表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/119

002 ユウシヤ ニ ナロウ

「本題に移りましょう…」


 端に座っていた男が話し出した。

 その男は、俺が召喚されたときに近くに立っていた三名のうちの一人でアレックスと名乗った。

 上質な白いローブを身にまとった金髪碧眼の男だ。三十半ばといった容姿だか、この国の総理大臣だという。

 この国の政治体制がわかったような、わからないような…。


「あなたに、勇者になって頂きたいのです」


 あ、なんかお約束展開きたよ…。

 だが、正直な話、現代風会議室(こんな場所)でそんなこと言われても全く雰囲気が出ない…。


「勇者って…。魔王を倒せとでも言うんですか?」


 俺が戸惑いがちにそう答えると、国王が満面の笑顔を浮かべる。


「おお、自ら魔王討伐を申し出るとは…。さすがは稀人であるな」

「申し出てませんよ!?」


 ちょっと、そこの王様。そんな期待の眼差しで俺を見るのはやめてもらえませんか?

 俺はそんなつもりで言ったわけじゃない。


「正直、魔王討伐(そこまで)は考えていなかったのですが…。勇者を引き受けるのと魔王討伐はセットだというのが、あなた方の世界での常識であり、どうしても譲れないと仰るのであれば仕方がないですね…」

「俺、そんなこと一言も言ってないですよね?」


 ちょっと、そこの首相。苦渋の決断みたいな雰囲気出すのはやめてもらえませんか?

 何で俺がわがまま言ってるみたいになってんの?


「では、勇者様の為に、この世界の魔王について説明しましょう」

「勝手に話進めるのやめてもらえません?」


 俺、引き受けるとか言ってないよ?

 勝手に勇者扱いしないで?


「この世界『ユグドラシル』の半分ほどを支配するマイトネリウム共和国、通称魔国の頂点に立っているのが魔王ラプラーです」

「ねえ、聞いて?」


 俺の声、届いてます?

 あと、その国、共和国なのに王がいるの?


「その力は強大で通常の攻撃では傷一つつけることができないとか…。唯一、聖剣でのみ傷をつけられると伝えられています」


 あ、うん、これ止まらないね。

 とりあえず話だけは聞こうか…。


「…えーっと? つまり、まずはその聖剣を探してこいってことですか?」

「いえ、そう言うわけではないのですが…。それに、聖剣は魔王がもっているという話です」


 聖剣は魔王が持っている?

 つまり、ラスボスとの最終戦直前に魔王城で入手できるとか、そういうことかな?


「文字通り、魔王が装備して(もって)いるそうです。なので、魔王を倒せば入手できると思われます」


 今、とても重要な情報が得られた。

 『唯一魔王を倒せる武器は、魔王を倒すことで入手できる』

 …え? これ、なんてクソゲー?


「ただ、装備しているはずなのに魔王が剣を持っている姿を見た者は誰もいないのです。一見手ぶらに見えることから、不可視の聖剣テブラーと呼ばれています」

「舐めとんのか?」


 …まあ、とても気になるがこの際名前は置いておこう。それより問題なのは聖剣の入手方法だ。


「今の話を総合すると、聖剣の入手ってかなり絶望的じゃないですか?」

「それに関してですが…、実は聖剣の材料に関しては資料が伝わっています」


 あ、資料あるんだ…。少しだけ希望が見えてきた…のか?


「まず、このバルニ大陸の中央に聳えるテルル山に住む竜王ドラグゴナレスの牙、海を挟んだバービ大陸にあるクロム山で採掘できる伝説の鉱石アダマンタイト、天空浮遊要塞ラピュータにあると言われる次元制御装置、旧世界の遺産でもある人工知能(AI)ワルキューレのアルゴリズム、その制御用の高性能制御チップが必要です。それ以外にも必要なものはありますが、特に入手に困るものではありません」


 まるで、ゲームで行き先を指し示すNPCのようだ…。

 いや、それはおいといて。ようするに、世界中からそれらを集めて聖剣を打ち直し、そして魔王を討伐するということか。王道と言えば王道…なのだろうか?

 ただ、この材料を使ってできる聖剣っていったい何なんだろう…。いや、名前からして既にふざけてたな…。

 遠い目をしながらそんなことを考えていると、アレックスさんの表情が次第に曇っていくのがわかった。


「ですが…」


 あ、嫌な予感。


「材料に関しては資料があるのですが、その製法に関しては魔王が握っていると言われています」


 …詰んだよ。もう一度言おう。これ、なんてクソゲー?


「また、天空浮遊要塞ラピュータというのは、現在の魔王城のことでして…。くだんの次元制御装置も魔王が管理しているとか…」


 この世界の重要な部分は、何故ことごとく魔王に握られているんだ?


「ついでに言うなら、竜王の牙についてですが…。竜王というのは世界中の誰も、あの魔王ですら、手も足も出ない程強いのです。それこそ竜王から牙を奪取するよりも、魔王討伐のほうが遥かに楽だと言われるほどに…。

そのため、この大陸中央のテルル山周辺は、竜王の森として絶対不可侵の領域となっているほどです」


 そのついでの情報は必要か?

 魔王なんかよりよっぽどやばい奴がいますって、明らかに俺の心を折ろうとしているとしか思えないんだが?


「あの…。今のところ、魔王を倒せる要素が何一つ無いんですけど…?」


 俺のその発言を受けて、アレックスさんが安堵の表情を浮かべる。


「ご理解頂けたようで何よりです。では、魔王討伐については考え直して頂けますね?」


 いや、そもそも俺が言い出したことじゃない。

 そんな、『やれやれ、ようやく説得に応じてくれましたか』、みたいな雰囲気出されても。


「正直な話、私も魔王を倒せるとは考えていません。そもそも、七年前に先代魔王が討たれ現魔王に代わって以降、こちらから手を出さない限り魔国側も手を出しをしてきません。なので、中途半端に手を出したくないというのが本音です」

「だったら、何で勇者を立てる必要があるんですか?」

「先代魔王が悪逆の限りを尽くしていた事もあって、いまだに多くの国民は魔王に、そして魔国に対して不信感を持っているのです。そこで、そんな国民感情を斟酌し、勇者を立てることで、国民の不満を逸…ゴホン…失礼、国民の不安を晴らしたいのです」


 今、何を言おうとした?

 まあ、なんにしても、つまりは政治的勇者ということらしい…。

 でもこれって、魔王を刺激する上に、国民の感情を下手に煽ることで、そのまま魔王討伐をしなければいけない状況に追い込まれていく気がしてならないのだが?


「それって、不用意に魔王を刺激したりしませんか?」

「いくら魔王が強いとはいっても、全面戦争ともなれば魔国側もただではすみません。先代魔王ならいざ知らず、現魔王であればそのような愚行は犯さないでしょう」


 その、現魔王への微妙な信頼は何なの?

 俺は魔王がどんな人か知らないけど、希望的観測すぎやしませんかね? 

 まあ、俺がいた世界でも国内向けと国外向けで本音と建前を使い分けたり、プロパガンダで過激なこと言ってたりするのはあったけど…。

 正直、魔王の矛先が俺に向くかもしれないとか怖すぎる。

 …とりあえず、無しだな。今の話を聞いて、引き受ける気になんてなれるわけがない。


「えーっと…。やっぱり、元の世界へ帰らせてもらえませんか?」


 すると、アレックスさんが視線を逸らしながら重い口を開く。


「……規約に記載されている通り、役割を果たして頂ければ送還される…はず…です…」

「はずってどういうことですか? まるで送還の仕方がわからないみたいな…」


 語気を強めて尋ねると、アレックスさんが神妙な面持ちで語りだす。


「今回我々が行ったのはアカシックゲートを開く儀式です。これは、遥か昔よりこの世界に伝わっているものなのですが、仕組みとか細かいことはよくわかっていません」

「ちょっと無責任すぎやしませんか?」


 そんな得体の知れないものを使って、勝手に人を呼びつけるのやめてくれません?


「この儀式では、アカシックレコードに記録されている事象がランダムで呼び出されます。今回のように稀人が召喚されるのは、本当にレアケースなんですよ。

昔はシステムが安定していなかったのですが、七年前に大賢者様のお力によって改修されました。そのおかげで、月に一度または、神力(インフィニティ)(ストーン)を十個集めるごとに一度、アカシックゲートを開くことができるようになりました」


 おい、それって…ガチャ…。


「……あれ? 改修ができるほどに詳しい人居るじゃないですか?」

「大賢者様のことですか? 大賢者様は今はもうこの世界にはいらっしゃいません」

「え…、お亡くなりに…?」

「いえ、大賢者様は七年前に召喚された稀人です。しばらくこの世界に滞在されて、その間にシステムの改修をしたのですが、既に元の世界へと帰られています。

……ほ、ほら、このように元の世界へ帰ったという実例もありますからご安心ください」


 目を泳がせながら言われても、とても信用ができない。

 そこへ国王が何気ない口調で口を挟む。


「もっとも、もう一人の方は、いまだに帰れておらんようだがな」

「あ、陛下!」


 おいこら。

 俺の無言の圧力に、アレックスさんが渋々口を開く。


「…人が召喚された事例は、記録に残っている限りでは二件あります。七年前の大賢者様と、六年前の剣聖様です。

先ほども申し上げた通り、大賢者様は元の世界へと帰られました。ですが、剣聖様はある日突然引退を宣言し、今はこの世界でスローライフを送っています」


 次から次へと不安感を煽ってくるな…。


「役割とかどうとかって話ですけど、結局、具体的に何をすれば俺は元の世界に帰れるんですか?」


 そう尋ねると、アレックスさんは明るい表情を浮かべてそれに答える。


「それでしたら明快です。今回の場合は『国民の不安が晴れた時』です」

「曖昧!」


 明快の定義から調べ直してこい!


「大賢者様はもういらっしゃいませんが、多くの記録を残してくださっています。ですから、きっと大丈夫です」


 何が大丈夫なのかさっぱりわからんが、とりあえずこの人達に任せておくのは不安だ。


「その記録、俺も閲覧できますか?」

「はい、SNSのフェイクバッカの大賢者様公式アカウントで確認できます」

「……は???」


 何だその偽情報しか載ってなさそうなSNSは…。


「公文書とかは…?」

「ありません。大賢者様が残したフェイクバッカの投稿だけが頼りです」


 前途多難!


あったかもしれない一幕その1


王 (…あれ~、人間が召喚されちゃったよ、どうしよう) ドキドキ

裏方さん1 「陛下、落ち着いてください。対応マニュアルパターン3です」 ボソッ

王 「よくぞ来てくれた。歓迎するぞ、稀人よ」 ドヤァ


裏方さん2 「何!! 人間が召喚されただと! 急いでその人間のことを調べろ!!」

裏方さん3 「わかりました。SNSでの投稿からネットの検索履歴まで洗い出し、その人間の趣味嗜好から好きな女の子のタイプまで丸裸にしてやります!」


ドタバタ


会議室にて

セバス 「あなたの個人情報を収集させて頂きました」 ニヤリ


結論:裏方が優秀。


===

あったかもしれない一幕その2


裏方さん1 「何!! 通常会議室しか空いてないだと!」

裏方さん2 「まさか、六年ぶりに人間が召喚されるとは誰も考えておらず…」


結論:事前計画はしっかりと。


===

あったかもしれない一幕その3


ヒイロ 「ところで、何故謁見の間で儀式を?」

アレックス 「雰囲気は大事ですからね」

ヒイロ 「…」


結論:雰囲気よりも危機管理の方が大事では?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ