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八十六話、決別



ハイアリンで仲間たちと約束を結んだマリアは、今シスターのコロナとともにミズチから聞かされたエルとミリアのいる場所に向かっていた。


場所は南の大陸辺境の村々に挟まれた外れにある小さな一軒家だった。


マリアたちはまずハイアリンから船に乗って南の大陸に移動し、そこから馬車に乗ってエルたちの暮らしている家の近隣の村を目指した。


そこまでで三日。そしてその村から徒歩で朝から歩き続け、似たような道を延々進む内にそれが見えてきた。昼に差し掛かったくらいにようやく目的地と思われる一軒家が道沿いに建っていた。


「マリア様、彼処に例の方がいらっしゃるのですね」


「ええそうです。コロナ、少し固くなっていますね」


「はい、緊張しているみたいです」


「緊張しなくても大丈夫ですよ。彼は優しい方ですから」


マリアはそんなコロナを見て、小さく微笑んだ。


旅の道中にこれから会いにいくエルのことをコロナに聞かれ、話したのだがその内容の壮大さにコロナはエルに畏怖と敬意を想像したのだろう。


コロナからすればエルはそんな存在に映る。五大魔王や剣聖のララ、聖女の私のように。


マリアとは全く違った見方、感想が出てくるのだろう。


マリアからすれば、純真で正義感の強い小さな男の子であり、持て余す力をその身に宿してしまった可哀想な男の子だ。


だがそんな彼でも頼らなければならない。彼はそういう宿命にある。それが力を持ったものの責務。


家に近づくと人の気配がした。なかに誰かいるようだ。


マリアはドアを開けてなかに入る。


すると一人、ぽつりと一人……部屋の椅子に腰掛けたエルの姿が見えた。


異様に感じた。どこか影の薄い気のない感じ、生き活きしていない身体から溢れでる表層。


以前のエルとはなにかが違っていた。


なにがあったのかと思い、マリアはエルに近づいた。


「エル、お久しぶりです」


「マリアじゃないか。本当に久しぶりだね。僕になにか用かな?」


「はい。折り入ってお願いがあるのですが、聞いていただけますか?」


「そんなに畏まらなくてもいいよ。それで……なにかあったの?」


マリアは自分の身に起きたこと。ブラックレオが奪われたこと。そして、デュースのことをエルに語った。


するとエルは、デュースの名前を聞いてすぐ表情を変えた。その顔はまるで、呪を帯びた鬼のようだった。


でもそれは一瞬だった。浮かび上がった表層はすぐになりを潜め、自然と落ち着いたものに戻っていた。


一瞬のことにマリアは動揺する。


それが見間違えでないかとマリアは思ったが、近くで話しを聞いていたコロナも自分と同様の表情をしていたことでそれが見間違えでないことに気づく。


「デュースか……僕も会ったよ」


「……エルもですか? やはり因縁があるのでしょうか」


「因縁? どういうこと?」


「ククがそういっていたのです。ライバルのようなものだと」


「ククがいってたの? そっか……なにも知らないのは僕だけなんだな」


どうやらエルはデュースについて詳しくは知らないらしい。


それならばデュースはどうだろうか。エル……イレギュラーに関係するものであるならば、デュースの方がエルのことを一方的に知っているということもあるだろう。


「エルはなにかされましたか?」


「されたよ。僕のお母さんを……たった一人の肉親を殺されてしまった」


そのときマリアは理解した。エルがこんな風になってしまった理由を。


そしてやはり、デュースはエルのことを知っていて接触してきたのだろう。


「僕はデュースを許さない。絶対に僕の手で殺す。だからミリアを村においてきた」


「ミリアを……おいて…………」


それがエルの決意の現れ。マリアはそう悟った。


「そういうことでしたらエル、協力してくれませんか」


「ごめん、それはできない」


「なぜです」


マリアは思わず立ち上がっていた。いつも冷静なはずのマリアが、自分の申し出を拒否したエルに対して気持ちを揺らしていた。


「僕はミリアが僕と一緒に戦ってほしくなかったからおいてきたんだ。それはマリア、そして他のみんなも同じなんだ」


「エル……私は足手纏いだと言いたいんですか」


「……デュースはきっとブラックレオよりも厄介な敵だ。そんな敵と君は互角に戦えるのか?」


これは侮辱だ。エルは私を軽んじていると、私はここから僅かに怒気を絡ませた話し方になる。


「確かにデュースは強いです。でも聖女である私には対抗できる力がある。戦力になるはずです」


「信用できない。いや、もう僕は誰も信用できないんだよマリア」


論戦に突入したように感じたのも束の間、エルはそんなことを気にもせずに自分の主張を続けた。


「君たちは教会という組織で、イレギュラーである僕を管理しようとしているのは知ってるんだ。それは僕を……僕を君たちが信用していないってことじゃないのか?」


「ララが僕の監視役だってことは聞いてるんだ。申し訳なさそうに話してくれたけど、ならいっそのことそんな役をやらなければよかったのに……誰か別の人にやってもらえばよかったのにって思ったよ」


立て続けにエルは自分の想いを吐露する。


それは今まで溜め込んできたものを吐き出すようだった。


「ごめんなさい」


「否定はしないんだね」


「そうするように手を回してたのは私たちだから」


私たち……つまりはマリアとその姉のレイアのことだ。


「聖女は教会の指導者であり、神から与えられたこの世界の秩序を守る役目があるわ。イレギュラーの力は未知数。なにが起こるかわからない爆発物のようなもの」


だからそうしたのだとマリアは答えた。


「わかってるよ。だからもういいんだ。それについてはもうなにも言わない。その代わり僕は僕の勝手にさせてもらうよ」


「私たちがあなたの敵になるとしてもですか?」


「僕は君たちに危害を加えるつもりなんてない。それはマリアもわかってくれてるはずだよね」


エルは話しは終わったというように家の外に出ていく。


どうやらもう、エルはここを出てどこかへ旅立つようだ。


「エル、わかってほしいのは私自身があなたを恐れてそうしたのではないってことです」


一瞬コロナの方を一瞥してから、エルは別れをいうようにこう答えた。


「それもわかっているよ」


そしてエルは転移魔法でどこかへ消えていった。


マリアと二人の話しを聞いていたコロナだけが、未だ温もりのこもったエルたちの家だった場所に残された。


「コロナ、私たちも行きましょう。もうここに用はありません」


「はい…………」


コロナは家のなかに視線を配る。そこから彼らがどんな生活をしていたのか、僅かだが感じ取れた。


「コロナ、行きますよ」


既に家の外に出ていたマリアが催促してくる。


「はい、今いきます」


コロナはマリアの催促を受け入れ外に出る。


仲間になってくれるはずだったエルの協力は得られずに終わった。


それでも少なくともエルは味方だろう。


マリアはそれだけでも十分とした。得たい結果が必ずしも得られるとは限らない。


とにかくだ。


次の目的地はバージナル。今は魔王として覚醒した魔王セクス――――マシェエラのところだ。




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