道中 エルフの森へ
エルフの里を目指して1日目。
街を夜中に抜け出して十分距離を取った。朝になっているし、もう奴隷商人が追ってくる心配はないだろう。脅したからそもそも追う気はないかもしれないけど。
「ありがとうございました」
ゲルムさんが頭を下げる。リーレさんもそれに揃えるように頭を下げた。
今は俺とアーレとゲルムさんとリーレさんで話し合っている。他の子は寝ている。夜中の移動だったから疲れたんだろう。あとで御者をしているローリアも休ませないとね。
「気にしないでください」
俺は典型文で返す。
「いえ、そういうわけにもいかない。助けてくれたばかりか、奴隷からも解放してくれた上に、里まで送ってくれるとは、感謝してもしきれない」
ゲルムさんが再び頭を下げる。こうして言われてみると結構色々している気がする。エルフの里は行ってみたいから、そこは気にしなくていいんだけどね。
「ユイトさんは凄いことをしています。誇っていいことです」
俺の隣に座るアーレが褒めてくれる。
「そんなにかな?」
「そんなにです。私たちだけではこんなにあっさりとはいかなかったでしょう。少なくともかなりの騒ぎになっていたと思います」
俺が謙遜するとアーレが説明を始めた。
確かにアーレとゲルムさんだけだったら魔法で戦いながらの救出になりそうだ。じゃあ、役に立てたのかな。
「アーレの言う通りよ。おかげであの子も助けられました」
今度はリーレさんが寝ているユアを指していう。
リーレさんはユアが捕まったことに責任を感じているみたいだったから、ユアも助けられてよかった。
「じゃあ、お礼はローリアの代わりに御者をするってことにしましょう」
俺は名案とばかりに提案した。
「ああ、それは構わないが」
「それでいいんですか?」
ゲルムさんとリーレさんは思ったより楽だな、みたいな顔をしている。
確かにエルフの里に行くにはエルフの案内がないと駄目だから提案しただけなんだけどね。
「ええ、ローリアが休めないので、ぜひ、御者をしてください」
俺は笑顔で答える。
「あなたはそういう人ですよね」
アーレが少し呆れたようにいう。
「分かった御者をさせてもらおう」
「はい」
ゲルムさんからも了承も得られた。
ゲルムさんとリーレさんには今は眠ってもらって、起きたらローリアと御者を変わってもらおう。アーレもこのタイミングで眠りについた。
「ローリア」
俺は御者台に移動する。
「ご主人様。ご主人様も寝ていていいんですよ?」
ローリアが気を使ってくれる。ローリアとしては主人を働かせるのは気が引けるか。今に始まったことじゃないから気にしなくていいのに。
「ゲルムさん達が代わってくれるから、それまで起きてるよ」
ローリアに交代があることをつたえる。
ローリアなら大丈夫だと思うけど、居眠り運転で事故を起こさないように配慮しているつもりだ。寝不足だと何があるか分からないからね。
「ローリア、疲れてない?」
御者台から垂らした足をぶらぶらさせながら会話をする。
そういえば、最近ローリアと2人で話していなかった。仲間が増えたし、ゲルムさんとリーレさんもいるから2人きりになるのも久しぶりかな。
「ローリア、久しぶりに魔法を教えようか」
2人きりになるのが久しぶりということは、魔法を教えるのも久しぶりだ。そう思って提案してみた。
「ご主人様が魔法を教えてくれるのは久しぶりですね」
どうやら、ローリアも久しく思っていたらしい。昔は毎日のように教えていたからな。
「何を教えてくれるんですか?」
「んーと、そうだな……」
ローリアの質問に少し詰まる。何を教えるか決めていなかった。
「あっそうだ」
教える魔法が決定した。
俺は無属性魔法で紙とペンとインクを取り出し、さらさらと手紙を書き始める。
「?」
ローリアは無表情のまま首を傾げた。突然手紙を書き始めたらそういう反応になるか。
俺は書き終えた手紙を折る。何度も折り、折り鶴を完成させた。座っているから膝の上で折ったけど、上手くできた。
「はい、完成」
「鳥ですか?」
「うん」
折り鶴をローリアに手渡すと、ローリアは折り鶴を繁々と見始めた。折り鶴を回しながら何度も見ている。
「でも、これには何にも魔法がかかっていないようですが」
折り鶴を見終わったローリアが言い辛そうにいう。失敗したと思われちゃったかな?
「これから魔法をかけるからね。えーと、ま、【マニピュレイト】?」
俺は元の世界の英語を思い出しながら呪文を決めた。人差し指を振りながら呪文を唱える。操るイメージだ。
俺の掌に乗せていた折り鶴はパタパタと羽ばたき始めた。俺はその折り鶴に向かって息を吹きかける。そうすると折り鶴は飛び立っていった。
「おー上手くいったかな?」
俺は飛んで行った折り鶴を眺めながらいう。ローリアも見ているな。
「今のは操りの魔法かな。紙を鳥の形に折って、それを操る魔法をかけたんだ。鳥じゃなくてもいいけどね」
魔法の概要を説明する。
分かり辛い説明だけど、ローリアはスキル【魔力応用】があるから、魔力の流れを感じとってもらおう。
「じゃあ、やってみようか。はい、折り鶴」
俺は説明しながら折った折り鶴を渡す。ローリアは再びその折り鶴をよく観察すると、彼女の掌に乗せた。
「【マニピュレイト】」
ローリアから魔力が溢れ出ているのを感じる。
折り鶴はふわふわと羽ばたき、ローリアの目の前にパタパタと留まった。
「一発成功だね。凄いなローリア」
最初に【ウォーター・ボール】を教えた時と比べたら、かなり魔法に慣れているし、上達しているだろう。
「でも、この魔法は制御が難しいですね」
ローリアは真剣な眼差しで折り鶴を見つめている。それだけ集中しているということだろう。
「ローリア、一度命令してみたらどうかな?同じ動きを続けるようにさ。命令を念じながら魔力を送るといいよ」
俺がそういうと、ローリアはまた真剣な顔をして折り鶴を見つめた。
折り鶴が8の字に旋回しだした。そして、ローリアは少し疲れたように溜息をついた。
「確かに、こうするともう集中する必要はないみたいですね」
ローリアがこちらを向いて呟いた。ローリアはセンスがいいな。
「ご主人様はさっきの鳥をどこに飛ばしたんですか?」
さっき俺が飛ばした折り鶴のことか、それなら
「ユリア様のところに」
正直に答える。
「はぁ……」
そして、聞こえてくるローリアの溜息。
「なんで溜息?」
俺が尋ねると
「ご主人様はユリア様が好きなんですか?」
予想外質問が返ってきた。
なんでそういう話になるんだろう?
「いや、そういうつもりはないよ」
正直に気持ちを伝える。そりゃ可愛いし、いい子だとは思うけど、俺にはもったいない人だ。身分の差もあるから恋愛なんて無理だ。
「ご主人様はもう少し自覚なされた方がいいかと」
ローリアから小言を貰った。
その後はゲルムさんたちが起きるまで2人で他愛もないことを話しながら御者を行った。
ローリアがどんどん魔法を覚えていきます。
これからの成長が楽しみですね。




