表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/126

二十話、邪神ゴルトス、復活




日差しが地上に届かず、夜のような朝を迎えたマリアだったが、暗さのせいで視界がなく、今の状況が見えない。


だが一つだけわかっていることは、自分の胸の部分になにかが押し当てられているということだ。


見えないことは怖いことだ。そこになにがいるのかわからない。認識できないということは人の恐怖を駆り立てる。


そこで動かないでじっとして、様子見でいることもできるだろう。だがマリアは少しずつその未知に手を伸ばしてその解を得ようとした。


まずはポンポンと叩いてみた。


「んむぅ~すぅぅぅぅ」


なんですかこの声はわわわわわわ。


マリアは冷静なようで冷静ではなかった。


声なのか音なのかもはっきりとしない。わからない。怖い。そう思うのだった。


もう一度触ってみることにした。今度は撫でるように触ると、さわさわと毛のようなものがあるのがわかる。


なにかの動物かと思っていると、それが言葉になった声を発してきた。


「柔らかい……もっちもちだぁ」


この声には聞き覚えがあった。


ここでようやくマリアの寝起きで回っていなかった頭が稼働し始めた。


そしてすぐ答えにたどり着く。


「そういえばエルがいましたが、もう少し遠かったはずじゃあ……」


どうしてこうなったのかはわからないが、自分の上に乗っかっているのは間違いなくエルだろう。


「どうしてこんなことに……まさか! エルが私に夜這いを……でも乗っかられている以外になにかされているわけでもないし……」


身に覚えのないマリアだったが、取り敢えずエルを起こすことにした。


「エル、起きて下さい」


マリアがその手で揺さぶったり、ポンポン叩いたりしていると、やがてエルは目を覚ました。


「なんだよマリア………………えっ? ここどこ?」


「私の上ですよ。暗いからわからないかも知れないですけど」


洞穴の出口から僅かに光が届いているが、外も暗いようで、光自体が弱い。


「ごめん退くよ。ちょっと待って」


エルは手をつく場所を探していくと、どこも柔らかい感触が返ってくる。それがマリアのものだと思うと恥ずかしさと申し訳なさで動揺してくる。


動揺してくると更に周りが見えなくなっていくため、同じところをなんども触ってしまったりして、そして更に動揺していくというスパイラルに陥っていた。


「エル! なにしてるんですか! 早く退いてくださいじゃないとっ……ふえっっ!!」


さすがの優しいマリアといえど催促が飛んでくる。


そして変な声をマリアが漏らしたためによりいっそうエルはテンパる。


「ごめん! あ、あれっ! どこだ……ああダメだわかららない。早くしないとダメなのに……」


「あふんっっん!!」


マリアの声が洞穴中に響く。


「えっ! なに!? どうしたのマリア? マリア!?」


返事が返ってこない。でも荒い息遣いだけがきこえてくる。


マリア、いったいどうしたというんだ。


「はっっあっっあはぁはぁはぁ…………あ……あああああああ」


マリアの様子がおかしくなる。


「いやぁぁぁぁぁぁぁお嫁にいけなぁぁぁぁい」


マリアはいきなり上に載っている僕を突き飛ばして洞穴をでていった。


「な…………なんでこうなったんだ」


混乱に混乱が続いていた僕はなにも理解が及ばずに、取り敢えず洞穴の出口に向かった。


「どうしたんだ? マリアってやつ、泣いてたぞ」


洞穴を出るとミズチがいた。彼はずっと外にいたのだろうか。


「もしかして襲ったのか? 顔に似合わず肉食系だな」


「いや、そうじゃないんだけどいろいろあって……」


「ふうん、いろいろか……それより、山にも悪い空気が流れ込んできている。そろそろ決着をつけようと思ってんだが、お前らも来るか?」


「うん、いくよ。そう約束したからね」


「約束か……わかった。好きにしな」


そのとき、邪悪な魔力の気配が迫ってきているのを感じた。


そいつの周りには多くの小さい魔力が集まっている。


間違いない。ジンイ教のやつらだ。


「いくぜ」


「うん」


気がつけば戻ってきていたマリアを連れて、僕たちは向かった。


やつらのいる場所に。


「そっちからわざわざ来てくれるなんてな。いく手間が省けてよかったぜ」


ミズチが教祖ゲマに向かって言う。


「あなたのような化け物を放置しておけませんからね。我々の神に誓って」


「なに言ってんだよ。お前らの神の方が化け物だろうが。それにお前もな……」


ゲマはにやりと笑う。


「さすがは水神、気づいていたか」


「ゴルトスの魔鏡から出ている邪気で自分の臭いを隠していたつもりだったのかもしれんが、俺にはわかる。ゴルトスは純粋な悪の臭いしかしなかったが、お前からは、俗物的な雑食のくせぇ臭いがすんだよ」


ゲマはしょうたいをあらわした。


「お前はゲマルド!」


「魔物だ。教祖様が……魔物だったなんて……」


教祖だったゲマが正体を現したことで信者たちは青い顔をしていた。


自分たちの信じていたものに裏切られて、目の前に現れた恐怖に怯えていた。


「もうホラ吹きは終いにしたのか?」


「ええ、もう必要ないのでね。愚かな人間たちのおかげで魔力は十分に集まりました」


ゲマルドは懐から鏡を取り出す。


「あとは彼らにゴルトス復活のために魂を捧げてもらうだけです。ハカナさん」


ゲマルドが呼ぶと、ハカナがいつの間にか側に立っていた。だが、以前みた様子とは違い、目は虚ろで纏う魔力が邪の色をしていた。少なくとも人間の出すものではなかった。


「てめえハカナになにをした」


「ハカナさんはゴルトスの最初の契約者にして巫女の生まれ変わりですからね。特別に傀儡にしてあげました。あなたにぶつけるには丁度いい相手でしょう」


ハカナはゲマルドの言うようにまさに傀儡のような動きで腕を黒い鎌に変容させる。


それを見て信者たちは逃げ出した。自分たちも同じものにされると思い、逃げ出したのだ。


「趣味のわりぃこって」


「そうですか? 私は大好きですけどね。こういうの」


エルが前に出る。


「ここは僕たちに任せてミズチはハカナさんを」


「エル……いいのか任せちまって。死ぬかもしれねぇぞ」


「大丈夫だよ。それよりミズチは決着をつけなきゃならないんでしょ」


「ああ、わりぃな。んじゃ任せるわ。終わったら駆けつけっからよ」


ミズチはハカナを引き付けてどこかへ消えていった。


二人だけで戦える場所に向かったようだ。


「さてと、残ったのはロベリアスの王都で会ったあの勇者ですか」


「ゲマルド、今度もお前の仕業だったのか」


「あなたのことは気になってたんですよ。勇者なのにまるで魔王のような凄まじい魔力の持ち主だと」


「それは僕だけど僕じゃない。もう一人の僕だ」


「なんと! もう一人とはおもしろいことを言いますね。ますます興味深いです。わかりやすく教えてもらえますか?」


「ゲマルド。僕は怒っているんだ。また人々を騙してこんなことをしているなんて」


僕は剣を抜く。


「楽しいですよ。馬鹿な人間で遊ぶのは。それにこういうことをしているのは私だけじゃない。強者は弱者から貪る。これはどこの世界でも同じです。魔物でも人間でもね」


「なにを言っても無駄なようですね」


マリアがそう言って細剣を抜く。


「そろそろお喋りも止めにしましょう。供物が全員いなくなってしまう前にね」


ゲマルドがゴルトスの魔鏡をかざすと、魔鏡は邪悪な色の光を出した。すると、逃げ出した信者たちが次々と倒れていった。倒れた人たちの身体からは魔力が吸い出され魔鏡に流れて入っていった。そして、残った身体は黒い炎で焼かれ、やがてそこから繭となった身体を破って魔物が産まれ出てきた。


「なにをしたゲマルド!!」


エルは怒気を絡ませた声で叫んだ。


「なんだって彼らには契約した対価を払ってもらっただけですよ。邪神に魂を売ったんだ。どうなるかなんてある程度想像つくでしょ」


なんともない当たり前というようにゲマルドは言う。


「滑稽ですね。自分たちが一番嫌っていたものに、自らがなってしまうなんて」


「エル、私は彼らは私がやります。あなたはゲマルドを」


マリアは冷静にそう言ってくる。マリアはこういうとき僕よりずっと冷静だ。さすがは聖女だと思う。


でも、やっぱり僕は簡単に切り替えられなかった。頭に血が昇っていた。マリアのように冷静ではいられなかった。


この慘状を……この地獄絵図を見たら僕はもう、悲しみと怒りでどうにかなりそうだった。


「今こそ邪神ゴルトスの復活です」


ゲマルドは一人で盛り上がっていた。


マリアは産まれてきた元は人間だった化け物と戦っていた。


そのうちゲマルド持っていた魔鏡が割れて、邪神ゴルトスが鏡から這い出るように復活した。


ゴルトスは巨大な全身がドス黒い、二つの鎌のような腕を持った化け物だった。


僕が覚えているのはここまでの記憶だった。


「うおおおおおおおおお」


僕は吼えた。そして切り替わる。裏の自分へと。


自分の内側から放出された魔力が天を切り裂く。そのときにはもう既にナハトになっていた。


「ゲマルド、覚悟はできてるんだろうな」


「はいはいできていませんよ。ですからあなたにはゴルトスをぶつけます」


「そう思うようにはいかねぇようだぜ」


空から龍のように大蛇バジリスクが降りてきた。きっとゴルトスの気を感じたことで自ら戦いに降りてきたのだろう。


バジリスクはゴルトスに飛び掛かった。だが、ゴルトスの鎌で防御されて、バジリスクは距離をあけた。


「やれやれですね。で、あれば次の手です」


そう言ってゲマルドは転移の魔法を使った。やがてその転移魔法で現れたのは、身体中に傷を負わされたクク、ミリア、マシェエラの三人だった。


「つくづく汚ねぇやつだ」


ナハトの目の色が変わる。


「自分たちから捕まりに来てくれたんですよ。随分間抜けな人たちでしたね」


「ゲスが。許さねぇ」


ナハトも転移魔法を使った。指定はクク、ミリア、マシェエラの三人。場所は自分たちの借りている宿屋の一室。それも瞬間転移魔法だ。ゲマルドに妨害される隙を与えない。


「仲間に手を出したんだ。ただで済むと思うなよ」


ナハトは拳の骨を鳴らす。


「ほ……本当に化け物染みてますね。やっぱり今回も退かせてもらいます。ここはゴルトスに任せましょう。それではまた」


そう言うとゲマルドは一瞬のうちに魔法で逃げてしまった。


ナハトはバジリスクの頭に飛び乗る。


「逃げちまったか。じゃあやるか。バジリスク、力を貸すぜ」


バジリスクは蛇らしくシィィィといった音を出してそう応えた。


そして各々の戦いが始まった。


バジリスクは噛みつこうとしてゴルトスに迫っていく。


だが、ゴルトスの両腕の鎌がそれを阻んでくる。


そして時折その鎌の切っ先がバジリスクに突き刺さるが、硬い鱗のおかげで未だ致命傷には至っていない。


このままだとバジリスクが先にやられてしまう。


「バジリスク、お前をやらせはしない」


ナハトがバジリスクに魔力を送った。するとバジリスクの鱗の強度が更に増していった。まるで鎧でも身に纏っているような、そんな見た目に変わる。


「いけバジリスク。今のお前ならゴルトスの防御を突破できる」


バジリスクは声を出してゴルトスに突っ込んだ。


ゴルトスは又も鎌で攻撃してくるが、バジリスクの強化された鱗がそれを弾き返す。


「今だ。バジリスク、絡みつけ」


ナハトはバジリスクから飛び降りてそう言う。


ナハトの言うとおりにバジリスクはゴルトスに絡みついた。


蛇は元々締め付ける力生物のなかで最も強い。絡みつけられてしまったら、どんな生物でもその圧迫力で全身の骨を折られたり、血流を止められて死に至ってしまう。


更に怖いのは蛇の持つ猛毒だ。噛みつかれた上に、絡みつかれたら勝ち目などない。


そしてゴルトスの身体は砕け散った。


バジリスクに身体を破壊されたゴルトスは、黒い球体となってどこかへ逃げていこうとする。


「お前は逃がさないぜ」


ナハトは逃げる球体に人差し指を向ける。


「さあ、永遠の眠りの時間だ」


ナハトは魔弾を放ち、邪神の核を粉砕した。


これでもう、ゴルトスは二度と現れることはないだろう。


気がつけばマリアの方は既に片付いていた。聖女は伊達じゃないな。


少しずつだが、空が元の色を取り戻していく。


「あとはミズチ、お前の番だ」


そう言うとナハトはいつものように、意識を失った。


そのまま地面に激突してしまう前に、バジリスクがそれを受け止めていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ