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096 ココロ ノ トモ

挿絵(By みてみん)

どうも、白狐です。


帝都ロマネスコの守護者、その正体が明らかに…?


 帝都ロマネスコ、宮殿の宰相執務室。

 ネロが足元の大型犬を撫でていると、そこへ慌てた様子の人物が駆け込んできた。


「大変です、閣下!」

「何事だ」

「王国の勇者が帝都に姿を現しました」

「何だと!?」

「勇者の出現をいち早く察知した帝都ロマネスコの守護者が帝国通りにて迎え撃ちましたが、勇者達はこれを打ち破り、現在、宮殿へと向かっている模様です」

「何という事だ…。今すぐ宮殿の警備を固めろ。絶対に勇者の侵入を許すな!」

「はっ!」


 そうして返事をした部下が執務室を後にしようとしたとき、ネロの頭にふと疑問がよぎる。


「…ちょっと待て」

「はい?」

「お前、さっきとても気になる発言をしたな」

「と、仰いますと…?」

「……帝都ロマネスコの守護者とはいったい何だ?」

「あ、はい。ブロッコ・リーのことですね。奴は今までに何度も軍関連施設に侵入を繰り返してはあたかも関係者であるかのようにふるまっていた、帝国通り沿いに店を構える肉屋『肉欲の日々』の女主人の29人いる不倫相手のうちの一人です」

「………」


 情報量が多いわりに結局本人についてはいまいちわからない。

 その時、ネロの頭は現時点での優先順位を冷静に判断した。そして、この件についてこれ以上考えることを放棄したのであった。


「そうか…、もう行っていい…」

「はい」


 それと入れ違いになる形で別の人物が慌てて駆け込んでくる。


「ご報告申し上げます」

「どうした?」

「王国へと進行した我が軍主力部隊が王国軍と交戦。そこに介入してきた剣聖によって身包みを剝がされ、全裸での撤退を余儀なくされたました」

「待て、何をどうすればそんな状況に陥るんだ?」

「それともう一つ」

「何故答えない?」

「『お人形さん、怖い…』という連絡を最後にネプチューンとの通信が途絶しました」

「お人形さん!? どういうことだ、ネプチューンはどうなった!?」


 その時、突然どこかから声が聞こえてきた。


「あの戦艦ふねでしたら、既に無力化しましてよ?」


 その声に驚いて振り返るネロだったが、声が聞こえてきた方には誰も居ない。警戒気味に辺りを探っていると、ネロの足元で寝転がっていた大きな犬が立ち上がって唸り声を上げた。


「あら、あなたは気付いていますのね」


 そんな声と共に大きな犬が見つめる先の景色が歪んだかと思えば水のベールに覆われた人影が現れる。そして、その水のベールが消えると、そこに姿を現したのは赤いコートを身に纏ったハートの紋様入りの仮面の女。


「ハート…」

「あの戦艦ふねが出港する際にちょっとした罠を仕掛けさせてもらいましたの。今頃は皆揃って楽しい夢の中ですわ」

「貴様、どういうつもりだ!」


 怒りを露わにしてネロはハートを睨みつける。その時、執務室にまた別の人物が慌てた様子で駆け込んできた。


「閣下、大変です!」

「今度は何だ!」

「大公国が、王国ではなく帝国(我々)に対して宣戦を布告しました」

「は?」


 一瞬呆気にとられるネロだったが、すぐに状況を理解するとその顔に怒りが満ちる。


「ヴラッドめ、血迷ったか!」


 そんな様子に気圧されながらも部下が報告を続ける。


「いえ、それが…、ガリウム大公国は『大公リザ・バートリ』の名で宣戦を布告してきました」

「何…だと…? どういうことだ…? 次から次へと、いったい何が起こっている…?」


 ネロが困惑する中、ハートが口元に微かな笑みを浮かべる。


「全て、ワタクシ達の手の上ということですわ」



 ***



 時は少し遡り…。


 森の中に潜んでいた大公国軍精鋭部隊はヴラッドを先頭にして森から飛び出すと一気に城壁まで距離を詰める。


われが城壁を破壊する。このまま進め!」


 ヴラッドが足を止めることなく声を上げるとその周囲に幾つもの炎の槍が形成された。


「刺し貫け! 火焔刺突フレイムスティンガー!」


 それが城壁に向かって放たれようとしたその時だった、その場に何者かの声が響き渡る。


「彼の者達を拘束せよ…。血の束縛(ブラッディバインド)!」


 周囲に赤い霧が立ち込めると、それが鎖を形成して大公国軍の兵士達を絡めとる。予期せぬ状況に一瞬ヴラッドは戸惑いを見せるものの、すぐに冷静になると炎の槍で周囲の鎖を焼き払った。

 そして、城壁の上を睨みつけると声を荒らげる。


「どういうことだ。何故お前がここに居る、リザ!」


 城壁の上に立っていたのは大公国の公女リザ。


「お前には国境での陽動を命じたはず。それが何故、王都ヘレニウムに居るのだ!」


 捲し立てるヴラッドに対してリザが静かに答える。


「何を勘違いされているのですか、父上」

「勘違い…だと…?」


 その時になって初めてヴラッドは周囲の違和感に気付いた。

 大都市を囲うにしては明らかに小規模な城壁に周囲の寂れた様子。


「違う…。ここは…王都ヘレニウムでは…ない…?」

「その通り。ここは王都ヘレニウムでもなければ王国ですらありません。大公国の片隅、国境沿いにある要塞跡です」

「どういうことだ…? 我は何故…ここを王都ヘレニウムだと思っていた…?」

「どうやら冷静さを欠いていたようですね、父上。戦時の熱に浮かされでもしましたか?」


 自らの行動に困惑するヴラッドであったが、その発言を受けて出立時のリザの言動に思い至る。


「リザ。お前、祝福などと謀っていったい何をした!?」

「少しだけ判断力を鈍らせただけです。ここへ来て頂く為に」

「何だと? 何の為にこんな真似を」


 すると、リザは静かにヴラッドを見据える。そして、細剣の切っ先をヴラッドへと向けた。


「父上、あなたには大公位を退いてもらいます」


 一瞬呆気にとられるヴラッドであったが次第にふつふつと怒りがこみ上げてくる。


「フッ…、フフフ、フハハハハ…。はぁ…。ふざけているのか、リザ!」

「ふざけてなどいませんよ。このままあなたがこの国を率いていけば、その向かう先にあるのは破滅です。私には、この国の公女としてそれを回避する義務がある」

「破滅だと? 馬鹿なことを。我々は大国に振り回されるばかりの現状から脱却せねばならん。蝙蝠外交などと揶揄されながらも大国におもねり続ける未来などあってはならんのだ。そのためにも、我々は世界に対して力を示す必要がある」


 すると、少しだけ怒気を含んだ声でリザが問い掛ける。


「あんなおぞましい研究をしてまで…ですか?」

「何?」


 唐突なリザの問いに対してヴラッドがその真意を図りかねていると、ヴラッドに帯同していたレジルドが何か納得したように呟く。


「ああ、なるほど。見てしまったのかね、リザ殿下」


 状況を掴み損ねているヴラッドが訝し気にレジルドに視線を向ける。すると、それに気付いたレジルドは要塞跡へと視線を向けた。


「ヴラッド殿下は直接ここへいらしたことはないから気付かないのも無理はないね。ここは、私が今現在研究施設として使っている要塞跡だよ。前の施設は破壊されてしまったのでね」


 それを聞いて得心がいったヴラッドは再びリザへと視線を向ける。


「なるほど、そういうことか…。それで一時の感情に任せてこんな真似をしたとでもいうのか、リザ」

「最初に話を聞いたときは半信半疑でした。身寄りのない子供達を使って人体実験をしているなど、そんな話、信じたくはなかった…」

「必要な犠牲だ」

「あれが、必要な犠牲だというのですか…?」

「大局を見誤るな。我が国が周囲の大国と伍していく為にはどうしても力が必要だ。その力を手に入れる為には多少の犠牲はやむを得ない」

「大局を見誤っているのはあなたの方です。そうやって手に入れた力に溺れ、今まさに、この国を勝ち目のない戦へと巻き込もうとしている。この国の公女として、私はあなたの行動を見過ごすわけにはいきません」

「だから我を殺して大公位を手に入れようとでもいうのか?」

「あなた自身も、そうやって自らの父と兄を殺して今の地位を手に入れたのでしょう?」


 リザのその発言に、ヴラッドは一瞬だけ表情を歪めた。その時彼の胸に去来したのは悔恨か、それとも…。


「……ああ、その通りだ」


 少しだけ俯き気味にそう呟くと、ヴラッドは覚悟を決めた。


「もはやこれ以上の問答は意味をなさぬようだな…」


 ヴラッドの周囲に炎が渦巻く。

 それを見てリザもまた覚悟を決める。


「そのようですね…」


 そして、リザが自らの前に細剣を構える。


「刺し貫け! 火焔刺突フレイムスティンガー!」

「彼の者を紅く染めよ…。鮮血の雨(ブラッディレイン)!」


 ヴラッドとリザが同時に声を上げると、無数の炎の槍と紅い槍が入り乱れる。

 そうして始まった戦闘の様子を興味なさげな瞳で眺める一人の男。


「さて、私達はどうするかね?」


 そう呟いたレジルドは少し考えるとDolls隊へと視線を向ける。


「……うん、時間も押していることだし、この場は早急に片付けて王都へ向かうとしようか。Dolls、ヴラッド殿下を援護してリザ殿下を拘束しろ」


 命令を受けてDolls隊が動き始めると、その前に紅いコートの人物が立ち塞がる。


「行かせないよ」

「!? …ダイヤ…?」


 そこに姿を現したダイヤを見てレジルドが何かを察する。


「ああ、なるほど…。リザ殿下を唆したのは君かね?」

「唆しただなんて人聞きが悪いな~。リザ殿下はこの国の為に自らができることを自らの意思でやっているだけなんだけど」

「フン、まあ、私にとってはどうでもいいことだよ。そんなことよりも私は私の作品を早くお披露目したいんだ」


 その時、ふと何かに思い至ったレジルドが歪んだ笑みを浮かべた。


「ああ、まずは君で試してみるのもいいかもしれないね」


 言い終わるや否や、レジルドの近くに控えていた黒いローブの男の右腕が肥大化し漆黒の鱗に覆われる。そして、鋭い爪をむき出しにしてダイヤへと襲い掛かった。

 それに対してダイヤが身構えると、そこへクラブが割り込む。


「僕のことも忘れないでもらおうか?」


 クラブは背負っていたランスを構えると、黒ローブの爪を受け止める。そして、ランスを振り抜いて黒ローブを弾き返すとそのままダイヤの隣へと並んだ。

 すると、ダイヤが敵を警戒しつつもぽつりと呟く。


「ハル君はやっぱり残ったんだ…」

「残ってやりたいことがあるみたいだよ」

「そっか……。いいよ、ハル君…。こっちはお姉ちゃんに任せなさい」


 優し気な笑みを浮かべながらそう呟いた後、ダイヤは彼女達を無視してリザの方へと向かおうとしていたDolls隊へと視線を向ける。


「行かせないって言ったよね?」


 そう言いながらDolls隊へと左手を向けると、まるで小さな子供がピストル遊びでもするかのように指を立てる。

 すると、その動作を目の当たりにしたレジルドが馬鹿にするように声を上げた。


「何の真似かね? こんなところでピストルごっこでも始める気かね?」

「…でも、これを応用すればレールガンが撃てるらしいよ?」


 嘲るようなレジルドの発言に対しておどけたように返しながら、ダイヤは懐から棒金を取り出すとそれを左手にセットする。そう、あたかも拳銃の弾倉マガジンをセットするかのような動作で。

 次の瞬間、棒金の一番上の硬貨が勢いよく撃ち出された。


「まさか…、フレミングの左手の法則!?」


 レジルドが驚きの声を上げる中、撃ち出された硬貨はDolls隊の進行方向へと着弾し、その地面を打ち砕く。その威力を目の当たりにしたDolls隊は足を止めてダイヤを警戒し始める。


「さて、なるべく君達を傷つけたくはないんだけど…、話は聞いてくれなさそうだなぁ…」


 感情の宿らない瞳で自らを見据える少年少女達を前にして少し困ったようにダイヤが呟いていると、そこへレジルドが口を挟む。


「Dolls、この二人は殺しても構わない。早急に排除したまえ」


 その発言を受けてDolls隊が武器を構えて走り出す。ダイヤは迫りくる少年少女達を前にして少し気が重そうに息を吐くと徐に左手を向けた。


「少しだけ痛い思いをしてもらうことになるけど我慢してね」


 ダイヤの左手から硬貨が撃ち放たれると共にDolls隊は散開してそれを回避する。そして、素早い動きでダイヤとの距離を詰めると刃を向ける。

 敵が眼前に迫る中、ダイヤは動じることもなく口元に微かな笑みを浮かべる。


「夏の夜の夢(A Midsummer Night's Dream)」


 呟くようにそう口にすると周囲の空気が一変した。それと同時に、悪戯っぽい笑い声が響き渡る。


「キャハハッ」


 明らかな異変に警戒を強めるDolls隊。その時、そのうちの一人が背後に何かの気配を感じ取る。即座にその気配に向かって武器を振るうものの、その時には既にそこには何も居ない。

 すると、また別の誰かが何かの気配を感じ取って武器を向けた。しかし、そこにもまた何の姿も見て取れない。

 姿を捉えることはできないが確実に何かが周囲を飛び回る気配。その気配に翻弄されて完全に足が止まってしまったDolls隊の一人の眼前に突如として何かが姿を現す。


「ばあっ!」


 思わず飛び退くと、そこには腹を抱えてケタケタと笑っている半人半獣の妖精。

 突如として現れた妖精に少しだけ驚いた様子を見せたものの、Dolls隊はすぐさま立て直すと武器を構える。

 そんな少年少女達と対峙しながらダイヤがおどけたように口を開く。


「さあ、パック。少しだけこの子達と遊んであげよっか」

「キャハハッ」


 ダイヤに翻弄されるDolls隊。その様子をレジルドは冷めた瞳で見つめる。


「ある程度の実力者を相手にしたらこんなものか…。所詮、失敗作はどこまでいっても失敗作ということだね…。でも、まあ、Draculaのお披露目には丁度いい相手かもしれないね」


 そんなことを呟きながら歪んだ笑みを浮かべると、自分達の前に立ち塞がったもう一人の敵、クラブへと視線を向ける。


「君にもそのくらいの実力はあるのかな?」


 次の瞬間、クラブの背後へと回り込んだDraculaが右腕を振り上げた。咄嗟に振り返ったクラブはランスでそれを振り払う。

 そのまま反撃に移ろうとするクラブだったが、Draculaの左腕が漆黒の鱗に覆われていくのに気付いて距離を取る。それに対して、Draculaはすかさず距離を詰めると猛攻を開始した。


「なかなかよく耐えるものだ。でも、Draculaの力を示す為にはそのくらいではいてもらわないとね」


 狂気に満ちた瞳で見つめるレジルドの前で、クラブはDraculaの猛攻を捌き続ける。


「いいねいいね。それじゃあもう少しレベルを上げてみようか」


 レジルドの発言と共にDraculaに異変が起きる。その背中が盛り上がると、ローブを突き破って漆黒の翼が生えてきた。

 Draculaは翼をはためかせながら飛び上がるとクラブへと襲い掛かる。クラブは怯むこともなくそれを迎え撃つ。

 そのまま激しい攻防が続く中、レジルドが徐に語り始めた。


「旧世界の生き残りでもある『吸血姫カーミラ』の再封印から17年。カーミラから得られたサンプルを基に、今は失われた『想像と創造(イマジネイト)』の力の研究を進めてきた…」


 レジルドの語りを聞きながらも、クラブは的確に攻撃を受け流しつつ隙を探る。


「初めのうちは全く成果も上がらず失敗続きだったのだがね、何度も実験を繰り返すうちに幾つかの糸口を見つけ、そして、幾つかの成功例を生みだすことができたのだよ…」


 レジルドの語りが続く中、大振りの一撃を躱したクラブは一瞬の隙を突いて懐へと潜り込む。そして、渾身の力でランスをDraculaの腹部へと突き立てた。


「そう、このDraculaこそがその成功例の一つ…」


 この状況においても慌てた様子すら見せないレジルド。一方で何故かクラブが慌てた様子を見せる。

 自らが握るランスによって確かに相手の腹部を貫いたはずだった。しかし、そこには全く手応えがない。

 すると、レジルドがいやらしい笑みを浮かべた。


「『想像と創造(イマジネイト)』の力の制御に成功したDraculaは、自らの肉体の構造を組み替えることによって全ての物理攻撃を無効化することができる」


 次の瞬間、腹部を貫かれていたはずのDraculaの体が散り散りになり無数のコウモリとなって黒いローブの隙間から飛び去っていく。

 コウモリ達は驚くクラブの周囲を通り過ぎると上空で寄り集まる。すると、そこに現れたのは両腕と下半身が漆黒の鱗に覆われ、背中から翼を生やした年の頃17~18といった男の姿。

 その姿を目の当たりにしたクラブが表情を歪める。

 怒り、哀しみ、後悔、そして、幾許かの懐かしさ…。様々な思いが彼の胸に去来する。


「ジャン…?」


 完全に足が止まってしまったクラブに向かってDraculaが急降下する。クラブがハッと我に返った時には既に右腕が眼前に迫っていた。そのまま頭部を粉砕しようと掴みかかる腕をクラブはランスで跳ね上げる。

 完全に躱しきれなかった腕がクラブの仮面を引き剥がす中、クラブは怒りの形相でレジルドを睨みつけた。


「これはいったいどういうことだ、ジル!」


 露わになったクラブの素顔を前にしてレジルドもまた少しだけ驚いたような表情を浮かべた。


「ライル…?」


 そして、嬉々として語り始める。


「ライル、ライルじゃないか。随分と久しぶりじゃないか、生きていたのかね。17年前のあの日、あの混乱の中で死んだとばかり思っていたよ。いやあ、良かった良かった。生きていてくれてうれしいよ、ライル。本当に、百圓戦争を共に戦った三人がこうしてまた集うことができて嬉しい限りだよ」

「ふざけるな…。ふざけるな! …ジャンは死んだ…。百圓戦争の英雄、ジャン・ダークは、17年前のあの日、死んだんだよ…。それなのに、君はいったい何をしたんだ、ジル!」


 怒りを露わにするライルを前にしてレジルドは理解できないとでも言いたげに狂気に満ちた視線を向ける。


「ジャンが死んだ? 何を言っているんだね、ライル。現にここにこうしてジャンは生きているじゃないか」

「こんな感情の宿らない人形のどこがジャンだって言うんだ。僕は薄れゆく意識の中で確かに見た…。百圓戦争の最終決戦のあったあの日、ジャンは突如として戦場に乱入してきたカーミラから仲間を守る為に、自らの全身を貫かれ命尽きながらもカーミラを拘束し、そして、カーミラと共に焼き払われた…」

「あぁ、思い出すねぇ。あの時のジャンは実に輝いていた」

「あの中で人であるジャンが生きていられるわけがない…」

「確かにそうだね。だが、あの時カーミラは拘束を解く為にジャンを自らの眷属にしようとしていたのだよ」

「眷属…?」

「そう。カーミラによって作り替えられたジャンは『想像と創造(イマジネイト)』の適性を得た。そして、あの業火の中でも生き残ったのだよ。とはいえ、あの戦闘での損傷は激しく、ここまで修復するのに多大なる実験と時間を要したがね」


 レジルドの発言をどこか遠くで聞きながらライルは上空に浮かぶDracula(ジャン)を見上げる。しかし、そこに居るのは感情の宿らぬ瞳でただただライルを見下ろすだけの男。

 そう、かつての友と同じ顔をした、かつての友とは異なる存在。


「どれだけの時間がかかろうとも、こうしてジャンは私の元へと帰ってきてくれた」


 嬉々として語るレジルドの言葉に、ライルの胸に怒りと哀しみがこみあげる。


「違う…。ここに居るのは、もうジャンじゃない…」

「ジャンだよ。ここに居るのは間違いなくジャンだ」


 レジルドが叫びを上げると、Draculaが上空から勢いを付けながら飛来し、そのままライルめがけて組んだ両手を勢いよく振り下ろす。

 咄嗟にランスを構えて受け止めるが、その勢いを完全に殺しきることはできずにライルの口から呻き声が漏れる。そんなライルを感情の宿らぬ瞳で見据えながらDraculaが畳み掛ける。Draculaの両肩からさらに二本、漆黒の鱗に覆われた腕が生えるとそれを組んで勢いよく振り下ろす。


「ぐあっ」


 耐えきれずに地面へと叩き伏せられたライルにさらなる追撃が迫る。それをなんとかランスで撥ね退けながら距離を取ろうとするが、Draculaがそれを許さない。


「ジャンジャンいくじゃん!」


 Draculaは無表情でそんな声を上げながら、四本に増えた腕でライルに追いすがりラッシュをお見舞いする。


「ほら、ライル。その姿も、その強さも、そしてその口癖もまさしくジャンそのものだろう?」


 レジルドが狂ったような笑い声を上げるが、ライルにはそれを気にするだけの余裕はなかった。四本の腕によるとめどない攻撃。それを捌き回避するだけで手いっぱいだった。

 次第に苦境に追い込まれていくライル。しかしその時、ライルに向かって何かが飛んできた。そのままこつんとライルの体に当たったのは一枚のコイン。

 すると、そのコインが光り輝きライルの周囲を包み込む。そして、そこに『敏捷性UP(負けないで)! ¥500』という文字が浮かび上がった。


投げ銭(スパチャ)…?」


 ライルが驚いたようにそう呟きながらコインが飛んできた方へと意識を向ける。そこには右手で小銭を跳ね上げながらライルを見ているダイヤ。その後ろには完全にパックに弄ばれているDolls隊の姿が見て取れる。


「ありがとう。助かったよ、ナツ…」


 そして、ライルが反撃に出る。

 素早い動きでDraculaの横に回り込むとランスを叩きつける。しかし、Draculaの体がコウモリに変化して飛び去ったことでその攻撃は空を切った。

 一斉に飛び去ったコウモリ達が少し離れたところで寄り集まると、そこに再びDraculaの体が構築される。すると、その瞬間を狙ってライルが距離を詰めて突きを放つ。

 再び飛び去るコウモリ達。そして別のところへと寄り集まって体を構築し始めるが、ピタリと付いてくるライルがそれを許さない。何度寄り集まろうとしてもライルが振るうランスによって振り払われて全身を構築することが叶わない。

 そんなことを何度も繰り返していると、コウモリ達が一斉に空高く舞い上がった。そして、ライルの手の届かない空中で再びDraculaが姿を現す。

 簡単には手の届かないところへと飛び上がったDraculaを見上げながらライルは冷静に状況を整理していた。

 さっき腹を貫いた時、本当は胸を一突きにするつもりだった。でも、ランスを構えた直後、Draculaは確かに胸部を庇うような動きを見せた。初めは回避しようとしただけかと思っていたが、コウモリになって逃げられるのであればその行為には意味がない。

 そして、その違和感はコウモリ達との攻防の中で確信に変わった。何度もコウモリ達を散らしているうちに気付いてしまった。このコウモリ達は一体のコウモリを庇う様に動いている。そして、体を再構築するときにはその一体のコウモリが起点となって胸部から再構築されている。

 それに気付いたライルがレジルドへ問い掛ける。


「上手く誤魔化しているみたいだけれど、『想像と創造(イマジネイト)』を完全に制御できているというのは嘘だね?」

「どうしてそう思うのかね?」

「カーミラにはなかった弱点が、この個体には存在している…。違うか?」


 その問いにレジルドは何も答えない。


「カーミラと違って、この個体には明確に核となっている部分があるんじゃないのか?」


 その問いにもレジルドは何も答えない。

 ライルは一呼吸置いて覚悟を決めると核心に迫る。


「そこにあるのはジャンの心臓か?」


 わかりにくかったものの確かにレジルドが一瞬表情を強張らせた。


「そうか…」


 レジルドの反応で全てを悟ったライルが上空のDraculaを見上げる。


「何をする気だね、ライル」


 慌てたようなレジルドには目もくれず、ライルは上空のDraculaを見つめながらランスを握る手に力を込める。


「やめるんだ。君は、ジャンを殺そうというのかね?」


 レジルドの声には耳も貸さず、ライルはランスを構える。

 そこへ飛んできたコインがライルの持つランスへと当たると、周囲を包む光と共に『攻撃力UP(頑張って)! ¥500』の文字が表示される。

 すると、ライルはDraculaへと狙いを定めた。


「従えるは憤激の心槍(valet de cœur)」


 投擲されたランスは一直線にDraculaへと向かう。

 そして、その先端がDraculaの胸部へと達した瞬間、ライルには、それまで感情を表に出すことのなかったDraculaが優し気に微笑んだように見えた。

 レジルドの悲鳴のような叫びをどこか遠くの事のように聞きながら、ライルはかつての友に想いを馳せる。


「安らかに眠れ…、ジャン…」


白狐 「ちなみに、帝国通りにある肉屋『肉欲の日々』の隣が、カイ達が出てきた衝撃土竜ショッキングモール地下街()の8番出口です」

ヒイロ 「だからいち早く気付いたの!?」


===

ヒイロ君はツッコみたい!

〇ケース1

Dracula(ジャン) 「ジャンジャンいくじゃん!」

ヒイロ 「唐突に雰囲気ぶち壊しにくんじゃねぇ!」

レジルド 「ほら、ライル。その姿も、その強さも、そしてその口癖もまさしくジャンそのものだろう?」

ヒイロ 「お前の友人(ジャンさん)への認識どないなっとんねん!」

挿絵(By みてみん)

〇ケース2

ライル 「投げ銭(スパチャ)…?」

ヒイロ 「あれ? 投げ銭(スパチャ)ってこういうもんだっけ!?」


===

コスプレミーア ノ モフモフエニツキ

挿絵(By みてみん)


===

没ネタ

 ・・・クラブは背負っていたランスを・・・

ランス 「あれ? 僕、どうしてこんなところに?」

クラブ 「!? 間違えた!?」


===

ヒイロ 「よいこのみんな~! 『ヒイロ脳内劇場 おしえて☆理解さん』はっじまっるよ~!」

ドンドン パフパフ

ヒイロ 「さて、始まりました『ヒイロ脳内劇場 おしえて☆理解さん』。このコーナーでは、この世界の不思議について理解さんがみんなの理解を手助けしてくれるよ。というわけで、今回のテーマは、百圓戦争についてだ。それでは理解さん、よろしくお願いしま~す」

理解さん 「はーい。よろしくお願いします」

ヒイロ 「さて、さっそくですが、理解さん。百圓戦争とはいったいどんな戦争だったのか教えてください」

理解さん 「それでは説明しましょう。百圓戦争とは、17年前に大公国に対して帝国が侵攻したことによって始まった戦争です。そこへ王国も軍事介入したことで大公国を舞台にして三国による泥沼の戦争が繰り広げられたのだとか」

ヒイロ 「へぇ」

理解さん 「そんな戦争の発端は、とある一人の帝国貴族」

ヒイロ 「ほう」

理解さん 「外交の一環で大公国を訪れていたその貴族は、その日、ふと近くの百圓ショップに立ち寄ったそうです。そして、何気なく手に取った商品を持ってレジへと進んだ貴族は、そこで衝撃の事実を告げられました」

ヒイロ 「うん、何だか嫌な予感がしてきた…」

理解さん 「そう、その商品は、何と百圓ではなく二百圓だったのです」

ヒイロ 「最近は、そもそも店側も自らを『百圓ショップ』だとは謳ってないしね」

理解さん 「百圓しか持ち合わせていなかった貴族は、一度はその商品の購入を諦めようかと考えたそうです。しかし、一度レジを通してしまった商品をキャンセルするという行為を、貴族としてのプライドが許さなかった。そして、その貴族は忸怩たる思いで同伴していた大公国の高官に頭を下げて百圓を借りたそうです」

ヒイロ 「その貴族のプライドがどこにあるのかがわからねぇよ」

理解さん 「その貴族は外交日程を途中で切り上げてその日のうちに緊急帰国。そして、帝国貴族のメンツを潰されたことに怒った帝国は大公国に対して賠償を要求しました」

ヒイロ 「まず百圓返せよ」

理解さん 「法外な賠償を要求された大公国側は交渉を試みますが、帝国側はこれに対して誠意が見えないと軍事侵攻に踏み切ったというわけです」

ヒイロ 「そんなくだらない理由で戦争起こさないで?」

理解さん 「まあ、帝国としては軍事侵攻の為の口実が欲しかっただけなので理由はどうでもよかったんじゃない?」

ヒイロ 「それにしたってもっと他に何かあっただろ」

理解さん 「でも、現実世界でも割と言いがかりみたいな理由で大国が戦争吹っ掛けてるし」

ヒイロ 「……まあ、うん…」

理解さん 「さて、そんな百圓戦争ですが先述した通り王国も介入してきて泥沼化していきます。そんな中、颯爽と現れたのが後に百圓戦争の英雄と称されるジャン・ダークです。大公国の片田舎で農家の息子として生まれた彼は、ある日、神(?)から『ジャンジャンいくじゃん?』という啓示を受けました」

ヒイロ 「啓示なのか?」

理解さん 「ジャンは『ジャンジャンいくじゃん!』という方針の下、とにかく力押しで強引に従軍し、とにかく力押しで帝国軍と王国軍を押し返していったのだとか」

ヒイロ 「力押し…」

理解さん 「そして、百圓戦争も終盤に差し掛かった頃、事件は起きます」

ヒイロ 「まさかそれが…」

理解さん 「そう、吸血姫カーミラの復活です。突如として首都ドラクラ・バンピラの城内にて目覚めたカーミラを、ヴラッドは輸血パックを使って最前線へと誘導し帝国と王国の侵攻部隊へとぶつけることに成功。しかし、両軍を殲滅したカーミラはそのまま大公国軍へもその牙を向けます。そこを、ジャンの活躍により拘束、そして、ヴラッドに焼かれ、弱体化したところを再封印されました」

ヒイロ 「こうして百圓戦争は幕を閉じたわけだ」

理解さん 「はい。ちなみに、カーミラ復活の直前に、当時の大公であったヴラッドの父と継承順一位であった兄及びその妻と娘がヴラッドによって殺害されたとされていますが、そこで実際に何があったのかについては謎に包まれているそうです」

ヒイロ 「それ、実は作者自身が(作者の頭の中)何も考えてない(でも謎に包まれている)とかじゃないよね?」

白狐 「………」

ヒイロ 「否定しろよ」

理解さん 「おや? そんなことを言っている間にそろそろ時間みたいだね」

ヒイロ 「え? もうそんな時間? というわけで、今回の『ヒイロ脳内劇場 おしえて☆理解さん』はここまで」

理解さん 「皆の理解の手助けになれたかな?」

ヒイロ&理解さん 「「それじゃあ、また次回。ばいば~い」」

チャンチャン


……

………

白狐 「………………ヒイロ…、君、この新しい芸、気に入ったの…?」

ヒイロ 「気に入ってねぇよ。お前がやらせてんやろがい!」

……

ヒイロ 「というか、本編の内容をあとがきで俺に補完させようとするのやめてくんない?」

白狐 「……な、何のことかな~?」 ♪~<(゜ε゜;)>


===

おまけ

今日のミーア? 『また、出番ニャイの…』

挿絵(By みてみん)


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