再会
「ローリアとアーレは何か買いたいものある?」
俺はローリアとアーレに質問する。
俺たちは今街の市場に来ている。旅の途中の食料やその他欲しいものがあったら買い込むつもりだ。
「私は特に何も」
ローリアはこういう時おねだりしない。いい子なんだけど、たまにわがまま言ってくれると嬉しいのだが。
「私もこれといったものはありません」
アーレは俺とは別にお金を持っているから自分で買うのだろう。店まで付き合って行くぐらい構わないのに。
とりあえず、俺たちは食料を買うことにした。王都は様々な地方から様々な食材が集まっている。中には日本食に使うような食材や調味料もあって、元日本人の俺にとってとても買い甲斐がある。魚は干物しかないのが残念だ。
「ユイトさんは変わった食べ物が好きですね」
この世界では日本食は一般的ではないようだ。
「また作るよ。きっと気に入るさ」
前世では結構料理していたから、お米を土鍋で炊くことだってできる。気に入ってくれたらなんとなく嬉しい。
「ご主人様の作る食事は全て美味しいです」
ローリアは俺の料理の腕を信頼しているようだ。ハーニカの街から王都ユーラングまでの道中で何度か作っただけなんだけどね。
そんなこんな話しながら買い物をしているとお昼になった。ほとんど買い物も終わったので昼食として買い食いをしている。
「はいローリア、アーレも」
俺は屋台で買ったサンドウィッチを手渡した。
「ありがとうございます」
ローリアは少し嬉しそうに受け取った。
「いいのですか?」
アーレは少し迷ったように受け取った。財布が別だからかな?
「気にしないで」
仲間に奢るくらいいいだろう。俺とローリアが食べているのにアーレだけ食べないのは俺の気が引ける。
アーレはサンドウィッチを見て少し困った様子だ。
アーレはエルフだから人前で顔を晒すわけにはいかない。人前では食べづらいだろうな。
「【カモフラージュ】」
俺は指を振ってアーレに魔法をかける。アーレも俺が魔法を使ったのに気付いた様子だ。
「これで周りの人からは見えないようになったよ」
俺は【カモフラージュ】を施したことを伝えた。
「凄いですね。では、失礼します」
そういってアーレは口元の布を解いた。アーレの白くきめ細やかでほんのりと血色の良さが窺える肌が明るみになる。エルフと言われれば誰しも納得する整った顔だ。
そういえば、言ってなかったな
「アーレ?俺には見えてるからな?」
俺が言うとアーレは顔を真っ赤にして手で顔を覆った。
アーレは意外と顔に出やすいタイプのようだ。口調は平淡なのに意外だな。
アーレは俺に背を向けてサンドウィッチを食べ始めた。もしかして、怒らせただろうか?
「ごめん。悪気はなかったんだ」
俺は弁解を図る。
「……大丈夫です。気にしていません」
アーレからはいつも通りの平淡な声が返ってくる。怒っているか判断できないな。
「ユイト!」
俺がアーレになんと声をかけようか迷っていると、俺を呼ぶ元気な声が聞こえた。
俺を名前で呼ぶ人といえばこの街ではシーラぐらいだろうか?
そう思って声のする方に振り向くと、目にも止まらぬ速さで俺に何かが衝突した。どうやら人物のようだ。
俺はぶつかった勢いを受け流そうとすると、その人は俺の首に腕を回して離れない。結局、ぶつかった人物を受け止めて3回転して勢いを殺した。周りにアーレとローリアがいたので、がっちりと受け止める形になってしまった。
「やっとユイトに追いついたよ!」
そういってぶつかった人物は俺の胸元で顔を上げた。白髪のショートヘアの少女だ。獣耳がピコピコと動いている。というか
「メリー!」
俺はその人の名前を呼んだ。俺の胸に顔を埋めているのはハーニカの街で出会った冒険者の少女のメリーだ。
「うん。ユイト!いい香り~」
俺の呼びかけに答えて頬擦りしながら俺の匂いを嗅いでいる。今日の【フレグランス】はすっきりとした柊の香りだ。
「メリー?少し恥ずかしいから」
そういってメリーを剥がす。
「あ、ごめんね」
メリーは少し照れたように俺から離れた。
ハーニカの街の時と服装が変わっていて、ファンタジーの盗賊風の身軽そうな服装だ。
「メリーはハーニカでやることがあったんじゃないの?」
俺はメリーに質問する。確か、メリーはやることがあるから俺とは一緒に行けないと言っていた。
「うん!これ見て!」
そういってメリーは1枚のカードを差し出してくる。冒険者ギルドカードだ。
俺は受け取ってカードを見る。俺のギルドカードとは変わらない普通の冒険者カードだ。しかし、書いてある内容が違った。
「Cランク冒険者?」
俺は少し驚いて声に出す。メリーのカードにはCランク冒険者と書いてあった。
出会った時にはメリーはFランク冒険者だった。それが今ではCランク冒険者らしい。Cランク冒険者といえば、冒険者の中でも特典を受けられるようになるランクだな。
「えへへ。凄いでしょ?」
誇らし気に俺に笑いかけてくる。
「凄いな。FランクからCランクか……」
俺が街を救った時にCランクにされそうになったけど、それと同じくらいの功績を上げたってことか。
「うん。頑張ったんだよ!それでね、あのね……」
元気だったメリーが急にもじもじと恥ずかしそうになった。
「僕もついて行っていいかな?」
俺の様子を窺うように尋ねてきた。
「もちろんだよ」
俺は快く了承した。俺がハーニカの街を出発するときに約束した。今更断る気はない。
「ありがとうユイト!」
メリーが再び俺に抱き着いてきた。メリーの一瞬で近づいてきたと思ったら、いつの間にか俺をがっちりとホールドしていた。はやっ!メリーの動き早いっ!そして力強い!
俺の驚きを他所に、メリーは俺の胸に顔を埋めている。
もういいか。引き剥がさずにそのままにしよう。
俺はメリーをそのままにして頭を撫でた。嬉しそうに耳が動いていて可愛らしい。
こうして、俺の旅にまた1人仲間が加わったのだった。
メリーがCランク冒険者になった理由は、どこかで説明するかもしれません。幕間かなにかで。
ローリア、アーレ、メリー、だいぶ仲間が増えました。まだ増えます。




