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二話、ゴーレム




人と魔物との契約は、お互いに対価を与え合うことで成立する。


ククがパーティに加わったことで大幅に戦力がアップした。というか僕より断然強いし。


問題は定期的なエナジードレインだったが、最近はもう慣れてきてきた。人間の慣れというものは怖いものである。


僕たちは今、次の町へと足を進めていた。


次にたどり着いた町は炭鉱の町サントリオ。そこはロベリアスの勇者養成所から出た新人の勇者たちが、最初に訪れる町でもあった。


サントリオは炭鉱で栄え、王都マグアーレと港町レイトマーレの間に挟まれた中間地点として使われているため、足を運ぶ人の数は多く、町並みは豊かなものになっている。


「あはぁ~。ここが人間の町なんだね~」


ククは相変わらず今日も元気だ。前よりもレベルが上がって成長したが、やはり服を着てくれるようになるまでが長かった。


最初は嫌がって、上に羽織るくらいしかしてくれなかったが、最近になってようやく慣れてくれて、外を歩けるようになった。


時間がかかってしまったが、ようやく次に進むことができた。まあ元々僕はダメ勇者だから、自分のペースでゆっくり進むことしかできないんだけど。


「うん、ククは町は初めてなんだね」


「そりゃぁそうだよ~。私はあの森で育って、エルに会って初めて外の世界に出たんだもん」


そんな浮かれているククを他所に、内心僕は気が気じゃなかった。だってここには僕のいた養成所の同期がいるかもしれないんだから。まあでもみんな僕よりも先に進んでいるだろうし。大丈夫かもしれないけど。


「せっかくだから装備を揃えようよ。僕、まだ冒険に出てから一度も変えてないんだよね」


「いいよ~。ボクにもなにか買ってね~」


「わかった」


僕はククと一緒に装備屋の門を叩いた。


「いらっしゃい」


装備屋のおやじさんが陽気に声を掛けてくる。


「すいません。レベルにあった装備をいくつか見繕ってくれませんか。こっちの子にもお願いします」


「へえへ、最近新人の勇者さんのお求めが多かったから在庫ねぇかもしれねぇけど。ええと……レベル7か。意外と低いな。だったらあるぞ。ちょっと待ってろよ」


もしかして、レベル低かったから在庫残ってたとか……。


「そっちのねぇちゃんはレベル13だからちょっと割高になっちまうな」


そうだよな。改めて思うけど、僕のレベルは7、ククとのレベル差が二倍もあるのに、よく契約できてるよなって思う。


「全部で三千三百二十ゴールドだ」


僕は剣以外は全身皮装備だっていうのに、ククは一部鉄装備。装備のレベル基準値は当然僕の方が下。やっぱり僕ってダメダメだ。


僕が落ち込んでいると、隣でククははしゃいでいた。


「すごいすごい~。やっぱりちゃんとした装備があると違うね~」


今までクク用の装備がなかったから、自分の装備が手に入って嬉しいようだ。そういえば僕も昔養成所で初めて装備をもらったときは同じくらい喜んでたな。見習いの装備だったけど。


ククは笑顔を振り撒く。その笑顔を見ていると、なんか自分のことなんて小さなことに感じてくる。不思議だと思った。僕ももっと頑張らないと。


「あれ? エルじゃん」


後ろから聞き覚えのある声が届く。僕は内心ぎょっとして、振り向きたくなかったが、相手に呼ばれたら仕方がない。


「ミリア、久しぶりだね。元気だった?」


「エル、結局勇者してるんだ。就職すれば良かったのに。パーティいないんでしょ」


「いや、今は……」


いるんだけどね。同じ勇者じゃないけど。


ちょっと待って。パーティ組んだ最初の相手が魔物で、しかもサキュバスだなんて、普通変なこと考えて仲間にしたんじゃないかって疑われちゃうよね。


サキュバスは人間の魔力を食べる生き物だ。だから、昔から基本的には人間と共存型の魔物だ。だが、サキュバスに魔力を与える方法が性的な方法でしか供給できず、しかもサキュバスは女の子しかいないので、人間の男からしか魔力が得られない。


そのため大きな町だったりとか都市には、サキュバスが共存していけるように、不眠街というサキュバスが魔力を得るためお店というのがあったりする。


そういう背景もあって、サキュバスはそういった性的対象にされやすい。だから世間一般的には、そう思われてしまうだろう。


今一度自分の状況を整理したら、周りから見たら僕はそういう人に見られてるのだろうと考えてしまう。でもどうにもならないので考えるのは一旦やめておこう。


とりあえず、ミリアには気づかれないようにしないと。


「あはは……まだひとりだけど、なんとかやってるよ」


「えっ!? ひとりなの? 絶対辞めたほうがいいよ。じゃないといつか死んじゃうよ」


「なんだなんだ……おっ!? エルじゃん。久しぶりだな」


「ハラート」


ミリアと話していると、気づいたハラートと、パーティを組んでいる他の連中がやってきた。


「どうよ。勇者活動順調にやってるか?」


「まあちょっとずつね」


「どうせまだ仲間のひとりも見つけられてないんだろ。魔物が強くならないうちに別の仕事考えた方がいいんじゃね」


「ごめん、心配してくれるのは嬉しいけど、でも僕、それでも勇者を続けたいんだ。続けてればいつか、誰かの助けになれると思うから」


「エルぅ、まだぁ?」


僕を待っていたククが催促してくる。やばいなこの状況。ミリアだけならなんとか誤魔化せたけど、この人数はさすがに無理だ。


「誰だあの子? ってあの子魔人じゃん。しかもサキュバス」


「エル、もしかしてそういうことしたくて勇者やってたの? うわ引くぅ」


ミリアが僕を汚いものを見るような目で見てくる。


「そんなんじゃないよ。なんていうか、ここに来る途中で知り合っただけで」


「ふうん、ほんとかな?」


やばい、完全に疑われてる。


「ねぇ、早くいこうよ~」


ククが後ろから抱きついてくる。背中には二つのふくよかな柔らかい感触を感じる。


「うわぁ……」


そんな僕の状況を見て、ミリアは息をもらす。

「やっぱりそうなんじゃん。心配したげて損した」

ミリアは興味を失ったように去っていく。その横にいるハラートたちも視線をちらちらと向けつつも、ミリアとともに去っていった。


やってしまった。でもいいか……。どうせ彼らの方が僕よりも先に進むから、この先会うこともないだろう。


僕は仕方なく割り切ることにした。


そのあと、僕は心許なくなった所持金を稼ぐために町の依頼掲示板に向かうことにした。


掲示板を見ると、炭鉱に現れたゴーレムを退治して欲しいという依頼があり、それ以外はかなり上級者向けのものしか残っていなかった。


「うむぅ、これしかなさそうだね」


「別にいいじゃん。ちゃちゃっと倒しちゃってぇ。夜はしっぽりしようよ~」


「しっぽりってなに! そんなことしないからね」


「もう、エルはむっつりだなぁ~」


「ククはもう少し恥じらいを持ってよ。誰に聞かれてるかわからないんだからさ」


「そんなの関係ないよ~。それにボクはサキュバスだよ~。無理無理ぃ~」


種族的にそうだってわかってるけど、もう少し控えて欲しい。せめて人の耳に届かないところで言ってくれ。


「じゃあ早速出発ぅ~」


ククはそう言うが、昼までの陽気な天候に徐々に雲がかかり、風向きが変わりつつあった。もしかしたら一雨くるかもしれない。


「ねぇクク、今日はやめて明日にしない?」


「え~、エルがいいならいいけど」


僕たちが帰ろうとすると、ハラートたちがやってきた。どうやら掲示板に用があるらしい。


「奇遇だなエル。お前も依頼か?」


「まあそんなとこ。でも明日にしようかなって」


「だったら俺たちがもらうぜ。いそいでるんだ。いいだろ」


「うん」


そしてハラートたちは町の出口に向かっていく。

一緒にいたミリアは横目で僕を睨むと、ぷいと顔を背けてハラートたちについていった。


僕はそれをしばらく見つめた。理由は明確なものは特にないが、なぜか不穏なざわつきが足先から肩まで走っていくように思えた。


「やっぱりいこうクク。ハラートたちが気になる」


「あの女の子が心配なの? エルも隅に置けないね~。ボクだけじゃなくぅ、あの子ともしたいなんて~」


「そんなんじゃないよ」


「え~。別にボクは悪いと思わないけどなぁ。男の子ってそういうものだと思うし~」


「いいからいくよ」


僕はククを置いて先に歩き出す。


「あっ!? 待ってよぅエル~」


僕たちがそうやっている間にも、次第に天候は日が落ちていくのと平行して、魔の物が好む空色に変容していった。


僕たちが炭鉱にたどり着くころには、視界はまだあるが、陰鬱な空の様子に拍車がかかり、そのうち雨も降ってくるだろうと推察できた。


夕方までそれなりに時間は残されている。それまでに帰れればいいが。やはり難しいかもな。


とにかくだ。ハラートたちの狙いはゴーレム。だからゴーレムを見つけないとならない。


ゴーレムは巨体だ。だから炭鉱のなかには入れない。外回りを探していれば見つけられるはずだ。


いや、もうハラートたちが見つけて戦闘を仕掛けているかもしれない。それなら僕たちは、なにもなければ遠目から眺めていればいい。


瞬間、唐突な爆発音と、ハラートたちのものと思われる声が聞こえてきた。


声色はかなり必死なものだ。自分以外が戦っている様子を知らないので、これがどの程度必死なのかはわからないが、自分が戦っているときと比較すると、結構厳しい戦況なのではないかと感じる。


僕は音のした方に向かって駆け出す。足場は整備されていて問題なかったため、森を歩いてきたときよりも、足元に気を払う必要がないのでスピードが落ちない。


炭鉱の右側、奥の方に進むと、ハラートたちとゴーレムが戦闘しているところに出くわした。


ゴーレムは炭鉱の土砂を身体の素材にしているためか全身が真っ黒で、そこに青い目が二つある感じだった。


僕はハラートたちの意識が及ばないくらい距離がひらいている位置で様子を確認する。


現状は、ハラートとそのパーティはそれぞれが程度の差はあれど傷つき、ひとりは歩けないほど弱っている人もいた。


ハラートがそのひとりを担ぎ、他のみんなはゴーレムの攻撃に耐えているという状況だった。


時折来る土属性の魔法が厄介だ。傷ついて体力も減らされて動きが鈍ってしまっている今、下から来る無数の土の柱が、彼らの体力を確実に奪っていっている。


こんな状況で僕が助けにいっても、彼らよりレベルの低い自分ではゴーレムに敵わないかもしれない。


でも、ここに来た時点で、僕の腹は決まっていた。


そのとき、ハラートたちの陣形に狂いが生じた。体力の限界が来たのか、ミリアがハラートたちから離れて孤立してしまった。


ゴーレムの狙いは孤立したミリアに集中する。知能は低くとも、そのくらいの知恵は働くようだ。


ハラートたちはそれを好機と捉えたようで、ミリアを置いてその場から逃げ出した。


「あ~ひど~い」


ククはそれを見て声を上げる。


「クク、お願いがあるんだけど聞いてくれる?」


「なにぃ?」


「ククはゴーレムを引き付けて。僕はミリアを炭鉱に逃がす」


「いいよ。でもぉ、ちゃんとボクのとこに戻ってきてねぇ~」


心配してくれてるのか。やっぱり仲間っていいな。


「わかった」


僕は強く返事を返して飛び出した。


ゴーレムの身体は硬い。今の僕の腕じゃ剣ではびくともしないし、魔法も未だ使えない。そんな僕にできることは――――。


とにかくミリアの場所までたどり着くこと。そしてそのあとは――――。


「ミリア、僕の手を取って」


僕はミリアに手を差しのべた。


動きの遅いゴーレムの攻撃範囲からミリアを連れて逃げることだ。




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