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異世界魔法で曲芸士!  作者: 常世 輝
王都ユーラング
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ユリア様との会話

「ユイトさんは普段は何をしていらっしゃるの?」

 ユリア様は首を少し傾げて話題を振ってきた。


「普段は旅をしています。今はこの子、ローリアと一緒に街の広場で魔法の曲芸を見せています」

 俺はローリアの肩に手を置いた。


 ユリア様はローリアに目線を向けた。

「ローリアちゃんもお話しましょう?奴隷だからといって畏まることはないわ」

 ユリア様はローリアに優しく微笑んだ。どうやらローリアを子供だと思っているようだ。


 ローリアは俺の顔を凝視してくる。俺に許可を求めているのだろう。

「ローリア、お言葉に甘えようか」

「はい。ローリアと申します」

 ローリアは俺に頷いて、頭を下げてユリア様に名前を告げた。


「おふたりとも魔法使いなのね、羨ましいですわ。私にも魔法を見せて下さらない?」

 ユリア様が胸の位置で手を組んでお願いをしてくる。目がキラキラしていて、期待の眼差しが眩しい。


「かしこまりました。ローリア手伝ってくれる?」

「はい、ご主人様」

 ローリアに手伝ってもらって魔法を見せることにした。


「【ファイアー・ボール】」

 呪文を唱えて魔法を発動する。上に向けた俺の掌にふわりと火の玉が浮く。


「【ファイアー・ボール】」

 ローリアも俺と同じように火の玉を出現させた。


 ユリア様は俺たちの掌に浮かぶ火の玉を興味津々に見入っている。瞬きも忘れて見入る姿は年相応でとてもかわいい。


「ついて来てね。ローリア」

「はい。頑張ります」

 俺はローリアに声をかけて火の玉を移動させる。ローリアも俺と同じように火の玉を移動させた。


 俺の放った火の玉をローリアが放った火の玉が追いかける。


「素敵!」

 ユリア様が火の玉を目で追いかけながら、また胸の前で手を組んで声を上げた。今度は夢見る乙女って感じだな。


 火の玉の追いかけっこは天蓋にかかる布や柱を巧みによける。その様子はまるで寝室に迷い込んだ妖精たちが戯れに追いかけっこをしているようだ。


 この日の玉の追いかけっこは、ローリアのスキル【魔力支配】を鍛えるために始めたのだが、思いもよらぬところで活用できた。


「戻っておいで」

 俺はそういって火の玉を引き寄せる。火の玉に呼び掛ける必要はないのだが、ユリア様に魔法の終わりを告げる合図として発言した。


 火の玉が俺とローリアの掌の上に戻る。俺とローリアは同時に火の玉を軽く握るようにして消した。魔法を解除しただけなので熱くはない。


「凄いわ!なんて素晴らしいのかしら!」

 ユリア様は手を可愛らしくパチパチと鳴らして興奮した様子で称賛してくれた。


「素敵ね、魔法って。ローリアちゃんも小さいのに凄いわ」

 無邪気に感想を述べている。


「恐れながら、私は小人族ですので」

 ローリアのことを子供だと思っている様子のユリア様に、ローリアが訂正した。


「そうでしたの?人族と小人族が一緒に魔法を使うなんてますます素敵ね」

 ユリア様は優しくローリアに微笑んだ。


 ユリア様は他種族に嫌悪感を持つ人ではないようだ。この世界には人族が至高であるという思想が人族にあるが、彼女はその思想を持っていないようだ。


 俺は内心でユリア様の評価を上げた。


「わたくしにも魔法が使えればいいのに……」

 ユリア様はそういって少し暗い顔をした。


 ユリア様には聖魔法の適性があるから教えれば使えるかもしれないが、病弱の彼女が魔力の枯渇で倒れたら良くないだろう。身体が弱いから魔力枯渇したら酷く衰弱してしまう可能性もある。


「わたくしは昔から身体が弱いの。だから、あなたたちが羨ましいわ」

 ユリア様は力なく微笑んだ。まるで俺たちに心配させないためのように。


 俺も前世では普通に運動できる人が羨ましかった。ましてや、普通の人でも羨む魔法はユリア様にとって普通の人以上に羨ましいだろう。


「ユリア様、平民の分際でこのようなことを申していいのか分かりませんが」

 俺は前置きたっぷりと乗せた。


「また、話し相手になります。魔法もお見せします」

 王女様に話し相手になるなんて言うのは、うぬぼれたことを言っている自覚はある。でも、何か声をかけてあげたかった。寂しそうに笑うユリア様を喜びの笑顔に変えたかった。


「本当?本当にまた来て下さるの?」

 ユリア様が俺に少し詰め寄って、俺の手を取った。


 ユリア様の目は、俺の言葉が本当であるか確かめるように俺の目から離れない。


「はい。また城に招待してくださるのなら」

 ここで少し引いてしまうのは俺の悪いところかもしれない。


「そう。ふふ」

 ユリア様は少嬉しそうに笑った。


「あ、ごめんなさい」

 俺の手を取っていることに気づいて手を放した。ユリア様の頬が桃色に染まる。彼女は病弱だから人と接する機会は少なそうだし仕方ないのかもね。


 前世では、俺も異性との出会いなんて看護婦と同じ病院にいた女性くらいだった。そういえば、よく話し相手になってくれた子は元気だろうか?


「また必ず招待するわ。今度の勇者召喚の儀式のパーティーの時にでも」

「勇者召喚の儀式のパーティーとは?」

 俺は思わず聞き返してしまった。


「次の勇者を召喚するための儀式をするときにパーティーを開きますの。勇者のお披露目をするのよ」

 ユリア様が説明してくれた。王女に説明してもらうって凄いことだよな。


 勇者ホーヤが死んだので、また新たに勇者を召喚するのは知っていたが、召喚した勇者をお披露目するパーティーがあるとは知らなかった。


「ぜひ招待してください」

「はい、必ず」

 ユリア様が強い肯定を返してくれた。


「では、私たちはこれで失礼します」

 俺とローリアは立ち上がった。

「必ず招待します」

 ユリア様が熱いまなざしで見てくる。最初に会った時は随分と疑いの眼差しで見られたのだが、俺たちもだいぶ信用されたな。


 俺は欺瞞魔法の【カモフラージュ】を解除して、ユリア様に深々とお辞儀をする。


「ユリア様の病気はいかがでしょうか?」

 侍女が俺に話しかけてくる。


「少し寝れば大丈夫でしょう」

 俺は平然と嘘を吐いた。もう治っているからね。ユリア様にはすでに嘘を吐くことを話してある。


 侍女の反応は俺を訝しく思っているようだ。【カモフラージュ】を発動している間は、侍女には俺が質問しているようにしか見えなかっただろうから仕方ないだろう。


「わたくしなら大丈夫ですわ」

 ユリア様が援護してくれた。

「そうですか」

 ユリア様の言葉を聞いて侍女は安心したようだ。


 俺は再び侍女に連れられて城の外に向かう。


「おお、奇遇だな。ユリアの体調はどうだ?」

 途中で明らかに奇遇ではない王様にあった。その姿はただの好々爺だった。


 俺は王様の前に傅く。

「残念ながら……」

 俺の答えに王様は明らかに落胆した。

「そうか」

 声も重々しく諦めの色が滲んでいる。


「病気を治すことしか出来ませんでした」

 出来れば、病弱も改善できればよかった。


「ん?今なんと?」

 王様が素っ頓狂な声で聞き返してきた。

「ユリア様の病気を治すことしか出来ませんでした。生まれ持った病弱な体質は改善できませんでした」

 俺は伝わるように細かく説明した。


「……そうか。そうか!がっはっは!」

 王様は少しの間をあけて大笑いしてユリア様の寝室に向かった。少し足早だ。


 俺はそのまま侍女に案内されてそのまま宿屋に戻った。


ユリア様の口調は砕けたお嬢様言葉を意識しています。

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― 新着の感想 ―
[一言] 中途半端な輩が作った物は中途半端やな
2019/11/13 21:22 退会済み
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