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087 ユウシヤサンジヨウ

挿絵(By みてみん)

どうも、白狐です。


味方がピンチに陥ってから颯爽と登場する。それがヒーローの『最低』条件。


『10m先、右方向です』

『5m先、左方向です』


 ………。

 お前はカーナビか?

 そんな疑問が頭を掠める俺を先導するように飛んでいるのは、胴体部分に謎の矢印が浮かび上がると共に謎の音声を発する紙の人形ひとがた


『目的地付近です』


 そんな人形ひとがたによる身振り手振りも交えた誘導によって辿り着いたのは王宮の一角にある豪華な装飾が施された大きな扉の前。


「ここが宝物庫?」

「どうやら、そのようじゃのぅ」


 俺が呟くように確認すると、オーギュストさんは『ナビを終了します』との音声を発する人形ひとがたに視線を向けつつ答えた。

 宝物庫の前に人影はなく、その扉は開かれている。


「扉が開いてる…。アレックスさん達は中に…?」

「気を付けて確認しろよ、ヒイロ。もしかしたら、中に敵がいるかもしれないからな」


 おい、バルザック。何をしれっと俺が確認する流れに持っていこうとしてるんだよ。

 言うだけ言って自らは絶対に動こうとしないバルザックにちょっとした苛立ちを覚えていると、足元に居たミーアが扉の方へと歩き出す。


「あ、ミーア…」


 引き止めようとする俺の腕を搔い潜ると小走りで扉の前まで進む。そして、中を覗き込むと不思議そうに首を傾げた。

 ミーアを追って俺も扉の前まで移動し、そっと中を覗き込んでみる。すると、中はもぬけの殻。


「誰もいない…。というか、何もない…?」

「どういうことだ、ヒイロ」


 安全が確認できたと判断したとたん、したり顔で近付いてくるバルザック。そんなバルザックに不満を抱きつつも中へと足を踏み入れる。

 そこは、金属板をつなぎ合わせたような壁や天井に囲まれた広い空間。ところどころに金属製の足場や階段が見て取れる。

 広大な空間に圧倒されながら奥へと進んでいくと、俺よりも少し前を歩いていたバルザックの姿が突然消えた。


「うおっ…? うぎゃあぁぁぁ!」


 間の抜けた声の後に大きな悲鳴。驚いて咄嗟に飛び退くと共に足元に視線を向ける。すると、そこには大きな四角い穴が開いていた。


「何じゃ、この穴は…?」


 そんなことを呟きながら中を覗き込むオーギュストさんに続いて中を覗いてみると、穴の側壁にはレール。


「エレベーター…?」


 直感的に浮かんだ感想を述べていると、辛うじて穴の端に掴まっていたバルザックのところへミーアが歩いていくのが見えた。ミーアはバルザックが掴まっている前にちょこんとお座りすると、愛らしいお顔で穴の中を覗き込む。そして、見上げたバルザックと目が合うなり何やらとても悪そうな顔を浮かべ、前足を掲げて爪をむき出しにしてみせた。

 絶望の表情で震えるバルザック。

 こらこら、バルザックで遊ぶんじゃない。

 ミーアが満足そうな表情で見守る中で、オーギュストさんと共にバルザックを引き上げる。

 その直後、バルザックが馬面へと変わり虎耳()が生えた。着実にトラウマが増えつつあるバルザックだが、そんなバルザックには目もくれずオーギュストさんは改めて周りを見回しながら難しい表情を浮かべる。


「それにしても、どうやら一足遅かったようじゃな。宝物も持ち出され、アレックス達も居らぬようじゃ。また振り出しじゃな…」

「そうですね」


 そうやってオーギュストさんに同意しつつ、俺はさっきからずっと思っていた疑問を口にする。


「それにしても、ここ、宝物庫というより、むしろ格納庫ですよね…?」


 いったい、ここには何があったんだ…?

 目の前に広がる広大な空間を見上げながら、俺はとてつもない不安感に襲われていた。



***



 ヴラッド大公が率いる大公国の精鋭部隊は密かに王国との緩衝地帯であるミランダ渓谷へと足を踏み入れていた。そこへ大きなランスを背負った一人の男が合流する。


「始めましてヴラッド殿下」


 がっしりとした体格のその男は黒いコートを身に纏い、クラブの紋様が入った仮面で顔を覆っていた。


「これより先は、この幻影道化師ファントムクラウンのクラブがご案内します」

「よろしく頼む」

「王国の国境警備部隊には意図的に情報をリークしています。今頃はリザ殿下率いる陽動部隊を捕捉し、そちらに警戒の目を向けていることでしょう」

「そうか」

「我々は、このまま警戒網の隙を突いて渓谷を抜け、王都ヘレニウムを目指します」


 するとそこへ白衣を纏った男が近付いてきた。


「いよいよだね。いよいよ私の作品のお披露目の時が来たということだね」


 そんなことは言うものの、彼には特に会話をしようという意思はないようだ。直ぐに持っていた人形を両手で大事そうに掲げるとブツブツと呟き始める。


「ようやくだ、ジャン。ようやく私と君の願いが叶う時が来たようだよ。フハ、フハハ」


 そんな狂気交じりの笑い声をあげるレジルドのことをクラブはただ黙って見つめていた。


「この狂人のことは無視してもらって構わん」


 ヴラッドのその発言にクラブがハッと我に返る。


「そうですね…。それでは、詳しい説明の前に、いったん場所を移動しましょう」

「そうか、案内しろ」

「はい」


 クラブはそう答えると先導する為にヴラッド達に背を向ける。そして、口元に微かな笑みを浮かべた。


「ようやく見つけた…」



***



 レニウム王国の南方、グリ高原よりもさらに南に位置するガリウム帝国との国境となる山岳地帯。

 王国の国境警備部隊は、地の利を活かした戦術で帝国軍主力部隊の足止めに成功していた。


「帝国軍の進軍速度はだいぶ鈍ってきましたね」

「それはそうさ。ただでさえ山岳地帯の険しい雪道を進むことで隊列が伸び切っているところへ、ヒットアンドアウェイでの攻撃を受け続けているわけだからな。警戒度を相当上げているだろう」


 長い列を成して進む帝国軍を崖の上から見下ろすのは、王国国境警備隊の隊長と副長。


「それに、『地獄耳(hells ear)』の二つ名で知られる帝国の将校マギーシンを初戦で討ち取れたのが大きい」

「そうですね、マギーシンの情報収集能力は脅威でしたから」

「戦況把握で優位に立つことさえできれば、もともと地の利はこちらにあるからな」


 軽い口調で受け答えしていた隊長だったが、覗いていた双眼鏡を下ろすと真面目な表情で副長に視線を向ける。


「…しかし、未だに増援部隊の布陣が完了したという連絡はないのか?」

「はい。まだありません」


 その報告を受けて隊長は表情を曇らせた。


「そうか…、随分と時間がかかっているな…。もう少し時間を稼ぐ必要があるか…?」

「そうですね…」

「仕方がないな。ここらでもう一戦仕掛けておくとするか」

「はい」


 そうして国境警備部隊が帝国軍へ奇襲を仕掛けようと準備し始めたその時だった、部隊の背後から予期せぬ襲撃を受ける。


「何だ!?」

「隊長、敵襲です」

「どういうことだ!?」


 咄嗟に応戦しながら状況を確認すると、周囲のあらゆる物陰に帝国軍の兵士達が潜んでおり完全に包囲されていた。


「どういうことだ…。いったい、どこからこんな部隊が…?」


 隊長が焦りを見せる中、副長が何かに気付く。


「隊長、奴等の服を…」


 そう指摘されて注意深く観察すると、包囲している帝国兵達の服は赤い血に塗れていた。それを見た隊長が何かに思い当たる。


「まさか!」

「気付くのが少し遅かったようだな」


 突然聞こえてきた声に驚いて振り返ると、少し離れた岩の上にドヤ顔で見下ろしてくる大きな耳の男が立っていた。


「貴様は、『地獄耳(hells ear)』のマギーシン!」


 すると、突然大きな耳の男が怒り出す。


「おい、俺をその厨二っぽい二つ名で呼ぶんじゃない! 俺の二つ名は『地獄耳(big ears)』だ!」

「貴様、やられたフリをしていただけだったのか!」

「まさかの無視だと!? びっくりして耳がでっかくなってしまったぞ!?」


 ※現在、ツッコミはセルフサービスとなっております。

 そんなマギーシンの発言が聞こえているんだかいないんだか、隊長は苦虫を嚙み潰したような表情で続ける。


「何ということだ。俺達は地の利を活かした戦術で優位に立っていたはずだったのに、貴様等はそれすら見越して血糊を活かした戦術で逆転の機会を狙っていたというのか!」


 ※ツッコミはセルフサービスです。


「そういうことだ。既にお前達は完全に包囲されている。無駄な抵抗はしない方が身の為だぞ」

「クッ…、何ということだ…。ここまでなのか…」


 国境警備部隊が絶望の空気に包まれたその時、突如として崖の上から声が聞こえてきた。


「諦めるな!」


 全員が一斉に崖の上を見上げると、そこには一台の六輪式装甲車。その屋根の上には邪剣(王国旗)を掲げる赤い髪の少年。さらに、崖の上にずらっと王国兵が姿を現す。

 すると、赤い髪の少年がポーズを決めた。


「待たせたな! 帝都ロマネスコ攻略部隊を率いて、勇者カイ、ここに参上!」


 その名乗りと同時にその背後で特殊効果の爆発が巻き起こる。


「援軍…? 助かった…?」

「救世主だ」


 国境警備部隊の兵達が歓喜に沸く中、装甲車の車内ではエリサがここに至るまでのカイの発言を思い出していた。


***


発言その1

「何!? 近くで国境警備部隊と帝国軍が戦闘中だって!? しかし、俺達には帝都ロマネスコへ行って王国旗を掲げるという重要な任務が…」

発言その2

「しかし、勇者たるもの、味方を見捨てるわけにもいかないな…。よし、勇者小隊は誰にも気取られないように崖の上に移動だ」

発言その3

「…え、どうしてかって? 勇者登場シーンにおいて、味方が危機に(登場タ)陥ってからの登場(イミング)高いところからの登場(位置取り)は最重要事項だからだ!」


***


 ……。

 エリサは何か納得のいかない思いを抱えながらも遠くを見つめることしかできなかった。

 ※エリサでは対処不能です。ツッコミは各自でお願いします。

 『ゴゴゴゴゴッ』という効果音と共に緊迫した空気感でにらみ合うカイ率いる王国軍とマギーシン率いる帝国軍。その緊迫した空気を打ち破るかのように、あくまでも冷静な態度でマギーシンが口を開く。


「俺の探知能力(自慢の耳)に全く気取らせずに俺達を包囲するとはな、さすがは噂に聞く勇者カイ。いったい、どんな魔法を使ったのか教えてもらいたいところだ」


 そんな風に『敵ながらあっぱれ』とでも言いたげな雰囲気でマギーシンが語る中、カイが得意気に笑みを浮かべてみせる。


「勇者とは、味方がピンチに陥った時に高いところから颯爽と登場するものと決まっているのさ。そこに至る過程を気取られるなんて三流のすることだ。そして、一流ともなればそういった過程をすべて省略できる。そう、いわゆる『見られなけ(アイドルは)れば無いのと一緒(トイレに行かない)理論』の応用だ!」

「なるほど。王国が今代の勇者をアイドル路線で売っていたのにはそういう意図があったのか」


 ※ツッコミは(以下略)。

 カイとマギーシンによる理解不能な会話が続けられていたその時、装甲車の中ではエリサがある異変に気付き始めていた。

 相変わらず鳴り続ける『ゴゴゴゴゴッ』という効果音(?)。そして、微かに振動し始める大地。そんな中、勇者登場の特殊効果に使った装置を片付けていた隊員が何かに気付いた。


「あれ…? 爆薬の量、間違えてた…?」


 そんな衝撃発言はカイの耳には届かない。

 睨みあっていたカイとマギーシンが動きを見せる。


「勇敢なる戦士達よ、本能のままに帝国軍を食い破れ!」

「屈強なる帝国兵よ、迎え撃て!」


 カイとマギーシンがそんな叫びを上げ、両軍が動き出した丁度その時だった。その場に居た者達が先ほどから鳴り響いていた『ゴゴゴゴゴッ』という音の正体について否が応でも思い知ることになる。

 ひときわ大きな音と共に山上に積もっていた雪が一気に滑り落ち、雪崩となってその場を襲う。

 両軍共にちょっとしたパニック状態となる中、カイだけは状況に全く気付かない。


「さあ! 敵陣へ雪崩れ込め!!」


 カイのそんなシャレにならない発言と共に、最初にカイ率いる小隊が。続いて国境警備隊とマギーシン率いる部隊が。そして、さらに下方に位置していた帝国軍本隊が次々と雪崩へと飲み込まれていく。

 その様子を少し離れた位置で目撃していたのは王国軍の本隊に同行していた剣聖レオ。覗いていた双眼鏡を下ろすとぼそりと呟く。


「勇者(による)惨状…?」


おまけ

今日のミーア『悪そうな顔』

挿絵(By みてみん)


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