模擬戦 アイリとメリーと一緒
「今日は訓練をします」
「「おー!」」
俺の掛け声に元気にメリーとアイリが手を上げて答える。
約束した模擬戦をするために、この前ローリアと一緒に魔法の練習をしたところに来ている。来ているといっても泊っている家の前だ。
「まず、誰と誰が戦う?」
「あたしとユイトが戦いましょ」
「えー、僕もユイトと戦いたい!」
尋ねてみると、アイリが真っ先に手を上げて答えた。そして、メリーが不平を漏らす。この前は俺とは戦えないって言っていたけど、どういう心境の変化だろう?
「じゃあ、先にアイリで、後でメリーにしようか。俺もアイリと戦ってみたいし」
「うーん、わかった」
メリーは渋々了承してくれた。アイリはまるで音符が見えそうなくらいとてもいい笑顔を向けてくる。
「よし、じゃあルールを決めるね。基本的にはなんでもあり。攻撃はみねうちで魔法もあまり強力じゃないやつにしよう」
「わかったわ」
模擬戦で怪我をするわけにはいかない。魔法で治せばいいけど、あまり痛い思いはしたくないからね。
ルールを確認したので、お互いに距離を取って準備する。俺は片手剣を構えて、アイリは大剣を構える。アイリの構えはなかなか様になっている。
「じゃあメリー、開始の合図おねがいね」
「はーい!じゃあ、始め!」
メリーの合図で模擬戦が始まった。
アイリが高速で接近してくる。女の子が大剣を構えて走ってくる姿はなかなか威圧感がある。アイリはあまりにも体格と不釣り合いな大剣を軽々と振りかざしてくる。
後ろに大きく跳んで回避する。俺がいた場所にはアイリの大剣が突き刺さっていた。当たっていたら怪我だけじゃすまなそうなんだけど。
「少し魔法で牽制したほうがいいんじゃない?」
そういって【ウォーター・ボール】を飛ばす。【ウォーター・ボール】は大剣の側面で叩き潰された。なかなか大胆な防ぎ方だ。
「小細工したってユイトには当たらないもん。先手必勝よ」
アイリは【ウォーター・ボール】を叩き潰した水しぶきを浴びながら答えた。
「牽制っていうのは本命を当てるための攻撃だから潰されてもいいんだよ」
再び【ウォーター・ボール】を2つ飛ばす。そして、ついていくように駆けだす。
アイリは1つ目の【ウォーター・ボール】を避けて、2つ目の【ウォーター・ボール】を大剣で叩き潰した。そして俺は片手剣を振りかざす。
「っ!」
アイリは何とか大剣で受け止めた。それでもかなり驚いていたようだ。
【ウォーター・ボール】に隠れて接近するのはどうやら有効だったようだ。
「ね?牽制は大事でしょ?」
「ご教示ありがとっ!」
鍔迫り合いの状態からアイリに押される。そのままわざと押されて飛ばされ距離をとる。
「不意打ちができるならそれもいいかもね」
また【ウォーター・ボール】をとばす。今度は1つだけ大きいものを。
「大きくしてもおんなじよ!」
アイリは【ウォーター・ボール】また叩き潰す。
「不意打ちだっていったろ?」
アイリが叩いている【ウォーター・ボール】に魔力を込める。
【ウォーター・ボール】は氷になり、そのままアイリの大剣を凍らせた。
「うそ!?」
アイリは驚愕し、動揺を隠せない。せっかくの聖剣がただの氷の塊になってしまったらそうなるだろう。
驚いている間に近づいてアイリの頭に左手を乗せる。
「チェックメイト」
「う~参りました」
手を乗せる前にアイリがビクッとして目をつぶったけど、殴るつもりはない。大剣と一緒に手も凍っているから防ぎようがないからね。
指を振って氷を解かす。見た目は大丈夫そうだけど、念のために手を治療しておく。凍傷になっていたら大変だ。
「寒い……」
アイリがぽすりっと俺に倒れ込んだ。身体をブルブルと震わせている。
「ごめんね。そりゃ寒いよね」
まず、服を乾かすために魔法かける。空間魔法で毛布を取り出してかける。【ウォーター・ボール】を叩き潰してびしょ濡れになっていたのに、さらに凍らせたから寒いだろう。
「あ、ありがとう」
まだ少し寒そうだけどすぐに暖かくなるだろう。
「ユイト!次は僕ね!」
メリーが背中に飛びついてきた。どうやら先ほどの模擬戦を見て気持ちが昂っているようだ。
「毛布にくるまって冷えないようにしててね、じゃあやろうか、メリー」
アイリに注意をしてメリーに向き合う。どうやら楽しみで仕方がないといった様子だ。
「は、はじめ!」
寒そうな震え声でアイリが開始を告げる。
まずはメリーが距離を取った。この前みたいに突撃してくると思ったんだけど、今回は戦い方を変えるようだ。
メリーがニヤリと笑ったと思ったら、20センチくらいの針を投擲してきた。
「へ?」
いつの間にそんなことができるようになっていたのか。驚きつつも飛ばしてきた針を剣で弾く。
「さすが!でも、これからだよ!」
メリーは近くの木に飛び乗って、木から木に移動して見えなくなった。
そして、すぐに新たな針が飛んでくる。身を翻して避ける。
なるほど。隠れて遠距離から針を飛ばす作戦か。
「【マップ】!」
呪文を叫ぶと俺の脳内に周囲の地図が広がる。
後ろの少し遠い所にいるな。振り返ってみても姿はないけど、隠れて機会を窺っているんだろう。
見えないから下手に攻撃して怪我をさせちゃったら大変だし、少し待ってみるか。
「ユイト、もしかして場所分かってる?」
しびれを切らしてメリーが出てきた。
「いいアイデアだったけど、相性が悪かったね」
メリーが移動しても、【マップ】を頼りにずっと目で追っていたから分かるよね。
「ちぇっ、やっぱりユイトはずるいなー」
メリーは不貞腐れたように小石を蹴った。
「もういいや、正面から倒す!」
メリーが突っ込んできた。
メリーをいなしてアイリの時と同じように左手を頭に乗せる。
「はい、おわり」
「え~」
簡単に終わらせたことにメリーが不満を漏らす。
「まあまあ、針の使い方をまず考えようか」
「うーん、分かった」
少しまだ不満そうだけど納得してくれたみたい。
この後、メリーとアイリと戦い方を考える会を開いた。なかなか有意義な時間を過ごした。




