勇者召喚
勇者の召喚パーティーは国を挙げて盛大に行われる。勇者の召喚には、国民の祈りが必要だからだ。
平民はパーティーには出席できないが、各街では祭りが開かれる。
今回、俺とローリアは第3王女であるユリア様に招待されているのでパーティーに出席できる。
ありがたいけど、周りが貴族ばかりなので肩身が狭いな。
いつものローブじゃなくて、スーツやタキシードとか仕立ててくればよかったかな?
それだと、奴隷を着飾らせるのは一般的じゃないから、ドレスを着られないローリアだけが浮いちゃうから駄目だな。
隅っこの方で大人しくしていよう。
「飲み物だけもらって隅にいようか」
「賛成です。私だけ場違いな感じがします」
ローリアも疎外感があったみたいだ。
首輪付きの奴隷が貴族のパーティーにいるなんて前例ないだろうな。さっきから見られている気がするし、俺たちは場違い甚だしいかな。
俺は隅の方にローリアを待たせて、飲み物を貰ってからローリアに持って行った。
給仕の人が奴隷に渡すとは思えないから、俺が取りにいった。
「すみません、ご主人様」
「気にしない、気にしない」
ローリアに軽く返して、飲み物を飲む。
貴族たちが話しながら食事をしている。ただそれだけなのに華やかだな。俺とは無縁の世界だ。
「面倒よね。みんな言葉を濁して相手を窺っている。パーティーなんて名ばかりで会議みたいなものだわ。あなたもそう思わない?」
突然声をかけられて横を見る。
そこには椅子に座っている綺麗な女性が読書をしていた。背筋を伸ばして読書をする姿はどこか近寄り辛い。
貴族は会話の裏で相手の腹を探っているという風に揶揄しているのだろうか?
パーティーだというのに地味なドレスを着ている。読書をするくらいだから、楽しんでないんだろうな。
「あなたが凄い魔法使いさんよね?結構普通の人ね」
読書をしながら俺を値踏みしているみたいだ。俺のことを知っているのかな?
「パーティーの中、読書をする人と比べたら普通ですよ」
少し皮肉を込めて返してみる。
女性は少しきょとんとした顔をした。
「ふふっ、まっすぐなものいいね。嫌いじゃないわよ」
女性はそういうと本を閉じて立ち去ってしまった。
彼女は俺に何をしたかったんだろうか?
「なんだったんだろうね?」
「私にはわかりません」
ローリアに尋ねてもダメか。
パーティー会場の隅で召喚が始まるのを待っていると、壇上に王様が現れた。
「皆の者、静粛に」
王様の声が部屋に響いた。何か魔法道具を使っているな。
「勇者召喚パーティーに出席してくれたことをまず礼を言う。召喚の儀式を勤め上げるのは私の娘、第2王女メディアである」
第2王女メディア様か。
メディア・ユーラング・リーブハート。
この国の第2王女。ユリア様の姉に当たる人だな。
口数が少ないことから、別名は無口姫。この国の人はあだ名をつけるのが好きなのだな。
紹介された第2王女が壇上に上がった。
「あの人って……」
俺は空いた口が塞がらない。ローリアも同じだろう。
第2王女がこちらを見て口元に笑みを浮かべた。まるで、いたずらが成功した子供の用だ。
第2王女はさっき隅で読書をしていた女性だった。地味だったドレスも華やかなドレスになっている。
「祈っていてください」
メディア様はただそれだけを言って挨拶とした。
さっき俺に声をかけてきた時とは声が違う。透き通る綺麗な声を明らかに作っている。
そして、言葉数が少なすぎる。さっき語りかけてきたのは何だったんだろうか?
「おお、メディア様が喋った。なんて綺麗な声なんだ」
「あぁ、綺麗な声なのに勿体ない」
「無口なのが良いのではないか」
「微笑みなさった!美しいお姿だ」
貴族たちがメディア様を褒め称えている。凄い人気だな。
「それでは、さっそく召喚を始める!皆の者、祈りを始めてくれ」
王様はそういうと下がった。
勇者の召喚は、王女が巨大な魔法陣に魔力を注ぎ込み、国民が祈りを捧げることによってなされるらしい。
魔法陣はすでに壇上に用意されていて、あとは王女が魔力を通して国民が祈りを捧げるだけだ。
祈りを捧げる国民には祭りという形で伝えられており、時間を合わせて一斉に祈るようになっている。
それに使われる費用は膨大だろうから、それだけ勇者というのが重要視されているのか分かるな。
「俺たちも祈ろうか」
「手を組めばいいですよね?」
「うん。たぶん」
手を組んで祈りを捧げればいいだろう。周りの貴族もそうしているから間違いない。
魔法陣が赤い光を煌々と出して輝いている。メディア様が魔力を注いでいるのだろう。
俺も手を組んで、目をつぶって祈る態勢になる。
異世界から来る勇者はどんな人だろうか?俺の元の世界の日本人かな?
元の世界といえば、俺の両親は元気にしているだろうか?俺が死ぬときは悲しんでくれていたけど、その悲しみを乗り越えて幸せでいてほしい。
病院で会ったあの子は無事に退院しただろうか?
そういえば、あの子は俺が死んだことは知っているのかな?俺が病気で身体が動かなくなってから、あの子とは会ってないな。
よく話の相手になってくれただけに、あの子にも幸せになっていてほしい。
その時、雷が落ちたかのような轟音が鳴り響いた。
驚いて瞼を開くと、メディア様が魔力を注いでいた魔法陣の中央に少女が現れていた。
RPGなどでよくある女勇者風の格好で、長いウェーブのかかった黒髪の少女だ。傍らには大剣がある。
「女?」
「女の勇者?」
「どういうことだ!?」
貴族が口々に言っている。女の勇者がそんなに珍しいのだろうか?
俺にとってはそんなことはどうでもいい。
俺が気になることはただ1つ。それは俺が彼女のことを知っていること。
「愛理?」
俺は彼女の名前を呟いた。
メディア・ユーラング・リーブハート
リーブハートって何でしょうね。いや、作者は元ネタというか、由来は分かっているんですけど、
由来の言葉の前後を入れ替えたり、縮めたり、変換したりするとよく分からない名前になっちゃいますね。




