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三十八話、魔王ブラックレオ



人々がすっかり寝静まった頃、明け方を狙い奴らはグランゾールに攻めいってきた。


門の上で見張りをしている兵がそれに気づき、各方面にそれを伝達、その後予備隊が先に出て奴らの足止めをしている間に、本隊が戦闘準備をして防衛戦に加わった。


「くそっ!! 予備隊のほとんどがやられてしまっていますね。予備隊、我々が食い止めている間に早く散らばった隊を本隊に再編成しろ。僅かな時間も命取りになるぞ」


本隊を指揮しているグランゾールの軍師ヨルドが声を上げる。


波乱のなか、グランゾールの門を背にして指揮をしていたヨルドのもとに伝達の兵がやってきた。


それが良いものか、悲するものかはその表情を見ても判断がつかない。戦場のなかであればそんな余計なことまで先々と考えてしまう。


「ヨルド様、右翼左翼ともにいつでもいけるようです。どういたしますか?」


どうやら右翼左翼の伝達の兵が、両翼に指示は必要かと気をきかせてきたようだった。


状況は我々には不利だが、今すぐに余力を使ってしまうのは後々に響いてくる可能性がある。ここは本隊に耐えてもらうしかない。


「まだそのときではない。必要であればこちらから兵を送ろう。おまえはそのときのために伝達が途切れぬように目を光らせておけ」


「はっ」


そう言うと、すぐに兵は闇のなかに身を隠した。


そうは言ってもこの状況はよくない。どうにかして押し返さなければグランゾールのなかにまで攻め込まれてしまう。


そのとき、前方のほうで砂塵が巻き上がった。


「マリア様だ。聖女様が来てくれた」


兵たちが聖女の登場に明るい声を出す。


「もっと後からくると思っていたが、これでなんとか持ち堪えられそうだ」


聖女は神から力を与えられし存在、神の使いだ。よって彼女は魔王と並ぶほどの力をその身に持っている。


だが、彼女たち教会に属するものたちは神によって世界の調和を義務づけられている。


そのため彼女たち自身が積極的に力を使用して戦いに参加してくれるわけではない。すべては調和のためだ。


と、いうことは、我々は彼女の見立てだとかなり追い込まれているということになる。でなければ彼女がこんな最初の局面から戦いに参加してくれるとは思えないからだ。


「これは厳しい戦いになるかもな」


ヨルドが盤面において思考を巡らせている間に、マリアは戦場を掻き回していた。


これほどまでに敵側に先手を打たれた戦いだ。自分が少し暴れたくらいがちょうどいいと考えていた。


「ふう…………なかなか骨が折れますね」


そう言うと目の前にいるミノタウロスやサイクロプスを切り刻んでいく。


「基本は中級レベルですが、なかにもこういった上級の魔物もちらほらいるようですね」


世界最強を誇るブラックレオの軍がたった五万ほどとは思えない。だが、聖女の力を持つマリアでもここにいる五万意外の存在は感知できていなかった。


私の力でも感知できないとすると、宝具か、それともほんとうに五万しか出してこなかったのか。


未だブラックレオの思惑は霧に阻まれるように包み隠されたままだった。マリアにはそれがとても不可解に感じた。


そうしているうちに戦場は落ち着きを見せ始めた。ヨルドも時期を見て右翼を本隊に合流させることで挟み撃ちを狙い、戦場を一気に有利な方向に向かわせようとしていた。


そんなときだった。


暴力的なまでの魔力が崖の上に現れたのをそこにいた生物は肌で感じ取っていた。それは生物すべてが無意識に感知してしまうほどのもので、動物的に恐怖を察知したためだったろう。


そこには二つの影が立っていた。


「存在を隠す気もないということですか」


マリアはその影に視線を向けると、ぽつりとそう溢した。


二つの影の一つ、ブラックレオは周囲見渡して、なにかを探すようにただ戦場を眺めていた。


「ゲマルド、イリスの言っていたことはほんとうなんだろうな。世界の破壊者が目覚めたというのは」


「はいっ!! もちろんです。イリス様の言うことに間違いはありませんですです」


「ならばそいつはどこにいるんだ? ここには人類勢力のほぼすべてが集結している。だというのにそんな強大な力を持った人間はここにいないように見える」


「ふむぅ……誠に残念ながらここにはきていらっしゃらないのではないでしょうかねぇ」


「そうか。ここまでして撒き餌を撒いたというのに釣れたのは聖女ただ一人か。私も侮られたものだな」


「どうされますか? ブラックレオ様」


「腑に落ちない結果となったが、これもまた勉強させてもらったと思えば悪くはない」


ブラックレオは崖から前方の宙に魔力で移動しする。


「人間たちに褒美として、私が教えられた自身の驕りを解消すべく、ここは私自らが戦場にその身を投じ、蹂躙するとしよう。そして、人間たちに私という恐怖をその矮小な脳に記憶させてやろう」


その瞬間、異変が起こった。


戦場で戦っていた魔物たちが一斉にに踵を返してどこかへと逃げ去っていく。


そして急に空が光を遮断し、闇が覆い出す。


昼間だというのに月も昇ってきて、気がつけば既に夜になっていた。


いったいなにが起ころうとしているのかと兵たちが不安がっていると、元凶となるものが姿を現した。


「我はブラックレオ、最強の魔王にして最強を望むもの」


ブラックレオはその存在を証明し、更に公約を述べるかのごとくこう告げた。


「我は人間たちにその意を示さなければならなくなった。よって蹂躙を約束しよう」


漆黒稲妻がブラックレオのなかから生まれ、弾ける。


稲妻はブラックレオ自身を、また時折周囲を襲った。そしてそれによってブラックレオの姿は徐々に変化していった。


漆黒の巨大な獣。影のようなそれは、山よりも巨大な本物の化け物だった。


「なんだあれわぁぁ!!」


目の前でその姿を見た兵士が気が狂ったようにそう叫ぶと、口をあけ轟音鳴らすその化け物によって踏み潰された。


「逃げろ……殺されるぞ」


兵士たちも魔物たちに続いて逃げ始めたが既に遅く、四肢や尾で兵士たちを虫を払うように凪ぎ払っていった。


そんななかマリアは、聖女の力でグランゾールの門の近くまで退避していた。


「マリア、あの化け物はなんだ? 邪神ゴルトスの比じゃねぇぞ」


戦争に参加していなかったミズチが、グランゾールの内側から出てきていた。


異変を感じたので、様子を見にきたという感じた。


「そうですね。あれは……私の力を持ってしてもどうしようもないです」


「だが逃れようがなさそうだぜ。魔法で飛んでも叩き落とされるだろうし、転移魔法なんて強力な魔法は俺たちでも使うのに半日はかかる」


「戦うしかないですか」


「そうだな……戦うしかない。でないと後ろにいるグランゾールで生きている力のない人たちなんて一瞬で殺されちまう」


「ミズチ、申し訳ないですが……」


「いいよ。付き合いましょう。後は運が良ければ生きてるさ」


「神様も運を頼るのですね」


「俺は神を名乗っているが、所詮は人間の信仰からそう呼ばれていただけの偽物だ。そちらの本物の神と比べられても困る」


言葉が切れると、マリアは再び剣を握る。


「それでは、行きましょうか」


「ああ、死地にな」


そして二人は、化け物となった魔王ブラックレオに向かって走り出した。





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