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四十六話、新しい生活



太陽の光が海に反射して、ちらちらと光る波が漂う。


波の音と鳥の鳴く音が、このしんみりした風とともに朝の暖かみを運んでくるように感じた。


この橋の上には今は僕しかいない。


橋の下にはもっと早くから起きて沖に出ていた漁師の人たちの船が帰ってきていた。


僕は橋の上に座り、脚をぷらんと降ろして、帰ってくる船に目を落としていた。


僕がぼうっとしていると、後ろから知った声がかかる。


「エル、ここにいたの」


ミリアの声だ。まあ、声を聞くまでもなく、いつものことでわかっていたが。


「なんの用?」


「なんの用って……あれからずっと暇そうにしてるから、そろそろエルもさ……働いてよ」


「えっ!? あ……うん」


ミリアはばつの悪そうに言う。


「エルもショックだとは思うけどさ……ずっとうじうじしてたってしょうがないじゃん」


「うん……」


「他のみんなは働いてるんだからさ。エルだけなんて悪いじゃない。まあ、一人例外はいるけど」


「そうだね。ごめん、僕もそろそろちゃんとするよ」


じゃないと……ここにもいられなくなっちゃうから。


グランゾール軍と魔王ブラックレオの戦いは終わった。


僕たちはマリアの提案から、ククの転移門を使って教会組織の総本山であり、中立国のハイアリンに身を置いていた。それから半月と経ったある日、現地に残ったマリアから、一通の手紙が送られてきた。


手紙の内容は、僕の存在と立場について書かれていた。


現地に残ったマリアは、僕の持つイレギュラーとしての力の存在を隠蔽するために動いてくれていたのだが、どうやらそれは上手くいかなかったようだ。


というのも、あまりにも目撃者の数が多かったためだ。


今はまだ、それが僕という個人だと断定できていない段階だが、これ以上目立つのは危険だということだ。


マリアは手紙の最後には、イレギュラーの力は人々には恐怖の対象だと思われていて、魔王ブラックレオすらも倒してしまうほどの力を持つ存在が新たにわかったことで、それを悪用しようとするものたちも現れる可能性がある。できる限りハイアリンを離れないようにとのことだった。


今の僕たちはハイアリンに匿ってもらっているような状況だ。


ここにきてすぐに、マリアの計らいで家も貸してもらっている。


だが、それほどに僕という存在が人々には恐怖の対象だということに僕は落ち込んでいたのだった。


僕はミリアとともに家に戻った。装備を整えて働きに出るためだ。


「ただいま」


僕が家に入ると、すぐになにかにぶつかった。いや、ぶつかったというか……そのあとすぐに柔らかいものに抱き寄せられた。


「待ってたんだよエル~。さあ、今日もボクといいことしよっ」


そう言ってくるのは、気がつくと急に成長していていろんなところが発達していたサキュバスのククだ。


ククは前と同じでスキンシップが多いが、前と違うのはこうして僕を誘惑してくるようになったことだ。


ククは急に成長していたかと思えば、僕の暴走したイレギュラーの力を吸収して安定させたなど、最近になって謎が多い。


それについて聞いても、自分もまだすべてを理解できているわけじゃないとか、すぐにスキンシップしてきてはぐらかされてしまう。


謎は深まるばかりだ。


「ねぇエル聞いてる? いっつもそうやってはぐらかして~。前に約束したんだから、そろそろご褒美ちょらい」


ミリアとあまり変わらないくらいの年の差の女の子に抱きつかれて、僕はどうしていいかわからない。こうして硬直しているくらいしか。


「もう、エルはうぶなんだから。そんなんじゃイレギュラー失格だよ~」


「イレギュラーは関係ないよ」


「関係あるよ。先代のイレギュラーはスケコマシだったってボクの先代が言ってたから」


先代のイレギュラーって、もしかしてナハトのことだろうか。


ククの話しではククにも先代がいて、僕にとってのナハトと同じ存在が自分のなかにいるらしい。


そうしていると、ミリアが刺々しい視線を向けてくる。そろそろ離れた方がよさそうだ。


「クク、そろそろ離れてよ」


「やだよ~。ミリアが見てるもん」


「だから離れて欲しいんだけど」


「クク……あんたいつの間にそんなに意地が悪くなったの」


「恋する乙女は友達といえどライバルには差をつけたいものだよ~」


「私の知ってるククじゃない……」


ミリアは複雑な表情をする。


「ねぇエル、仕事なんていいからデートしようよ~」


「ダメだよ。僕もそろそろ働かないと」


「じゃあ早く今日の依頼を終わらせたらデートしてくれる?」


「まあ……それなら」


「ちょっとエル!!」


ミリアに責めるように言われる。


「約束ね。じゃあボク仕事してくる」


ククはそう言って意気揚々と飛び去っていった。


「エルも仕事しないとダメだよ」


その後すぐにミリアに釘を刺されるように言われる。


「エルはククに養ってもらうなんてダメ男にはならないよね?」


そう追い討ちをかけるようにミリアは影のある笑顔を見せる。


「そんなまさか……僕も働くに決まってるじゃないか。変なこと言うなミリアは……」


一瞬働かなくていいのかもと思ったのは秘密である。


「今日の依頼は盗賊退治だよ。私とエルの担当だから」


「わかった」


僕は装備を整えると、ミリアと久しぶりの仕事に出掛けた。





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