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異世界魔法で曲芸士!  作者: 常世 輝
王都ユーラング
64/87

女勇者 アイリ

ブックマーク100ありがとうございます。


振り返ってみると、初投稿したのは去年の8月29日だったみたいです。


そのころから見てくださっている人はいるのでしょうか?いらっしゃったら嬉しいです。


あと一か月とちょっとで1周年迎えちゃうみたいですね。このシリーズはいつ完結することやら。

「愛理?」


 がやがやと騒ぎ立てる貴族などお構いなしに俺は呟いた。


 陽乃下 愛理。

 俺が入院していた病院に、同じく入院していた女の子。

 初めて出会ったのは病院の屋上だっただろうか。その頃は酷く無気力な顔をしていたのを覚えている。

 少しずつ会話をするようになり、笑顔も見えるようになって、よく話し相手になってくれた。


 その愛理が壇上に座っている。この世界にいる。


 俺には驚愕の展開だった。


「ここは……?」

 祈るように手を組んで座っていた愛理が呟いた。


 メディア様は魔力枯渇を起こしており、ぐったりと崩れていた。


 普通、巨大な魔法陣には大量の魔力を注ぎ込む必要がある。それに1人で行ったのだから倒れるのも当然だ。


「それには儂が答えよう」

 王様が説明を始めた。


「そなたはこの世界に勇者として呼ばれたのだ」

「勇者?」

「そうだ。元の世界で死んでしまったそなたを呼び出し、肉体を与えた。この国を守る勇者としてな」


 話を聞く限りだと、元の世界では愛理はすでに死んでしまったようだ。彼女の病気は治らなかったのだろう。


「王よ。なぜ勇者が女なのでしょう?説明していただきたい」

 貴族風の男が王に質問をした。この貴族が集まるパーティー会場の中でも、最も豪華な服装だ。所謂、伯爵とか上級貴族という奴だろうか?


「ふむ、儂にも分からん。そもそも勇者が男である必要はない」

「ですが、女勇者など聞いたことがありませんが」

「ふむ……」

 女勇者は珍しいのだろうか?


 ローリアに尋ねてみることにした。

「ローリア、勇者が女性であることは珍しいの?」


 ローリアは少し思案した。

「そうですね。勇者は代々男性です。今までに女性であったことはありません」

「そうなんだ」


 勇者は男性であることがこの世界の決まりごとのようだ。男尊女卑の意識や冒険者は男性が多いからかもしれない。男の方が強いイメージがあるんだろうな。


「ふむ、仕方があるまい。この子に勇者を任せるしかないだろう」

「しかし……」

「では、そなたに何か名案があるとでも?」

「……いいえ。ありませんが」

「なら、黙って下がるべきだな」


 どうやら、王様と上級貴族との話はまとまったようだ。


「皆の者、新たな勇者が生まれた!祈りを捧げるのだ!」

 王様の号令に会場の全員が祈りを捧げる。俺も祈りのポーズをとっておいた。


 王様が愛理を連れて下がっていった。これでパーティーはお開きになる。


「帰ろうか」

「はい。ご主人さま」


 愛理のことは気になるが、今日は帰ろう。

 俺なら難なく愛理に接触できるだろうが、それだとここにローリアを置き去りにしてしまう。


 まずはローリアと帰ろう。


 --------------------



 次の日。


「今日はちょっと用事があるから、自由行動でいい?」


 俺は仲間に言った。愛理に会うには城に忍び込む必要がある。1人にならないと迷惑かかるかもしれないからね。


「はい。ですが、ユイトさんが単独行動をするのは珍しいですね」

「昨日遊べなかったからユイトに構ってもらおうと思ったのに」

「ご主人様がそうおっしゃるなら」


 アーレ、メリー、ローリアが三者三様の反応を見せる。


「じゃあ、いってくるね」

 そういって俺は足早に宿を出た。


「どうしたんでしょう?」

「ユイトさんなら何があっても大丈夫でしょう。私も用事があるので失礼します」

「アーレも?僕は何してようかなぁ」

 3人の会話も聞くことなく、俺は城に向かった。


「てなわけで、城に来たわけだが」

 城に着いたので辺りを見渡す。出入り口には見張りもいる。【マップ】でも沢山の見張りが見える。


「んー」

 俺は小さくうなりながら、魔法の構想を練る。


 俺が見つからなければいいわけだから……。


「【インビジブル】」


 俺が呪文を唱えると無魔法が発動して、たちまち俺の身体が消える。


 本当に魔法ってなんでもできるな。


「よし!いくか」

【マップ】にはすでに愛理の場所が写っている。難なく行けるだろう。


 城の扉を開いて堂々と正面から侵入する。


「ん?扉が開いているじゃないか」

 見張りの兵士は俺が開けた扉に気づいても、この程度の反応しかなかった。


 まさか透明人間がいるとは思わないだろう。


 誰にも気づかれることなく廊下を進む。真横を通り過ぎても気づかれることはなかった。中には、違和感を覚える人はいたけどね。


【マップ】のおかげですぐに愛理のいる部屋についてしまった。


 何気なく使っているけど、【マップ】って十分チートだよな。


 そんなことを考えながら扉をノックする。すでに【インビジブル】は解いてある。


「はい」

 扉の向こうから返事が返ってきた。俺は扉を開いて中に入る。


「愛理」

 ベッドに腰を掛けている愛理の姿を見て俺は思わず呟く。


 愛理は女勇者風の服装ではなく、ゆったりとした寝間着のような服装になっていた。


 なつかしいな。昔は髪が短かったのに、今は長くゆったりとふわふわしたウェーブがかかっている。確か彼女はくせ毛だったか。


 残念なことは、彼女の目が俺と初めて出会った時のように無気力で、何かに絶望でもしたかのように見えること。


「どちら様ですか?」

 愛理は怪訝そうに首を傾げた。


 愛理は俺が結糸だとは気づかない。今の俺はクルスさんの身体だ。顔も身長も違えば、気づかれないのも当然だ。


「俺が誰か分かるかな?」

「はい?」

 俺が無茶ぶりしても、流石に気が付かないよな。


『この人おかしいんじゃない?』みたいに返されると少し傷つくよ。


「あらら、ヴァイオリンだって弾いてあげたのにな」

「えっ!?」

 俺が遠回しな言い方をすると、愛理は驚き立ち上がった。


「一緒にゲームもしたし、マンガだってあげたのに」

「あぁ、え?」


「……結糸?」

「そうだよ。愛理」

 恐る恐る俺の名前を言った愛理に笑って返す。


「うそ……ほんとに……?」

「姿が変わってるから信じてもらえないかもしれないけどね」


 愛理はボロボロと涙を流し始めた。


 しまった。泣かれるとは思ってなかった。


「結糸……結糸!」

 そういって愛理は俺に向かって抱き着いてきた。


 そのスピードは常人が見れば突進というほどのものであった。


 これが勇者のステータスか!


 俺は吹き飛ばされないようにしっかりと受け止める。


「ゆいとぉ……結糸」

 愛理は俺の身体をがっちりと抑え込んでいる。いや、たぶん抱きしめているだけなんだけど、かなり力が強い。


「結糸……嬉しい。もう離したくない」

 そういって俺の顔を見上げた愛理の瞳は、まるで俺しか写していないかのように、瞬きもせずに俺を見つめていた。




召喚された勇者はユイトの知り合いでした。

着々とハーレム要因が揃ってきましたね。


ところで、皆さんはヤンデレが好きですか?


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