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000 プロローグ
少年は英雄に憧れていた。
祖国を守る為に立ち上がる少女の物語。
邪悪な竜を倒し、不死身の体となった男の物語。
異国の侵攻を退け、国を守った王の物語。
少年はそんな物語の主人公に憧れていた。
可能ならば、自分もそんな英雄になりたいと願っていた。
人々に称えられるような英雄に。
しかし、少年のいる日常は平和だった。
日々の些細な諍いこそあれ、大きな戦もなければ、悪と断じられるような強大な敵もいない。
今日も、少年はいつもと変わらない日常を送る。
学校へ行き、勉強し、友人達と他愛のない会話を交わす。
それは、持たざる者からすれば大きな幸福なのかもしれない。
しかし、それが当たり前となっている少年にとっては、ただの退屈な日常でしかなかった。
そんなある日、学校からの帰り道にいつものようにスマホでゲームをしていた少年の前に、一人の少女が現れる。
白いワンピースに身を包んだ少女はその黒い瞳で少年を見つめる。
そして、少女は長い黒髪を風になびかせながら少年に問い掛けた。
「君の願いを叶えてあげようか?」