救出
「見つけた」
【マップ】を使ってエルフの子供を見つけ出して、その子供を攫ったと思われる人族を発見した。
「みんなはここで待っていてね」
「はい」
みんなを待たせて人攫いの進行方向の先に移動する。
みんなを連れてきたのは、殺気立ったエルフの里に仲間を残しておくが不安だったからだ。所詮俺たちは部外者だからあらぬ疑いをかけられる可能性があるからね。
どうやら人攫いたちは俺に気が付いたようだ。声でもかけてエルフを開放するようにいおうかな。
そんなことを考えていたら、いきなり人攫いたちが襲い掛かってきた。スピードはアイリやメリーよりも遅い。簡単に攻撃を裁くことができた。
「何もしてないのにいきなり襲わないでほしいなぁ」
そういって剣を構える。先に攻撃されたんだから、もう交渉の余地はない。正当防衛も成立してそうだし、さっさとエルフの子供を奪い返そう。
「なんだてめぇは!?」
人攫いの1人が怒声をあげる。でも、あまり怖くはない。
「エルフの子供取返しに来た」
目的だけ告げて人攫いたちに向かって駆けだす。
みねうちで次々と昏倒させて、最後に麻袋をもった男だけが残った。おそらく、あの麻袋の中にエルフの子供が入っているのだろう。
「チッ!」
男は麻袋を放り投げて逃げ出した。俺は麻袋を受け止めないといけないから、男を追いかけられない。悪くない作戦だ。
「メリー!」
「了解!」
メリーを呼ぶとすぐに俺の意図を察して、男を追いかける。他の男たちの強さを見るに、メリーでも簡単に対処できるだろう。
「よっと!」
落ちてきた麻袋を受け止めて開けてみると、中には縛られて猿轡をされたエルフの子供が入っていた。手早く縛っていた縄と、猿轡を外す。
かなり怯えた様子でこちらを見ている。
「大丈夫かな?俺は君を探しに来ただけだから、安心していいよ」
俺が声をかけても依然として怯えたままだ。
「は、離して……」
エルフの子供は怯える声で開放を懇願する。声で分かったが、この子供は少年のようだ。
様態を確認するために両肩を掴んで話しかけていたけど、どうやら余計に怖がらせてしまったようだ。手を放して様子を見ると、徐々に震えは収まっていく。
「ユイトー、連れてきたよー」
「お疲れ様。メリー」
メリーが逃げた男を引きずって連れてくる。どうやら、血を流しているようだ。
別にメリーが残酷なわけではない。この世界の人は結構容赦ない。殺さなかっただけ寧ろ優しいほうだろう。
気絶しているようなので、魔法で応急処置だけして捕まえた人攫いをまとめて連れて里に戻る。
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「かえって来たー!ありがとう、人族のお兄ちゃん!」
怯えもなくなって明るさを取り戻したエルフの少年が家に向かって駆けて行った。たぶん、あの少年には親からゲンコツが落ちることだろう。
今回の件の報告のためにアルノルトさんのところに向かう。
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「それで、今回捕まえたのがその男たちなんだね?」
「はい」
アルノルトさんに人攫いを捕まえたあらましを説明した。俺の横には縄でぐるぐる巻きにした人攫いたちが気絶している。
「随分と手際がいいね。君たちが探しに行ったのはついさっきだったと思うけど?」
「手分けして探したら偶然見つけまして」
時間を掛けなかったから怪しまれてしまう。言い訳をするものの、この言い訳では少し苦しいか。
「別に嘘をつかなくてもいい。君たちが魔法を使えることは知っている。きっと、何かの魔法を使って調べてくれたんだろう」
やはり、アルノルトさんには勘付かれているようだ。
そもそも、ローリアとの魔法の練習やアイリとメリーの模擬戦は、エルフの里の住人達に見られるように行っていた。
俺たちが魔法を使うことを分かってもらわなければ、魔法を使った曲芸を披露できないから、そのために見せるように行っていた。
まあ、魔法を使えることが知れ渡れば良かったんだけど、アルノルトさんには周辺を調べられることを勘付かれてしまったみたいだ。
「そもそも、隠すなら脇目も振らずに森に入らないことだね。普通なら迷うはずなんだ」
どうやら、人攫いに逃げられないように急いで現場に向かったのが失敗だったらしい。おそらく、エルフの里には人を迷わせる結界でも張っているんだろう。
「ところで、なんで人攫いなんているんですか?」
大方予測はつくが、情報収集のために質問しておく。
「なんでも、エルフは奴隷として高く売れるらしくてね。特に女性は狙われやすい」
リーレさんの時もそうだったけど、やっぱり奴隷目的の売買か。
「この5人以外にも潜んでそうなので、捕まえてきていいですかね?」
「本当かい?それならぜひともお願いしたい。こちらもこいつらには手を焼いていたんだ」
念のために他の人攫いを捕縛する許可を取る。これから連れてくるという宣言や予告の意味もある。収容する場所を確保しておいてほしいからね。
「もうすぐ暗くなるから、今日は休んで明日にでも捕まえてきてくれると助かる」
夜中は視界が悪いから、といってアルノルトさんは嬉しそうに微笑んだ。悩みの種を一掃できるのが嬉しいようだ。
「では、失礼します。じゃあね、ミドナちゃん」
この前と同じようにミドナに手を振って別れる。ミドナはビクッと驚いて控えめに手を振り返してくれた。
ミドナがいるところに人攫いを連れてきたのは間違いだったかもしれない。俺とアルノルトさんが話している間、落ち着かない様子で人攫いの様子を窺っていたからね。今度は気を付けよう。




