お茶会
「ユイトさまとローリアちゃんは魔法使いなの?」
エマ様が質問してきた。
「はい。私とローリアは魔法使いです」
俺は答えた。ユリア様はすでにしているから誤魔化せないしね。
「何か見せてくれないかしら?」
エマ様からは純粋な好奇心を感じる
「エマ、あまり無理を言っては駄目よ」
ユリア様は優しくエマ様を諭した。この前にあまり見せたくないと言ったのを覚えてくれたのかな?
「構いません。ローリア、花火しようか」
「はい」
俺とローリアは席を立って広いスペースに移動した。
「「【ファイアー・ワークス】」」
俺とローリアは呪文を唱える。
俺たちの指先から火花が溢れる。前世の手持ち花火のイメージだ。
ちなみにこの魔法は光魔法だ。ローリアに教えた【キラキラ】と似たものだが、手持ち花火に見えるように工夫してある。
ユリア様とエマ様には火魔法に見えてるだろうね。
「わ~綺麗!ねっお姉さま!」
「ええ、綺麗ね」
エマ様は興奮した様子で、ユリア様はうっとりした様子で見ている。
「ローリア」
「はい。せーの!」
ローリアに合図を出して、2人とも火花が出ている指を振る。
すると指先から火花が離れて、小さな打ち上げ花火のように開いた。
「凄い!すごいすごーい!」
「素敵……まるで、煌びやかな花が咲いたみたい」
エマ様とユリア様には好評のようだ。
「「ありがとうございました」」
俺とローリアは恭しく礼をした。
「凄いわ、ローリアちゃん!」
ローリアがエマ様に手を握られて、ブンブンと振られている。
「あ、ありがとうございます」
ローリアはうろたえている。王女に手を握られることなんてないもんな。うろたえて当然だ。
「あらあら、エマはローリアちゃんが気に入ったみたいね」
ユリア様はクスクスと笑っている。
「ユイトさんも素敵でしたわ」
エマ様がローリアばかりを褒めているので、ユリア様が俺を褒めてくれた。気遣いの出来る方だな。
「ありがとうございます」
「お話に戻りましょうか。席にどうぞ」
ユリア様に促されて席に着く。
「ローリアちゃん、他にも見せて~」
「ご、ご主人様……」
エマ様がローリアに頬擦りして、ローリアが困ったように助けを求めている。
肩書だけ見れば、奴隷が王女に頬擦りされている光景は珍しいだろう。
「この前の魔法ならいいよ」
この前ユリア様に披露した【ファイアー・ボール】の応用なら構わない。
ローリアはエマ様に纏わりつかれている状態を打破して欲しかったんだろうけどね。エマ様の機嫌を損なうのは良くないから、ローリアには頑張って相手をしてもらおう。
「……分かりました。【ファイアー・ボール】」
ローリアは諦めて魔法を行使した。後で何かご褒美を買ってあげよう。
ローリアは火の玉を出現させて、ふわふわと浮かべた。
「わあ!凄い!」
「エ、エマ様。触ったら熱いです」
エマ様が火の玉に触ろうとしたので、ローリアが止めた。
エマ様が火の玉を追いかけ始めた。ローリアは火の玉を操って逃がす。
遊び方は変わっているけど、微笑ましいな。
王女様の護衛やメイドはエマ様が転んだり、火傷したりしないか不安で気が気じゃないだろうけど。
「ユイトさんは旅をなさっているのよね?旅の思い出を聞かせてくれないかしら?」
ユリア様は優雅に紅茶を飲んでいる。
「まだ旅立ったばかりなので、お話しできることは少ないのですが、それでも良ければお話ししましょう」
「ええ、楽しみだわ」
「そうですね……まず、私がソルナの国のハーニカの街に着いたところから始まります」
俺はこれまでのことを話した。
最初は冒険者をしていたこと。
ローリアとの出会い。
ダンジョンの魔物との戦い。
他の冒険者との出会い。これにはメリーやアーレも含む。
街を襲った魔物に冒険者全員で立ち向かったこと。
曲芸を披露したこと。
その他さまざま。
言えないことは秘密にして、言える事のみを脚色して話した。
ユリア様はこういう話を聞くことが少ないのか、終始楽しそうに紅茶を飲みながら聞いていた。楽しそうに聞かれると話しやすいな。
「面白かったですわ。ユイトさんは話し上手ですわね」
王女に褒められるほどではないと思うが、褒められればうれしいな。
「ユイトさんは甘いお菓子はお嫌いですか?」
ユリア様が少し不安そうに尋ねてきた。
話の途中、俺は用意させていたお菓子に手を付けなかった。
寧ろ俺は甘いものが好きし、お菓子ならなおさらだ。
話しているから食べづらかったというもあるが……
「私は平民なので、マナーが分かりません。なので、王女様の前でかっこ悪いことをしたくなかったのです」
俺はこの世界のマナーやルールに疎い。食事はマナーが多いものなので、優雅にお菓子を食べるユリア様の前では食べづらかった。
「あら、お菓子は楽しくいただくものですわ。どうぞ気にせずに召し上がって」
ユリア様から催促されたら食べないわけにはいかないな。
ユリア様の真似をしながらお菓子を食べる。これなら粗相することはないだろう。
口の中に甘みが広がって、果物の酸味も相まってとても美味しい。
「美味しいです。クリームとフルーツがとてもあいますね」
「ふふっ、気に入ってもらえてよかったわ」
ユリア様はクスクスと上品に笑っている。
その後に、この前見に行った演劇の初代勇者の冒険譚の話になった。
「私はあのお話大好きですのよ」
そう語るユリア様の表情はとても楽しそうだった。
「そうですね。勇者様が台座から伝説の剣を抜くシーンはとてもかっこよかったです」
俺にはそのシーンがとても印象に残っている。
前世でも、ゲームでそんなシーンがあったな。
「わたくしは勇者様が王女を助け出すシーンが好きですわ」
夢見る乙女のような表情でユリア様が語る。
ユリア様も王女だから同じような憧れがあるのかもね。
その後も、話は続いた。
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「ユリア様、そろそろ勇者召喚の儀式が始まります」
メイドがユリア様に伝えた。
この部屋には時計がある。話し込んでしまったな。
ちなみに、この世界の時間は前世と同じ間隔だ。分かりやすくて助かる。
「ユイトさん、わたくしたちは行けませんので、ぜひ見てから帰ってください」
ユリア様とエマ様は立ち会うことが出来ない。
ユリア様は体調が悪くなる可能性があるからで、エマ様は幼すぎるからだ。
「はい。本日はお招きいただいてありがとうございます」
俺は立ち上がって礼を言う。
「ローリアちゃん!また遊ぼうね!」
「はい。私でよろしければ」
ローリアとエマ様の別れも済んだみたいだ。
「失礼します」
俺とローリアは部屋を出る。
「ふー、緊張したな」
「正直疲れました」
俺の溜息にローリアも疲れを見せた。
「でも、楽しかったね」
「招待していただいて良かったです」
ローリアも楽しめたみたい。
さて、勇者の召喚パーティに出席するか。
ユリア様とエマ様にかなり気に入られた様子。
エマ様は年相応に幼いしゃべりかた。お嬢様言葉は勉強中です。




