして、雨はいつしか雹へと変わり、シタッパー達へと降り注いだ。


 『\(゜д゜lll)/』絶望…。


 こうして、シタッパー達は全滅した。


ちなみに、夫がボクサー猿人。妻がチーターです。

ヒイロ 「あいつ、女豹なの!?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ