四十七、新たな出会い
僕の足元の地面が真っ二つに割れていた。
盗賊退治に出掛けた僕たちは、ハイアリンから南の方にいった行商人や旅人などが行き交う通称中央通りで早速といったように盗賊たちと出くわしていた。
このへスティラ大陸は、ハイアリンのある地として、あまり悪事を働く輩は少ないらしい。だが、最近になって盗賊のようなそういった輩が各地に続出しているようで、管理をしている教会側も手を焼いているようだ。
そこで依頼として冒険者たちに仕事が回ってきているので、ある意味ではいいことなのだろうが、治安が悪くなったという意味では複雑だろう。
「許してくれ。あんたみたいのにやられたら俺ら死んじまうよ」
盗賊のリーダーと思われる男がそう言った。
彼らは非常に焦っているようだった。無理もない。いきなり自分達を退治にやってきた人間が、想像を遥かに越える化け物のような力を持った人間だったのだから。
「こんなことになるなんて……」
エルとしては手を抜いたはずだった。だが少し魔力を発動させて剣を振っただけで、地割れを起こしてしまった。
危うく盗賊たちを殺してしまうところだった。退治とは言っても捕まえて教会に引き渡すのが目的だ。彼らの命を奪うことではない。
その後すぐ盗賊たちは自ら戦いをやめてエルたちについてきた。命を奪われるよりはマシだと判断したらしい。
そしてエルたちの仕事は昼過ぎ辺りには終わってしまって、日暮れ前にはハイアリンに戻ってきていた。前のことを思い出すと日を跨がずに済んだので、成長しているようにも感じるが、やはりイレギュラーの力を手に入れたからに過ぎないのだろうとエルは思った。
家に帰ってみるとククやミズチの姿はなく、まだ帰ってきていないようだった。
夕食の買い出しに出たミリアと別れて、エルはまたあの橋の上に来ていた。なぜかそこが一番落ち着く気がしていた。
エルがしばらくそこで佇んでいると、そこに耳の尖った金色の髪の女の子が僕の横に来てこう言った。
「そこ私の特等席」
「えっ!? あ……ごめん」
「いいよ。今日だけは君に譲ってあげる」
そう言って彼女は僕の隣に座ってくる。
「君、見ない顔ね。私はララ。あなたは?」
「僕はエル」
「ふうん、どっかで聞いたことのある名前ね」
「至って普通の名前だからね」
「どこから来たの?」
「ロベリアス大陸の南の方から」
「あんな端っこから? もしかして勇者とか冒険者とかしてるの?」
「うん、一応勇者だよ」
「そっか。私もなの」
「そうなんだ。じゃあ君も旅をしてるの?」
エルがそう尋ねると、ララは首を横に振る。
「私は気がついたらずっとここ。いつからここにいたのかも忘れちゃった」
言葉を濁しているようで本当のことのようにも聞こえる。
「ねぇエル、あなたは外の大陸から来たんだよね」
「うん」
「もしよかったらなんだけど、旅の話しを聞かせてくれない」
「別にいいよ」
エルはララに旅の話しを聞かせた。
勇者として村を出たときのことや、それからククやミリアに会ったときまでの話しをした。
「へぇ、エルには仲間がいるんだ」
興味深そうにララは聞いてくる。
「うん。僕一人じゃとてもここまでこれなかったと思う。仲間がいてくれてよかったよ」
「好きなんだね。全員女の子?」
「今はミズチがいるから全員じゃないよ」
「ミズチ? 前は全員女の子だったんだ。何人いるの」
「今は四人かな。ちょっと前まで五人だったけど」
「そうなんだ。エルって意外とモテるんだね」
「そんなんじゃない……と思うけど最近わからなくなってる」
ククがあの姿になってからの積極的な様子や、ミリアのそれに対する態度や僕に向けてくる視線などで、なんとなく察してしまっている。これはきっとそういうことなんだろうと。
「ようやく気づいたって感じなんだ。もしかしてエルって結構鈍感?」
「かも……しれない」
難しい顔をするエルを見て、ララはクスクスと笑う。
「エルっておもしろいね。ねぇ、また明日話そうよ。私、いつもこの時間はここにいるから」
「いいよ。じゃあまた明日ここで」
ララはエルの帰り道とは反対側の橋を通っていく。
「旅の話し聞かせてね」
振り返りそう言って橋の上で知り合った彼女は、日の落ちる前に帰っていった。
僕も帰ろう。ミリアたちが待ってる。
そうしてエルは新しい環境でまた新しい出会いを得た。
この出会いを切っ掛けに、また新しい冒険が始まろうとしていた。