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十五話、エルの休日




僕とミリアがハイ村から戻ると、ククもマシェエラもマリアもご立腹の様子だった。


二週間もいなくなっていたのだから当然だろう。


それは心配してくれていたという思いの裏返しで、マシェエラとマリアは比較的すぐにその怒りを収めてくれたが、ククは三日経ってもその怒りを収めてくれなかった。その理由としては――――。


「エル~お腹空いた~。ご飯~」


「はい……」


ククのご飯は僕からのエナジードレイン一択だ。つまり僕がいないと一日一度の食事にありつけない。


人のように他の食べ物からも一応エネルギーを摂取することはできるらしいが、不要なものが多く、効率的とは言えないらしい。


それゆえにククは二週間の間毎日お腹を空かせていたという。それならば確かに機嫌を悪くされても仕方がないと思った。食べ物の恨みは怖い。

それから毎日僕は動けなくなるほどエネルギーを提供させられ続けているのだが…………。


「そろそろ自由にさせてもらえませんかククさん」


「ダメ~。エルまたいなくなったらご飯食べられなくなっちゃうでしょ~」


「じゃあククも一緒にいこう。それならいいでしょ」


「う~ん………………わかった」


渋々といった感じたが了承してくれたようだった。


「でも~今日は依頼はヤダよ~。お買い物とか遊ぶんだったらいいけど~」


「わかったよ。今日一日はククのしたいようにしていいから」


「やった!! エル大好き~」


ご機嫌のククに抱きつかれる。


ククの天真爛漫な様子を微笑ましく思った。


横の方から三人くらいの視線が突き刺さるが、これにももう慣れてきた。


「ロリコン」


「ロリコンね」


ミリアとマシェエラに追撃される。ごめん、それにはまだ慣れてない。正直心に堪える。


「マリアもそう思うよね」


ミリアが更なる追撃の一手をかけてくる。やめてくれマリア、僕のライフはもうゼロなんだ。


「そうですね。エルの優しいところはとてもいいところだと思います」


「マリア……」


「ですがやはりエルはククには特に甘いので、そう思われても仕方ないかもしれないですね」


「ぐっ……マリア」


エルはかいしんのいちげきを受けて崩れ落ちた。


「えっ!? あの……エル、大丈夫?」


へんじがない。ただのしかばねのようだ。


「マリア、一撃でエルの日々鍛えられたメンタルを粉砕するなんて……恐ろしい子」


「不意をついてからの急所撃ち。お見事です。さすが次期聖女ですね」


「えっと……あの……ごめんなさいエル」


マリアには謝られたが、やはり僕は周りからもククに甘いと思われているようだった。


「ねぇ~まだぁ~そろそろ遊びにいこうよ~」


ククに押されるようにして僕は外に出る。


「クク、どこ行きたい?」


「ん~とね~、町の外がいいな~」


「わかった。いこう」


「ついてきて~。エルに見せたいものがあるの~」


「見せたいもの?」


ククについていくと、小さな滝が流れる川のほとりについた。周りには薄く赤い花弁の咲く木がたくさん立ち並び、色鮮やかに彩っていた。


「落ち着くね。ここはククが見つけたの?」


「うん。エルとミリアが帰ってこなくて~、そのときに見つけたの~」


ククはそう言いながら、川の水で遊び始める。


「そっか……ごめんクク、心配かけて」


「いいよ~。帰ってきてくれたから~」


ククは素っ気なく答える。


心地のよい風が頬を滑っていく。


朗らかな太陽の暖かさが、エルの心を落ち着かせ、次第にその目蓋が下りていった。


気がつけば夢のなか。そしてそれは考えてみればとても不思議な夢だった。そこにはククによく似た女の人と僕に似た人がでてきて、僕の知らない場所で、二人の想い出を紡いだ物語だった。


最初に浮かんできたのはククによく似た女の人だった。スラッと背が高く大人びていて、落ち着いた雰囲気がある人だった。


その女の人が、通りすがる僕に似た男の人を呼び止める。


「ナハト、また遊びにいってたの?」


「おう、そうだがそれが?」


なにが悪いという感じで聞いてくる。


「それが? じゃないわよ。昨日は誰のとこ行ってたの?」


「昨日はミユ」


「私には一切気をつかわないのね」


「さーせん」


「殺していい!! こいつそろそろ殺していいわよね。死ぬべきよこんなスケコマシ!!」


「レン」


さっきからそっぽを向いてレンの言葉を無視していたナハトが、急にレンの目を凝視して名前を呼ぶ。


レンは、ナハトのその表情から怒りを止めてナハトの次の言葉を待った。


「愛してるぞ」


「んっ!!」


ナハトの突然の愛の告白とその空気感に呑まれ、レンは言葉を失う。


「なんてな。じゃあ気が向いたらまた相手してやっから。そんときな」


「なによもう。嘘ばっかり」


場面は変わり、ナハトとレンが施設のような建物の外で話しをしている風景が見えてくる。近くには小さな動物が尻尾をふっていた。


「なにこの子可愛い!! ねぇナハト、この子飼いたいんだけどどう?」


「いいんじゃねぇの」


「もう、ナハトはいつもそうよね」


レンがつまらなそうにしていると、もう一体同じ動物が草葉の影から現れる。


「もう一体いたのね。あら、この子メスかしら」


二体は出会うと、互いに寄り添い合う。


「あなたたち仲がいいのね。私たちとは大違い……」

レンが頭を撫でてやると、二体はじゃれあい始める。


「ルコル……てのはどうだ」


「ナハト……名前考えてくれたの?」


「飼うんだったら名前くらいあった方がいいだろ」


ぶっきらぼうに言うナハトに、レンは思わず笑みが溢れる。


「なら、こっちの女の子のほうはシエラね。よろしく、ルコル、シエラ」


レンが名前を呼ぶと、それに応えるようにルコルとシエラも鳴き声を上げる。


そして次の場面が始める。


この辺から場面がより断片的になっていった。


「ナハト……どうしてっ」


「俺はもっとこの世界にいたいんだ。やり残したこともあるしな」


「だめ……いかないで。私を置いて……いかないで」


また切り替わる。


「レンっ――は――え――が」


「ナ――ま――い――」


ノイズが混じり、登場人物たちの声も姿も曖昧になっていく。 ただ、そんななか、唯一言葉として形となって聞こえたのは幸せになって欲しいという願いの声だった。


それを最後に夢の終わりがやってきた。


目を覚ますと、僕に呼び掛ける三人の影があった。


「やっと起きた」


「エル、もう夜よ。ククと一緒に帰りましょう」

「うん」


僕は起き上がって横で寝ているククを背負う。


「いい夢は見られましたか?」


マリアがそう聞いてくるが、僕はなにも覚えていなかった。


マグアーレまでの道の間、ククが目を覚ました。


目覚めたばかりだというのに、元気いっぱいに月明かりの下を飛び回るククに、エルは無意識に口をついてとある言葉が出てきた。


「ねぇクク、今、ククは幸せ?」


「んぅ?」


ククは一度首を傾げてからこう言った。


「幸せだよ~。エルと出会って~、ミリアとマシェエラとマリアと友達になれて~、森でひとりぼっちだったときより~、全然幸せ~」


それを言葉にしたククの笑顔を見たとき、心がスッと楽になっていくような気がした。


明日からまたいい旅が始められそうだ。


「そうだ! エル~、ご飯ちょうだい~」


旅は……やっぱり明後日からにしようかなぁ。


エルはガクリと項垂れるのであった。





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