街に到着
「……おはようございます」
誰に言うでもなく挨拶をして起きる。
病院にいた時に看護婦に挨拶してついた習慣だ。あの頃は起きたらよく誰かいたんだが今はいない。少し寂しさを感じる。
テントの外に出て深呼吸をする。
昨日は気が付かなかったが空気が美味しい。周りを見渡してみると、空が白み始めていた。
地面には小動物が黒い縄に縛られていた。罠の魔法が発動したのだろう。しっかりと発動したことに安堵し、小動物を放してあげた。
昨日の晩御飯と同じ食事をして、片付けをすることにした。布団をしまい、テントを解体せずにそのまま空間魔法でしまった。また組み立てるのが面倒に思ったからだ。空間魔法に限界を感じないから構わないだろう。
片付けをしたので出発することにした。しかし俺は困ってしまった。なぜならば、森を抜けた後は南に道はなく、東か西に行く道しかなかったのだ。
森の民の集落に地図はなかったので分からなくなってしまった。
「【マップ】!」
気合を入れて呪文を唱えた。うまくいけばいい程度の気持ちで唱えたら、気合を入れたおかげか詳細な地図が脳裏に浮かんだ。まるで見下ろしているかのように地形が見える。どうやら東に町があるようだ。この魔法は使えるな。
道に沿って東に歩く。途中で冒険者風の男、馬車に乗った商人風の男、馬に乗った騎士風の女などにすれ違った。
早朝に東から来ることを考えて、こちらに街がある確信を持った。
街が見えてきた。距離からしてかなりの大きさがあるように思えた。俺のテンプレだと主人公の最初は辺境の町だったりするのだが、この国の都市と思える大きさだ。
街が見えてきて門番のような女性が見えて不安に思った。俺には身分の証明できるものがないからだ。身体はクルスといえど、すでに死んでいるクルスとして街に入るのは気が引けた。
そうこう考えているうちに街の前に着いてしまった。
「おい、お前。身分の証明できるものを出せ」
門番の女性が話しかけてきた。なんとなく男勝りなしゃべり方と思った。
「すみません。魔物に襲われて落としてしまいました。命からがら逃げ出してきたのですが……」
前世で読んだラノベの主人公もこうしていたのを思い出し、仕方がないので嘘をつくことにした。
「何?はぁ。仕方がない。ついてこい」
門番の女性が男性に門番を引き継がせて歩き出す。石造りの家に入っていったので大人しくついて行った。
「座れ。少し待っていろ」
女性はぞんざいに言い放つと出て行った。椅子に座って少し待つと、女性は水晶のようなものを持って戻ってきた。水晶には魔法陣が内に浮かんでいる。
「さぁ手を当てろ」
「これは?」
「そんなことも知らんのか?これは【審議の水晶】だ。嘘を見分ける事が出来る。質問するから手を当てろ。嘘をついたら最後だと思え」
「わかりました」
俺はそっと手を当てた。脳裏になんとなく魔法陣の構造が思い浮かんだ。
「まず、名前をいえ」
「ユイトといいます」
水晶を見つめる。水晶に変化はない。嘘をついたら何か変化があるのだろう。
「犯罪歴はあるか?」
「ないです」
変化なし
「この街に来た目的は?」
「冒険者になるためです」
正確にはダンジョンで装備を整えるためもあるが嘘はついていない。水晶に反応はない。
「なんだ、お前そのひょろい身体で冒険者になるつもりか?」
「私情な質問にはお答えしません」
言い方が気に入らなかったので、こちらもぞんざいに返してしまった。
「まぁいい。悪巧みはあるまいな?」
「ありません」
変化なし
「まぁここまですれば大丈夫だろう。手を放していいぞ。すまなかったな。犯罪者を入れるわけにはいかなかったんだ」
女性は少し優しい顔をした。どうやら敢えて厳しくしていたようだ。
「あ、すみませんこちらも途中でひどい態度をしてしまって」
俺は態度を改めて丁寧な対応をとることにした。
「気にするな。冒険者になるならギルドだな。ここを出て大通りをまっすぐ行けばわかるだろう」
男勝りな言い方だが意外といい人のようだ。心の中でこの女性の評価を改めた。
女性は思い出したかのように手を叩いていう。
「ああ、忘れていた。街に入るには銀貨二枚だ」
「はい。」
道具袋から銀貨を二枚取り出して渡す。
「世間知らずのようだな。もう少し疑ったほうがいい。本当は一枚だ。こうしてちょろまかす門番がたまにいるんだ。気を付けろ」
銀貨を一枚投げて返してきた。いい人だな。俺の中の好感度がまた上がった。
「ありがとうございます。私は曲芸師をしています。いつか見に来てください」
俺は自然と笑顔になって言った。
女性は訝しそうな顔をした。
「君は冒険者になりに来たんじゃなかったのか?水晶を欺いたのではあるまいな?しかもなんだ曲芸師とは?」
「曲芸師は人前でパフォーマンスする人です。私は曲芸師の資金集めのために冒険者になりに来ました。だから正確にはまだ曲芸師として活動してないんですけど、大成するのが夢なんです」
女性はまだ納得のいかない顔をしている。俺は女性にお礼の代わりに魔法を使ってみることにした。
「では、実際にやってみましょう。明かりを消させていただきますね」
照明器具の魔法道具の明かりを消した。
俺はローブをはためかせながら一回転して場を仕切りなおした。右手の人差し指を立てて胸の前に出す。
「さあさあ。始めましょう。これから起きるのは妖精の遊び。今まで誰も見たことない奇跡の光景です」
それっぽく演説をしてタクトのように指を振った。実験込みで今まで使ったことのない光魔法を使うことにした。
指から小さな光の蝶が溢れる。1匹1匹は単色だがそれぞれが別々の色をしていて、俺と女性を淡く照らす。
俺は女性に人差し指をむけて1匹の青い蝶を飛ばす。
女性が両手で受け止める。蝶は女性が手にとまり、蝶は青い光とともに弾けた。他の蝶も同時に弾け、部屋をカラフルに染め上げた。俺には昨日の星空を連想させた。
「綺麗……」
女性が呟く。
俺は光が消えたことを確認し、明かりをつけた。女性の頬は少し朱に染まっており、楽しんでもらえたことが分かった。
「いかがでしたか?」
女性に聞いてみる。
女性は目線を上げたまま惚けていた。返答はない。女性の前で手を振って再び声をかける。
「あの?」
「え?ああ、魔法が使えるのか。すごいな」
答える声は平淡な感じがして心ここにあらずといった感じだった。
「信じてもらえましたか?」
「ああ。そうだな。疑ってすまなかった」
疑いも晴れたようで、石造りの家から出た。
「ようこそ!ハーニカの街へ!」
女性が声を張り上げた。
あまり主人公のキャラが定まっていなくてすみません。