四十一話、集結する仲間たち
グランゾールに仲間が集まりし頃、未だワイプリズンに身を置いている三人も、リリスによってその情報が伝わり、グランゾールに向かおうとしていた。
「ダメだよ。君たちはここにいた方がいい」
それを止めるのは他でもない情報を持ってきたリリスだった。
「どうして!!」
ミリアは苛立ちの含んだ声を上げる。
「いつまで私たちをここに閉じ込めておく気なの?」
マシェエラがミリアの代わりにそう聞いた。落ち着いているように見えるが、彼女もまたミリアと同じく不満を抱いていることに変わりなかった。
「リリス~、そろそろボクたちを解放してくれてもいいと思うんだけど」
ククも二人に続いてお願いするようにリリスに言う。
「何度も言うけどダメ。君たちのようなか弱い女の子たちがあんな戦場にいっても足手まといにしかならない」
「だからって私たちだけ安全なところにいろっての。エルもいったんだよね?」
「彼はそういう存在なんだよ。少なくとも今の彼はね」
「どういうこと? 意味わかんないよ」
ミリアが話すごとに、その声に怒気が絡み、増していく。
「ナハトが彼のなかで覚醒する前のエル君なら普通の人間だったってこと。本来あんな存在が自分のなかに同居してるなんてあり得ないでしょ」
「またなかにいるあの人が助けてくれるって言うんですか」
「それは断言してあげられない。なぜなら今回の相手は、今までの相手とは格が違うからね」
「そんな……だったら余計に心配です!!」
とうとうマシェエラも大きい声を上げてしまうほどに、溜めてきたものに抑えがきかなくなってきていた。
リリスが自分たちのことを思ってそうすべきだといってくれているのはわかる。
だがそれでも、今までずっと旅をともにしてきた仲間の危機を、自分たちだけが安全なところで待っているだけなんてと、心は衝動的になっていくばかりだった。
「私たち、無理矢理にでも出ていくからね。もうあなたの言うことなんて聞いていられない」
「困ったねぇ……」
そう頭に手を回すリリスにククはいつもと違った目を向けた。
「リリス、いい加減ボクたちを自由にしてくれるべきだと思うんです。これはあなたの仕事ではないのだから」
「……クク?」
ミリアがククの変化に気がついて名前を呼ぶ。
「あなたはあくまでもクイーンサキュバスです。それ以上でもそれ以下でもない」
「人一人の運命を、行動をあなた自身の思いだけで抑え込むなんてことは、これ以上は許されない」
リリスは少しの間ククを見つめ、ククもそんなリリスを見つめていた。
「……そういうことかい?」
リリスがククにそう尋ねると、ククは小さく頷いてみせる。
「わかった。転移門まで案内するよ」
リリスはそれでなにかを悟ったようにさっきまでと一転して私たちにそう言った。
「成長したからかな。少しあの人に似てきたね」
リリスがククを見て懐かしむようにそう言うと、ククはにっこりと笑って返していた。
それから外に出て、リリス連れられるままにワイプリズンの外にある転移門まで案内される。
「悪かったね。君たちを閉じ込めるようなことして。でも、それだけここから先は危険なんだ。普通の人間なら、命がいくつあっても足りないほどにね」
「心配してくれてるのはわかってたよ。でも、私たちは行きたいの」
リリスはため息をつく。
「意思は固いようだ。ここまで本気なら、止めるのも野暮ってことだね」
リリスはククに視線を移すと、すぐに振り返って転移門を発動させる。
「場所はグランゾール――――転移門よ開け」
転移門の魔法陣が光出す。
「さあ、君たちにできることをしてくるがいいさ」
リリスの一言に背中を押されるように、ミリアたちは魔法陣のなかに飛び込んだ。
「ありがとう。リリス」
「ククのこと、ありがとうございました」
ミリアとマシェエラが先に入っていく。
「リリス、またいつか出会えるといいですね」
次にククが入っていく。
「はい、お母様」
そして転移門の力でミリア、マシェエラ、ククの三人はグランゾールの戦場に転移した。
「ここにエルたちがいるんだね」
「魔王ブラックレオと戦ってるってリリスは言ってたけど」
「あっちじゃない~」
ククがそう言った瞬間、遠くの方で強い魔力のぶつかりが大陸に響くほどの音を上げた。
その魔力のぶつかりは未だかつて経験したことのない未知の世界のものに感じた。
それは恐れと呼ぶ感覚を呼び起こすものであり、生きとし生けるもののなかに潜在的にもっている生存本能と呼ぶものが、警報を鳴らしていた。
「どうしたの? ミリア、マシェエラ、行こうよ~」
クク以外の二人は足が前に進まずにいた。それも当然のことで、周りにいるグランゾールの兵士や戦いに加わっていた勇者や冒険者たちも、そこで眺めているだけだ。彼らも二人同様に、恐れを抱いているからだ。
それでも少しずつだが、二人は前に進もうとしていた。
なんのために来たのだ。あそこにはエルやマリア、そしてミズチがいるはずなのだ。
そしてあの魔力のぶつかりに二人は感じるものがあった。あの魔力の片方は、エルのもう一人の人格のものだと感じられたのだ。
二人は確信していた。だからこそ、二人は進むのだった。