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六十七話、唐突な休暇とバカンス



「ねぇみんな、聞いてくれる」


マシェエラが夕食の途中、手を止めてそうみんなに声を掛ける。


夕食の頃、今日はマシェエラがララも呼んで、六人での夕食となっていた。


それぞれテーブルを囲って座り、マシェエラが作ってくれた夕食にありついていた。


「マシェエラ、どうかしたの?」


横に座っていたミリアがいち早く反応を返す。


「教会から依頼で、ホルスト大陸の南部にあるナナツ海岸に行ってきて欲しいって言われたの」


「ナナツ海岸~?」


「そんなとこにいって、今度はなにしてこいって?」


ククとミズチがそう問うと、マシェエラはいつになく表情を柔らかくする。


「それがね。ナナツ海岸には無人になった教会とその施設があるらしくて、年に二度そこを整備しなくちゃならないらしいんだけど、今回は人員が割けないから私たちにってお願いされたの」


「そんなところにも教会あるんだね」


と、エルは疑問に思ったことをそのまま言う。


「昔はあの辺にも村があったそうなんだけど、季節によって住みにくいから、村ごと住みやすい方に引っ越しちゃったらしいわ」


「それで教会だけ残ったと」


「じゃあちょっとしたバカンスじゃん」


ミズチとミリアは納得したようだった。声にはわかりやすいくらい張りがある。


「そういうこと。たまにはみんなで羽を伸ばしにいきましょう」


「賛成~」


と、その場にいる全員が声を合わせる。


そして次の日、僕たちはナナツ海岸に訪れていた。


今はナナツ海岸にある教会の隣にある寝泊まり用の施設に荷物を置いて、各自準備に入る。


なんの準備かって。そんなの決まってるじゃないか。


僕たちは水着に着替え、ナナツ海岸の浜辺に出る。


「久しぶりの海だね」


「ハイアリンにも海はあるんだけど、やっぱり浜辺を見ると海って感じする」


エルはミリアを見つけると、その水着姿に視線を向ける。


情熱的な赤いビキニだった。


前見たときのミリアは元気な女の子という感じであったが、着ている水着や仕草、体つきに色気のようなものが出てきているように思える。


少し見ないうちにミリアの全体的な発育もよくなっているように感じた。


旅を初めてから一年と半年。僕たちはまだ成長途中だ。まだまだ伸び代がある。


でもなぜか僕の背はあまり伸びてないような気がするが、気のせいだろうか。気のせいであってほしいな。


「エル~」


ククが背中から抱きついてくる。


驚いて顔を横にすると、視界に白い水着の一部が目に入る。


クク定番のスキンシップだが、今は水着越しである。身体の熱が直に伝わってくるのと、女の子の柔らかさが水着という薄い布地越しに密着する感覚は、年頃の男の子にとっては凶器のごとしだ。


「うわぁクク!? 離れて離れて!!」


「え~なんでぇ~」


皆さんお忘れかもしれませんがこんな話し方をしていても、今のククは成長したことで十四歳位の見た目をしています。


前なら九から十歳くらいで妹くらいに感じられたが、ククは十四歳にしては魔性の色香を纏っていて、不意にドキリとするときがある。


これもククがサキュバスだからだろうか。


「ねぇミリア、最近エル変だよ~。前みたいに抱きつかせてくれないんだよ~」


「まあ、ククも成長してエロ可愛くなったからね。エルが意識するのも仕方ないよね」


「なんだぁ~。だったら遠慮しないでもっとくっついてもいいんだよ~エル~」


振り払ったククが再度抱きついてこようとする。


それを止めたのは横にいたミリアだった。


「エルが離れてって言ってるんだから、言われた通り離れなさいクク」


「なに言ってるのミリア。エルはほんとはもっと女の子とイチャイチャしたいに決まってるだよ~?」


「そうかもしれないけど、それがククとは限らないんじゃない?」


珍しくミリアとククの間で火花が散っている。


普段は仲がいいのに、こんなときに限って喧嘩なんかしなくてもと思う。


「あれ? 二人ともなんで喧嘩してるの?」


次に現れたのはララだった。


ララはその艶のある金髪に似合った深みのある青の水着だった。


ララはどっちかと言えばお姉さんって感じな性格をしていて、親しみやすさがある感じだが、こうみると凛としていて、孤高という印象もでてくる。


最近はいつも近くにいて忘れがちだが、彼女は剣聖、最強の勇者、金色の妖精などの異名を持つ女の子だ。


孤高と感じるのは、それが彼女の本質にそういう要素を含んでいるからだろう。


「ちょっと先輩たちやめてくださいよ」


ララがそう言って二人を止めようとすると、僕の視線がララに向かっているのをククとミリアが凝視する。


「あ~!? 次はララちゃんがエルを誘惑したぁ~」


「ララ、あんた新入りのくせにいい度胸してるじゃん」


「こわっ!!」


ララは目を光らせるククとミリアを見て思わず声を上げる。


「みんな元気ね。最初からそんなにとばしてたら教会の掃除できなくなっちゃうわよ」


そう言って現れたのはマシェエラだった。


正直、マシェエラの水着が一番驚いた。


マシェエラの水着は布地が極端に少なく、胸元は隠さなきゃならない最低ラインしか隠していなかった。


「負けた……サキュバスのボクが負けるなんて~」


「これが大人の余裕だとでもいうの!?」


「いや……余裕ありすぎでしょ……」


と、三者三様に反応を起こす。


それだけマシェエラの姿のインパクトが凄い。


だって真ん中に黒い線が入っただけなんだもん。


「おい、なにやってんだおまえら。せっかくの海なんだ。おまえらもこっちきて波に乗ろうぜ」


ミズチの声だった。


ミズチは既に海に入り、木の板に立って波に乗りながら浜辺にいる僕たちにそう言ってきた。


「そうだね。僕たちもいこう」


気を取り直して僕はみんなにそう話す。


「楽しそう!」


ララはミズチの波乗りに目を輝かせながら一番に海へ駆けていく。


遅れて僕や、横にいるミリアとククも海へ駆け出した。


マシェエラは木の影でゆっくりする予定のようだった。


そうして僕たちは一日の半分を遊び尽くした。


日が暮れる前に掃除を簡単に済ませて、今日は外で火を炊いて食事にすることにした。


今日のメニューはミズチが釣ってきた魚と、海で拾ってきた魚介類たちだ。


それらを持ってきた網の上で焼きながら、僕たちは話しに花を咲かせていた。


「外で食べるのは久しぶり」


「ミリアはハイアリンにきてからマシェエラの店の手伝いばかりだもんね」


「ボクもマシェエラの店の手伝いばかりで久しぶりだよ~」


「ごめんね二人とも。落ち着いたら二人も別の仕事ができるようにしていくつもりだから、もう少し頑張って」


マシェエラは申し訳なさそうに二人にそう話す。


「でも最初はララがきてくれるまではほんとに大丈夫なのって感じて不安だったなぁ」


「そうだよね~。ククも毎日へとへとだったもん」


「ララちゃんがきてくれたおかげでなんとか持ち直せたのよね。ありがとうララちゃん」


「いえ、別に大したことしてないですし。この間だって依頼で抜けちゃいましたし」


「それはララちゃんの仕事だから無理言えないわよ。でも助かってるわ。ありがとうね」


「はい……」


ララは顔を僅かに赤く染める。


「おっし焼けたぞ。食え食え」


海産物に詳しいミズチのお許しがでたので、みんな一斉に口を揃えて言う。


「いただきます」


食事が進み、話しも途中から女性人たちだけで盛り上がっていた。


残された僕とミズチは、空に写る満天の星空を見上げながら小さく呟くような声で話しをした。


「なあ、気づいてるかエル」


「ん? なんのこと?」


「そうか……。なんかあったら言え。また手ぇ貸してやるから」


「うん。頼りにしてる」


そう短い会話を終えると、ミズチは先に部屋へ戻っていく。


なんだろう。ミズチ、なにか言いたげだったように見えたけど。


「あれ? ミズチさんもういっちゃうんですか?」


こっちに近づいてきていたララが、ミズチにそう話し掛ける。


「おうララ、さんはいらねぇよ。もうおまえも、俺たちの仲間なんだからな」


「……ありがとう。ミズチさん」


あんなに男気のある言い回しは格好いいと素直に思う。僕もミズチみたいな風格があったらと自分の背と高い声に落胆する。


「エル? なに落ち込んでるの?」


「いや……なんでもないよ」


「?」


ララは落ち込む僕を見て不思議そうな顔をした。


「ミズチさんもいっちゃったし、あっちにいこう。今、エルたちの冒険の話しをきかせてもらってたんだよ」


「わかった。今いくよ」


そういえばララに冒険の話しの続きを話す約束をしていたのを忘れていた。


今日は忘れていた分、詳細に話して聞かせてあげられそうだ。


なぜならいつもは僕一人だけだけど、今日は三人も一緒に旅をしてきた仲間が、側にいるのだから。




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