女勇者 アイリ
ブックマーク100ありがとうございます。
振り返ってみると、初投稿したのは去年の8月29日だったみたいです。
そのころから見てくださっている人はいるのでしょうか?いらっしゃったら嬉しいです。
あと一か月とちょっとで1周年迎えちゃうみたいですね。このシリーズはいつ完結することやら。
「愛理?」
がやがやと騒ぎ立てる貴族などお構いなしに俺は呟いた。
陽乃下 愛理。
俺が入院していた病院に、同じく入院していた女の子。
初めて出会ったのは病院の屋上だっただろうか。その頃は酷く無気力な顔をしていたのを覚えている。
少しずつ会話をするようになり、笑顔も見えるようになって、よく話し相手になってくれた。
その愛理が壇上に座っている。この世界にいる。
俺には驚愕の展開だった。
「ここは……?」
祈るように手を組んで座っていた愛理が呟いた。
メディア様は魔力枯渇を起こしており、ぐったりと崩れていた。
普通、巨大な魔法陣には大量の魔力を注ぎ込む必要がある。それに1人で行ったのだから倒れるのも当然だ。
「それには儂が答えよう」
王様が説明を始めた。
「そなたはこの世界に勇者として呼ばれたのだ」
「勇者?」
「そうだ。元の世界で死んでしまったそなたを呼び出し、肉体を与えた。この国を守る勇者としてな」
話を聞く限りだと、元の世界では愛理はすでに死んでしまったようだ。彼女の病気は治らなかったのだろう。
「王よ。なぜ勇者が女なのでしょう?説明していただきたい」
貴族風の男が王に質問をした。この貴族が集まるパーティー会場の中でも、最も豪華な服装だ。所謂、伯爵とか上級貴族という奴だろうか?
「ふむ、儂にも分からん。そもそも勇者が男である必要はない」
「ですが、女勇者など聞いたことがありませんが」
「ふむ……」
女勇者は珍しいのだろうか?
ローリアに尋ねてみることにした。
「ローリア、勇者が女性であることは珍しいの?」
ローリアは少し思案した。
「そうですね。勇者は代々男性です。今までに女性であったことはありません」
「そうなんだ」
勇者は男性であることがこの世界の決まりごとのようだ。男尊女卑の意識や冒険者は男性が多いからかもしれない。男の方が強いイメージがあるんだろうな。
「ふむ、仕方があるまい。この子に勇者を任せるしかないだろう」
「しかし……」
「では、そなたに何か名案があるとでも?」
「……いいえ。ありませんが」
「なら、黙って下がるべきだな」
どうやら、王様と上級貴族との話はまとまったようだ。
「皆の者、新たな勇者が生まれた!祈りを捧げるのだ!」
王様の号令に会場の全員が祈りを捧げる。俺も祈りのポーズをとっておいた。
王様が愛理を連れて下がっていった。これでパーティーはお開きになる。
「帰ろうか」
「はい。ご主人さま」
愛理のことは気になるが、今日は帰ろう。
俺なら難なく愛理に接触できるだろうが、それだとここにローリアを置き去りにしてしまう。
まずはローリアと帰ろう。
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次の日。
「今日はちょっと用事があるから、自由行動でいい?」
俺は仲間に言った。愛理に会うには城に忍び込む必要がある。1人にならないと迷惑かかるかもしれないからね。
「はい。ですが、ユイトさんが単独行動をするのは珍しいですね」
「昨日遊べなかったからユイトに構ってもらおうと思ったのに」
「ご主人様がそうおっしゃるなら」
アーレ、メリー、ローリアが三者三様の反応を見せる。
「じゃあ、いってくるね」
そういって俺は足早に宿を出た。
「どうしたんでしょう?」
「ユイトさんなら何があっても大丈夫でしょう。私も用事があるので失礼します」
「アーレも?僕は何してようかなぁ」
3人の会話も聞くことなく、俺は城に向かった。
「てなわけで、城に来たわけだが」
城に着いたので辺りを見渡す。出入り口には見張りもいる。【マップ】でも沢山の見張りが見える。
「んー」
俺は小さくうなりながら、魔法の構想を練る。
俺が見つからなければいいわけだから……。
「【インビジブル】」
俺が呪文を唱えると無魔法が発動して、たちまち俺の身体が消える。
本当に魔法ってなんでもできるな。
「よし!いくか」
【マップ】にはすでに愛理の場所が写っている。難なく行けるだろう。
城の扉を開いて堂々と正面から侵入する。
「ん?扉が開いているじゃないか」
見張りの兵士は俺が開けた扉に気づいても、この程度の反応しかなかった。
まさか透明人間がいるとは思わないだろう。
誰にも気づかれることなく廊下を進む。真横を通り過ぎても気づかれることはなかった。中には、違和感を覚える人はいたけどね。
【マップ】のおかげですぐに愛理のいる部屋についてしまった。
何気なく使っているけど、【マップ】って十分チートだよな。
そんなことを考えながら扉をノックする。すでに【インビジブル】は解いてある。
「はい」
扉の向こうから返事が返ってきた。俺は扉を開いて中に入る。
「愛理」
ベッドに腰を掛けている愛理の姿を見て俺は思わず呟く。
愛理は女勇者風の服装ではなく、ゆったりとした寝間着のような服装になっていた。
なつかしいな。昔は髪が短かったのに、今は長くゆったりとふわふわしたウェーブがかかっている。確か彼女はくせ毛だったか。
残念なことは、彼女の目が俺と初めて出会った時のように無気力で、何かに絶望でもしたかのように見えること。
「どちら様ですか?」
愛理は怪訝そうに首を傾げた。
愛理は俺が結糸だとは気づかない。今の俺はクルスさんの身体だ。顔も身長も違えば、気づかれないのも当然だ。
「俺が誰か分かるかな?」
「はい?」
俺が無茶ぶりしても、流石に気が付かないよな。
『この人おかしいんじゃない?』みたいに返されると少し傷つくよ。
「あらら、ヴァイオリンだって弾いてあげたのにな」
「えっ!?」
俺が遠回しな言い方をすると、愛理は驚き立ち上がった。
「一緒にゲームもしたし、マンガだってあげたのに」
「あぁ、え?」
「……結糸?」
「そうだよ。愛理」
恐る恐る俺の名前を言った愛理に笑って返す。
「うそ……ほんとに……?」
「姿が変わってるから信じてもらえないかもしれないけどね」
愛理はボロボロと涙を流し始めた。
しまった。泣かれるとは思ってなかった。
「結糸……結糸!」
そういって愛理は俺に向かって抱き着いてきた。
そのスピードは常人が見れば突進というほどのものであった。
これが勇者のステータスか!
俺は吹き飛ばされないようにしっかりと受け止める。
「ゆいとぉ……結糸」
愛理は俺の身体をがっちりと抑え込んでいる。いや、たぶん抱きしめているだけなんだけど、かなり力が強い。
「結糸……嬉しい。もう離したくない」
そういって俺の顔を見上げた愛理の瞳は、まるで俺しか写していないかのように、瞬きもせずに俺を見つめていた。
召喚された勇者はユイトの知り合いでした。
着々とハーレム要因が揃ってきましたね。
ところで、皆さんはヤンデレが好きですか?




