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014 ユウキ ヲ カテ ニ

挿絵(By みてみん)

どうも、白狐です。


ツッコミって重要なんだなぁと、そんなことを感じる今日この頃。

ツッコミ不在の恐怖…。

 時は少し遡る。


 ウォルフはササキの猛攻を前にして反撃の糸口を掴めないでいた。ササキの連撃の前にじりじりと後退を余儀なくされる。

 そんなウォルフの元へ追いかけてきていたエリサが駆け付けると、ササキめがけて鞭を振り下ろした。

 鞭の一撃は難なく回避されてしまったものの、ウォルフにとってはその一瞬で十分だった。ササキから距離を取って漸く一息つく。


「ウォルフ、大丈夫?」

「すまない、エリサ」


 少しだけ会話を交わすと、エリサはササキに向かって再び鞭を振り下ろす。すると、その鞭が物干し竿に巻き付いた。

 武器を封じられたササキが気を取られると、その隙を突いてウォルフが距離を詰めようと駆け出した。

 しかし次の瞬間、ササキが物干し竿を上空へと放り投げた。

 驚いて物干し竿に視線を向けたエリサへササキが迫る。そして、右手でエリサの上着の襟を、左手で踵をつかみ上げるとそのまま押し倒した。


「贋流柔術、秘義! 踵返!」


 ササキの叫びと共に、エリサが地面に叩きつけられた。

 ウォルフはそんなエリサの元へ慌てて駆け寄ると、ササキに向けてゴボウを振るう。

 素早い動きでそれを躱したササキは落下中の物干し竿の下まで走っていくと、落ちてきたそれを掴み取った。

 そんなササキの様子を横目で確認しつつウォルフはエリサに手を貸して起き上がらせると、そのまま後ろへと下がらせる。

 そして、ゴボウを構えてササキと向き合った。


「牛蒡流剣術、奥義! ささがきゴボウ!」


 ゴボウによる見事な連続突き。

 すると、ササキが構えていた物干し竿が、見る見るうちにささがき状に削れていく。


「何!? 俺の物干し竿を…」


 ササキは驚きながらも後退し、距離を取る。

 しかし、その時には物干し竿の長さは半分ほどになっていた。

 自らの愛刀を台無しにされたササキが怒りに震える。


贋流復讐術、奥義(やられたらやり返す)! 倍返し(倍返しだ)!」


 物干し竿による見事な連続突き。

 すると、ウォルフが構えていたゴボウが、見る見るうちにささがき状に削れていく。

 そして、ボウル一杯分の見事なささがきゴボウとなった。


「このゴボウは、後で皆で美味しく頂きます…」


 ウォルフは愛用していたゴボウへの惜別の思いを抱きながらも、ボウルをその場に置いた。

 その様子を見ていたエリサは思う。

 この人達、いったい何をやっているのかしら…?

 エリサが状況の理解に苦しんでいる中、ウォルフは新しいゴボウを取り出すとササキに向かって駆け出した。

 それに対してササキが物干し竿を地面に突き刺しながら叫びを上げる。


「贋流防衛術、奥義! 武者返し!」


 すると、ササキの前の地面が盛り上がり、そこに上へ行くほど勾配が急になる石垣が現れた。

 しかし、ウォルフはそれをものともせずに駆け上がる。

 石垣の上に立っていたササキが、その様子を見て焦りの色を浮かべる。


「くっ…。贋流防衛術、最終奥義! ネズミ返し!」


 その叫びに応じて石垣の上部が急に突き出すと、駆け上がっていたウォルフの前を塞いだ。

 進行方向を塞がれたウォルフは仕方なく地面へと飛び降りる。

 しかし、石垣へと向き直すと両手でゴボウを構えた。


「牛蒡流剣術、最終奥義! 叩きゴボウ!」


 ウォルフがそう叫びながら、石垣に向けてゴボウを叩きつける。すると、石垣が大きく揺れた。

 そのタイミングを逃すことなく、さらに畳みかける。


「牛蒡流剣術、究極奥義! 割りゴボウ!」


 再びゴボウを叩きつけると、石垣が大きな音を立てて崩壊し始めた。

 慌てて石垣から飛び降りるササキ。そこにウォルフが襲い掛かった。


「くっ! こちらが不利か…、仕方がない…。贋流遁走術、秘義! 踵返し!」


 ササキがその場でくるっと踵を返し、走り出す。


「逃がしませんよ。 牛蒡流追跡術、秘義! ごぼう抜き!」


 ウォルフがあっという間にササキを追い抜き、その前に立ち塞がる。

 睨みあうウォルフとササキ。

 先に動いたのはウォルフだった。


「牛蒡流剣術、秘義! 金平ゴボウ!」


 叫びながらゴボウを地面に突き刺す。

 すると、その地面が盛り上がり何かを形作る。

 そこに現れたのは、鉞を担いでクマに跨った男。

 それを見たササキも負けじと叫ぶ。


「贋流復唱術、秘義! オウム返し(金平ゴボウ)!」


 ササキが物干し竿を地面に突き刺す。

 すると、その地面が盛り上がり何かを形作る。

 そこに現れたのは、一体の浄瑠璃人形。

 それを見て、ウォルフが驚いて声を上げる。


「坂田金平!? そんな…、ゴボウの神様、あなたは…自分を見放したというのですか!」


 絶望の表情でウォルフがその場に崩れ落ち、地面を叩いた。

 完全に蚊帳の外にいるエリサだったが、ここで漸く重大な事実に気が付いた。

 どうしよう、ツッコミがいない…。

 ボケに対してさらにボケ倒していく他の連中と違い、エリサは割と常識人である。

 もしかしたら、この場においては彼女がツッコミに回るべきなのかもしれない。しかし、エリサにはそこまでの才能がなかった。

 あぁ、ここにヒイロ君がいてくれたら…。

 そんなことを切に願うのであった。


 エリサがツッコミの不在を嘆いていた時、ウォルフはその場から動けずにいた。

 ゴボウの神様が自分ではなく、ササキに微笑んだという残酷な現実…。

 その現実の前に、絶望に打ちひしがれていた。

 しかし、彼はここで挫けるわけにはいかなかった。

 そう、彼には守るべき者達がいる。守るべき祖国がある。

 こんなところで挫けてなどいられない。

 彼はそんな想いを胸に二本の足で大地を踏みしめると前を見据える。

 その瞳には闘志が満ち溢れていた。


「ゴボウの神様に見放された今、自分が頼れるのはこれだけ…」


 ウォルフはゴボウをその場に置くと、ポケットから金時豆を取り出す。

 そして、コイントスをする時のように金時豆を指に乗せ、それをササキの方に向けて親指で弾く。


「隠元流射撃術、奥義! ゴールデンタイム!」


 金時豆が射出され、紫電を纏いながらササキめがけて飛来する。

 周囲を衝撃波が襲い、それが通過すると共に地面が捲れ上がり木々が薙ぎ倒されていく。

 それに対して、ササキは咄嗟に手に持った物干し竿でガードを試みる。


「ウオォォォッ!」


 ササキが叫びながら、物干し竿で金時豆を受け止める。

 しかし、勢いを殺すことができずに押されていく。

 そして、とうとう耐えること敵わず、辺りの木々と共に吹き飛ばされた。


 その様子を呆然と見ていたエリサが空を見上げながら考える。

 明日は、晴れるかしら…。

 彼女は、目の前の現実から逃避した。



***



「まだよ、まだやれるわ…」


 ウッドゴーレムが破壊されたことで意識が戻ったらしいミヤモトが呟く。


「さあ、次の合成獣キメラを…って、あら?」


 今、ミヤモトはロープで縛られている。

 そう、意識がウッドゴーレムに憑依している間に、動かなくなった本体の方からコントローラーを取り上げて、ロープで縛っておいた。

 無抵抗の敵を縛り上げる、とても地味な作業だった。はて、俺はこれで良いんだろうか…?

 ハルは一人でウッドゴーレムを倒したし、カイはドラゴンと激闘を演じている。

 ウォルフさんとエリサさんもどこかで戦っている。

 …若干二名、完全に背景と化している奴らもいるが、それはとりあえず置いておこう。

 せっかく異世界へ来たんだし、俺だって無双したい。やれば出来るっていう事を証明したいんだ。

 周りの人達が無双するのを、ただ嫉妬しながら見ているだけなんて嫌なんだ。

 そんな決意を胸に、スマホを構える。

 そして、アプリを起動しようとしたその時、突如後ろからバキバキと大きな音が聞こえた。

 振り向くと、周囲の木々を薙ぎ倒しながら何かがこちらへと向かって来ていた。


「ヒイロ様、危ない!」


 ハルの声に反応するように、俺の足元にいたミーアがジャンプして俺の顎に頭突きをかます。

 俺がよろけて後ろに倒れこむと、向かって来ていた何かが、さっきまで俺がいた場所の地面にめり込むような形で止まった。

 ハルが『グッジョブ、ミーア』とでも言いた気にサムズアップしている。

 助かったけど、もう少しお手柔らかにお願いしたかったよ、ミーア…。顎が痛い…。

 飛んで来たものに目をやると、そこにはぼろ雑巾のようになったササキがいた。


「…きん…た…ろう……ぐふっ…」


 それだけ言い残して、ササキが意識を失った。

 あ、ミーア、前足でチョンチョンするのは止めなさい。

 すると、ササキが飛んできた方向からウォルフさんとエリサさんが現れた。


「ウォルフさん、エリサさん、良かった、無事だったんですね」

「心配をかけたようだね。でも大丈夫だよ」


 ウォルフさん達はササキとの戦闘に勝利したようだ。

 ところで、この人は何故ささがきゴボウが入ったボウルを持っているのだろうか?

 そして、エリサさんが心なしか呆然と遠くを見ている気がする。

 いったい何があったのだろう?

 俺がそんなことを考えていると、二頭竜の咆哮が聞こえた。


「グヲオオオオオ!」


 振り向くと、二頭竜が振り下ろした爪をカイが剣で防いでいた。

 二頭竜の体は所々鱗が剥がれ、血が滲んでいる。

 カイが優勢に戦闘を進めているようだ。とはいえ、二頭竜もなかなか倒れない。


「ちっ、こいつ意外と根性あるな…」


 カイがもどかしそうにそう呟く。


「このままじゃ埒が明かないな、これで一気に決めさせてもらうぞ」


 そして、剣を自分の前に構え直して、叫ぶ。


「勇気を糧に、力を解放しろ! 勇気×1(ゆうきいちばい)!」

「おい、増えてないぞ!?」


 いや、『一倍』は『より一層』とか言う意味合いも持っているから、もしかしたら増えているのか? 『人一倍』とかいう言葉もあるくらいだしな。

 でも、今は明確に『×1』になっているから、やっぱり増えてないな…。

 そんなことを考えていると、カイの剣が眩く光り輝き始める。

 そして、カイがそれを振るうと、二頭竜の体に新しい傷が刻まれた。

 とりあえず、威力はさっきまでとあまり変わってないようだ。なんか剣が無意味に輝いただけだ。

 しかし、カイはそんなことお構いなしに、連撃を繰り出す。

 二頭竜も尻尾を振り回し、牙を剥き、爪を立てて反撃を試みるが、その攻撃はカイを捉えられない。

 その口に紫電が迸り熱線が放たれるも、それもカイを捉えることなく虚空へと消えていった。

 二頭竜に疲労の色が見える。

 そんな中、カイが二頭竜に走り寄り、その脚を斬りつけた。すると、二頭竜がその場へと倒れ込む。

 苦しそうにもがき、漸く立ち上がった時、その目の前には剣を構えて立っているカイがいた。


「これで終わりだ! くらえ! 竜ヲ喰ラウ者(ドラグイーター)!」


 カイがそう叫ぶと、手に持っていた剣に異変が起きた。

 白銀に輝いていた刀身が漆黒に変わり、有機的で禍々しい姿へと変貌する。

 そこにギョロッと目が見開かれ、刀身が裂けて牙が生える。

 そして、カイが剣を振るうと同時に刀身部分が肥大化し、二頭竜を一呑みにした。

 …え? 何これ?

 二頭竜が跡形もなく消え去り、カイは誇らし気な表情で剣を肩に担ぐ。

 そして、念の為にササキを縛り上げていた俺達の元へとカイが歩いてきた。


「ハイドラゴンほどじゃないけど、実に熱い戦いだった」


 満足気に語るカイだが、肩に担いだ剣が実に禍々しい雰囲気を醸し出している。

 完全に勇者という風貌ではない。


「カイ、少し訊きたいことがあるんだけど…」

「どうした、ヒイロ?」

「何なの、その剣…?」

「え? 剣がどうしたって?」


 そう言いながらカイが自分の剣へと視線を移す。

 すると、剣が一瞬で普段の姿に戻った。


「良い剣だろ? 師匠からもらったんだけど、俺の手にしっくり馴染むんだよな」


 そう言いながらカイが再びこちらを向き、剣から視線を外す。

 すると、剣が再び禍々しい姿へと変化する。そして、小馬鹿にするようにニタリと嗤う。


 この剣、なんかむかつく。

 というかこの勇者、もしかして気付いてないのか?


「勇気を糧にして力を発揮する剣で、グラトニーっていうんだ。勇者である俺にふさわしい剣だろ?」


 なるほど、有機を暴食(糧に)して力を発揮する剣か……。

 いや、どんな邪剣だよ!?

 とりあえず、仮にも勇者を名乗る者が持っていてはいけない気がする。イメージ戦略的にも。

 俺がそんなことを考えていると、カイが何かを差し出してきた。


「あ、そうだ…。ヒイロ、これ落としただろ?」


 カイが俺にスマホを手渡す。

 さっきササキが飛んで来た時に落とした俺のスマホだ。どうやら拾ってくれたらしい。


「ありがとう」

「俺の連絡先も登録しておいたからな! 勇者の連絡先なんて貴重だぜ!」


 カイはそう言いながら自分のスマホを取り出すと、自慢気に見せてきた。


「俺のスマホは、Xcurib(エクスカリバ)ワン。最近買ったばかりの最新機種なんだ!」


 とりあえず、名前だけでもその邪剣と交換しませんか?


「通信キャリアはもちろん…」


 英雄ですか?


「マリオネットワークだ!」


 うん、そういえばこの世界の通信独占企業だったね。


 そんなやり取りをしていると、半透明のオーギュストさんがキョロキョロと辺りを見回しながらカイの後ろに漂ってきた。

 すると、邪剣の目がギョロッとそちらへ向く。


 こいつは、幽鬼も糧にするのか!?


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