四話、ユメイルの夢
夢と遊びの町ユメイル、そこに訪れる人たちはみんなそこにある夢と娯楽に憧れを抱き、一攫千金を夢見て集まってくる。なかにはそこで勝利し、富を得たものもいれば、大敗し夢を失ったものもいる。また、遊びの一環として勝負に参加する余裕のあるものと様々だった。
僕たちはというと、王都へ向かう途中にあるということで、観光ついでにユメイルを訪れていた。
ユメイルにつくと、町全体が光輝いていて、横にいるミリアが年相応に目を輝かせて、憧れの眼差しを向けていた。
「寄るだけだよ。遊びに来たんじゃないからね」
「エルのけち。少しくらいいいじゃん。ねっ! クク」
「ボクは別に~。綺麗なのは好きだけど~。見ているだけでも楽しいよ~」
「多数決で決まったね」
「ククに裏切られた。ねぇいいでしょ。エルゥ」
ミリアが僕に迫ってくる。
「ダメだよ。ミリアが加わってからは食事にお金がかかるようになっちゃったんだから。節約しなきゃ」
「もう、エルの甲斐性なし。私が夜に迫ってパーティに入れてくれたときは、私のこと養ってくれるくらいの勢いだったのに」
「僕は元から受け入れるつもりだったよって言っただけで、養うなんて一言もいってないけどね」
「そんなこといってぇ。私の胸とへそに夢中なくせに」
ミリアはそう言って自分の胸とへそを強調してくる。
「うっ!」
ミリアは元々スタイルがよく、理想的な腰つきをしている。それにパーティに加わってから新調した装備がセクシーなへそを出した服装で、露出した太股の付け根のラインが刺激的でどうしても視線が釘付けになってしまう。
「増えたね」
「増えた~」
ミリアはニヤリと意味深な笑みを浮かべ、その隣でククは楽しそうにしている。
僕の視線の行き先は二人にはバレバレなようだった。
そんな僕の様子を見てミリアとククは二人して笑い合う。
僕はこのとき、幸せを実感していたのだろう。
充実した旅路と、二人の仲間に恵まれて、心はまるで、ガラスの器に甘い果汁がヒタヒタに入っているような、満ち足りたものになっていた。
でもそれは刹那だったことを、僕はこの後に知ることになるのだった。
夢の町ユメイルは眠らない町とも言われている。夢の町と言われているのに眠らないなんてと笑うものも多い。
その通りだと思う。だが、この刹那の日だけは、ユメイルも夢のなかに沈むこととなった。
この日僕はひとり眠れずにいた。外が明るいためか、慣れない僕は外の光をずっと宿屋の部屋の窓から眺めていた。
「それにしても、三十ゴールドって、結構高かったな」
まあオープンして間もないということで、初回特典などのサービスで安くしてもらってはいるのだけど、それでも一人三十ゴールドだ。安くしてもらっていなければ、きっと百ゴールド以上かかっていただろう。
煌びやかなユメイルの町の風景を眺めていると、自分は今夢の中にいるように思えてくる。
眠れない。窓を開けて夜風に当たってみたりしたが、外の賑やかさに当てられて、眠気が皆無だ。
時間としては深夜を回っていた。スペシャル既に眠りについて夢の中にいる人も多いだろう。眠らない町はそれでも眠ることはない。だが、人々を誘う闇の到来によって、醒めることのない永久の夢の時間が訪れるのだった。
そしてそれは、現実としてもユメイルの町に現れ出した。
どうしたことか。ユメイルは光を徐々に失い眠りに落ちていく。未だ目が冴えていたエルは、ことの異常さに敏感に反応する。
おかしいのだ。そして不気味だった。
ユメイルの光が一つ一つ死んでいくように消えていくのだ。
ユメイルの町なかではパニックが起こっていた。突然の消灯に人々はひどく動揺し、慌てていた。
僕が次によくない予感を感じたのは、外で悲鳴のような声が飛び交っているのにも関わらず、起きてこないミリアとククのことだった。
僕はその予感にしたがってミリアとククの眠っている部屋に向かった。
部屋に入ると二人は小さな寝息を立てて眠っていた。
エルは二人がいることに安心して、とりあえずこの異常な状況を二人にも伝えようと、二人の身体を左右に揺らした。
だが、二人は朝になっても目を覚ますことはなかった。