いきなりの謁見
「お疲れ様。ローリア」
「ご主人様もお疲れ様です」
ローリアに飲み物を渡す。
いつも通り曲芸を披露するために広場に来ている。曲芸を始めてから数日が経っているので、観客が観客を呼び多くの人が見に来るようになった。
そして、俺たちはいつも通りベンチに座って休憩しているところである。
「ご主人様。あれは何の騒ぎでしょうか?」
ローリアが騒ぎのする方を指して質問してきた。
騒ぎのする方を見ると、強靭そうな馬がいかにも豪華そうな馬車を引いてゆったりと道を進んでいた。
「なんだろうね?」
俺はローリアの問いによく分からないとばかりに返した。
興味はあるけどそれほど気にしようとも思わない。特に貴族に興味もなければ、なろうとも思わないので気にする必要がない。
「こちらに来ますよ?」
ローリアが馬車の様子を見て俺の裾を引いた。
馬車は確かにこちらに向かっているようだ。
しかし、俺たちは広場の端のベンチに座っているので邪魔になることはないだろう。
ゆったりと馬車が近づいてくる。馬は優雅に馬車を引いていて、何かの凱旋かと思うほどだ。
そして、馬車は道に止まった。俺たちの目の前に。
「「え?」」
俺とローリアは声を揃えて疑問を表した。俺やローリアに貴族の知り合いはいない。こんなに豪華な馬車が来るなんて思いもしなかった。
馬車から執事と言った感じの男性が降りてきた。
「すみません。そこの御二方」
「はい?」
執事の呼びかけに俺が答える。ローリアは身分的には奴隷だから俺が答えるべきだろう。
「あなた方が最近噂になっております“炎の魔法使い”ですかな?」
“炎の魔法使い”って確かに火魔法だけしか使っていないけど安易じゃないかな。
「えーと、その“炎の魔法使い”か分かりませんけど、確かにここで火魔法を見せているのは私たちです」
俺は確信が持てないので少し濁した形で答えた。
「それでは馬車にお乗りください。城まで案内いたしましょう」
執事は腰を折ってお辞儀をして馬車を促した。
何か俺を騙すための罠かもしれないけど、その時は食い破ればいいだろう。
「では、失礼します。行こうかローリア」
「はい」
俺はローリアの手を引いて馬車に乗り込んだ。
馬車はゆっくりと城に向かうが、ガタガタと揺れる車内は居心地が良くなかった。俺の馬車は浮かせているからこの程度の揺れでも気持ち悪くなる。
流石にこの馬車を浮かせるわけにはいかないだろう。この街では火魔法しか使わない予定だから、こんなところで別の魔法を使うわけにはいかない。
「大丈夫ですか?ご主人様」
ローリアが俺の顔を覗き込んでくる。少し不安そうな顔だ。
ローリアは不安なのについてきてくれたから、俺が酔っている場合じゃないよな。
「大丈夫だよ、ローリア。もし何かあったら何とかするからね」
そういって俺は魔法を使うように指を振った。
ローリアは俺の様子に少し安心したようだ。魔法を使ってどうにかするというジェスチャーがちゃんと伝わったようだ。
馬車の揺れに耐えていると、城には意外と早く着いた。馬車から見える城は高くそびえていて、王という偉大な人が住むのにふさわしい建築物だ。城というよりも宮殿といった感じだろう。
馬車が場内に入って俺たちは馬車から降りて案内された。執事の後ろについて行って廊下を歩く。廊下の装飾がとても豪華で様々なものに目移りしてしまう。
「どこにむかうんですか?」
俺は前を歩く執事に尋ねた。
「これからあなた方には王様に謁見していただきます。粗相のないようにしてくださいませ」
執事が前を向いたまま答えた。
王様に謁見ということはいきなり王様に会うということか?なんで俺がそんなことをしないといけないのだろう。
貴族に魔法を見せるとかそれぐらいだと思っていたので、いきなり王様に会うのは流石に緊張する。俺にはハードルが高い。
「こちらです。くれぐれも粗相のないように」
執事が大きな扉の前で止まって、俺に再び念を押してきた。
扉が開く。贅沢な装飾の施された広い部屋で、1番奥にはいかにも王が座りそうな荘厳な椅子が2つあった。1つは王の椅子で、もう1つは王妃の椅子だろう。
ゲームでよくある感じだな。
俺は傅くように言われたので、ローリアと一緒に傅いて王様が来るのを待つ。
傅いて待っていると、誰かが入ってきたことが分かった。大勢の足音が聞こえる。傅いて下を向いているのを誰か分からないが、恐らく王様とその護衛なのだろう。
「面を上げよ」
威厳に満ちた低い声が響いた。
どうしようか?
定番では、1回目は顔を上げてはいけなくて、2回目に声をかけられたら顔を上げないといけないパターンがある。
しかし、声をかけられて顔を上げなかったら無礼といわれることもある。大体、ファンタジーの謁見はこの2パターンだろう
いいや、顔を上げよう。
呼び出したのは向こうだからいきなり殺されたりはしないだろう。
顔を上げて王の顔を見る。
俺の印象としては威厳のあるおじさんといった感じだ。とても豪華な服を着ている。周りに綺麗な鎧を纏った護衛が控えていて、彼らがさらに王様の品格を上げている。
俺が顔を上げたことに怒る様子はない。大丈夫だったのかな?
「近頃街の広場で魔法を見せているのは間違いないか?」
「はい」
王様の問いに短く答える。王様への言葉使いなんて知らないので、あまり多くは語りたくはない。
「ふむ。魔法を使えるというのに驕らず、人民のために披露するとは大義である」
王様は俺を威厳のある口ぶりで称賛した。
「私にはもったいないお言葉です」
俺は出来るだけ王様を立てるように言った。
「そう固くなるな」
王様はそういって右手を上げた。
すると、王様の周りの護衛は部屋を出て行った。部屋には俺とローリアと王様だけになるが、【マップ】には部屋の周りや天井に沢山の人が控えているのが見える。
「そなたは回復魔法を使えるか?」
王様は自分の髭を擦りながら俺に質問してきた。
さっきよりは少し柔らかい口調だ。俺としては見えないだけの護衛が怖くて気が気じゃないが、王様は少し答えやすいようにしてくれたのだろう。
俺は回復魔法を使えるが、言うつもりはない。ラノベでは、異常な回復魔法は軍事に巻き込まれるものだ。
しかし、わざわざ部外者を招いて、王様自ら見ず知らずの俺たちと話すのは並々ならぬことがあったということだろう。
見えない場所に護衛がいたとしても、一見部屋に部外者と密室というのは暗殺の可能性がある。
どうしよう?
よし、濁そう!
「自信はありませんが、心得はあります」
魔法が珍しいこの世界で、この返事では少しおかしい気がするが、自信のなさの表れとでも捉えてもらえば助かる。
「そうか……」
王様の声には明らかに落胆があった。
「どなたか怪我をした方がいらっしゃるのですか?」
俺は少し踏み込んでみることにした。
「うーむ」
王様は髭を擦りながら思案している。もしかして国家級の秘密だったりするのだろうか?
「実は、第3王女の事なのだが……」
なろう系で王族に関わる。鉄板ですね。
少し話が強引でしょうか?




