十六話、海と、箱と、最初のゲーム
青い海、白い砂浜、そしてそれらを照らし、輝かせるまっさらな空と太陽。僕たちは今、王都マグアーレから歩を進め、港町レイトマーレのビーチを訪れていた。
どうしてビーチにいるのかというと、最初にレイトマーレの宿屋に荷物を置いて、次の町までの食料調達などで買い物や資金調達をしようということになり、依頼掲示板に立ち寄ってみると、一日にして五千ゴールドという破格な依頼があったため、僕らはそれに飛びついたのだった。
ビーチの清掃業務とは、主にビーチの清掃や、魔物に荒らされたところの修繕、魔物退治など、ビーチ全体をきれいにする作業だ。
ビーチ全体は広いとはいえ、人数がいればわりと簡単な作業だ。と、いうわけで僕たちはビーチに来ているというわけだ。
なによりいいのは天気がいいことだ。そしてこの潮の匂い。海が初めてだったりする僕にとっては、結構楽しめている。それになによりも――――。
「エル、待った?」
来た――――お待ちかねの時間だ。
後ろを振り向くと、水着を着たミリア、クク、マシェエラ、マリアが立っていた。
みんなレイトマーレの店で水着を新調したようだ。
ミリアの水着はパレオと赤いビキニ、ククはフリルの多いヒラヒラビキニ、マシェエラは黒のビキニ、マリアは白のビキニだ。
「うわぁ、みんな似合ってるね」
「ありがとう。でも、ククはともかく、マシェエラとマリアはなんか凄いよね……」
「えっ!?」
「そうですか?」
マシェエラとマリアは各々反応する。
「だってマシェエラもマリアもスタイルいいし、なんかエロいよね」
「エロ~い」
ククがおもしろがって声に出す。
「特にマシェエラは気合い入ってるよね」
「えっ!? 気合いなんて入れてないわよ」
「でもその水着、セクシー過ぎでしょ」
「そう? かしら……」
「自覚ないの? もしかして素でそれ選んでたんだ。マシェエラって意外とどエロだね」
ミリアがニヤニヤとした顔をして茶化す。
「どエロってなんですか! 人聞きの悪い」
マシェエラはそう言うが、僕が見た感じでも普通のビキニよりも大胆でセクシーさが際立つものになっている。
でも、あれはあれで僕はいいと思うけどなぁ。
「エル、わかりやすいくらい顔に出てるけど」
ミリアが僕をみて指摘してくる。
「エルのかお~、赤くなってる~」
ククも僕に近づいてきて、顔をつつきながら言う。
「あははは……」
僕は笑って誤魔化す。
「まあいいじゃないですか。それよりそろそろビーチの清掃に取り掛かりましょう」
マリアの一声で僕たちはそれぞれの仕事に手をつけていった。
ビーチ全体の清掃及び魔物の一掃はミリアとククとマシェエラが担当し、ビーチにあるレイトマーレが置いたと思われる公共物はエルとマリアが担当することになった。
人数が多いこともあり、二時間くらいでほとんどの仕事を終えてしまった僕たちは、残りの時間は海を楽しむ時間に充てることにした。
ミリアとククと僕は海に入って遊び、マシェエラとマリアは浜辺でビーチパラソルとかいうやつの下で寛いでいた。
不意に高波がきて、僕ら三人は波に飲み込まれた。僕らは深い海中に落とされたが、そこで大きな箱を見つけた。
ミリアとククがそれに興味を示したようだった。ミリアとククは互いに目を合わせると、二人はその箱を取りに潜る。二人だけでは大変だと思い、僕も潜って一緒にそれを海中から引きずり出した。
「なにこれ~」
ククがつついている。
「きっと宝の箱だよ。財宝! 財宝!」
ミリアは鼻息を荒くする。
そのとき、ククがつついていた箱が急に開かれた。そして、その箱のなかから光が飛び出す。
僕たちは全員、その光のなかに包まれていった。
閉じていた目を開くと、盤上のような世界が広がっていた。
「ここは……いったいなんなんだ」
「変なところだね。周りは夜空に囲まれてるようで落ちつくけど、この下のパネルはなに?」
「ここになにか書いていますよ」
マリアが空中に文字が書き込まれている箇所を見つけてそう言った。どういう原理でできているのかは知らないが、ここは幻想的かつ空想的である。
「え~とね~、そこにある大きなダイスを振ります。出た目にしたがって進みます。最初にゴールにたどり着いた人が勝者です。勝者は一つだけこの世界で手に入れたものを持ち帰ることができます。だって~」
なにかのゲームのようだ。
そのときマリアが思い出したように声を上げる。
「そういえば聞いたことがあります。ゲーム好きの天才魔法使いが作った箱。そのなかにはあらゆるゲームが詰めこまれていて、そのゲームの勝者には今一番欲しているものを与えてくれると言われています」
ククもマリアも長々と説明してくれる。二人ともお疲れ様。
「おもしろそう! やろうよエル」
ミリアがそう言ってくる。確かにおもしろそうだし興味もある。
「せっかくだからみんなでやってみようか」
「じゃあ~、みんなスタートって書いてあるマスに進んで~。そしたら~、ゲームスタートって宣言して~」
「わかった」
僕は一拍空けてから宣言する。
「ゲームスタート」
ゲームが始まった。僕は手に取った巨大ダイスを振る。
4だった。
僕は4マス進んだ。すると下のマスが点滅した。そして、マスに文字が表示される。
【勇者装備を手に入れた】
その瞬間、腰に首の長い白い鳥の装備が現れた。
「なにこれ……」
「勇者装備っぷっ……らしいけど?」
ミリアが僕を見て笑っていた。周りをみると、マシェエラもマリアも僕に背を向けて口元を抑えている。
「まあいいや。まだ始まったばかりだしね。次は誰がやる?」
「じゃあ私!」
隣のミリアが僕からダイスを奪う。
そして転がす。コロコロリン。
6だ。
「ふふん、さすが私。エルより先に進んじゃった」
マスが光り、文字が刻まれていく。
【800ゴールドを手に入れた】
「お金ももらえるんだ。ということは稼いだお金も持って帰れるってことだよね」
「次いくよ~」
ククがダイスを転がす。
2だ。
【パンプキンシャーベットを手に入れた】
「食べ物まで出てくるんだね」
「エル~、これ美味しいよ!」
「しかもその場で食べれるんだ……」
マシェエラのターンに移る。
「次は私ね。それっ!」
マシェエラがダイスを振る。
3だ。
「まだまだこれからですよ」
【バナナを手に入れた】
「食べればいいの?」
カッコイミシン。
マリアのターンに移る。
「いきます」
マリアがダイスを振る。
5だ。
「悪くないですね」
【自分の恥ずかしい秘密を一つ暴露する】
「えっ!? なんですかこれ! そんなこと言われても、私絶対しませんよ」
すると急に僕らの目の前に文字が出てきた。
【マリアは九百年生きてきて、未だに男性経験がない】
「いやぁぁぁぁぁぁ」
絶叫。
マリアは今まで見たこともないほどに平静を崩す。
「知られたくなかった。これだけは知られたくなかったのに……」
「本当なの?」
マシェエラがおずおずとマリアに聞く。
「はい……そうです」
「というかマリア、九百年も生きてたんだ」
ミリアもマシェエラに続いて聞く。正直僕もそこが気になっていた。
「聖女は女神アメリヤス様によって加護を受けていますから。聖女になってから歳をとらなくなるのです」
そうだったのか。初めて知った。
マリアは大ダメージを受けているようで、これ以上誰もマリアに声を掛けられなかった。
エルのターン。
6だ。
【ワカメを手に入れた】
「なんでワカメ?」
ミリアのターン。
3だ。
【最近羨ましいと思ったこと】
「急に言われてもなぁ」
そして、文字が現れる。
【マシェエラのエロ体型】
「ちょっと!! なんでこんなことっ――――」
「なんだミリア羨ましかったのね。どエロとか言ってたけど、案外可愛いところあるのね」
マシェエラが前のことでミリアに仕返しをする。
「ぐぬぬぬぬ」
ミリアは声にならない声を上げていた。
ククのターン。
5だ。
「やった~」
【稲妻の剣を手に入れた】
「なんか凄い強そ~」
「いや、それ僕がほしいんだけど……」
マシェエラのターン。
4だ。
【予言です。いづれあなたは…………不倫をするでしょう】
「どういう意味!!」
「あ~それわかる。そんな顔してるもん」
ミリアに同意。マシェエラ以外はみんな頷いていた。
ククはみんなに合わせているようだったが……。
「みんなそう思ってたんだ……」
マシェエラは力なくため息をついた。
マリアのターン。
6だ。
【モアイ像の鼻を手に入れた】
マリアはなんだかよくわからないものを手に入れていたが、マリア自身が戦意喪失していてそれどころじゃなさそうだった。
それから僕たちは二週くらいゲームを進行させていって、その内容の濃さに体力の限界を迎えていた。
気がつけば一番大変な目にあっていたはずのマリアが一番先にゴールマスにたどり着いていた。
ゴールマスが光り、最後のアイテムが現れた。
【表裏の鍵を手に入れた】
その瞬間、虚ろな目をしていたマリアの目が見開いた。
ゲーム終了という文字と、この世界で手に入れたアイテムのうち欲しいものを持ち帰ることができるといった文字が目の前の空間に現れる。
「では……この鍵を……」
マリアは最後に表裏の鍵を選択した。
そして僕たちはいつの間にか元の世界に戻っていた。
「いったいなんだったのよ。あのふざけたゲームは……」
ミリアは心底疲れたというような声で言う。
「ほんとね。しばらくこういうのはいいわ」
「私は……もう誰とも結婚できないんでしょうか……」
マリアが一番溝が深そうだった。
「でも楽しかったよ~。みんなおもしろかったし~」
確かにククが言うように、まだ知らないみんなの一面を見ることができた。
僕としては今日のあの変なゲームも悪くはなかったと思う。
これも息抜きの一つということで。
そして次があるなら、もっと楽しいゲームをしてみたいと、エルは思った。