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九十話、日の当たらないもの同士



真魔王として覚醒したエルは、イレギュラーの力を奪ったデュースを撃退したあと、マシェエラを配下につけ、デュースとの次なる戦いのための準備を進めていた。


デュースはエルからイレギュラー因子を奪ったことで、次エルたちの前に姿を現すときは必ずエルを殺せるほどに力を扱えるようになっているはずだ。


エルは復讐のため、デュースを殺すために更なる力と戦力を欲していた。


「マシェエラ、もう戦いの傷は癒えた。いい加減俺を解放しろ」


デュースとの戦いのあと、すぐにでも行動を起こしたかったエルだったが、デュースとの戦いで受けた傷が予想以上に深く、少しの間でも休息を取るべきとマシェエラに城に留められていた。


マシェエラのいうことを聞く必要などなく行動に移すことはできたが、それでもデュースによって受けた傷はエルの体力を蝕む材料となっていた。下手に動けば動くほど体力が剥ぎ取られ効率が悪い。


仕方なくエルはマシェエラの言葉を聞き入れ、今日までこうして療養していた。


「ダメです。もう少しお休みしないと」


「十分だろ。俺は早くキュティレイに会いにいかなれけばならないんだ」


「キュティレイ? なにものですか?」


「前の魔王の娘だ。俺の師匠でもある」


「……女ですか?」


「娘なんだから女に決まってるだろ」


「どういう関係なのですか」


「さっき言っただろ。俺の師匠だよ」


「そうじゃなくてわかるでしょ」


言葉の意味合いということだろう。


「なにを気にしているだマシェエラ」


「気にしないとでも思っているんですか」


「?」


「?……じゃないわよ!!」


マシェエラは責めるようにエルに向かって声を上げる。


「わからないわけないでしょ」


「すまん。わからない」


そこでマシェエラはため息をつく。


「ほんと……いつまでそうしてるつもりなんだか」


「それよりも戦力の増強だ。キュティレイのところに行くぞ」


「……もちろん私もついていくわ」


エルは転移魔法を発動して、マシェエラを連れてキュティレイの元に向かった。


転移した先は懐かしの暗闇の地下世界の城のなか。


かつては旧魔王の城であり、そしてその娘の五大魔王の一人、キュティレイの城だった。


「こんなところに城があるなんて」


マシェエラは最初にエルがここに来たときと全く同じような感想を抱いただろう。


きっとここに最初に来た人たちは皆一様にそう思うに違いない。


「いいところだろ。情緒があって」


「ええ、暗闇を青い光が照らしていてとても落ち着くわね」


エルたちが周りに視線を配っていると、その後ろから声がかかった。


「誰よあんたたち」


振り返るとそこにはここの主であるキュティレイがいた。


「キュティレイ、久しぶりだな」


「えっ……エル……なの。どうしたんですかその姿!?」


キュティレイは変わってしまったエルの姿をみて驚いた表情をする。


「魔王になったらしい。イレギュラーの力を奪われてな」


「はあ!! なんでそうなるんですか。意味がわからないですわ」


キュティレイはエルの姿が気に入らないらしくそっぽを向く。


「エル、なんか嫌われちゃってるみたいだけど?」


「どうしたんだキュティレイ、そんなに俺の姿が気に入らないのか?」


「気に入らないっていうか、なんか変わりましたわよね」


「変わったか……そうなんだろうな」


「変わりましたわよ」


「俺はどっちかというと素の自分に近くなったように感じる。言葉遣いも変化したが、それも自信によるものではないかと思う」


「感じるとか思うとか、自分のことですのに抽象的なんですね。そういうところは変わっていませんわ」


「お前もそのですわ口調変わってないな」


「私はこれでも魔王の娘、つまり姫なんです。言葉遣いが丁寧なのは当たり前ですわ」


「気が荒くなるとちょっと緩くなるけどな」


なんとなく言い返していると、キュティレイはエルに突然虚をつくようなことを言ってきた。


「なんかナハトさんに似てきたんじゃないですか? 裏の魔力だって同じですし」


そう言われてはっとした。


確かにそうかもしれないと思った。


だがどうだろう。ある意味こんなものではないだろうか。


今までの自分があまり言い返さないようにしていただけだろう。


自分よりも輪を、相手を必要以上に尊重していただけではなかろうか。


「まあそれはいい。それよりキュティレイ、今日は頼みがあってきた」


「なんですの?」


「デュースという男を知っているか」


「知らないですわ。最近は外に出ていませんでしたから」


「俺はそいつにイレギュラーの力を奪われた。そいつは俺の母親も殺している」


「それで、復讐でもするつもりですか?」


「そうだ。キュティレイ、力を貸してくれないか」


「復讐は無意味ですわよ。戦う理由はそれだけ?」


もちろんそれだけではない。デュースをこのままにしておけば、この先なにが起こるかわからない。


エルの顔を見て、キュティレイは深くため息をつく。


「あなたの顔を見て、なんとなくわかりましたわ」


「そうか、なら――――」


そこでキュティレイはエルの声を遮った。


「ほんとうの気持ちを聞かせて下さいまし」


「ほんとうの……気持ち…………」


「そんな上っ面じゃなく、ほんとうのあなた……それがみたいのです」


上っ面……だと。


エルはキュティレイの言っていることの意味がわからない。


「これが俺の本音だ。俺は復讐したい。お母さんを殺したデュースを、俺が殺してやるんだ」


「そう、それなら結構。私はあなたには協力できません」


「なぜだ。お前だってデュースをなんとかしなければ、あいつがこの世界になにをするかわからないんだぞ。あいつは手段のためなら他人をいくらでも犠牲にできるやつだ」


お母さんを殺すために、村のみんなを人質にとったくらいだ。


「今の私には俗世のことはどうでもいいですから」


「どうでもいいだと」


「ええ、暇潰しの対象でしかありません」


暇潰しの対象だと。ならばあの時俺を強くしてくれたのも暇潰しだったということなのか。


「そうか。ならもういい」


エルはキュティレイに背を向けると、もう用は済んだというように転移魔法を発動した。


「マシェエラ」


エルがマシェエラに声をかけ、マシェエラはエルの肩につかまる。


「じゃあなキュティレイ。二度と会うこともないかもな」


エルは嫌みのような捨て台詞を言ってバージナルの城に転移していった。


残されたキュティレイは、寂しさと、もう会うことも叶わないかもしれないその懐かしい顔立ちを思い出していた。


あの顔はナハト、そしてお父様にそっくりだった。


面影、纏う空気、彼は将来お父様や彼のなかにいるナハトにもっと近づいていくだろう。


そのとき、近くにいられるのは私ではないことはわかっていた。


それに彼は彼だ。お父様ではないのだ。


魔王ゾルディス、お父様はもう何百年も前に死んでいる。


私はお父様に追いつきたい一心で今まで強さを追い求めてきた。


そして五大魔王という地位まで得たが、お父様を越えることも、お父様を忘れることもできなかった。


新しく気に入った存在とも出会えたが、やはりお父様を忘れることはできなかったようだ。


私にとって、すべての基準はお父様だった。


こんな私はもうこの先、なにも手にすることはできないだろう。


そして、今まで通りこの真っ暗闇の城のなかで、次なる世界まで待つほかない。


できることならそのときは、もう少し自由な私であることを願おう。


日の光の当たる暖かな場所で、新しい出会いと旅がしたい。


こんな私じゃない新しい私で。


「さようなら…………私の魔王様」


私のように日の光の当たらない彼に幸あれ。



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