エルフの長
世界樹の中、それはギルドのような内装になっている。様々な事柄を処理することに適した形で、イメージ的には役所のようなものだろうか。
木目が見える内装だから暖かみを感じるね。
「長老に会いたいのですが……」
「アーレさん。戻っていたんですね。少々お待ちください」
受付の女性は確認を取っているようだ。
長老というのはそんなに簡単に会えるものなのだろうか?
「最上階でお待ちです」
「ありがとうございます」
俺の思いとは裏腹に簡単に話がついたようだ。
アーレに連れられて、俺たちは中央にある円状の枠の上に乗る。
「なにこれ?」
足元の枠について尋ねる。
「これは転送の魔法陣です。魔法陣と精霊魔法の合わせ技です」
どうやらこの円状の枠は世界樹のエレベーターの役割を果たしているようだ。エレベーターと違って横方向への移動もできて便利だな。
精霊は魔法陣の原料の魔核を嫌うから、別の物を原料にして作られているんだろう。
アーレが魔法陣に魔力を込める。魔法陣は青く光って起動した。そして光に包まれたと思ったら景色が変わっていた。
世界樹の中なのは変わりないが、目の前には一つ扉があるだけだ。
「あの扉の奥に長老がいます」
「長老に合うのも久しぶりね」
アーレにリーレさんが答える。
アーレが扉を開けると、1人の男性が座っていた。どうやら、机に向かって何か書いているようだ。
「やぁ、久しぶりだね、アーレ、ゲルム、リーレ、ユア」
その男性は顔をあげて優しそうな顔で一人一人名前を呼んだ。
爽やかな青年のような声だ。長老の息子さんかな?
「お久しぶりです。長老」
「お久しぶりです」
「お久しぶりです」
「お久しぶりなの」
アーレに続いてみんなが挨拶する。あの人が長老なんだろうか?すごく若そうなんだけど。
「あぁ、私はこれでも1000歳を超えているから」
俺に向かって長老がいう。俺の表情から心の声を読み取るのは止めてください。
「長老、この人たちはリーレの救出を手伝ってくれた私の仲間です」
「アーレの仲間か。なら信頼できそうだ」
アーレが俺たちを紹介すると、長老は俺たちを信頼してくれたようだ。長老からのアーレの信頼が大きいのだろう。
「はじめまして、私はエルフの里の長老をしているアルノルトだ。リーレを助けてくれてありがとう」
エルフの長老はアルノルトというらしい。
「よろしくお願いします、アルノルトさん。ユイトと申します」
「小人族のローリアです」
「獣人族のメリーです!」
「勇者のアイリです」
それぞれ名乗った。俺も人族って言った方が良かったかな。
「ふむ、変わった編成だ。それに勇者がいるとは驚いた」
たいして驚いた様子もなくアルノルトさんはいう。1000年以上も生きているとこの程度じゃ驚かないんだな。
「リーレを助けてくれたお礼にしばらく泊まる場所を用意しよう。しばらくゆっくりしていくといい」
「ありがとうございます」
エルフの里に滞在できる許可が貰えた。もっと苦労すると思っていたよ。アーレのお陰だな。
その時、不意に視線を感じた。その方向を見ると小さなエルフの子がこちらを覗いていた。目が合うと慌てて除くのを止めて隠れた。
その子はチラチラこちらを見て、目が合っては隠れる。
「あぁミドナか。怖がらなくていい。こっちにおいで」
アルノルトさんも気づいていたようで、その子に向かって声をかける。
その子はトコトコと近づいてきた。すぐにアルノルトさんの陰に隠れる。
「この子は私の娘のミドナだ。怖がりな子でね。仲良くしてくれると助かる」
この子の名前はミドナというらしい。他のエルフと同様に全身を隠しているけど、可愛らしい色合いの服装だ。そういうところはエルフでも普通の女の子のようだ。
「よろしくね、ミドナちゃん」
ミドナに声をかけてみる。アルノルトさんに隠れて覗いていたミドナは慌てて隠れた。
ありゃ?警戒心の強い子だな。
俺はミドナとアルノルトさんに近づいて、しゃがんでミドナに目線を合わせる。そして、空間魔法でドーナツを取り出す。
「はい」
ドーナツを手渡そうとしても、ミドナは受け取らない。やっぱり警戒されているな。
俺はもう1つドーナツを取り出して自分で食べる。
「うん。美味しい」
そういってからまたミドナにドーナツを差し出す。
ミドナが手を広げたので、俺はそこにドーナツを載せた。ミドナはチラリとアルノルトさんを見た後、恐る恐るドーナツを齧る。
「!」
エドナが驚いた様子だ。何度か咀嚼すると、美味しそうに目を細める。
「美味しい?」
「お、美味しい」
少し口籠っているけど美味しそうだ。
「あ、ありがと。私、ミドナ」
「俺はユイト、よろしくね」
ミドナから自己紹介してくれた。
「僕、メリー!」
「ひゃあ!」
ミドナは、しゃがんでいる俺にもたれるようにして現れたメリーに驚いたようだ。またアルノルトさんの後ろに隠れてしまった。
「メリー」
「あはは……ごめん」
ミドナを怖がらせたメリーを咎める。明らかに怖がっているのにいきなり出たら隠れるよな。
「お姉ちゃんはユイトさんの彼女なの?」
ミドナがアルノルトさんの陰から顔を覗かせて質問してくる。
「えぇ!ちっ違うけど!」
俺にもたれ掛かっていたメリーがしどろもどろに答える。
メリーが否定するとミドナは不思議そうに首を傾げた。何が不思議なんだろう?
「ユイトさん、そろそろお暇しましょう」
「ああ、わかった。それでは失礼します」
アーレに答えて立ち上がり、アルノルトさんに挨拶する。
「里でゆっくりしていくといい」
「はい」
許可が出たことだし、エルフの里を満喫するとしよう。
「じゃあね。ミドナちゃん」
そういって手を振ると、ミドナは小さく手を振ってくれた。うん、いい子だ。
転送装置を使ってから世界樹を出る。
「リーレと私は家に帰ります」
「ありがとうございました!」
ゲルムさんとリーレさんは帰宅するようだ。
「私も実家に戻ります。よかったら一緒にきますか?」
アーレも帰宅するようだ。アーレの実家か。
「じゃあ、行ってみようかな」
エルフのロリ娘が出てきました.
いや,エルフの長が出てきました.
アーレのお陰で歓迎されているようですね。




