035 ハナ ノ クマロク
「クマと契約して魔法少女になってよ」
俺の目の前に立っているのは、俺に向かって手(前足?)を差し出しているツキノワグマ。その熊が羽織っている朱色の陣羽織の背中には三日月と熊手の図柄、そして全体的に桜吹雪があしらわれている。
熊六という名のその熊は、期待の眼差しで俺を見つめながら返事を待っていた。
対する俺は、脳内の理解さん共々完全にフリーズしている。
「……………はい?」
「え、本当に? クマは嬉しいんだよ。早速、この契約書にサインしてほしいんだよ」
俺の目の前で熊が喜び始めた。その手には、『魔法少女プロデュース契約書』と書かれた紙とサインペンが握られている。
賢明な方々はわかってくれていると思うが、さっきのは肯定の意味の『はい』ではない。一瞬何も理解ができずに思わず聞き返してしまっただけだ。
いつの間にか契約書とサインペンを握らされている俺。その頭の中で共にフリーズしていた理解さんが漸く我に返った。さて、状況の確認といこうか…。
「ちょっと待ってください。さっきのはそういう意味じゃなくて…、俺は魔法少女なんてなりませんよ!?」
「え…?」
熊手に似た形状の魔法の杖らしきものとフリフリの衣装を嬉しそうに準備していた熊だったが、俺の言葉を聞くなり絶望の表情を向ける。
「っていうか、何で魔法少女!?」
「この魔法の熊手は周囲の魔素を掻き集めて魔法少女に変身することができるんだよ。その名も、『なりきり! ステッキ』なんだよ」
魔法の杖、熊手かよ!
白を基調としてピンクの桜の花弁があしらわれた1m程の長さの熊手。安全性に配慮しているのかは知らないが、フォルムとしては全体的に丸っこい。そして、櫛状の部分は間隔も開いており本数も六本だけだ。熊手としての実用性はあまりなさそうだ。
その時、熊六さんが何かに気付いたようにハッとする。
「あっ、もしかして、クマが小動物じゃないのを気にしてるの?」
「いや、そこはこの際どうでもいい」
魔法少女の後ろに立つツキノワグマ。絵的にシュールな光景だが、今はそんなことを気にしていても仕方がない。
「それなら、もしかして、性別を気にしてるの? 大丈夫なんだよ。最近の魔法少女に性別は関係ないんだよ」
「いや、そこは気にしろよ」
俺の話を一切聞こうとしない熊は、何だか楽しそうだ。
「ねぇ、変身後は男の子のままでフリフリの衣装を着る系と、完全に女の子に変身できちゃう系とどっちがいい?」
魔法少女企画案1と2という二つのフリップを掲げる熊。
勝手に人の写真を加工するんじゃない。
「少女というからには、自分はやはり2の方が良いと思うよ」
「「儂等も同意見じゃ」」
「でも、俺は1の方も意外と違和感ないと思うぞ?」
「前から思っていましたが、ヒイロ様、女装似合いそうですよね」
「ちょっと黙っててもらえません?」
そうやって、話に割り込んできて好き勝手なことを言い始めた後ろの連中を制止する。
とりあえず、ハルが俺の事をそんなふうに思っていたことを初めて知った…。
すると、熊が何やら悩み始めた。
「う~ん。2の方が評価が高いけど、いちいち性転換させるのは燃費が悪いんだよ…。1にウィッグを追加する方向でどうかな?」
「「「「「異議なし」」」」」
「それじゃあ、次の議題は魔法少女の名前を決めるんだよ」
「みなさ~ん、お茶をどうぞぉ~」
「あ、僕、議事録取りますね」
「おいこら、企画会議を始めるな」
唐突に始まった『ヒイロ魔法少女化計画企画会議』。会議に参加していないのは瀕死のバルザックと、黒い箱の後ろで警戒気味にこちらを覗いているミーアだけだ。
本人の意思そっちのけで勝手に話が進んでいく。
「どうしたんだ、ヒイロ? 方向性に不満があるなら今の内に言っておけよ?」
「不満しかねぇよ」
「勇者と魔法少女の共闘とか熱い展開だよな! ヒイロもそう思うだろ?」
「思わねぇよ」
カイが何かを妄想しながら拳を握りしめている。
とりあえず、世界観をぶっ壊すな。
……いや、ここの世界観は初めからぶっ壊れてたな。
「とりあえず、魔法少女から離れてください」
俺が抗議すると、熊が困ったようにこちらを見た。
「それは無理なんだよ。クマは魔法少女しか応援したくないんだよ。君が魔法少女にならないんだったら、君には力を与えられないんだよ。クマは自分の信念は曲げないんだよ」
「そんな信念捨てちまえ!」
「魔法少女は世界を救うんだよ」
そんなことを言いながら目を輝かせていた熊だったが、俺に視線を向けると決断を迫ってくる。
「それで、どうするの? 魔法少女になるの? ならないの?」
「ならなぃ…」
「こんなチャンス滅多にないんだよ?」
「ならな…」
「よく考えるんだよ。これを逃すと、君はずっと無能のままかもしれないんだよ?」
「なら…」
「果敢に新しいことに挑戦していくべきだと思うんだよ」
言わせろよ。
熊の背後ではハルがフリフリの衣装を手に持ちながら、ちらちらと俺の方を見ている。着ないからね?
「クマなら、君に無双できるだけの力を与えられるんだよ? 実際に魔法少女を二人プロデュースした実績だってあるし、魔法少女アニメの企画だって何本も通してきたんだよ? ところで、名前は魔女っ娘ヒイロンでどうかな?」
「別に実績なんて求めてない。そして、しれっと名前を付けるな!」
「ここで選択を誤っちゃだめなんだよ。さあヒイロン、無双or無能なんだよ!」
「何だよその二択! そして、変な名前で呼ぶな!」
「さあヒイロン、君はその契約書にサインするだけでいいんだよ」
「断る! 俺は魔法少女にはならない!」
畳みかけてくる熊に向かってきっぱりと言い放つと、熊が不満気な表情を浮かべる。
その背後ではハルが心なしか落胆したような表情をしている。勝手に期待しないで?
「わかったよヒイロン…。でも、これだけは覚えておいてほしんだよ…。現状維持からは何も生まれないんだよ…、前例や古い常識に囚われていては衰退していくだけなんだよ…」
熊六さんはとてもいい顔で遠くを見つめながら呟くと、急に真剣な表情でこちらを見た。
「それはともかくとして、これからヒイロンにはちょっとした試練を受けてもらうんだよ」
「何故に!?」
「クマとしては、稀人のヒイロンの実力を知っておきたいからなんだよ。ヒイロン魔法少女化計画を再始動するときにも使えるんだよ」
しれっと本音らしきものを垣間見せる熊六さん。
後ろではハルが少しだけ期待の眼差しを向けているが、そんなものは絶対に再始動させるわけにはいかない。
「それじゃあ、第一の試練なんだよ」
「勝手に進めないで?」
「なんて言ってはみたけど、実は既に試練は始まっているんだよ」
「え!?」
困惑する俺そっちのけで熊が続ける。
「その名も人狼ゲームなんだよ。君達のパーティの中の一人が人狼が化けている偽物と入れ替わっているんだよ」
「え!? いつの間に!?」
「さあ、誰が人狼と入れ替わっているのか、ヒイロンは見破ることができるかな?」
熊の唐突な宣言に困惑しつつも、俺はパーティメンバーに順番に視線を向ける。
カイ(ポンコツ勇者)、ハル(メイド)、オーギュストさん(幽体離脱)、バルザック(瀕死)、ウォルフさん(着ぐるみ)、ミーア(可愛い)、そして俺(戦力外)。
……。
ウォルフさん(着ぐるみ)…。
……着ぐるみ?
「えっと…、ウォルフさん…?」
「正解なんだよ。何のヒントもなく一発で正解を導き出すなんて凄いんだよ」
いや、だって人狼…。
熊六さんが驚きながら正解だと告げると、ウォルフさんだと思っていた狼が『バレちゃったか』みたいな顔をしてこちらを見た。
あれって着ぐるみじゃなかったんだ…。
この世界に毒されてきている自分を目の当たりにした瞬間だった。
「ヨシノさん、急なお願いを聞いてくれてありがとうなんだよ」
「熊六の旦那からの頼みじゃ断れやせんよ」
「お礼に今度お寿司でも奢るんだよ」
「シースーですかい? そりゃ楽しみだ」
人狼と会話を始めた熊六さんだったが、こちらを向くとその人狼を紹介してくれた。
「この人はヨシノさんなんだよ。リンドウの街で火消の仕事をしているんだよ」
「あっしはヨシノっていう者でい。シクヨロ」
「はあ……、よろしくお願いします…」
あくまでも俺の個人的な意見なのだが、シースーだのシクヨロだの言う人とは、正直言ってあまりよろしくしたくない。
「あの…ところで、本物のウォルフさんは…?」
「あ、忘れるところだったんだよ。大丈夫、ちゃんとここに居るんだよ」
そう言うと熊六さんが近くの茂みから徐に白い大きな袋を取り出した。
その袋の口を開けると、中には下着姿で縛られたウォルフさんの姿。
拘束を解かれたウォルフさんが悲しそうな瞳を俺達に向けてきた。
「どうして…、どうしてここに来るまで誰も気付かなかったんだい…」
「………日頃の行いじゃないですかね?」
だって、行動パターンもウォルフさんそのものだったし、間違えても仕方ないと思いませんか?
悲しそうに訴えかけてくるウォルフさんから目を逸らしながら答えると、後ろでカイとオーギュストさん×2がひそひそと話しているのが聞こえてきた。
「いや、だって眼鏡掛けてたし…、なあ…」
「そうじゃな、眼鏡を掛けておった」
「ああ、眼鏡を掛けられては仕方がないじゃろ」
今更俺がこんなことを言うのもどうかと思うが、あの人の本体は眼鏡ではない。
そもそも、今までに眼鏡がサングラスやモノクルに変わっていたこともあるくらいだし、実は伊達眼鏡なんじゃないか疑惑すらもある。
そんな中、ヨシノさんが口を開く。
「そいじゃあ、あっしの役目は終わったみたいなんでそろそろ失礼致しやす。あ、この制服は頂いていきやすね」
「おいこら、着服すんな!」
「メンゴメンゴ。ちゃんと返しやすよ」
ウォルフさんの制服を着たまま立ち去ろうとしたヨシノさんを引き留めると、彼は軽い口調で謝りながら着替え始めた。
狼から返却された服をいそいそと身に着けるウォルフさん。
ズボンのお尻の辺りに丸い穴が開いているのは、さっきまで狼があそこから尻尾を出していたからだろうか?
着替えが終わったところで、今度こそ本当にヨシノさんは去っていった。
そこへ、ぽけーっとしながらこちらを見ていたイアさんが何の気なしに口を開いた。
「それにしてもぉ、仲間が別人に替わっていることにも気付かないなんて、随分と抜けていらっしゃるんですねぇ」
「あ、姉さん。そんなにはっきりと本当のことを言っちゃだめだよ」
「クマもそう思うんだよ」
ぐうの音も出ない。
おそらくイアさんに悪気はないんだろうが、物凄く良い笑顔で俺の心を抉ってくる。コダマさんの発言も俺達に気を遣っているようでいて的確に追い討ちをかけてくる。
打ちひしがれている俺をよそに、熊六さんが次の試練を告げる。
「それじゃあ、第二の試練なんだよ。ヒイロンにはこれから、この世界のどこかにあるという伝説の世界樹の種を探してもらうんだよ」
「世界樹の種…?」
「そうなんだよ。今ここにあるこの桜は世界樹の一部なんだよ。でも、クマが主を務めているこれはそろそろ寿命なんだよ…。だから、代わりになるクマ達のお家を探してほしいんだよ」
「自分で探せ!」
試練でもなんでもなく、俺を良いようにこき使おうとしているだけじゃないのか、この熊?
俺の後ろでは、カイがスマホを弄り始めた。どうやら暇らしい。
「これがいったい何の試練だっていうんですか? どう考えても、俺を利用しようとしてるだけじゃないですか」
俺が不貞腐れてそっぽを向くと、クマが近付いてきて耳元で囁く。
「そんなこと言わないでほしいんだよ。クマ達のお家を探してくれたら、ヒイロンに力を与える件を考え直しても良いんだよ」
あ、くまの囁きが聞こえる。
いやいや、騙されるな。どうせまた、魔法少女になれとか言い出すだけなんだ。
「魔法少女じゃなくても良いんだよ。ヒイロンは空間魔法とか興味ない?」
あ、くまが俺の耳元で囁く…。
横目でチラッと熊の方を見ると、熊が微笑んだ。
「その顔は興味がありそうな顔なんだよ」
その通りだよ、熊。空間魔法といえばチート能力の基本じゃないか。
「さすがに稀人のヒイロンが直接空間魔法を使えるようにはできないけど、空間魔法を扱える道具を渡すことはできるんだよ」
「本当ですか!?」
「喰いついてきたね、ヒイロン」
なんだか熊の思惑にうまく乗ってしまった気もするが、無双への第一歩だというのならば仕方がない。甘んじて乗っかろうじゃないか。
「それじゃあヒイロン。あそこのお店で販売しているから、好きな道具を買うと良いんだよ」
「金取るんかい!」
熊が指し示す先には幾つかの天幕。その下に剣やら杖やら鎧やらが並べられている。そして、そこには売り子をしている一匹の猿の姿があった。
まあ、幸いなことに金はある。それに必要経費として王国に出してもらうことも可能なんじゃないだろうか?
そんなことを考えながら天幕のところまで近付いていき、並べられている商品に目をやる。
『空間収納鞄』、『次元断裂剣』、『世界樹の杖』…。その他にも何やら凄そうな弓や銃火器などが並んでいる。
そして、天幕の奥の方には『次元振動弾』や『対消滅弾』…。
…なんか凶悪な兵器も交じってる気がするが、まあいいや、とりあえず役に立ちそうな物を買っていこう。
「すみません。とりあえず、このマジックバッグと…」
「ウキッ!?」
俺が売り子の猿に声を掛けると、猿が鳴き始めた。
「ウキッ、ウッキッキ。ウキィー」
うん、何言ってるかわかんない。
一旦退散して熊六さんに助けを求める。
「あの…、熊六さん。猿と話が通じません」
「当たり前なんだよ。猿とは筆談でコミュニケーションをとらないといけないんだよ」
この世界の常識なんか知るか!
『どうしてそんなことも知らないんだよ』というような憐れむような視線を向けてくる熊に苛立ちを覚えていると、突然首にゴーグルをぶら下げた猿の集団が桜の木から降りてきた。
そして、その猿達は一目散に天幕へと向かっていき買い物を始める。
「あっ、ヒイロン。もたもたしてると売り切れちゃうんだよ」
「え!?」
俺は急いで天幕へと向かうが、猿達の爆買いは止まらない。
『Hito! Hito!』とヒットコインの決済音が鳴り響く。
……? Hito?
「あ、ヒイロン。言い忘れていたけど、そのお店でお買い物する時はヒットコインは使えないんだよ。ヒットコインが世界的に普及したのを見て慌てて作った対抗規格のヒトマネーが必要なんだよ」
「人真似ぇ」
俺がそんなところに気を取られていると、売り子の猿が一際大きな鳴き声を上げながら『完売御礼』の札を掲げた。
「え!?」
「あぁ、ヒイロンがもたもたしてるからなんだよ…」
俺の所為か?
「でも安心して良いんだよ。あの猿達は人の真似をして遊んでいるだけなんだよ」
「猿真似ぇ」
「だから、その辺で採ってきた木の実なんかとの交換を持ち掛ければ、きっと譲ってくれるんだよ」
そんなことを言いながら熊六さんが俺にサクランボを手渡した。
すると、猿が一匹近付いてきて俺の服の裾を引っ張る。
そして、自分が持っている袋と俺が持っているサクランボを交互に指さした。
「どうやら、交換してほしいみたいなんだよ。大繁盛店の商品をサクランボ一個で手に入れられるなんてお得なんだよ」
俺は猿との交換に応じて袋を受け取る。その瞬間、後ろで熊がニヤリとほくそ笑んだような気がした。
そして、俺が袋を開けるとその中にはフリフリの衣装と熊手型魔法のステッキ。
「さあ、ヒイロン。苦労して手に入れた大繁盛店の人気商品なんだよ。装備してみるんだよ」
「やった~。苦労して手に入れると愛着も一入だぁ……って、着るかぁ!」
全部熊の仕込みじゃねぇか。というか、あの猿達も熊が仕込んだ偽客じゃねぇか。
後ろではハルが残念そうな顔をしている。この件に関してはハルも俺の敵だ。
その時、突然猿達がざわつき始めた。どうやらさっきのサクランボを巡って喧嘩が始まったようだ。
その争っている集団の中には、何故かさっき去っていったはずの狼の姿も垣間見える。
「火事と喧嘩は江戸の華でい!」
とりあえず、ここは江戸じゃない。どちらかというと穢土だ。
その時、天幕の近くから火の手が上がった。
「今度は何!?」
「あ…。さっきお茶を入れた後、火の始末忘れてましたぁ…」
俺の後ろでイアさんがボソッと呟いた。
それを聞いて熊六さんがイアさんにキッと鋭い視線を向ける。
「お小遣い…」
熊六さんがボソッと呟く。
「イアの減らそ…」
「えぇっ! 何でですかぁ? 熊六さ~ん」
涙目で熊六さんに縋りつくイアさんだが、自業自得だと思いますよ。
そうこうしている間にも火が天幕に燃え移り、這うようにして広がっていく。
さて、どうしようか?
燃え広がる炎を見ながら打開策を模索していると、後ろから服の裾を引っ張られた。振り返ると、そこには一匹の猿の姿。
喧嘩に参加していないその猿が、俺に対して両手で封筒を差し出してきた。
俺が困惑しているとハルが近付いてきて説明を始める。
「このゴーグルをつけた猿は献策猿人です。困っている人を見ると、打開策を提案してくれます」
ぶっちゃけ、猿人っていうか、むっちゃ猿だよ? むしろニホンザルだ。
まるでラブレターでも渡すかのように、ちょっと照れ臭そうにしながら封筒を渡してくれる様子が何とも愛らしい。
「実はあのゴーグルはARゴーグルで、あれを通して検索サイトのAhooにアクセスし、その結果を提案してくれるんです」
「ARの無駄遣い!」
それと、その検索サイトはちゃんとした結果を返してくれるのか?
何だか不安な気持ちになりつつも猿が差し出している桜の模様の入った封筒を受け取ると、中に入っていた紙を開く。
そこにはこう書かれていた。
『大火が幕這うヨシノ活かせ』
「何この怪文…?」
…いや、今の状況か?
ヨシノ活かせ? そっか、そういえばヨシノさんは火消だってさっき言ってたな。
「ヨシノさん、出番ですよ」
猿達と喧嘩している狼に声を掛けると、その狼はサムズアップしながらとてもいい笑顔を浮かべた。
「あっしは延焼防止の家屋破壊専門でい!」
役に立たねぇ狼だな。
そんな無茶苦茶な状況の中、熊がどこからか熊手(馬上の敵を引き落としたり、舟を引き寄せたりする武器の方だ)を持ち出してきた。
「喧嘩両成敗なんだよ」
そんなことを言いながら、熊が喧嘩をしている猿達と狼を舞うような動作でいなしていく。
そして、まだ燃えていない天幕に熊手を引っ掻けるとそれを振り抜いて強風を巻き起こす。
すると、その強風に煽られた炎は一気に鎮火した。
この熊、強いな…。
喧嘩していた猿達と狼は地面に伏し、火事も収まった。
それらを収めた熊が口を開く。
「クマは最後にこれだけは言っておきたいんだよ」
「なんですか?」
すると、熊が熊手を軽快に回転させながら舞うようにしてポーズを決めた。
「俺は熊六!」
いや、今更そんなカッコつけられても…。




