第3王女ユリア
「実は、第3王女の事なのだ」
王様はそう切り出した。
この国には第1、第2、第3、第4王女がいて、もう1人第1王子がいるらしい。詳しいことは知らないが、王様には4人の娘と1人の息子がいるらしい。
ファンタジー物のラノベでは、妾との子供がいたりするものだが、そこらへんを俺は知らない。
「ユリアは謎の病気に悩まされておる」
ユリアとは第3王女の事だ。
ユリア・ユーラング・リーブハート。
年齢は16歳。この国の第3王女。
活発でわがままで勝気な第1王女や物静かで優しい笑顔で人を癒す第2王女と違って人前や公式の場に姿を現すことがないことからつけられた別称は怠惰姫。
そんな彼女が病気に侵されているという。
「なんとかユリアの病気を治す方法を探していたのだがな……」
そういって王様は項垂れてしまった。その様子は1国を背負う王の姿ではなく、娘を思う父親の姿だった。
たぶんこの話は国の秘密だよな。俺なんかに話してもいいのだろうか?それほど切羽詰まっているのだろうけど。
「回復魔法に心得がありますが、病状が分からなければ判断できません」
俺は遠回しに第3王女の病状を俺に診せるように言った。
これで俺に診せるようだったら頑張ってみよう。たぶん魔法で治るだろう。
「ふむ……」
俺の意図が通じたのか、王様は再び考え込んだ。
部屋が静寂に包まれる。ただでさえ見えない護衛のプレッシャーを感じるのに、静寂になると余計に居心地が悪い。だから、俺は傅いた状態で下を向いて待つことにした。元々傅いていたので、下を向いただけなのだが。
「わかった。そなたにユリアの様態をみせよう」
そういって王様は椅子から立ち上がったって手を叩いた。
そして、どこからともなく侍女が現れて、俺を第3王女の元へ案内し始めた。
また、俺は大きな扉の前に案内された。きっと第3王女の寝室なのだろう
「ユリア様はお休みになられています。くれぐれも粗相のないように」
今度は侍女に注意された。俺とローリアはそんなに粗相するように見えるだろうか?
侍女が扉を開いて俺たちも付いて部屋に入る。
部屋はとても広く、家具はシンプルだがとても高級そうだ。動物の人形がいくつか並べられていて、まるで可愛らしい少女の部屋のようだ。
「どちらさま?」
天蓋付きのベッドから聞こえる綺麗な柔らかい声。鈴を転がしたような声とは彼女のような声を言うのだろう。
そこには美しくも儚げな美少女が本を閉じてこちらを向いていた。
「ユリア様、寝ていなくて大丈夫なのですか?」
侍女が少し慌てたようにユリア様に質問した。
「ええ、大丈夫よ。今日は少し調子がいいの」
ユリア様はとても和やかに言った。
「そちらの方は?」
ユリア様が再び俺の方を向いて質問した。
「こちらの方は魔法使いです。ユリア様の病気を見てくれるそうです」
「まあ」
ユリア様は俺に疑いの眼差しを向けている。回復魔法を使える人は少ないから仕方ないか。
「はじめまして、ユリア様。私はユイトと申します。こちらは私の奴隷のローリアです」
俺とローリアは深々とお辞儀をした。奴隷であるローリアには発言権はないので黙ったままだ。これはローリアの知識なんだけどね。
「ええ、よろしくおねがいします。ユイトさん」
ユリア様は朗らかな笑顔を向けてくるが社交辞令だろう。
俺はユリア様が座っているベッドの横の椅子に座った。
「それではいくつか質問します。病気の症状を教えてください」
俺はユリア様に質問を始めた。さらにこっそりとユリア様に【アナライズ】を発動する
名前:ユリア・ユーラング・リーブハート
種族:人族
年齢:16
レベル:5
状態:ウイルス
ステータス
MP:95/100
魔力:D
攻撃力:E
守備力:E
魔法攻撃力:D
魔法防御力:D
敏捷力:F
ラック:75%
〈スキル〉
―技術―
裁縫(6)、演奏(7)、歌唱(7)、算術(7)、舞踏(6)、鑑定(7)、夜目(8)、歌唱(6)、絵画(6)、馬術()、読書
―その他―
幸運(下)
〈適正〉
演奏、舞踏、無属性魔法、弓術
状態はウイルスか。
前世ではインフルエンザもウイルスだったし、エボラ出血熱とかの死に至る病気もウイルスだった気がする。
「嘔吐や熱があるの。酷い時では苦しくって寝ているのも辛いわ」
症状は少し酷そうだ。
「汗はかきますか?」
「ええ」
「今までに他の病気は?」
「わたくしは昔から体が弱いの。良く病気にはかかりました。そのたびに薬学ギルドにお薬を作っていただいたり、魔法使い様に治してもらったりしました」
彼女は前世の俺と同じで病弱のようだ。
前世で俺も病院で治療してもらっては病気になっていたな。今思えば王様が項垂れた時の顔は俺のお父さんの表情が同じだったな。
この人は治そう。俺と同じ境遇の人は見過ごせない。
「すみません。【カモフラージュ】!」
俺は声を張って光魔法を発動した。光を屈折させて自由に操るイメージだ。本来、光魔性は幻術に使われることが多いので、今回はその幻術に近い使い方だろう。
「な、何かなさりましたの?」
俺がいきなり声を張ったことにユリア様が瞬きをして驚いている。目をパチクリする感じだ。初めて使う魔法は気合を入れたくなるんだよね。その方がイメージしやすいし。
「あまり魔法を使うとこを見せたくないので誤魔化しの魔法を使いました。無礼をお許しください」
そういって俺は頭を下げた。外からは俺が普通に質問しているように見えるだろう。名前を付けるなら欺瞞魔法だな。
「わかりました。あなたにも事情があるのでしょう」
そういってユリア様は和やかな顔をした。寛容な人だ。とても怠惰姫なんて言われる人とは思えない。
「ベッドに横になってリラックスしてください」
ユリア様は俺の言葉に素直に横になった。目を閉じてベッドに身体を沈ませている。普通、この状態は危険を感じてもおかしくないが、少し無警戒ではないだろうか?
「【メディスン】!」
俺はまた魔法を発動した。今度は聖魔法だ。体内のウイルスを除去するイメージだ。俺にとって薬のイメージはこの言葉だった。
ユリア様の身体を青白い光が包んで治療を始める。ユリア様はとても安らかな顔をしているし、苦しがる様子もないからうまくいっているだろう。
魔法を発動してから1分ほどで光が消えた。ユリア様が目を開いてゆっくりと身体を起こした。
「素敵!身体が軽いわ!」
ユリア様は驚いたのか、少しだけ声を大きくして感想を述べた。どうやら大丈夫そうだな。その様子は16歳の少女らしい印象を受ける。
「体調はいかがですか?」
見れば良さそうなのは分かるが確認をする。
「あら、ごめんなさい。殿方の前ではしゃぐなんて。調子はとてもいいわ」
そういって少し顔を赤らめた。
美少女が顔を赤らめるのって威力あるよね。なんというか心臓を跳ねさせるよね。
「それでは、これで私は失礼します」
そういって俺は立ち上がる。ローリアも俺に倣って立ち上がる。
彼女の病気が治ったならばもう用はないだろう。
彼女の病弱が治せれば治したいのだが、魔法では難しいだろう。一時的に身体を良くすることは出来ても、魔法の効果が切れてしまったら意味がない。
回復魔法は元に戻す魔法だったりするので、今回はウイルスにかかる前の状態に戻すことが出来たが、もともと病弱な彼女を治すことは難しい。
「お待ちください」
ユリア様はそういって俺のローブを摘まんだ。俺が軽く振り払えばすぐに放しそうなほど優しくつかまれた。
「少し、お話しませんか?」
そういって彼女は俺を見上げた。その眼差しには期待が込められていた。
俺はローリアに目配せすると、ローリアは無言で頷いた。俺に任せるようだ。
「私でよろしければ」
俺はユリア様とお話することにした。
*ユリア姫のステータスは予告なしで変更する可能性があります。
結構キーパーソンにする予定の人物です。覚えていてもらえると幸いです。




