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異世界魔法で曲芸士!  作者: 常世 輝
ハーニカの街
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宿とギルド

街の名前がハーニカということが判明した。

そういえば街の名前すら知らなかったことに苦笑する。

 

 「おい。あたしの名前はイーニアだ。ユイトだったな。宿は決まっているのか?」

 門番の女性が話しかけてきた。イーニアというらしい。そういえばこの女性の名前も知らなかった。

 「いいえ。この街に来たのは初めてですから決まっていませんよ。イーニアさん」

 なんとなく名前を呼びたくなってつい呼んでしまった。知らぬ間に寂しさを感じていたのかもしれない。

 

 「そうか。なら、こことギルドの間に林檎が描かれた看板がある宿屋がある。そこならメシも美味いし、世間知らずなお前でもぼったくられることはないだろう」

 そういうと踵を返して門に戻っていった。


 なんていい人なんだろう。街で最初に出会った人がこの人で良かった。

 「ありがとうございます!」

 精一杯の感謝の気持ちを込めてお礼を言った。

 イーニアは手をひらひらさせて答えた。かっこいい。


 街は活気づいていて、朝ということもあり往来する冒険者、呼び込みを行う商人、買い物をする主婦と様々な人が行き交っている。

よく見ると人族が多く、他種族は一握りといったところだった。どうやら人族の街には他種族が少ないようだ。


 俺はイーニアさんの言葉通りに大通りを真っ直ぐに進んで宿を目指した。

歩いている途中で林檎の描かれた看板を見つけた。看板には【林檎の蜜】と書かれており宿の名前にしては変わっていると感じた。イーニアさんの言っていた宿屋は門に近いようだ。

 

 宿屋に入ると、入ってすぐに受付があり、左には食堂があり朝食をとっている人が疎らに見えた。右には階段があった。


 「いらっしゃいませ!お食事ですか?宿泊ですか?」

 受付越しに元気なあどけない感じの栗毛の少女が話しかけてきた。看板娘にしては幼い。しかし、元気な姿は好印象だった。

 

 「ああ宿を取りたい。いくらかな?」

 幼い子相手に話す口調になってしまう。

元の世界で病院にいた子供たちの相手をしたことを思い出す。目線を自然と合わせてしまうのも仕方ないだろう。


「1日あたり銀貨1枚です!」

「じゃあ、10日頼めるかな?」

「はい!え~と、お母さん!10日って大銀貨1枚でいい!?」

少女は奥に向かって大きな声を出した。奥から女性がやってくる。


「そうよ~ミナ、ちゃんと説明はしたの?」

やってきた女性は少女と同じ栗毛の髪だ。のんびりとした印象を受ける。

少女の名前はミナというらしい。栗毛の女性は母親のようだ。


「あ、そうだった!朝食と夕食がつきます。昼食は別に料金をいただきます。身体を拭くタオルとお湯が欲しい時は言っていただければ用意しますが、こちらも料金をいただきます。だっけ?」

「そうよ。偉いわね~」

思い出して説明するミナには少し拙い印象を受けた。きっと教えてもらって覚えたのだろう。最後に母親に確認してしっかり出来たことを褒められる姿は微笑ましい。


「そうだね。お湯とタオルはいらないから大銀貨1枚かな?」

大銀貨1枚を取り出しながら言った。お湯とタオルは身体を魔法で綺麗にできるから必要ない。


「はい!お部屋に案内しますね!」

ミナが受付から出て階段を上っていく。俺は遅れないようについていく。

ミナのお母さんはあらあらと楽しそうだった。


ミナに案内されて部屋に入る。部屋には椅子と机とベッドと蝋燭だけでとても簡素だった。


「ここです、鍵をどうぞ!あと家具を壊したり盗ったりしたらダメですよ!」

「フフ、そんなことしないよ」

 小さい身体をいっぱい使って注意のポーズをとる姿につい笑みがこぼれる。なんとなくこの宿は安心して泊まれる気がした。

 

 ミナが部屋から出ていくとき俺も一緒に部屋を出た。部屋に鍵をかけてミナに渡す。

「お出かけですか?」

「ああ。冒険者ギルドに行ってくるよ」

別にいう義務はないが特に気にすることもないので伝えた。

「晩御飯を用意しておきますので早めに帰ってきてくださいね!」

ミナは奥さんみたいなことを言ってから走って仕事に戻っていった。


宿屋を出て再び大通りに出た。

道中に屋台やお店があり、寄り道しながらギルドに向かう。

食べ歩きもあまりしたことないから新鮮な体験だ。食材や調味料も買い足した。

寄り道しながら歩いているとすっかりお昼になってしまった。

 

 さらに進むと正面に冒険者ギルドらしい建物が見えた。大きな建物でいかにもといった感じだ。

入り口付近で立ち止まり建物を見上げた。こうしていると少し緊張してきた。


 少し緊張しながらギルドに入った。

お昼ということもあり、ギルド内は疎らに人がいるだけだった。応対している受付もあるが、空いている受付は書類整理をしているようだった。


 空いていた受付に向かう。受付の女性は書類整理の手を止めて微笑みかけてきた。

 「こんにちは。今日はどのようなご用件でしょうか?」

 受付の女性は優しそうで可愛かった。受付が可愛いっていうのもテンプレだっけかな。


 「冒険者の登録をしに来ました」

 「はい。身分を証明できるものはありますか?」

 あったらイーニアさんに止められていない。

「いいえ。ありません」

「でしたら、こちらの用紙にご記入ください。お名前以外は書きたくない場合は結構です」


受付の女性が一枚の紙を取り出した。

記入事項は名前、種族、年齢、出身地、現住所、性別、使う武器、特技だった。

名前をユイト。種族は人族、年齢は15歳、性別を男。武器を片手剣。特技を初級水魔法と記入して他は空欄にした。


元の世界での年齢は20歳だが身体は15歳なので身体に合わせた。

魔法は初級水魔法しか使えないという設定だ。

出身地は森の民の集落なので、殺した騎士との関係が露見するのを防ぐために空欄にした。

現住所は宿屋なので記入していいのか分からなかった。


一般的に魔法には下から初級魔法、下級魔法、中級魔法、上級魔法、特級魔法、禁忌魔法がある。魔法が珍しくても初級の魔法使いなら少ないながらもいる。俺はイメージで発動しているから意識したことがないが、【ウォーター・ボール】は初級魔法だ。


記入した紙を受付の女性に返す。女性は紙に不備がないことを確認する。


「はい、ユイトさん。特に不備はないようですね。次に冒険者のお仕事について説明しますが、説明は必要ですか?」

「はい。おねがいします」

俺は素直に説明を聞くことにした。


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