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イロ島の猫神様  作者: 雨竜三斗
イロ島巡り
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21/33

5-2 一つ目小僧とイロ島のお店

 神社の階段を下っていくと今日も賑わう仲見世通りがある。

 すぐそばのお土産屋では、コノミが今日もメイド服を来て観光客の視線を集めていた。


 ホタルと目が合ったコノミは大きく手を振った。

 ホタルはそれを見て会釈を返す。


 向かいの御食事処も繁盛しており、たくさんの人間や妖怪が出入りしていた。

 その隣は雑貨、装飾具の店だ。

 島の周辺取れる貝殻やサンゴ、石などを加工して販売している。


「島にはいろんなお店があるんですね」


 立ち並ぶ店を眺めながらホタルは関心したように感想をつぶやく。


「でもほとんどは飲食店とお土産屋ばかりだ。

 それ以外だと郵便局、そこは旅館くらいだな……。

 そこの装飾具の店のように、別の世界から出店してきたのがちらほらとあるな」


 得意げな声でそう説明しながら、ヒロシはあっちこっちと指差す。


「ほとんどの店を覚えてるんですね。

 ヒロシさんは観光案内もできるんですか?」


「い、いや、住んでたらこれくらいは覚えるよ。

 島の住民なみんな近所みたいなものだし、ホタルさんも島に住んだらこれくらいは覚えるさ」


 ヒロシは途端に視線を斜め下に落としながら言う。


「そうでしょうか?

 わたし結構人見知りするので、ヒロシさんみたいに誰かをお出かけに誘ったりなんてできないですよ」


「ひ、人見知りなわけないさ。

 ホタルさんは見た目もきれいだし、ハキハキと喋るし、だからその……島に住むことになってくれたらうれしいなって」


 今まで威勢よく喋っていたヒロシが急にしおらしくなり、その一つ目がうつむいていく。頬は赤く、まるで恋でもしているような顔だった。




「ほー、いい感じにゃ」


 人混みに紛れながらワダチとチャコは、ホタルとヒロシの後を追っていた。

 チャコはよく聞こえる猫耳をピョコピョコ動かしながら、ふたりの会話に聞き耳を立てている。


 一方でワダチには横を向いたときのふたりの顔しか見えていない。

 それでも顔を赤くしたり、うつむいたり、大きな目が反れているヒロシを、

「そうでしょうか?

 俺にはヒロシが鶏野郎になってるように見えますが」


「どういうことにゃ?」

「臆病者っていうことです。

 昨日は威勢のいいことを言ってたのに、恥ずかしがってうつむいてるのはかっこよくないです」


「つまりワダチは、好きな女の子の前ではもっと堂々とできるってことにゃ?」

「できますね」


 チャコの質問にも堂々と答えた。

 ワダチは普段からそうしている。


「ふ~ん」




 仲見世通りを通り過ぎると本州と島をつなぐ橋が見える。


 ひとや妖怪の陽気な喧騒にまじり波の音が聞こえてくる。

 流れてくる夜風と汐風が混じり合うここは、夏場でも涼しい。


 そんな汐風と夜風の匂いにまじり、食欲をそそる海鮮物を焼いたような匂いが流れてきた。


「こっち側にもお店があるんですね」


 匂いのする方を見ると、店先に貝や置かれた鉄板が置いてあった。


「そこは海鮮料理の店。

 歩いてるとサザエのつぼ焼きがおすすめだ。

 観光客もよく食べ歩きしているな」


「こっちに言ってもいいですか?」

「ああ」


 許可をとってからホタルは匂いや陽気に釣られるように店沿いを歩く。


 するとサザエを焼いた匂いから、揚げ物の匂いへと変わっていった。


「隣の店は揚げ物が多いな。

 酒も出してるからつまみのちょうどいい。

 さらにその隣は丼物を出してる店だ。仲見世通りに二号店がある系列店だな」


「いい匂いが漂ってきますね。

 おなかすいちゃいます」


「じゃあ、ここでお昼にしようか?」


 そう言ったところでガラス張りの壁から誰も座っていない客席が見える。

 西洋の世界からやってきたと思われる背広の男性が、物珍しそうに大盛りの海鮮丼を見つめていた。


「丼物はちょっと多いかもしれませんね……」


「ならしらす丼がおすすめだな。

 女性の観光客にも人気みたいだから、ホタルさんでも一人前食べれると思う。こういうの」


 店先の立て看板を見ると、丁度しらす丼の写真が貼ってあった。

 白いしらすが雪のようにつもっており、周囲に散らばるネギやうずらのタマゴが加わった色合いが健康的な料理に見えた。


「いいかもしれませんね」




 ホタルたちが店内に入るとワダチたちも同じ看板を見つめる。


「お、みゃ~たちもホタルたちと同じところにするにゃ」


 チャコはしらす丼の写真を指差し、ワダチに提案。


「そんなお金はありません」


 そう言うだろうと思っていたワダチは、固い顔で考えていた回答を返す。


「なんでにゃ?

 ホタルはよくてどうしてみゃ~はダメにゃ?

 ワダチもみゃ~との逢瀬だと思って、ごちそうするにゃ」


(こんなのがデートなわけないだろ)

 とワダチはツッコミをひとつ飲み込んでから、

「そんなに食べたかったら今度、俺が作ります。

 そのために神様の朝寝坊を放置して、朝市に顔を出してもいいんですよ」


「今日、今がいいにゃ」


 チャコは目を細め、朝の快適な時間よりもしらす丼のほうがいいと言わんばかりの顔でワダチの提案を突っぱねた。


「今日にしたらホタルさんは、二度も同じもの食べることになってしまいます」

「じゃあ明日にゃ」


「昨日食べたって言われます」

「じゃあ今食べるのは違う料理でいいにゃ。

 ここの海鮮丼も乗っている魚の種類が、お多くておいしそうだにゃ~」


 そう言ってチャコは再度立て看板に張られた写真に目をやる。

 マグロ、シャケ、いくら、イカなど色とりどりの刺し身が盛り合わされたどんぶりを見ながら、チャコは指をくわえて、横目でワダチを見る。


「だからそんなお金はありません。

 っていうかそれしらす丼より高いです」


「じゃあみゃ~たちは逢瀬じゃないみたいにゃないか!」


「神様はなにしにここに来たんですか……」

(むしろデートだと思ってたのかよ)


 ワダチはため息をつきながらまたも頭を抱えた。




「俺はしらす丼大盛りで」

「わたしは普通盛りで」

「はい、承りました」


 声の低い海坊主の店員に、ヒロシとホタルはそう注文した。


「ヒロシさんはたくさん食べるんですね」


 近くの席の客が大盛りを注文しているのを見ているので、ホタルにもその量が分かる。

 どんぶりは両手で抱えるほどあり、そこにいっぱいの白いごはんと大盛りのしらすが乗るのだ。

 普通もりなら一個しかついてこないうずらの卵も、大盛りならば三個乗る。


「毎日掃除が大変だからな。たくさん食べないと持たないんだ」


 そう言ってヒロシは腕を見せる。

 力こぶはできそうにないが、固そうであった。


「分かります。

 わたしも踊りの練習が多かったり、公演でいろんなところをめぐるときはたくさん食べないと、体が持たないんですよね。

 だからヒロシさんと同じくらい食べてたときもありますよ」


「そんなに大変な仕事をしてたんだ……」


 口を丸くして関心したようにヒロシは言う。


「はい。だから体力には自信がありますよ」


 仕事の日程が忙しいというのもあるが、歌いながら踊るためには体力が必要だ。


「でもイロ島で働くことになると、力仕事とかよりも接客が多いですよね」

「こういうのは苦手?」


 ヒロシは店員が背広の客から注文を受けているところを指さす。


「いいえ、多分得意な方になると思います。

 アヤアさんにも、コノミさんにもお上手だって褒められました」


「ホタルさんが配膳係してるのは似合うと思う」


「でも、なんかしっくりこなくて、わたしの居場所はここじゃないって感じもするんです。

 もちろんお仕事は楽しいんですが」


「他の仕事かぁ」


 椅子に背中を預け、腕を組んでヒロシは考える。


「漁師は……違うしなぁ。

 あとは魚の即売所でやってる加工の仕事とか」


 明らかに専門外の仕事に挑戦するという企画をやっている偶像もいる。

 大工の仕事をしてみたり、畑を耕したりする偶像がいて、それが得意になってしまったというおかしな話を聞いたことがあった。


 ホタルはそれを引き気味に見ていたのを思い出し、苦笑いでヒロシの提案に対して、

「偶像でも魚を卸す仕事はやったことないですね」


「あれは難しいからなぁ。

 でもしらすの釜揚げの仕事とかもあるし、包丁扱う技術がなくても働き口はあると思う」


「あとで見れますか?」

「漁師にも友達がいるから、聞いてみるぜ」

「ありがとうございます」


「いや、ホタルさんの役に立つならそれでいい」


 ホタルの笑顔にヒロシは外に目をそらしながら答えた。




「なんの話をしてるかにゃ」


 ガラス張り外のさらにその茂みに隠れ、チャコは耳をピクピクと動かす。


(ガラス越しじゃ聞こえないだろ)

 と思いながらも、

「表情からしてそんなに悪い話はしてなさそうです」


 微笑むホタルと、陽気に笑顔を作るヒロシを見てワダチはそう感じている。


「ああ、しらす丼おいしそうにゃ。

 それに対してみゃ~たちは揚げ芋……」


 包み紙にも暖かさを感じる茶色みがかった白い芋を見下ろして、物寂しげにチャコは呟いた。

 大きめの芋だが、値段はホタルたちの食べているしらす丼の四分の一ほどだ。


「芋はお腹が膨れるからいいんです。

 足りなかったらもうひとつ買ってきていいですよ」


「う~」

 チャコはうなりながら芋をかじり、ヒロシの食べている大盛りのしらす丼を恨めしそうに見つめていた。


「――うん?」

 と思ったら唸り声は途中で疑問の声に変わった。

 細かった目を丸くして、ぱちくりさせてなにかを見直している。


「どうしました?」

「そいえば前に話をしてた黒い眼鏡、なんと言ったかにゃ?」


「『サングラス』ですね。

『サン』は太陽って意味で『グラス』が眼鏡です。

 神様は太陽を見たことないかもしれないのでピンとこないかもしれませんが」


「そうにゃ~。

 確かに太陽は見たことないにゃ。

 にゃけどみゃ~にもおかしいと思えるような人間が、ホタルたちの居る席からふたつ左、奥の席にいるにゃ」


 チャコに言われた席にワダチも目線を移す。


「あのひと」


 するとそこにはチャコの言ったとおり、黒い眼鏡をかけた背広の男性が座っていた。

 丁度店員が持ってきた料理は、ホタルたちの食べているのと同じしらす丼。


「そうにゃ。

 以前アヤアの店でも見たやつにゃ」


 ホタルの仕事を探すため、一番最初に紹介した店であるアヤアのお茶屋『つきかげや』

 そこで『白玉とあいすくりん』を食べていたのだ。


 島にやってくる観光客はよっぽど印象的でなければ覚えることはない。

 それだけイロ島にくる観光客は多い。

 だが、この常闇の世界で黒い色眼鏡をかけている人間は初めて見るのでワダチもよく覚えていた。

 チャコも同様だろう。


「あいつも島に逃げ出して来たかもしれないにゃ」

「どうしてそう思います?」


「瘴気や厄がホタルほどではにゃいにしても、結構溜まってるにゃ。

 あれもなかなか祓えない量にゃから、そう感じたのにゃ」


「そうですね。

 神様にしては正しい意見ですね」


「なんにゃ『神様にしては』って!」


 チャコは空いている左手でワダチの片足を叩く。


「ワダチがそんにゃこと言うから、別の予想もしてみたにゃ」

「聞きましょう」


「島の美味しい料理を全部味わわないと帰らないという、強欲な料理好きかもしれないにゃ。

 じゃなきゃ、こんなにお店で見かけたりしないにゃ」


「それもありそうですね」

 ワダチは顔を変えずに頷いた。


「にゃ!? 冗談で言ったのに真に受けられたにゃ」

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