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四十八話、安穏とした日々



朝目が覚めると、一階から物音が聞こえてくる。


それはミリアとマシェエラ、そしてミズチの三人のものだ。


ククはまだ寝ているのだろう。ククは前々から早起きは苦手な方だ。やはり、サキュバスだからだろう。


僕は身仕度をして下に降りると、ちょうどミリアの朝食が出来上がった頃だった。


「おはようエル。今日はマシェエラのお店が開店する日なんだから、午後過ぎまでエルも私と店の手伝いだよ」


マシェエラの店。


そうだった。マシェエラはハイアリンに来てから、ここには長く滞在することになりそうだということで、きちんとした収入源が必要だと言い出し、自分の店を作ることにしたのだった。


しかも運のいいことに、前、店を開いていた人の空き家が残っており、そこを教会から安値で借りることができたので、マシェエラの手腕のお陰か、ここにきて一月も経たないうちに実際に店を開くところまで物事が進んでいた。


エルはその間は日々を安穏と過ごしていたため、つい昨日まで特になにもしていなかったが、昨日の夜にはマシェエラからそういった話しを聞かされ、今日は仲間全員でその手伝いをすることになっている。


「朝食先に食べてて。私はククを起こしてくるから」


ミリアはそう言ってククの部屋がある二階に上がっていく。


「お願い」


それにマシェエラが答え、朝食をいち早く済ませると、いそいそと席を立つ。


「二人とも、私先に店にいってるから、食べ終わったらできるだけ早くみんなで来てちょうだい」


そう言ってマシェエラは慌ただしく出ていく。


「やれやれ、今日は一段と忙しくなりそうだな。まあ、外装はほとんど終わってるようだし、後は中身だっけか?」


昨日マシェエラにそう頼まれていた。


とはいえ、内装はまだほとんど手が入っていない状況だという。そんななか、今日の昼にはお店を開店させようとしているようだ。


だからこそバタバタとしている。どうしてそんなに急いでいるのかは知らないが、マシェエラはそれだけ精力的に動いているのは間違いない。


そんな彼女をサポートするのが仲間である自分が唯一してあげられることだ。今日は頑張ろう。


エルはそう意気込んでいると、二階から目を瞑ったままのククを連れてミリアが降りてきた。


「クク、今日は忙しいんだから、早く朝食食べて」


ミリアは無理矢理ククを席に座らせると、朝食をククのテーブルの前に並べていく。


「はい……」


ククは普段の語尾につける伸ばし棒もつけ忘れるほどの眠気にやられている。そんななか、ふらふらとしながら朝食のパンに手をつけ始めた。


「こいつはもう少し時間がかかりそうだな。エル、ククとミリアの準備ができたらこい。俺は先にいってるからよ」


ミズチはそう言って先にいってしまう。


仕方がない。僕は朝食を食べ終わり、みんなの食べ終わった皿を洗って片付けながら、ククやミリアの準備が終わるのを待った。


そして、ミズチが出ていってしばらく経った後にようやく僕たちは家を出たのだった。


マシェエラの店のある場所は、エルがよく通っているあの橋の近くにある。そのため、僕たちが今住んでいる家からは十分ほどで着くため、位置的にはとてもいい。


また、人通りもそれなりにあるため、お客さんも確保しやすいだろう。


なんとも運良くこんな場所が偶然にも空いていたものだと思う。


僕たちがマシェエラの店に着くと、なかではマシェエラとミズチがテーブルや椅子を運んだり、内装に手を入れていた。


「来たわね。それじゃあ三人もミズチみたいにものを配置していって、物は奥の部屋にあるから」

マシェエラは部屋のドアを指差す。


カウンターとテーブルと椅子。それらが配置されたこの空間は、見たところ酒場といったところか。


マシェエラの指示に従って、僕たちは物を配置していく。


ある程度終わったあとはマシェエラを手伝って雑用などをしたりした。


「うん! なんとか間に合ったわね」


マシェエラの注文に合わせて急いで働いたため、なんとか開店前までには店と言える形に作り上げることができた。


「よかった……終わったぁ」


「ボクもう疲れたよ~」


「私も……」


へとへとになった僕たちは構わず地面に腰をついて休む。


「三人ともありがとね。また手伝って欲しいってときは声かけるからよろしく」


マシェエラはそう言って、僕たちを解散させた。


一応ということで、ミリアとククには残ってもらったようだが、僕とミズチはそのまま解散になった。


ミズチはこのあと仕事が入っているらしい。僕よりも体力があるのか、余力のある様子で仕事先に向かっていった。


僕はというと一息つきたくて家に戻り、ララとの約束もあるので、時間をみてあの橋の上に向かった。


橋の上から脚を垂らして座っていると、昨日と同じくらいの空色の時間帯に彼女はやってきた。


今度は彼女の席を空けておいた。すると、彼女は当然のごとくそこに腰を降ろした。


「早いねエル。そんなに私に会いたかった?」


「意外と暇なだけだよ」


「ダメだよエル。仕事はちゃんとしないと」


「してるよ。依頼がある日はね」


「定職には就かないか。まだ若いもんね」


そう僕を年下扱いしてくる。大して変わらない年齢差だというのに。


彼女はいったい何歳なのだろうか。マリアは例外として彼女は普通の人間なら僕と同じくらいか少し上くらいだろう。


マリアのこともあるので少し考えてから言葉にする。


「ララだって同じだろ」


「もしかして気づいてない? 私、人間じゃないんだけど」


まさかのまさかで僕の感のようなものが的中する。


マリアのような例はごく稀にしかないようなレアなものだと思っていたのだが、もしかして案外これが普通なのだろうか。


「私はエルフ。年は百二十歳だから君よりは長生きしてるよ。まあ、エルフの百二十歳は君くらいの年齢と変わりないんだけどね」


ララは説明してくれる。


「そういえば耳が尖ってたね」


僕はララの耳に視線を移す。


「エルから見てどう思う? 正直に言っていいよ。というか正直な感想を聞きたいんだけど」


そうだな……別に変わってるとは思うけど、変だとも思わないし、おもしろいというか変わってて可愛いというかそんなところだろうか。


「僕は変わってて可愛いと思うけど」


「変わってて可愛いの? 普通変わってれば変だと思うんじゃない?」


「えっ? 変わってて可愛いと思うけど?」


そう思った通りに言葉を返すと、ララは僕の顔をみて思い切り笑った。それも腹を抱えてだ。


「なんか変なこと言ったかな?」


僕は戸惑いつつそう尋ねると、ララは笑いながら言う。


「だってエルの顔が本心だって言ってるんだもん。そんなこと本心で思ってるなんて、エルの方が変わってるよ」


変わってると言われ、僕の方がなんだか微妙な気持ちになった。


そんな僕を余所に、ララは落ち着くまでそこそこ長く笑っていた。


ララが落ち着くと、また旅の話しをねだられたので、僕は話しの続きを聞かせた。


「えっ!? 仲間が石にされちゃったんだ。それで落ち込んでたら、新しい仲間に出会ったって感じかな」


「うん、そんな感じ」


「それもまた女の子に」


ララはからかうように言ってくる。


「僕より年上だけどね」


「年上なんて余計凄いと思うんだけど」


なぜだろう。僕がララのなかでどんどんスケコマシ認定されていっている気がする。別に仲間になってたってだけなのに……。


そうしているうちに日はまた落ちていく。


今日も終わりが近づいていた。


「今日はもうここまでだね」


そういうララに僕は当たり前のように返す。


「また明日」


「うん、また明日ね」


そして今日も終わり、また明日が始まる。そんな日々が当たり前のように続いていく。


僕たちはなんとなくそんな気がしていた。





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