022 オウコク ノ オウジヨ
漸く王都へ帰還した俺達は、今回の遠征の結果報告の為に会議室に呼ばれていた。
とはいっても報告自体はウォルフさんやハルがしてくれているので、俺は目の前の机の上で欠伸をしているミーアを愛でながら、ただ聞いているだけだ。
ところでウォルフさん、どうしてモノクルを着けてるんですか? いつもの眼鏡は?
一通り報告が終わったところで報告を聞いていたアレックスさんが呟いた。
「秘密結社O2ですか…。いったい何が目的なんでしょうね…」
それを受けて隣に座っている女性が口を開く。
赤いスーツとヒョウ柄のスカーフが印象的な女性で、名前はカミーユさん。防衛大臣らしい。
「何にしても一度調べてみる必要はありそうね…。軍の諜報部でも探ってみるわ」
「そうしてもらえますか。セバスさん、特殊諜報局の方でも調査をお願いします」
「そうですな、探ってみましょう」
アレックスさんからの依頼に、一緒に報告を聞いていたセバスさんが答える。
その時、突然嗚咽が聞こえてきた。
そちらに視線を移すとオーギュストさんが泣きながらハンカチで目頭を押さえている。一応言っておくが幽霊の方だ。
「おぉおぉぉぉ。二人とも、立派になって…。うぅ、おぉぉ…」
それを見てアレックスさんとカミーユさんが声を掛ける。
「師匠、泣かないでください」
「そうですよ、オーギュスト師匠」
どうやら、カミーユさんもオーギュストさんの弟子らしい。
「こんなに立派に成長した弟子達の姿を見られるとは思わなんだ…。我が生涯に一片の悔い無しじゃぁ…」
オーギュストさんが満足そうな表情で呟く。そして、突然光り輝きだしたかと思えば、ゆっくりと天へと昇っていく。
「「師匠! 帰ってきてください!」」
弟子二人に呼び止められて何とか一命を取り留めたものの、彼は大事を取って強制退場となった。
その様子を見ながら、カミーユさんが心配そうに口を開く。
「最近、何を言っても反応が希薄だった師匠が、今回の遠征中に編み出したという魔法で元気になったのは嬉しいのだけれど…。やはり、あれだけの大魔法だと負荷も大きいのかしら…」
はたして、あれは本当に魔法なのだろうか?
「師匠には、いつまでもお元気でいてもらいたいですね……っと、すみません、話がそれてしまいましたね。とりあえず、O2の件に関してはもう少し情報収集に努めましょう」
「ええ、そうね」
「そうですな」
とりあえず会議の議題が収束したところで、アレックスさんが俺たちに向かって話を切り出してきた。
「さて、この話はこれぐらいにして、皆さんにご連絡があります。勇者様方の無事の帰還と今回の活躍を祝って、今夜、陛下主催で打ち上げが開催されることになりました」
せめてパーティーとか他に言い方があると思うんだが…。
「今夜って随分と突然ですね…」
「ええ、まったく、陛下の思い付きには困ったものです…。まあ、それほどかしこまった場でもないので気楽に参加してください」
…いや、国王が居る場で気楽にとか…絶対無理。
「美味い酒と料理を用意してくれよ! 戦士にも休息が必要だからな」
バルザックが偉そうに注文を付けているが、こいつ、なんかの役に立ったっけ?
「宮廷料理人が腕を振るっていますから、期待して良いと思いますよ」
「そうか、そいつは楽しみだ」
バルザックと話していたアレックスさんが、俺とカイの方へ視線を向ける。
「そういえば、第一王女のリュラー殿下が、是非勇者様や稀人であるヒイロさんと会って話がしたいと仰っていましたよ」
「え? 王女様が?」
カイが驚いて聞き返すとアレックスさんが続ける。
「はい。勇者様のこれまでの冒険譚をお聞きしたいそうです」
「俺の話を? いや~、王女様にそんなこと言われたら断れないよな!」
浮かれ気分でカイが答えた。
そんなカイをよそに、アレックスさんはウォルフさんへと声を掛ける。
「ウォルフ、君のところの隊員達にも声を掛けてあげると良い」
「そうさせてもらうよ」
会議が終了し、俺達は会議室を後にした。
パーティーが始まるまでは時間がある為、俺とカイ、そしてバルザックはハルの案内でそれぞれに割り当てられた個室がある場所まで歩いている。
その時、カイが俺に声を掛けてきた。
「ヒイロ、聞いたか? 王女様だってよ」
「うん、そうだね…」
「あんまりうれしそうじゃないな? 王女様だぞ?」
そわそわしながら何やら妄想を膨らませているカイ。
「漸くヒロインの登場だな。俺に会いたいだなんて、ここから恋が始まっちゃう感じか?」
「……あまり期待はしない方が良いと思うよ…」
冷めた口調で言うと、カイが訝し気に俺の様子を窺う。
「テンション低いな? どうしたんだ、ヒイロ?」
正直な話、俺にはなんとなくオチが見えている。
この勇者は王女という単語にやたらと幻想を抱いているようだが、よく考えてみてほしい。
王子や王女というのは王の子供のことだ。王族の男女という意味合いで使われる場合もあるが、今回は第一王女ということだし、おそらく国王の娘ということで良いだろう。
ところで、この国は一夫一妻制であり、それは国王でも変わらない。
そして国王、王妃ともに70歳を超えており、養子は取っていないとのことだ。
さて、当然のことながら王が現役であり続ける限り、その子供は王子や王女なのである。
そこに年齢制限なんてものは存在しない。そう、年齢制限なんてものは存在しないのだ。大事なことなので二回言ったぞ。
ここまで言えば、俺が何を言わんとしているかわかってもらえたと思う。
そう、王女がヒロインになるなんていうお約束展開は正直期待薄だろう。
既に子供もいる既婚の女性が出てくる気しかしない…。そもそも、第一王女は会って話がしたいと言っているだけだしね…。
これ以上期待を持たせる前に、カイにも教えてあげるべきだろうか。
「王女様は俺に惚れちまうだろうけど、恨みっこなしだぜ?」
……よし、放っておこう。
そんな風に自信満々で言い切ったカイに若干のイラつきを覚えていると、俺に割り当てられた部屋へと到着する。
「こちらがヒイロ様のお部屋となります」
そして、ハルの案内で中へと通される。
「ヒイロ様、パーティーの準備の為に後ほど改めてお伺い致します。それまで、ごゆっくりお寛ぎください」
そう言ってハルは去っていった。ミーアがその後を追っていく。
あぁ、俺のモフモフタイムが…。
さて、ミーアも去っていってしまったし、寛げと言われてもなぁ…。
とりあえず、荷物の整理でもしようか。
そう考えて、肩から掛けていたカバンを開いてひっくり返す。
すると、まず中から出てきたのは携帯式救急セットと簡単なサバイバルセット。
これは、このカバンや装備一式と一緒に渡されたものだ。まあ、勇者パーティとして危険な場所へ行くこともあるからね。
次に出てきたのは猫じゃらし。これはもちろん、ミーアと遊ぶ為のものだ。
それに続いて出てきたのは五つのタワシ。
ガチャが引けるようになったあの日から、俺は毎日欠かさずにガチャにチャレンジしている。
俺はまだこの世界で無双することを諦めていないのだ。いつかきっと役に立つ何かが当たって、活躍できる日が来ると信じている。
だが、俺の期待も虚しく、今のところタワシしか当たっていない。そう、このタワシは今日までのガチャの成果だ…。
最後にカバンの中から出てきたのは、ゲームのコントローラーのような物。
そういえばミヤモトから取り上げたコントローラー、カバンの中に突っ込んだままだったな。
そんなことを考えながらコントローラーを手に取ると、そこから何かがポロリと落ちた。
それは、拳より少し小さいくらいの透き通った翠色の石で、中に『I』という文字が見える。
はて、何だろうか? とてもきれいな石だ。とりあえず、これらも一応証拠品みたいなものだし、後で誰かに渡しておこうか。
こっちのタワシは、厨房にでも寄付しよう。
***
夜になりパーティーが始まった。どうやら立食形式のパーティーらしい。
俺はハルが用意してくれたタキシードに身を包んでいる。隣にいるハルはいつものメイド服姿だ。その足元ではミーアが毛繕いをしている。
雰囲気にのまれてキョロキョロしていると、ウォルフさんとバルザックが現れた。
ウォルフさんはいつもの迷彩服ではなく軍の礼服を着ている。
バルザックはタキシード姿だ。…こいつ、蝶ネクタイとか似合わないな。
「ヒイロ君、キョロキョロしてどうしたんだい?」
「ウォルフさん。いや、こういうのは初めてなんで…。落ち着かないというか…。タキシードなんて着るのも初めてだし…。似合わないし…」
「ははは、そんなことは無いよ。とても似合っていると思うよ」
「そうだな、馬子にも衣装ってやつだ」
おい、バルザック、俺を馬鹿にしてんのか?
「ところで、ハルは礼装はしないのかい?」
「私は、これ一着しか持っていないので…」
「ああ、そういうことかい」
ハルが答えると、ウォルフさんがこちらを見ながら納得したように呟いた。
「何分急な話でしたので、サイズが合うものがこれしかありませんでした」
「なるほどね…。ところで思ったんだけど、ヒイロ君は学生なんだから召喚時に着ていた制服でも良かったんじゃないかな?」
「…あっ…言われてみれば、確かにそうですね…」
いつの間にか俺の話になってる。
そこへ、慌てた様子のエリサさんがやってきた。彼女も軍の礼服姿だ。
「ウォルフ、こんなところにいた。探してたのよ」
「エリサ、どうしたんだい?」
「どうしたじゃないでしょ。はい、これ。靴下忘れてる」
エリサさんの指摘を受けて、ウォルフさんがズボンの裾を上げて自分が靴下を履いていないことを確認している。
いや、忘れるなよ…。
「やっぱり、自分は君がいないとだめだな…」
「もう、ウォルフったら」
勝手にやっててください。
そんなウォルフさん達の後ろでは、いつの間にかバルザックが料理にがっついていた。
すると、食べ物を喉に詰まらせたらしく、胸の辺りをどんどんと叩きながら苦しそうにしはじめる。
そして、青ざめた顔をして力尽き、担架で搬送されていった。
ハンッ、俺を馬鹿にした罰が当たったんだよ。
心の中でそんな悪態をついていたら、カイが料理をいっぱいに乗せた取り皿を手に持って声を掛けてきた。
「こんな隅にいないで、ヒイロも食ったらどうだ? 美味いぞ」
そんなカイもタキシード姿だ。
顔が良いと何着ても似合うな。世の中不公平だ…。
「そうだね、そうしようかな」
まあ、雰囲気にのまれて気後れしていても仕方ない。何より、庶民である俺には滅多にない機会だし、料理をいただくとしよう。
料理の乗っているテーブルへと近づく。
テーブルの中央には、尾頭付きの真鯛の活作り。その周囲には、タラの芽の天ぷら、タラの芽の炒め物、タラの芽のごまみそ和え、タラの芽ごはん、タラの芽の…。
……。
なんで、タラの芽推しなんだよ!
俺が心の中でツッコミを入れていると、目の端にオーギュストさんの姿を捉えた。
彼はいつものヨレヨレのローブ姿で車椅子に座って震えている。幽霊の方だけ立派なタキシード姿なのは何故だろうか。
その幽霊が皿に取った料理を細かく刻むと、スプーンに乗せて本体の口元へと運ぶ。すると、本体の方がゆっくりとそれに口をつけた。
セルフ介護…? っていうか、ちょっと待て、本体の方も意識あるの?
そんなこんなで料理をつまみながらカイ達と談笑していると、そこへ国王がやってきた。
「勇者殿、此度はご苦労であった。他の者達もよくやってくれた」
「いやぁ、それほどでもないさ。困っている人を助けるのは勇者の役目だからな!」
「そう言ってもらえると心強い。こんなことぐらいしかできぬが、今宵は存分に楽しんでもらいたい」
「ああ、楽しんでるぜ。このタラの芽の天ぷらとか美味いよな」
カイが何気なく発したその一言に、国王がニヤリと笑みを浮かべた。
「タラの芽と言えばこんな話を知っておるか? 『でたらめ』という単語があるじゃろう? あれの語源は実はこれなのじゃ」
唐突に何を言い出すんだ、この人は…。
国王はドヤ顔をしながら話し続ける。
「タラノキは幹の頂点だけでなく脇からも芽を出す。いたるところから芽を出すその姿から、『出楤芽』という単語が生まれたのじゃぁ!」
「へぇ、そうなのか!」
おい、こら、出鱈目を教えるな! ポンコツ勇者が信じてるじゃないか。
まず初めに言っておくが、『出鱈目』という漢字はただの当て字だ。鱈は全く関係ない。楤はもっと関係ない。
諸説あるらしいが、サイコロの目が語源というのが有力らしい。サイコロの出た目のそのままにするというところからきているそうだ。
そもそもタラノキに限らず、大抵の植物は頂芽だけでなく側芽が出てくるものだ。
ふと周りに目をやると、周囲の人達は特に気にした様子もなく食事や談笑を続けている。
というか、むしろ完全無視である。
国王が静かにその場で膝を抱え、『もっとかまって…』とか呟きながらいじけているが、誰も気に留めない。
仮にも国王に対してこの扱いで良いのだろうか?
そこへカイが声を掛ける。
「王様。そんなことより、王女様はどこにいるんだ?」
カイは目を輝かせて期待に胸を膨らませている感じだ。
その時、俺の後ろの方から声が聞こえた。
「お父様、こちらにいらっしゃったのですね」
そう声を掛けられて、いじけていた国王がゆっくりと立ち上がる。
「おぉ、リュラー。待っておったぞ」
漸く第一王女の登場らしいので、声がした方へと視線を移す。そして、そこにいた女性を一目見て、俺は一瞬言葉を失った。
……どうしよう。
なんというか、予想の斜め上を行く人物が現れてしまった。
第一王女の年齢に関しては予想していた通りだ。まあ、大体50歳くらいだろう…。
だが、今問題なのはそんなことではない。
肩の辺りまで伸ばした髪の毛はド派手なピンク、その上には紫のファーの帽子。
ふくよかな体型(過少表現)を覆うのはヒョウ柄の毛皮のコート。
存在しているかが疑わしい首には虹色に染められた毛皮のマフラーを巻いている。
足元に目をやると青いファー付きのハイヒールを履いており(あの細いヒールはどうやってこの物体を支えているんだろうか)、小脇には黄色の毛皮のバッグを抱えている。
……。
毳毳しい!!
えっ、これ王女? どっかの成金とかじゃなくて?
今回のパーティーってドレスコードとか無いわけ?
「あなたが勇者様ですね。お会いしとうございましたわ」
カイは引きつった笑顔で硬直している。
そんなカイに国王が声を掛ける。
「実は、リュラーと会わせたのは他でもない。是非とも勇者殿に我が娘との縁談をと思っておるのじゃ」
…独身なんですか?
なんか予想外の展開になったよ。いや、お約束展開ではあるんだが。
とりあえず、体よく押し付けようとしてませんか?
「どうかのぅ、勇者殿。受けてくれるか?」
硬直していたカイがハッと我に返る。そして、キリッとした表情で答えた。
「謹んで……、お断りします!!」
うん、恋は始まらなかったようだ。
国王が残念そうに眉尻を下げる。
「婚約成立というおめでたい席になるはずじゃったから、尾頭付きの鯛まで用意したというのに…」
そんなことを呟きながら、そのままゆっくりと俺の方へと視線を移してくる。そして、目が合った。
「ヒイロよ、我が…」
「お断りします」
国王の言葉を遮るようにして答える。正直、失礼とか言っていられる状況ではない。
国王が『まだ何も言っておらんじゃろ…』とか呟いているが、言わせないよ?
パーティー準備中のできごと…
ライアー三世 「今日の打ち上げの料理には、タラの芽のフルコースを用意しておくように」
料理長&厨房スタッフ一同 (……何故?)
===
ヒイロ 「俺のハーレム展開はいつから始まるの?」
白狐 「キーワードに『ハーレム無し系主人公』って入ってるらしいよ?」
ヒイロ 「そんなぁ…。でも、出会った女の子全員の耳元で『お前を殺す』とか囁けば、ハーレム展開にもワンチャンあったりとか?」
白狐 「通報されます」
ヒイロ 「……」(´・ω・`)
白狐 「そんなわけで、これからもヒイロ君のハーレムフラグは徹底的に潰していきます!」 キリッ
ヒイロ 「やめてぇ(泣)」
白狐 「さて、そんなヒイロ君に朗報だ。ハーレムはないけど、作者公認のヒロインはちゃんと用意してるから安心して良いよ」
ヒイロ 「え、ほんと?」
ミーア 「ニャー」
白狐 「ほら」
ヒイロ 「…え?」
結論:白狐 「宣誓。ワタクシ白狐は、ヒイロ君にハーレムを作らせないことを、ここに誓います!」
ヒイロ 「誓わないでぇ(泣)」




