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012 リユウオウ ノ モリ

「この辺は緩衝地帯っていう話だけどさ、もし今回の調査で原因がもっと奥、それこそ竜王の森の深部にありそうだったらどうするの?」


 竜王の森は絶対不可侵だという。

 あんまり奥に踏み込んで、竜王に出会ったりしたら正直笑い話にもならない。

 そう思ってハルに尋ねてみた。


「そうですね、原因が竜王の森の深部にあるようなら調査の続行は不可能です。その場合は、森から溢れる魔物を少しでも減らす方向で対策を立てることになりますね。

しかし、深部に原因があるのであれば、もっと広範囲で大量発生の報告が挙がってもおかしく無いのですが、今回魔物の大量発生が報告されているのはこの周辺だけです。なので、原因はそれほど深部にはないという見立てです」


 あまり奥には行かないらしい。それなら安心かな。

 そこに、カイが驚愕の表情を浮かべながら口を挟む。


「えっ!? 竜王の討伐はしないのか!?」

「しません!」


 ハルにビシッと否定されて、カイが残念そうな表情を浮かべる。

 この勇者、本当に物騒だな…。


 そういえば、俺は竜王に関してあまり知らないな…。

 そう思い、ハルに尋ねてみることにした。


「竜王ドラグゴナレスって、なんか強いらしいってのは聞いたんだけど、実際のところどうなの?」

「そうですね…、まず竜にもいろいろな種類がいますが、その中でも最強種とされているのがハイドラゴンです。ハイドラゴンは、単体でも都市一つくらい簡単に滅ぼせるほどの力を持っています」

「確かに強かったな、ハイドラゴン。あれは熱い戦いだった!」


 ハイドラゴンという単語に反応して、カイが話に割り込んできた。

 というか、都市を簡単に滅ぼせるような相手を退けたとか、この勇者って実はチートキャラなのか?


「そのハイドラゴン全ての頂点に君臨するのが、竜王ドラグゴナレスです。

その姿は濃紺色ネイビーブルーの瞳と鱗を持った巨大な竜で、その咆哮一つで天地が震え、羽ばたき一つで街が消えるといわれています」


 それは怖いな…。

 そこへ、後ろで車椅子を押しながら歩いていたエリサさんが声を掛けてきた。


「竜王と言えば、人に化けていろんな街に出没しているなんて噂もありますね…。実はスイーツ好きだとか」

「どんな噂!?」

「あくまでも街で聞いた噂ですよ」


 いったい何をどうすればそんな噂が立つんだろうか?


「とりあえず、森の入り口付近で竜王と遭遇するなんてことは、絶対にあり得ないので安心して良いよ、ヒイロ君」

「ウォルフさん、それフラグ…」


 不吉なことを言うんじゃない。

 するとその時、ふよふよと漂っていたオーギュストさんが前方に人影を発見して指をさした。


「む? あそこ、誰か歩いておるぞ?」


 ちなみに、バルザックが負傷して意識不明の為、今車椅子の上にはバルザックが座っている。

 そして、その膝の上にオーギュストさんの本体。そこから半透明のオーギュストさんが出ている状況だ。

 なんだろうこれ…。


 森の奥を歩いていたのは整った顔立ちをした一人の若い男。

 紺色の瞳と髪。長く伸ばした髪は後ろで一つにまとめ、丈の長い薄手のコートを羽織っている。

 そして、手には最近ローリエの街で話題になっているという有名洋菓子店の紙袋を持っていた。


「おや、こんなところで人に会うのは珍しいですね」


 その男はこちらに気付くと、人当たりのよさそうな笑顔を浮かべながらそう言った。

 出会った場所がこんなところでなければ、とても悪印象は抱かなかったと思う。だが、さっきの話と合わせて考えると、これはもう、ほぼ決まりと考えて良いだろう。


 ハルが警戒しながら俺達の前に立ち、その男に尋ねる。


「こんなところで何をしているのですか?」


 その男はハルの問いに対して少し考えたような素振りを見せてから答えた。


「…えーっと。知人に会いに行くところなのですよ」


 それ、ゼッタイ嘘だろ。


「こんなところに? この先は竜王の森ですよ? それに、この辺りも一般人は立入禁止です」

「…迷ってしまいまして?」


 どう迷えばこんなところまで来れるのか?


「あなたの名前は?」

「…ライと言います」

「どこから来たのですか?」

「ローリエの街からです。…私は、怪しい者ではありませんよ」


 いや、間違いなく怪しさ大爆発です。

 むしろ怪しさしかない。

 というか、もう間違いなく竜王さんだろ?


「この男…」


 どうやら、ウォルフさんも気付いたみたいだ。


「自分とキャラが被りますね…」

「うん、ちょっと黙っててください」


 確かに話し方とか穏やかな雰囲気は似てるかもしれないが、あんたには『天然』というアドバンテージがあるから安心していい。

 すると今度はカイが何かに気付いたように呟く。


「こいつ…」


 まさか、カイが気付くなんてことがあり得るのか!?


「俺と名前が被るな…」

「本当に黙ってろ!」


 安定のポンコツ勇者!


 しかし、どうすれば良い?

 特に敵対する意思もなさそうだし、このまま会わなかったってことにはできないだろうか?

 そんなことを考えていたら、カイが前に躍り出て叫びだした。


「そうか分かったぞ! お前が今回の魔物大量発生の黒幕だな!?」


 カイ! 話が拗れるからやめるんだ。

 それに対して、竜王(仮)さんは相変わらず穏やかな雰囲気を纏いながら返事をする。


「…魔物の大量発生ですか? ああ、それなら私の所為ではありませんよ。最近この辺りをうろついている怪しい二人組の所為です」

「そんな言い訳が通用すると思っているのか? この勇者カイの目をごまかせると思うなよ!」


 そう叫びながら、カイが剣を構える。

 何これ、パーティ全滅フラグ?


 すると、竜王(仮)さんが少し困ったような顔を浮かべた後に声を上げる。


「あっ!」


 そう言いながら、上空を指さしている。

 そんな手に引っかかるのは、カイ、バルザック、オーギュストさん、ウォルフさんくらいだ。

 …あれ? 結構いるな。

 というかバルザック、いつの間にか目が覚めたのか。


 当然、上空には何もなく、再び全員が竜王(仮)さんの方を見る。微妙な空気が流れる中、竜王(仮)さんが再び何かに気付いたように声を上げる。


「あっ! 後ろ…」


 そう言って、今度は俺達の後ろを指さす。懲りないな、この男…。

 しかし、今度はハルとエリサさんも後ろを振り向いた。そして、ハルが俺をかばうようにしながら横へと跳び退く。

 その直後、大きな音と衝撃が俺達を襲った。

 目を開けると、先ほどまで俺達がいたところには大きな穴が開いていた。


「何だ!?」


 カイがそう言いながら周りを警戒し始めると、茂みの奥から一組の男女が現れた。

 男の方はなにやら長い棒を肩に担ぎ、女の方は黒いローブを身に纏っている。

 困惑しながら様子を窺っていると、その二人がポーズを決めながら口上を述べ始める。


「なんだかんだと聞かれても!」

「答えは棚上げ情けない!」


 おい!

 しかし、それだけ言うと二人組の動きが止まった。

 そして、後ろを向いてこそこそと話し始める。


「この後何だっけ?」

「覚えてないのか? ちゃんと打ち合わせしただろ?」

「ごめん、忘れたわ…」

「仕方ないな、この後は…。あれ、なんだっけ?」


 しばしの沈黙…。

 そして、二人が再びこちらを向いてポーズを取る。


「ミヤモト!」

「ササキ!」

「金貨を賭けるスロット愛の二人には!」

「ブラックホール、暗い未来あしたが待ってるぜ!」

「ニャーンニャ!」

「こら、ミーア戻ってきなさい」


 さも当然のように敵側に回ったミーアを窘めると、何やらやり切ったとでも言いたそうな満足気な様子で戻ってきた。


「魔物が森の外にまで溢れているのは、その二人がこの辺りを荒らしているからですよ。それでは、私はこれで失礼します」

「え、ちょっと…、待ちなさい!」


 エリサさんが引き留めようとするも、竜王(仮)さんはそう言い残して森の奥へと消えていった。


「あんたら何者だ?」


 カイが剣を構えながら尋ねると、ミヤモトと名乗った女が答える。


「私達は『秘密結社O2』! 勇者がしゃしゃり出てくるのは想定外だったけど、それでも私達の目的の邪魔はさせないわ!」

「目的だと!? 何をしようとしているんだ!?」

「フフフ、それを知りたければ、私達を倒すことね!」


 女の方が意味あり気に言うと、二人の後ろから三匹の紺色のドラゴンが現れた。

 それを見たカイが驚いて声を上げる。


「紺色のドラゴン!? ハイドラゴンか!?」


 ちょっと待て、ハイドラゴンが三匹って…、こいつらそんなの従えてるの!?

 そんな俺の疑問を打ち消したのはハルだった。


「あれはハイドラゴンではありません」

「え、違うの?」

「ハイドラゴンは確かに紺色のドラゴンです。しかし、あれは紺ではなく紺青です。ですから、あれはハイドラモドキでしょう」

「何そのグラデーション!?」


 竜王が濃紺色ネイビーブルー、ハイドラゴンが紺色、ハイドラモドキは紺青色ということらしい。

 詳しい色の違いは、いつの間にか名前が変更されていた日本産業規格でも参照してほしい。

 並べてみてようやく分かるくらいなのに、別々に出てきたら余計見分けつかないだろ!? 俺からしてみたら全部紺色だ!

 俺には、さっき出てきた竜王(仮)さんの髪の色との差すら分からない。


「あと、ハイドラゴンはもっと大型です」


 そうはいっても、目の前にいるのも全長10mほどはある。

 俺からしてみたら十分でかい。

 その時、ドラゴンに呆気にとられていた俺に向かって、ササキが長い棒を振りかざし襲い掛かってきた。


「ふっ、敵を前に呆けているんじゃない。覚悟!」


 慌てて身構える俺の前にウォルフさんが割って入り、ササキの棒をゴボウで受け止める。

 凄いな、そのゴボウ!

 いや、そういえばウォルフさんは物を強化して戦うとか言ってたか? ゴボウである必然性は全くないが…。


「お主やるな、そんなもので我が愛刀『物干し竿』を受け止めるとは…」


 感心したような素振りでそんなことを宣ったササキだが、俺はその時、別のことに気を取られていた。

 こいつの登場時からそんな気はしていたが、比喩とかではなく本当に物干し竿だ。それも、伸縮機能とハンガー掛けがついているタイプだ。

 つまり、愛刀とか言っているが刀ではない。

 俺が遠い目をしながらそんなことを考えている中、ササキが一旦距離を取る。そして再びウォルフさんとの距離を詰め、物干し竿を振り下ろす。

 ウォルフさんは咄嗟に後ろに下がり、物干し竿を躱した。

 その時、ササキが不敵な笑みを浮かべて叫んだ。


「秘剣! 燕返し!」


 ササキが目にも止まらぬ速さで物干し竿を切り返し、振り上げる。

 ウォルフさんは、それをなんとかゴボウで防いだものの体勢を崩してしまう。

 そこへすかさずササキが猛攻を続ける。ウォルフさんもそれを凌ぎ続けるが、押されるような形でササキと共に森の奥へと消えていった。

 そんな二人を慌てた様子でエリサさんが追っていく。


 こうして、戦闘の火蓋は切って落とされた。

 先ほどの奇襲で壊れた車椅子を修理しているオーギュストさん、再び気絶して地面に横たわっているバルザック、そしてミーアを抱いて特に役に立たない俺の三人を置き去りにして…。


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