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五十四話、シスターロアナ



西の大陸ユルドールトの中央に大きく横たわるニーズベルト砂漠を越えて、バージナルを訪れていた。


バージナルには人間よりも魔物のほうが総じて多く、そのわりには魔物と人間の関係性は平等なようである。


また、バージナルに暮らす魔物や人間たちは、どことなく他の国よりも温厚な見た目をしたものが多かった。


思いの外バージナルを治めていた魔王サクシャルがまともな統治者だったということだろうか。


そんな平和な表層がうかがえる国ではあるが、実際のところはどうなっているかは今のところは見えてこない。


エルとミズチとララは、宿を決めると一夜明けて早速情報収集のために街に出掛けた。


ミズチは西側、エルとララは東側にいってみることにした。


東側が出入口があるので店や露店などが多く、交通量が多く感じる。人通りが多いということは、情報を持っている輩もそれなりにいる可能性は高い。


一番情報を聞ける可能性があるのは店だが、物を買わないと相手にしてもらえない。そうなると酒場などのほうが比較的安価に済む場合がある。


酒場は夕方近くなって開かれる。


エルとララは昼食をとりつつ時間を潰すことにした。


「お腹空いたぁ。やっぱり朝ごはん食べとけばよかった」


「でもそのおかげで昼はいつもより美味しく食べれそうだ」


エルもララの朝食を抜いていた。理由はララが体型のことを気にして朝食を抜いたからだ。エルはララが目の前で食べられれば自分も腹が減ると言われ、それに付き合ったからだ。


路地裏の奥に店を発見した二人は、路地裏を通って店へと向かう。


その途中、先頭を歩いていたエルの足裏に、地面とは全くというほど違う妙な柔らかい感触が伝わった。


「なんだ?」


エルが足元に視線を下げると、足の下に修道服を着た女の子が寝そべっていた。


「うわっ!? なんでこんなところに!!」


エルは慌てて足を退けて彼女の様子を見る。


路地裏は暗いため、屈んで顔を近づけてみると、彼女は薄く寝息を立てている。


どうやら気絶しているのではなく、ほんとうに寝ているようだった。


「エル? どうしたの?」


ララにはこの暗さで見えていないのだろう。声を掛けてきた。


「それが、シスターの子がそこで寝てて……」


「シスターの子? それってもしかして……」


ララはシスターと聞いてなにか知っているような反応をした。


ララは僕の上からシスターの顔を覗き込むと、やはり知っている風な声を上げる。


「シスターロアナ!!」


そうララが名前を呼ぶと、ロアナと呼ばれた彼女はゆっくりと目を開けた。


「あれ……ここはどこ? そこに誰かいるの?」


彼女はまだ路地裏の暗闇に目が慣れていないようだ。手を僕の方に伸ばして顔に手をやる。


「ちょっ!? ちょっと痛いから!! 目に……目に入るからぁっ」


僕はその手を退けようと必死に抵抗するが、寝惚けている彼女は払われた手をなんども伸ばしてくる。


「ん? 男の子?」


手の感触で理解したのか、それとも声で理解したのかは定かではないが、シスターロアナは自分の目の前に人がいるということを理解したようだ。


「ロアナ、こんなとこでなにしてるの?」


「その声はララじゃない。あんたも任務?」


「うん。バージナルの城にいるリドルって勇者を捕まえにきたの」


「リドル? ああ! そういえば最近バージナルの王になってたわね。今のところ自称って感じだけど、着実に勢力を拡大させていってるから、ほんとうにそうなる日も近いかも」


「そうならないために、僕たちはここにきたんだ」


僕がそう言うと、ロアナは暗闇に慣れてきたその目をこちらに移してくる。


「そういえばあなたは誰なの? ララの友達? ララも意外と隅に置けないじゃない」


「僕はエル。ララとは最近友達になったばかりなんだ。よろしく」


と、この機会にロアナに軽く自己紹介をしておく。


「私はロアナよ。ララと同じで教会で働いてるわ」


「そうだ。せっかくだし一緒にお昼はどう? 僕たちまだなんだ」


「えっ!? もう昼だったの? 私まだ朝ごはんも食べてないのに」


どうやらロアナもお腹のなかは僕たちと同じ状況だったらしい。


「ここで立ち話しもなんだし、行こう」


歩き出したララの後ろをエルもロアナもついていく。


路地裏を抜けてすぐのところの店に僕たちは入った。


そしてそこで昼食をとりながら、ロアナと情報交換をした。


「リドルがいない!?」


「そうなのよ。リドルは今ユルドールト中を回って自分の仲間になってくれる人たちを集めているの」


ロアナの情報を聞いてララが考えたことを言葉にする。


「このままリドルが勢力を拡大させていけば、いずれバージナルに住んでいる魔物たちがここを出ていかなければならなくなってしまう」


「そんな……」


「それだけじゃない。きっと次はユルドールトからも追い出しかねない」


ロアナはそう付け加える。


「まだ時間はあるよね。ロアナ、リドルはいつ戻ってくるの?」


「少し前に出ていったから、そのうち戻ってくると思うけど、そのときには兵も増えてるし、リドルを襲うのも難しくなってるかもね」


だがどっちにしろリドルのいる場所がわからない以上、むやみやたらに行動するのはよくない。


行き違いになったりしたら、余計時間を無駄にしてしまう。ここは戻ってくるのを大人しく待つしかない。


「仕方ない。戻ってくるまではここで情報収集や周辺の地理とかを頭に入れておくことに時間を使ってようか」


エルがララにそう提案すると、ララも同意し頷く。


「だったら私の仕事に付き合ってよ。二人がいればすぐに片付くから」


ロアナがちょうどいいと言ったようにねだるような声で頼んでくる。


「そういえばロアナはなんの仕事でここにきてるの?」


「ふふん、それがねぇ」


ロアナはにこやかに笑い、仕事の内容を伝えてきた。


「ナグールの捜索及び撃破よ」


ナグール、その名は以前目にしたことがある。


ロアナが言った魔物の名前は、教会ギルドの手配書で指名手配されていた魔物の名前だった。





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