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イロ島の猫神様  作者: 雨竜三斗
第二章 島のお仕事
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2-2 久しぶりに誰かと食べる朝食

「わっ、豪華……」


 まるで旅館で朝を迎えたような料理が目の前にあった。


 湯気の立つ白米、わかめの浮く味噌汁、目玉焼きとたくあん、釜揚げしらすが卓の上には並んでいる。


「遠慮なく召し上がってください。これから働くんですから」

「はい、いただきます」


 ホタルは両手を合わせて合掌。


「うぬ!」


 そこにチャコは偉そうな声を上げた。先程まで船を漕いでいたのに、焼き魚の匂いで目を覚ましたようだ。


「神様に感謝しての合掌じゃないです」

「にゃが、イロ島と周辺の産物はみゃ~の加護あってこそにゃ」


「魚は関係ないです。海は別の神様の管轄なので」

「そんなことないにゃ。島の漁師が安全に仕事ができるのはみゃ~のおかげにゃ」


「じゃあそういうことにしておきます」


 ワダチはめんどくさくなったのか話を放り投げて味噌汁をすすった。


「もっとありがたく思うにゃ!」

「っていうか朝食を用意したのは俺です」


「くすくす」


 ホタルは箸を止めて口を手の甲で隠しながら笑った。


「なんにゃ。ワダチが変なんこと言ったかにゃ?」

「はい。あ、いいえ。おふたりは朝から元気だなぁって」


 こんなに朝から元気の良い寸劇を見せられては食事の手が進まない。

 ホタルは笑いを抑えながらそう思っていた。


「ワダチの口が減らないだけにゃ」


 だがチャコは不満そうに言いながら焼き魚をつつく。


「神様が、ああ言えばこう言うので」


 ワダチもムスッとした顔でご飯を口に運ぶ。


 ふたりは別にやりとりが楽しくて寸劇――軽口の叩き合いをしているわけではないようだ。

 それでもホタルからすれば『喧嘩するほど仲がいい』と見えている。


 そんな言葉が飛び交う空間がとても心地よかった。


「こんなに賑やかな朝食も何年ぶりだろうなぁ」

「ホタルは朝は誰かと一緒じゃなかったのかにゃ?」

「ひとりぐらしだったので」


 食事を賑やかす相手は、無線放送や、講演会のために聴き込んでいる自分たちの曲ばかりだった。

 もちろんそれは仕事の上では大切なこと。

 別に寂しさを紛らわせるためにしていたわけではない。


 それでも寂しかったというのは事実だ。


「そうかそうか、自立してたんだにゃ」


 チャコはひとりぐらしを立派なことだと解釈したようで、関心の眼差しでホタルを見た。


「自立、でしょうか」


 あこがれの仕事のために家を飛び出し、毎日その仕事を維持するために必死になって、体を何度も壊した。そしてついに心を折ってしまい今に至る。

 ホタルにはこれを自立というのか分からず首を傾げた。


「じゃがワダチはいつまでたってもみゃ~から離れられないのにゃ。

 かわいいやつじゃが、ちょっと心配でな」


 チャコは偉そうに何度も頷く。


「俺が来るまで、神社の周りの猫からエサを貰ってた神様が言うことですか?」


 ホタルはその様子を想像した。


 神社の表にたかる猫たち。

 そのうちの一匹から骨だけになった魚を受け取り喜ぶチャコ。

 さらに岩場に乗り上げて干上がった魚を持ってきた猫に、神のご加護と称して頭を撫でたチャコ。


 こうして猫の信仰を集め、チャコの頂点に立ったチャコが偉そうに神社に座っている。


 だがそこに集まるのは人間や妖怪ではなく、猫ばかり。


(かわいい……)


 そう思って吹き出しそうになったのをなんとかこらえた。

 念のためそっぽを向き、口元を塞いだが、行儀の悪いことにはならずにすんだ。

 

「そんなことあったかにゃぁ~」


 チャコ本人としてはそれは認めたくない過去のようで、目をそらしながら白米を食べる。


「だから神様こそ自立するべきなんです」


 そう言ってワダチは味噌汁をすすった。

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