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十八話、策略



そのころ、ソルティアス大陸の町や村で調査していたミリア、クク、マシェエラたちだったが、始めたときと比べてもまったく進展していなかった。


それ故に、三人ともやる気が底をついて脱力していた。


「なんもわかんない」


「誰も確かな情報を持っていなかったわね」


「みんな知らな~いって言うからね~」


だらりとして宿のベットに横になって三人は話していた。


「でもなにか一つくらい情報を持って帰らないと、エルたちに悪いよねぇ」


「そうよねぇ……」


すると、ククが思い出したようにベットの下に手を入れて一冊の本を手に取った。


「クク、なにそれ?」


「歴史書だよ~。村のおじいちゃんにもらったんだ~」


「そんな高価なものよくもらえたわね」


「うん。倒れそうになったところを助けてあげたらくれたの。そのあと少しだけ身体触られたけど」


「なにそれ……怖い。クク、そういうのは逃げていいんだよ」


「大丈夫だよ~。気にしてないから~」


「ククのそういう楽観的というか危機感が足りないみたいなところは、お姉ちゃんちょっと危ういなぁって思うなぁ……」


ミリアが妹分のように思っているククを心配して悩ましげにしている間、ククはなんとなしに本を開いて読み進めていた。


「これおもしろいよ~。これってミエトのことでしょ~」


「ちょっと見せて」


「私も見るわ」


三人が寄って本に視線を落とす。するとその歴史書には、かつての都ミエトに関する神話が書き綴られていた。


巨大な二つの黒い鎌を持った魔物ゴルトスと水神と呼ばれた魔物ミズチ、そしてミエトの美しき巫女の話しだった。


ゴルトスは邪神として恐れられていて、その力でソルティアス大陸を闇で覆っていた。都や近隣の町や村などでは、災害や天変に見舞われて、人々の心に絶望が広がっていった。


そんなとき、空を舞うようにしてミズチが現れ、空を覆う闇を払っていった。


ミズチはゴルトスと戦い、巫女の力を借りてゴルトスを鏡に封印することに成功する。


そしてソルティアス大陸には平和が戻り、ミズチは水神としてソルティアス大陸の守り神となった。


「こんなことがあったんだ」


「歴史っておもしろいね~」


「でも、調査で得られたのはこれだけになっちゃったわね」


そして、ミリアたちがエルたちのいるミエトに帰って歴史書を渡してみると、エルたちは思っていたものと違う反応を見せた。


「これは……ハカナって人が言っていた内容と全然違うじゃないか」


「この歴史書ではあの大蛇に乗っていたミズチって人が水神とされているようですが」


「やっぱりあの教団は信用できない。ミズチに会って話しを聞いてみようよ」


「そうですね。行きましょう」


エルとマリアの二人は探求心のあまり興奮気味に部屋を飛び出していった。


「どういうこと?」


「なにも説明してもらえなかったわね」


「エル、楽しそうだったね~」


静寂に包まれる。


エルに置いてきぼりにされたと、三人は声に出さずともお互いに感じていたが、悲しくなるので深く考えないようにした。


「あの話しの流れだと、この歴史書とジンイ教の本部で聞いてきた話しが違ってたってことだろうけど」


「ねぇミリア、これから私たちどうする?」


「私はジンイ教本部に行ってみたい。マシェエラはどうしたい?」


「私も危険だとは思うけど、気になるのよね」


「だったらいこう~」


ククの一声で話しは決まった。


ミリアたちはジンイ教本部に潜入してみることにしたのだった。


都を分離している北側に通じる門の前で、ミリアたちは信者になることを希望しなかに入る。すると、目を疑うような光景が飛び込んでくる。


信者たちが一つの鏡に群がるように魔力を与えているという異様な光景だった。そしてそのなかから一人が選ばれ教祖と鏡の前に立つ。


「我らが神ゴルトス様の力を分け与えましょう。受け取りなさい」


教祖がそう言うと、鏡から黒い雷が放たれ、信者の腕に刻印を刻んだ。


「おお、これがゴルトス様の力。オラだぢ人の可能性か……」


信者はもらったものを見せびらかすように壇上から刻印のついた腕を掲げて見せる。


そして魔力を込めると、腕の形は変容していき、黒い鎌のようになる。


「これでオラはもう、魔物に怯えずに済むんだ」


歓喜の声を上げる信者の男。そして、それを見て目を輝かせている信者たちの姿に、ミリアたちは触れてはいけない狂気のようのものを感じた。


だが、それでもミリアにははっきりと言いたいことがあった。ミリアの性格上それをせずにはいられず、衝動的に身体と口が動いていた。


「あんたたち騙されてるよ。その鏡は、邪神ゴルトスを封じた魔鏡なんだから」


ミリアのその行動に、信者や教祖たちの視線が集まる。


「なにを言ってるだ小娘。ゴルトス様を邪神扱いするなんてバチが当たっぺ」


すると、ミリアは突然教祖に向かって指をさしてこう言った。


「お前のやっている事は、全部お見通しだ!」


「ゲマっ!!」


教祖が動揺して思わず声を上げる。


ミリアは手に持っていた歴史書を開いて見せる。


「この歴史書には邪神ゴルトスとこの大陸をその魔の手から救った水神ミズチと巫女の話しが記されてる。この歴史書の通りなら、そこの鏡は邪神ゴルトスが封印された魔鏡ってこと」


「でもオラだぢの知ってる歴史書とは違えぞい。そっちが偽物なんじゃねぇが?」


「いえ、間違いなくこっちが本物です」


「根拠はあんのがい」


「…………」


ミリアは言葉に詰まる。


するとついに教祖が間に入ってくる。そして自分たちの持っている歴史書を取り出して言った。


「これはミエトに代々伝わる歴史書です。都にはこれと同じものがいくつかありますよ。これは間違いなく本物です」


「えっ!? そうなの……」


今度はミリアが動揺する。これ以外に手札のないミリアにとっては後がない状況だった。


「まずい……逃げるよ!」


ミリアはそう言って出口に向かって駆け出した。


「ミリア、なんであんなこと言ったの!」


「しょうがないでしょ! 言いたくなっちゃったんだから」


出口に着く前に門の扉が閉められてしまう。退路が絶たれてしまった。


そしてそのままミリアたちは、信者に囲まれて捕まってしまうのだった。




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