ハーニカへの道のり 作戦会議
「どうやって助け出すかですが……」
俺は口火を切った。
ゲルムさんの彼女のリーレさんを助けるための作戦会議だ。
「まず、私が奴隷商人の元に行って、本人確認をしようと思うんです。ゲルムさんだと警戒されると思うので」
奴隷商人のところに本当にリーレさんがいるか分からないからね。
同じエルフが奴隷としてエルフを買いに来るのは不自然だと思う。解放するためならあり得るんだけど、エルフは価格が高いから貴族でもないと難しいだろう。
【マップ】でも確認できるけど、ゲルムさんには秘密なので手間をかけよう。
「私が見てわかる、リーレさんの身体的な特徴はありますか?」
「うーむ……」
ゲルムさんがうなる。
「身長はアーレよりも低い。目元はぱっちりとしていて可愛い」
……それだけ?
「すみません。エルフは見た目では判断し辛いものですから」
「ああ、なるほど」
エルフは全身のほとんどを隠しているから、知り合いでもないと分からない。
俺はアーレだったら言動で分かるんだけど、まだ見たこともないリーレさんは分からないな。
「では、エルフがいることが確認できたらとりあえず助けましょう」
「はい」
犯罪奴隷なら置いていけばいいしね。
「次に救出方法は、どうしましょうか?」
「正面から壊したら?」
アイリが物騒なことを言った。
「いや、他にも犯罪奴隷とかいるから、壊したらまずいよ。出来るだけ穏便に済ませなきゃ」
奴隷紋や首輪があるだろうから逃げられないだろうけど、混乱に乗じて暴れられたら困る。
あと、ハーニカの街は思い入れがあるから、あまり騒ぎを起こしたくない。
「精霊魔法で何か方法はありませんか?」
「そうだな……」
ゲルムさんは精霊魔法が使える。
精霊の力を借りて魔法を使うらしい。今度俺もやってみよう。
「相手を眠らせるのはどうだろう?」
ゲルムさんが恐る恐る言った。
「それは、奴隷商人の店全体を眠りにつかせるような魔法でしょうか?」
「いや、そんなバカげたものではない」
間髪を入れずに否定された。それくらいしてくれる魔法だから言ったのかと思った。
「そもそも、精霊は気まぐれだ。何回も同じ魔法を使うと機嫌を損ねるかもしれない。普段なら魔力や甘いものをあげて機嫌を取るんだが……」
ゲルムさんは精霊が見えないが、魔力やお菓子を出しておくと、精霊が勝手に食べるらしい。
魔力をあげると要求した魔法を使ってくれて、甘いものや余分に魔力をあげると精霊のご機嫌がとれるらしい。
精霊って小さな子供みたいなものなんだな。
「では、誰かと遭遇したら眠らせましょう。もし、精霊が機嫌を損ねたら実力行使で」
もし、精霊が機嫌を損ねたら俺が魔法で眠らせよう。
俺が魔法を使っていることもバレないし、実力行使もしなくていいからね。
「大丈夫でしょうか?」
「戦闘には自信があります。ね、メリー」
「まかせてよ!」
メリーはスキル【隠密】があるから、忍んで手刀とかで眠らせてもらおう。魔物との戦闘の時も回り込んで、急所を一突きする戦闘スタイルらしい。
メリーはやる気に溢れているみたい。勇者の物語とか好きだから正義感が強いのかも。
「すでに売られていなければいいのだが……」
ゲルムさんはかなり焦っているみたい。そんなゲルムさんに残念なお知らせ。
「そろそろ馬を休ませたいのですが」
「……そうか」
焦っているところ悪いけど、馬を使い潰す気はないから適度に休ませないといけない。
「みんな、ご飯の用意するよ」
「はい、馬車を止めますね」
俺の言葉にローリアが答えた。
「アーレは馬の世話をして、メリーは何か獲物を取ってきて、南の方に何かいそうだ。ローリアは焚火の枝集めね」
「はい」
「分かったよ!」
「かしこまりました」
3人に役割を与える。
「ユイト、私は?」
「アイリは俺と料理ね」
「よーし。腕によりをかけて作るわ」
まだこちらの生活に慣れてないアイリは誰かと一緒の方がいいだろう。
「ユイトさん、私はどうすればいいでしょう?」
ゲルムさんが尋ねてきた。
「アーレと一緒に馬の世話をしてください」
「ああ、承知した」
ゲルムさんは働いてもらわなくてもいいけど、何か役割を与えたほうが不安になりにくいだろう。
アーレとならあまり気を使わなくていいだろう。
「さてと、まずはスープでも作ろうか」
「そうね。メインはメリーが帰って来てから決めましょ」
アイリと相談して今日の献立を決める。アイリも料理が出来るから色々意見を言ってくれる。
俺だけだと偏っちゃうからありがたいね。
「リーレが心配ですか?」
「ああ、当然だ。今すぐ駆けだしたいくらいだ」
アーレとゲルムさんの会話が聞こえてくる。
「馬車で移動している時点で走るより早いです。焦っても仕方ありません」
「分かってはいるんだが、どうもな」
ゲルムさんはだいぶ堪えているようだ。捕まっているのが恋仲の女性では仕方ない。奴隷として買われたエルフの扱いは容易に想像できるからな。
「まだ買われていなければなんとでもなります。ユイトさんもいれば大丈夫でしょう」
「随分と彼を信頼しているんだな」
「彼は色々と規格外ですから」
ちょっとアーレ。人を化け物みたいにいうのは止めてくれる?
「彼は体格こそ細いですがかなり強い。そこらの魔物には負けません」
「それほどなのか?」
魔法のことは言っていないけど、あまり言わないでほしいな。恥ずかしいし。
「ねえ、ユイトせっかく2人きりで料理しているんだから、もっとお話ししよう?」
「あ、ごめん、アイリ」
料理に集中していなかった。
なんでアイリは包丁を握ったまま俺を見つめているのだろうか?怖いから一旦おこう?
「ユイトはアーレのことが気になるの?エルフがいいの?ねぇユイト?」
「アイリ?包丁持ったまま歩くと危ないから、ね?別にエルフがいいとかないよ。会話を聞いていただけ」
「そう?よかった」
自惚れているわけじゃないけど、アイリにはだいぶ好かれている気がする。
「アイリ、野菜入れ過ぎじゃない?」
「ユイトは野菜いっぱいの方が好きでしょ?」
「みんなで食べるものだから普通でいいよ」
「そう?」
確かに俺はその方が好きだけど、よくそんなこと覚えていたな。元の世界では、アイリと一緒に食事をしたのは病院で数回だったかな?
「よく覚えてたね」
「ふふ、ユイトの事だもん。覚えてるわよ」
その時、茂みが揺れた。
「グルルルル」
魔物が現れた!
【マップ】を見るのを忘れていたな。
「今いい所なんだから引っ込んでなさいよ!」
突然現れた魔物にアイリが肉薄した。
手にはどこからともなく出現させた大剣を持っている。アイリと一緒に召喚された大剣だ。
振り下ろされた大剣は魔物を半分にした。柔らかいものでも斬るかのように。
「ねぇ、ユイト、甘いものも好きよね?今度どこか食べに行こうよ」
アイリは何事もなかったかのように会話を続けた。流石勇者。強い。
「アーレ、規格外はユイトさんだけじゃないようだな」
「……アイリさんは勇者ですから」
「はぁ!?」
アイリが勇者だってゲルムさんにはいっていなかったな。
……あの魔物は食べられるのかな?
作戦といっても魔法で眠らせるだけです。
精霊魔法についても後で少しだけ書こうと思います。




